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PCを用いた診療補助システムの開発

<1989年2月 大阪府医師会医学雑誌 Vol 22 より>

[医学研究奨励費助成研究]

大阪府医師会マイコン同好会 野村 望ほか22名 .

2001.12.24. 掲載
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【はじめに】
ハードおよびソフトウエアのめざましい進歩にもかかわらず、我々開業医の使用に値するパーソナルコンピューターを用いた診療業務の補助システムは未だ提供されていない。そこで、開業医の日常診療業務のレベルアップに役立つ診療補助システムの開発を試みた。

【方法】
ハードウエアはPC-9801VM2を中心に、ディスプレイ、プリンター、マウス、ハードディスク、RAMディスク、カラーイメージスキャナーを用いた。OSはMS-DOSに限定し、その上で動く市販ソフトを比較検討し、現時点で診療補助に最も適していると判断した市販の汎用ソフト(簡易言語)を使用した。ワープロは一太郎Ver.3、表計算ソフトはスーパーカルク3とロータス123、データベースはDATABOX98、グラフィックソフトはZ'sSTAFF KID、アートマスター400、GT3000用ソフトを用い、日本語入力FEPはATOK6を専ら使用した。

これらソフト間の有機的統合を図るため、MS-DOSのバッチファイルと階層ディレクトリを可能な限り活用した。また、操作を簡単にするためにバッチコマンド、ファンクションキー、テンキー、メニュー形式等を利用した。データの保護に関してはバッチファイルとバックアップ用ストリーマを用いた。

【成績】
現在このシステムを用いて以下の診療補助業務を行っている。

1.各種文書の作成と管理
A.院内文書類.....ワープロソフト
1)出勤簿、2)未収金台帳、3)自費台帳、4)職員への連絡、5)医院勤務の基本、6)患者さんへの案内(例えば勉強会の案内)、7)検査を受ける前の注意(例えば胃透視検査)、8)病気の説明(例えば異型肺炎)、9)食事療法の説明

B.テキスト類.....ワープロソフト
1)心電図検査の基本(8頁)、2)スーパーカルク3活用メモ(18頁)、3)実用パーソナルコンピューター・グラフィクス(19頁)、4)実用バッチファイル(35ページ)

C.PR紙.....ワープロソフト
1)「五十まで」これまでの投稿文をまとめた(47頁)
2)日経メディカル第1回病医院PR誌コンクール応募原稿

2.掲示文の作成.....レイアウトソフト
1)待合室掲示板(検査案内、休診案内)
2)展示パネル(今回の医学総会での展示パネル)
3)台帳、棚などの表示ラベル

3.診断の補助.....表計算ソフト
1)うつ状態の診断(東邦大式SRQ−Dを利用)
2)脳卒中の鑑別(新教授による脳出血と脳梗塞の鑑別を利用)

4.検査の補助....表計算ソフト
1)セット検査作成(検査セットを設定する際の項目の組合せと点数計算用)
2)必要検査の選択(例えば腫瘍マーカーの選択)

5.治療の補助.....表計算ソフト、但し 4)5)を除く
1)適正薬剤の選択(例えば合併症と降圧剤)
2)院内使用薬剤の必須情報(例えば副作用)のデータバンク
3)食事療法の指導(例えば食品交換表によるカロリー計算)
4)紹介病院に関するデータバンク.....データベースソフト
5)標準体重、肥満度、指示カロリーの算出.....BASIC

6.患者データの整理分析.....表計算ソフト
A.個人データ
1)時系列的整理とグラフ表示
 (検査データ等の時間的推移を整理しディスプレイに表示する、グラフ表示する、更にプリントアウトする)<写真1>

<写真1>患者データの時系列的整理(グラフ表示)

2)1回の詳しい検査データの報告と説明(人間ドック的検査の報告書作成とディスプレイによる説明)

B.集団データ
集団検診の報告書作成(個人別報告、総合報告)

7.画像表示による説明.....グラフィックソフト、表計算ソフト
1対1(グラフィックスやグラフを用いて診療中に病気とか病状経過を説明)

<写真2>グラフィックスによる病態の説明

8.スライド原稿作成.....グラフィックソフト
(ディスプレイを直接撮影し、かなり上質のスライドを簡単に早く作ることができる)

9.疾病統計.....表計算ソフト
(レセプトコンピューターで作成した月別の疾病統計をパソコンで整理分析しグラフ化も行う)

10.経営関係.....表計算ソフト
A.給与計算
(出勤簿の数値を入力するだけで、個人給与明細書、給与台帳、源泉徴収簿兼賃金台帳が自動的に作成される)

B.各種記帳整理
(自費収入集計、未収金集計、普通預金、現金の出納帳作成)

C.統計処理、グラフ表示
(例えば収益、利益、所得等の推計)

D.薬剤購入、棚卸し等の薬剤管理
1)購入価格入札
  使用薬剤名と1ヶ月使用量のリストを作成し問屋に提示
2)棚卸し
  薬剤ごとの在庫数量の入力で在庫金額を自動計算
3)薬品購入量とその所得に占める割合の年次推移ほか

E.レセプト関係
1)社保生保請求書
レセプトコンピュータで得られた総括表のデータや返戻分のデータを使って、社保生保請求書を作成し、同時に社保の未収金を算出し統計資料も作成する。
2)国保請求書
社保請求書と同様であるが、市町村別、国保組合別に請求書を作り記録する。

【考案】
”診療補助システム”に最も必要なのは実用性であろう。そのために役立つのなら既成のソフトでも、手作りのソフトでも、その一部でも或いは修正した形でも、何でも活用するのが実現性の高い方法ではなかろうか。しかし、そのためには数あるハード、ソフトを吟味選別し、その長所・欠点、能力と限界を知った上でそれらを有機的に統合する必要がある。また、ある程度の知識と熱意がある人であれば、誤りなく容易に診療補助システムを作れることが望まれる。

このシステムが目標とした条件は、1)診療上有用なレベルの問題に対応できる。2)マニア的な知識や能力を必要としない。3)操作が簡単である。4)各々の医院独自の要求に適したオリジナルなシステムを作り上げていくことが可能である。5)データの保護対策がとられている。6)システム内が有機的に統合され、データの変換、修正、相互利用が容易である。7)ハード及びソフトの進歩に対応するための考慮が払われている、の7条件であったが、目標達成度は約70%と判断している。

【まとめ】
今回報告したパーソナルコンピューターによる診療補助システムをパソコン購入1年半足らずの期間で開発した。それを可能にしたのはハード及びソフトウエアの選択が目的に合致したことの他に、プログラミングをほとんど簡易言語とバッチファイルで行い、アセンブラやBASICによるプログラムは必要最低限で、しかも極く簡単なものに限ったことによるのではないかと考えている。

(1989年2月、記)

<2001.12.24.>

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