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大阪弁と標準語のアクセント

2008.02.20. 掲載
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1.はじめに

NHKの大阪局制作のドラマを観ていると、ベテラン俳優が変な大阪弁で話すので、落ち着かなくなることがある。そこで、どこが変なのか、なぜ変な大阪弁になるのかを分析してみたくなった。

会話には、それぞれのことばの1文字1文字に、音の高さと、音の長さがあることから、これを楽譜で記述できるのではないかとまず思った。そして、文字で記述する文字譜という楽譜があるので、これを利用できるかもしれないと考えた。

まず、標準語の発音の辞典として、「NHK 日本語発音アクセント辞典」を見つけて購入し、読んでみると、楽譜のような大層なものでなく、音の高低を示す記号だけでも、アクセントの記述には充分であることを知った。そこで、楽譜による記述は放棄した。

変な大阪弁というのは、大阪弁のことばでありながら、変なアクセントで話すときに感じられる。ことばが変なのではなく、アクセントが問題なのだ。その日本語のアクセントというのは、音の高低アクセント(pitch accent)だそうだ。それに対して、英語は音の強弱アクセント(stress accent)だとされている。


2.分析の方法

この「NHK 日本語発音アクセント辞典」の巻末に、金田一春彦氏ほか3名による解説がある。私が知りたいのは、大阪弁と標準語のアクセントの違いなのだが、内容が少なく、何とも分かり難くてイライラしてくる。それなら、自分で分析してみようという気になった。

私は神戸で生まれて神戸で30年間過ごし、その後の40年ばかりを大阪で暮らしてきたので、大阪弁のアクセントについては、それほど大きな間違いはないだろうと思う。標準語は駄目だが、それはこの辞典に頼ることにして、標準語のアクセントと大阪弁のアクセントを比較検討してみた。

全部のことばは69000語収録されているようだが、そのすべてをチェックする気力と時間はなく、また、必要とも思われない。そこで、ア、カ、サ、タ、ナ、ハ、マ、ヤの各1ページについて、標準語と大阪弁の対応を調べてみた。1ページ約60語で、全部で473語について分析した。無作為に選ぶため、アなどの書かれているページの次のページを選んだ。ア002頁というのは、アは001ページから始まるが、その次の002ページを選んだことを示す。


3.分析結果

その結果は以下の通りで、非常に面白い結果が得られた。日本語のアクセントは高いピッチの音と低いピッチの音の2種類で表すことができるという。ただし、これは相対的なピッチの違いであり、音楽で言えば移動「ド」読み音階の「ド」と「ファ」と通常は考えて良い。

しかし、ピッチに差があれば良いという、あいまいな音程差であり、「ド」と「レ」、「ド」と「ミ」、「ド」と「ソ」でも構わない。緊張の少ない時はピッチの差は小さく、例えば「ド」と「レ」となり、緊張の強い時はピッチの差が大きく、例えば「ド」と「ソ」になるかもしれない。ここでは、その高い方の音をH、低い方をLで表した。

H1というのは、ことばの最初の1拍だけが高音である場合、H>1はことばの最初の1拍から始まり2拍以上が高音である場合を表す。同じように、L1、L>1はそれが低音である場合を表す。

標準語アクセント 大阪弁アクセント 共通 H1 H>1 L1 L>1 H1 H>1 L1 L>1 H1= - _ _ - - _ _ - - _ _ - - _ _ - - _ _ - - _ _ - - _ _ ---------------------------------------------------------------------------------------------- H1 H>1 L1 L>1 H1 H>1 L1 L>1 H1= ア002頁 13 0 46 0 7 43 0 9 7 カ138頁 6 0 53 0 4 35 1 19 3 サ332頁 13 0 47 0 11 44 1 4 11 タ515頁 19 0 36 0 7 30 0 18 7 ナ653頁 11 0 52 0 10 38 0 15 9 ハ706頁 15 0 44 0 13 35 0 11 13 マ859頁 10 0 48 0 6 24 2 26 4 ヤ926頁 3 0 57 0 3 47 0 10 3 ---------------------------------------------------------------------------------------------- 90(19%) 0 383(81%) 0 61(13%) 296(63%) 4(1%) 112(23%)   56(12%) ----------------------------------------------------------------------------------------------


4.結果の説明

まず、驚くのは、標準語では、最初から高音や低音が2拍以上続くことはないということで、H>1がすべて0、L>1もすべて0である。このあまりの整然さを見て、標準語は人工的に加工されたことばであると直感した。

ことばの第1拍が高低いずれかの1語であるということから、標準語は最初の1拍が高音であれば次は低音となり、最初が低音であれば2拍目は高音にならざるを得ない。この1拍目と2拍目の音高が違うことにより、そのことばを知らない者でも、単語の始まりを知ることができる。合理的、論理的だ。

その最初の1拍に来るのは、圧倒的に低音が多く8割以上を占めている。これが、標準語の最も特徴的な構造だと言って良いだろう。低い音を「ト」高い音を「タ」として、例えば「ト」を「ド」の音、「タ」を「ミ」の音として、音声的に表現すると、標準語の8割以上が、「トタタ」で、2割以下が「タトト」、というわけだ。これ以外のことばの始まり方はないのだから、単純明快、論理的である。

それに対する大阪弁は、ことばの始まり部分だけをとっても複雑である。ことばの最初の1拍目と2拍目が音の高さが変わるという標準語の原則はまったくなく、「タトト」が1割強で、「トタタ」は皆無に近い。それに対して、ことばの始まりから2拍以上高音が続くことばは、6割以上を占めている。また、ことばの始まりから2拍以上低音の続くことばも2割強ある。

2拍以上を一つにまとめたが、これは2拍、3拍、4拍などに分けることができる。「タタト」、「タタタト」、「タタタタト」、「トトタ」、「トトトタ」、「トトトトタ」というわけで、その組合せは非常に多くなる。

標準語と大阪弁で共通のアクセントを持つことばは12%あった。これには外来語が3割以上を占めているので、それを除けば、共通のアクセントをもつことばは8%以下になる。同じ日本語でありながら、これほど違っていることを、今回の分析で、はじめて定量的に理解することができた。

この分析は、ことばの始まりの部分だけについて行なったが、ことばの途中と終りも含めると、さらに大きな違いが認められた。そのアクセントのパターンは、標準語の場合は、1)低音1拍から高音が続くか、2)低音1拍から高音が続いて、低音に変わって終わるか、3)高音1拍から低音が続くという3通りしかなく、単純、明快、論理的である。

それに対して、大阪弁は複雑で、標準語の1)2)はほとんどなく、3)は少しあるが、大部分は、4)始めから高音が続くか、5)始めから高音が続いて低音に変わるであり、全体の6割を占めている。そのほかには、6)始めから低音が続いて高音に変わるのが2割ある。

また、割合は少ないが、7)始めから低音が続いて1拍だけ高音になり、また低音に戻る、8)その亞形として、低音が1拍、高音が1拍、次に低音、9)低高低高低など、途中で1拍だけ高音というアクセントもある。これなど、標準語を話す人にとっては、目が回るようなアクセントだろう。

アクセントのパターンを視覚的に表現すると、
1)_ - - - 2)_ - - _ 3)- _ _ _ 4)- - - - 5)- - - _ 6)_ _ _ - 7)_ _ - _ 8)_ - _ 9)_ - _ - _ となる。

アクセントのパターンを文字で音声的に表現すると、
1)トタタタ 2)トタタト 3)タトトト 4)タタタタ 5)タタタト 6)トトトタ 7)トトタト 8)トタト 9)トタトタトとなる。

アクセントのパターンをMIDIで音声的に表現すると、
1)MIDI  2)MIDI  3)MIDI  4)MIDI  5)MIDI  6)MIDI  7)MIDI  8)MIDI  9)MIDI 


5.アクセントの共通語、類似語、反対語、異質語

大阪弁と標準語の発音アクセントから、共通語、類似語、反対語、異質語の4種に分類してみた。共通語は同じなので問題はない。類似語は「ことばの1拍から高音にする」ことで、多くの場合大阪弁に変換できる。問題は、反対語と異質語で、これらに対して同じように「ことばの1拍から高音にする」ことを行なうと、変な大阪弁なってしまう。変な大阪弁のもとは、これが大部分を占めていると思われる。

反対語と異質語の割合は、分析結果から推定して23%、おおまかに言えば20%強となる。これらに対して、大阪弁のアクセントに変換するなんらかの法則性を見つけることができるかも分からないが、もし見つかったとしても、法則の数が膨大で、それを使うよりは、例外として個々に対応する方が効率的でないかと思う。

種類 標準語 大阪弁 推定割合  (漢字)  パターン 共通語 あいさつ   あいさつ   約10%強 (挨拶)  3) - _ _ _ - _ _ _ かいがい   かいがい   (海外) - _ _ _ - _ _ _ 類似語 あいだがら  あいだがら  約60%強 (間柄)  1)〜 5) _ - - - - - - - - - はなしか  はなしか  (咄家) _ - - - - - - - 反対語 あいする  あいする  約20%強 (愛する)  6) _ - - - _ _ _ - らくごか  らくごか  (落語家) _ - - - _ _ _ - 異質語 まえかけ  まえかけ   約2%弱 (前掛け) 7)〜 9) _ - - - _ _ - _ やきめし  やきめし  (焼き飯) _ - - - _ _ - _

6.なぜベテラン俳優が変な大阪弁を話すのか?

自分が評価していない俳優が、変な大阪弁を話しても、それほど気にはならない。しかし、演技が良く好きな俳優が、変な大阪弁を話すと、口惜しい、なんとかならないかと思ってしまう。

このタイトルのテーマは、なぜベテラン俳優が変な大阪弁を話すのか?という疑問から出発した。いま考えると、そのわけは、1)標準語のアクセントに対して大阪弁のアクセントは比較にならぬほど複雑である。2)大阪弁は60%以上が高音で始まるアクセントなので、何でも高音で始めれば良いと言う錯覚ができてしまっている。3)高音で始まらない標準語とか、アクセントが反対になることばとか、まったく、標準語と関係のないアクセントのことばがあることを知らない。4)それらを台詞に書き込んで、注意を促す工夫ができていない。これらのことが関係しているのではなかろうか?


7.アクセント表示の工夫

発音アクセントを表す方法として、1)「タ」「ト」を使った音声的表現、2)PCで表現する方法として、「_ 」 や「- 」を使った視覚的表現などを提示してみた。そのほかにも、高音のことばの直前に「^」を付ける方法なども考えられる。例えば、やきめしの標準語は「や^き^め^し」、大阪弁では「やき^めし」と書くなどである。

そのほかに、3)手書きで表現する方法として、台詞とか印刷されていることばに対しては、そのことばが横書きであれば、高音のことばの上に横線、低音のことばの下に横線、その変わり目に縦線を手書きするのが、簡単で、分かりやすいのではないかと思う。たて書きのことばの場合は、高音のことばの右に縦線、低音のことばの左に縦線、その変わり目には横線を手書きするのが、良いだろう。


図1.印刷されたことばに対する手書きのアクセント表示法


8.変な大阪弁を話さないための工夫

ベテラン俳優が変な大阪弁を話さないための工夫を考えてみた。それには大阪弁に精通した人間がまず台本に目を通す。そして、標準語と反対のアクセントであることば(反対語)や、標準語とアクセントの関係が不明なことば(異質語)については、該当することばには、7.アクセント表示で述べた方法で赤線をつける。

ベテラン俳優は、その部分だけは、暗記できるように練習を重ねる。これが、もっとも実際的で合理的ではなかろうか?


9.大阪弁の特異性

今回学んだことで大きかったのは、大阪弁(京阪式アクセント)を話す地域が、近畿圏と四国と北陸の福井、石川、富山に限定されていて、残りはほとんど標準語と同じ東京式アクセントであるということだった。それまでは、大阪弁もいろいろな方言の一つで、日本全国には独自のアクセントを持つ地域がたくさんあるものと信じて疑わなかった。

普通、東京以外の人間は方言で話すことを避けようとするが、大阪弁を話す地域の人間だけは、平気で大阪弁で話すので、耳障りだと言われる。このことは、大阪弁にコンプレックスを感じていないからだろうと言われるが、これだけアクセントが違えば、標準語は外国語のようで、話したくても話せないというのが真相ではなかろうか?

単純明快な東京式アクセントで話す人間が、日本の人口の大半を占めているとしたら、大部分の日本人にとって、標準語で話すことが簡単なのは当然である。それに対して、複雑な大阪弁(京阪式アクセント)で話すことは、非常に難しいことがよく分かる。それは、大阪弁の人間が標準語を話すのとは、比較にならぬほど難しいことであることがよく理解できる。

大阪弁を話す地域が、それほど狭い範囲に限定されていることを知ると、なぜ大阪弁(京阪式アクセント)が、この地域に限定するのかに興味が湧いてくる。それに対してまず思ったことは、徳川300年間の参勤交代と江戸屋敷だった。これによって、江戸のアクセントが全国に広まったのではないかという仮説である。

近畿圏がそれを免れたのは、1)近畿が日本文化の発祥の地であるという誇り、2)京都には御所と公家がいて、大阪には蔵屋敷と豪商がいて、ほかの地域とは違い、江戸アクセントに従う必要がなかったのではないかということである。

もう一つの仮説は、稲作文化を持つ集団が移住してきて大和朝廷を作り、日本の先住民を征服して、日本を縄文式狩猟文化から弥生式稲作文化に移行させたという説の援用となる。もし、この説が正しいとすれば、京阪式アクセントのことばは、その大和朝廷側のもので、東京式アクセントは、先住民のものとも考えられる。文化としては弥生式が縄文式を駆逐したが、アクセントを駆逐することはできなかった、というより、駆逐する必要がなかったのではなかろうか?

次に考えたのは、単純明快で論理的な標準語アクセントの日本語がある中で、複雑な大阪弁に存在価値はあるのだろうかという問題である。これは個人の好みもあるだろうが、私は、大阪弁が併存することを良しと考える。

その理由は、1)画一化されたものよりも、多様性のあるものの方が好きだという私の好み、2)大阪弁には楽しさ、音楽性がある。ことばの高低に、あれほど多数の変化があるということは、素晴しいことだと思う。3)標準語の単調なトタタタ、トタタタばかりを聞いていると、ウンザリすることなきにしもあらずだ。4)人間にとって、論理的左脳的なことは非常に重要であるが、それに劣らぬほど、情緒的右脳的なことも重要である。標準語(東京式)アクセントは論理的であり、大阪弁(京阪式)アクセントは情緒的である。そのどちらも、欠くことは望ましくない。

TVで、事件現場からの報告を聞くと、レポーターは、強調されたトタタタ、トタタタで話してくれる。ほとんど例外なく、高音部分(タタタの部分)を強調するので、高低アクセントのほかに、強弱アクセントまでついてしまっていて、聞き苦しいこと甚だしい。これなど、標準語アクセントのいやな使い方だと思う。

とは言っても、日本語のアクセントを大阪弁のアクセントに変える方が良いなどとは、さらさら思わない。やはり、標準語は単純明快で論理的で習得しやすい現在のアクセントが良い。それと比べれば、大阪弁は複雑で、情緒的で、習得は比較にならぬほど困難である。

明治維新の際に、東京方式アクセントを採用したのは、意図的か、自然発生的にそうなったのかは知らないが、とにかく、日本人にとって幸せだったと思う。京阪式アクセントが採用されていたなら、その普及は非常に困難で、混乱が続いたと想像できる。

大阪弁は、標準語を補完する日本語として重要だと考えるが、現状は、方言の一つとしてしか認知されていないようだ。そのためか、「NHK 日本語発音アクセント辞典」に相当する書籍は存在しない。大阪弁についての幾つか図書に目を通してみたが、学問的、系統的、あるいは実用的な書物は見当たらなかった。

そこで、「標準語対照大阪弁アクセント辞典」を作ることを提案したい。それは、「NHK 日本語発音アクセント辞典」を踏み台にして、そのページごとに、大阪弁のアクセントを「高音のことばの上に横線、低音のことばの下に横線、その変わり目に縦線を手書きする」やり方で、印刷されたことばに書き込みを行なうことで大部分は終了する。これに、付録として、大阪弁独特のことばを載せ、それにもアクセント表示を付けることで完成する。

この作業を、シルバー人材センターなどに所属する、大阪弁に慣れた中高年のボランティアに依頼するのが良いのではないかと思う。私の経験では、1ページ30分程度で書き込みを行なうことができる。 この記事を書いた後で「新明解日本語アクセント辞典」という本が出版されていることを知り、旭屋で立ち読みをした。その結果は、「NHK 日本語発音アクセント辞典」と内容はほとんど同じで、大阪弁について書かれていることはわずかだった。


10.まとめ

ベテラン俳優がなぜ変な大阪弁を話すのか気になったことがきっかけで、次々と思いつくままに、話は進展してしまった。これに取り組んだ時間は、正味3日程度だったと思うが、非常にエキサイティングだった。

しかし、それだけでなく、思ってもいなかった収穫が多かった。それは、大阪弁の特異性がよく分かったこと、自分の苦手な標準語に対して親近感を得たことであり、その習得にも希望が持てるようになったことである。いまは、大阪弁を自由に使える地域で生まれ育った運命に、感謝している。


<2008.2.20.>

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