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医院勤務者のことばづかい

<野村医院勤務マニュアル改訂5版(91年11月)から>
2004.04.27. 掲載
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目次
 1.はじめに
 2.敬語
 3.正確に
 4.ことばに微笑みを
 5.笑顔を作ろう
 6.返事は顔を見て
 7.ことばを出し惜しまない
 8.説明は具体的に
 9.分かりやすいことばで
10.おわりに


1.はじめに

ことばは、人間関係の上で欠かすことのできない重要な手段であり、医院に勤務する者にとって、ことば使いに気をつけることは最も大切な要件の一つである。これは「患者さんの身になる」という気持ちがあれば、自然と適切なことばづかいになるとも言える。

しかし相手を思う気持ちがありながら、ことばが不適当なために誤解されたり、傷つけることがあるということもまた事実である。

そこで当院が職員に望んでいることばづかいについてまとめてみた。これを参考にして自分のことばを磨き上げて頂きたい。もちろん「人を見て法を説け」のことば通り臨機応変に対処することが肝要であり、あくまでも原則と考えて欲しい。

ことばづかいは難しい。しかし、そのことを意識していると少しづつでも良くなるものである。敬語を含めてことばづかいは難しいものである。これから述べる事柄の中にも、幾つかの誤りがあるかもしれない。疑問に思う点があれば遠慮なく指摘して頂き、正していきたく思っている。


2.敬語

私は以前から原則として中学生以上の患者さんには敬語を使ってきた。

高齢者に親しみの情を込めて「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼びかけても、逆効果で立腹させたり、不愉快にさせてしまうことがある。たとえ老人痴呆に近い人でも、人生の先輩として接し、処遇することで痴呆が非常に改善される例がよく知られている。だから、高齢者にこそ敬語が大切である。

敬語には「ていねい語」「謙譲語(へりくだり語)」「尊敬語(うやまい語)」の3種類があるが、「ていねい語」を中心にした「軽い敬語」「あっさりした敬語」が望ましい。敬語は、簡単に述べると、相手を尊敬する言い方と言える。

@ていねい語
「ていねい語」は です、ます、下さい などで終わることばで、敬語の基本である。当院では中学生以上の患者さんには原則として最低限、この「ていねい語」で応対することにしている。(表1〜2参照)

A謙譲語
「謙譲語」(へりくだり語)は自分や身内の動作をへりくだって表現し、相対的に相手に対する尊敬を表わすことばである。これには、動詞にあることばをつけ加えて作る謙譲語と、それ自体が謙譲語である2種類がある。(表1〜2参照)

 合成語 お〜する、お〜いたす、〜させていただく、お〜させて頂く
 単独語 参る、伺う、差し上げる

B尊敬語
「尊敬語」は相手や相手側の人の動作を尊敬して表現することばで、謙譲語と同じように動詞にあることばをつけ加えて作ることばと、初めから尊敬語として存在することばがある。(表1〜2参照)

 合成語 〜れる(られる)、お〜になる、〜はる(大阪弁)
      〜して頂く、お〜頂く、〜して下さる、お〜下さる、お〜願う。
 単独語 いらっしゃる、おいでになる、お見えになる、お越しになる、など

尊敬語の中で最も使われている用法は〜れる(られる)であろう。大喪の礼でも、数えてみると、この使い方が一番多い様であった。安易に使わなければ便利なことばなので、まずはこれからマスターするのが良いのではないか。

合成語による尊敬語、謙譲語を「持つ」ということばを例にとって説明してみると、表1のようにまとめられる。

 普通   ていねい語   尊敬語   謙譲語 
           
 持つ  持ちます  持たれます  お持ちします
       お持ちになります  お持ちいたします
 持ちはります(大阪弁)  持たせて頂きます
 持って頂きます  お持ちさせて頂きます
 お持ち頂きます
 持って下さいます
 お持ち下さいます
 お持ち願います

表1 合成語による尊敬語と謙譲語


ただし、「待つ」ということばと違って「行く」ということばは相手にしてあげる動作ではない。だから「行かせて頂きます」とは言えても、「お行きします」とか「お行きいたします」「お行きさせて頂きます」などという謙譲語を作ることはできないのである。

次に、よく使われる日常語の中で、合成語ではなくて単独で尊敬語や謙譲語になることばを表2にまとめてみる。(合成語としての尊敬語、謙譲語は省略)

 普通   ていねい語   尊敬語   謙譲語 
           
 会う   会います      お目にかかります 
 与える   与えます      差し上げます 
 いい   いいです   よろしいです   結構です 
 言う   言います   おっしゃいます   申します 
          申し上げます 
 行く   行きます   いらっしゃいます   伺います 
       おいでになります   お伺いします 
       お越しになります   参ります 
 いる   います   いらっしゃいます    
       おいでになります    
 借りる   借ります      拝借します 
 聞く   聞きます      伺います 
          お伺いします 
 着る   着ます   お召しになります    
 くれる   くれます   下さいます    
 来る   来ます   いらっしゃいます   参ります 
       おいでになります    
       お越しになります    
       お見えになります    
 知る   知ります      存じています 
          承知しています 
 する   します   なさいます   致します 
 食べる   食べます   召し上がります   いただきます 
       おあがりになります    
 見る   見ます   ご覧になります   拝見します 
 見せる   見せます      お目にかけます 
          ご覧にいれます 
 貰う   貰います      いただきます 
          ちょうだいします 
 やる   やります   なさいます   あげます 
          差し上げます 

表2 独立語による尊敬語と謙譲語


C「お〜」と「ご〜」
お〜になる(尊敬語)例:お待ちになる、お〜する(謙譲語)例:お待ちするのように動詞につけて敬語を合成する場合については先に述べた。

次によく使われるのは、相手に所属するものや相手に関わることに対してつけられる「お」で、これも敬語の一種といえる。例えば、お手、ご病気、お好み、とか お美しい、お優しい、お元気な、などである。

また、「お」または「ご」+名詞+する の形式で謙譲語を作る場合もある。例えば、お知らせする、お断りする、ご通知する、ご報告するなどである。

その他慣用的に使う場合とか、とくにていねいに話す場合とか、小さな子供に話す場合には「お」とか「ご」を付けることがある。しかし、何にでも「お」「ご」を付ければ良いというものではない。例えば おしっこ、は構わないが おトイレ、お玄関、お熱、お咳、お湿布などはおかしいと思う。お便所やお薬も 便所、薬で構わないのではなかろうか。

D間違えやすい敬語
謙譲語や尊敬語をとり違えて使いやすい。特に自分とか身内のことを言うのに尊敬語を使う誤りが多いよう思う。中でも大阪弁の「〜はる」を身内の者の動作に付ける人が多いが聞き苦しいものである。

また二重敬語と言われる間違いをする人も時にいる。例えば、〜しましたです〜でございますです、〜致しますです、とか 〜されていらっしゃる、などと話されると、ご自分では精一杯ていねいに話されている積もりなのが分かるだけに、気の毒に思ってしまう。

ていねいなことばとぞんざいなことばがチャンポンになっているのも同様に聞き辛いもので、話している人について色々憶測される原因になるかも知れない。

E過ぎたるは及ばざるが如し
いくら正しい敬語でも、ていねい過ぎるのはどうかと思う。例えば、ございますとか 下さいませ とか、かしこまりました などは当院で使うにはていねい過ぎるので、それぞれ です、下さい、分かりました 程度でよいのではないだろうか。

もちろん電話などでは、そのように話す方が良い場合もあるが、当院では「あっさりした敬語」を好ましいと思っている。

F始めと終わりを大切に
応対の始めには例えば、どうぞ、恐れ入りますが、済みませんが、お待たせしました、はい、などのことばを状況に応じて話すようにする。これらの前置きがあれば、よりていねいな敬語になり、相手に対して感じの良いことばになる。例えば「お入り下さい」に「どうぞ」を一言付けるだけで、ていねいな言い方に変わるものである。

また、敬語は一般に話す終わりの方にに重点を置く方がスマートである。例えば「お手紙をお書きになっています」より「手紙を書いていらっしゃいます」の方がすっきりしていると思うが、あるいは好みの問題かもしれない。

その他、依頼する時には特に丁重なことば使いが大切で、例えば以下のような始めと終わりの組合せなどが好ましい。

どうぞ お〜下さい
恐れ入りますが お〜下さい
済みませんが 〜して頂けますか(〜して頂けませんか?)
恐れ入りますが お〜願えますか?(お〜願えませんか?)
恐れ入りますが お〜頂けますか?(お〜頂けませんか?)

G敬称など
相手方(患者さんなど)の名前は 〜さんとお呼びし、名前なしの場合は、〜の方、〜の方々、皆様、どなた、どちら様、お宅(様)などを使う。
自分側(当院など)については こちら、わたくしども、わたくし、名前だけなどを使うが、先生や奥さんを使うのは、他に適当なことばが見あたらないので、止むを得ない。

H当院の基本的なことば
日常茶飯事のように以下のことばが口から出るよう常日頃心がけておくこと。

挨拶:おはようございます、こんにちは、こんばんは
   お大事に、お気をつけて
返事:はい、分かりました、承知しました
詫び:済みません、申し訳ありません(ございません)、
   ごめんなさい、ごめん下さい
   お待たせしました、ご迷惑をおかけしました、失礼しました。
   恐れ入りますが、済みませんが、恐縮ですが、
お礼:有難うございます、お世話になりました、恐れ入ります、恐縮です
依頼:お〜下さい、どうぞ お〜下さい、〜して頂けますか?
   お願いします、どうぞ宜しくお願い致します、こちらこそ宜しくお願
   い致します

質問:いかがですか(でしょうか)?、どうされました(なさいました)?
   お持ちですか(でしょうか)? 〜されますか?
謙譲:〜させて頂きます
慰労:ご苦労様、お疲れ様、お世話様


3.正確に

ことばづかいが良くても、正確でなければ駄目なのは当然である。

4.ことばに微笑みを

また、ことばづかいが良くても、そのことばに微笑みがなければ、冷たいとかいんぎん無礼と相手は感じるかもしれない。「ことばに微笑みを」と言ったが、これは笑顔から出ることばの特徴である。

いくらていねいな敬語で話されても、そのことばに微笑みがなければ、相手は冷たいとか、いんぎん無礼と感じるかも知れない。相手を思う気持ち、相手を大切に思う心がなければ敬語は逆効果をもたらすことがある。自分が今話していることばに微笑みがあるかどうか、時々自分で確かめてみるのが良いと思う。

5.笑顔を作ろう

また、笑顔は人間だけに与えられた特権である。たとえ嬉しくなくても、自分で笑顔を作ってみると、自然と心が和んでくるから不思議だ。そうすると、ことばに微笑みが加わり、相手に好感情をもたらす可能性がある。ことばに微笑みをと言ったが、これは笑顔から出ることばにともなう特徴と言える。人は嬉しいから笑うが、逆に笑うから嬉しくなることもあるだろう。

私の好きな歌の一つに「スマイル」という曲がある。その詩は「心が痛んでも微笑みなさい」で始まり、「涙がこぼれそうな時こそ、ほほえむ努力をしなさい、そうすれば人生の希望が見つかるでしょう」で終わる。いいことばだと思う。

たとえ嬉しくなくても、自分で笑顔を作ってみると、不思議に心が和んで来るものである。そうすると、自然とことばに微笑みが加わり、周りの人に微笑みを伝えることになる。時には鏡に向かって微笑んでみるのも悪くはないと思うが、どうだろう?

6.返事は顔を見て

対話は顔を見て行うのが原則である。外人のように、じっと相手の目を見つめて話すことを日本人は好まないかも知れない。しかし、全く相手を見ないで返事をするのは、相手を軽視していることになる。いくら忙しくても、わずかの時間でよいから、相手の目を見て返事をするように気をつけよう。

7.ことばを出し惜しまない

長々とくどい話には閉口するが、短かすぎる話も困りものである。特に、聞かされるのが患者さんの場合には、聞きたいことも聞けず、わけが分からなかったり、誤解してしまうことにもなりかねない。患者さんは一般に医療従事者よりも弱い立場にあることを絶えず念頭に置いておくこと。たとえ二言、三言つけ加えるだけでも、話が分かりやすくなったり、感じがよくなることが多いのだから、ことばを出し惜しみしないように注意しよう。

8.説明は具体的に

説明イコール納得ではない。相手が納得できるように説明しなければ、時間の無駄に終わってしまう。相手に納得してもらう良い方法の一つは、できるだけ具体的に説明することである。例えば、実際に薬を見せて説明するとか、一回分の薬を小さな袋に入れて説明するとか、瓶に分かりやすい目印を付けて説明するなどのように手間を惜しまぬことである。「百聞は一見に如かず」とか、「見て分からん者は聞いても分からん」ということわざのように、先ずは、視覚に訴えて理解してもらうのが早道と言えよう。

9.分かりやすいことばで

医療関係のことばは難解なものが多いので、患者が分かりやすいことばに言い換えて、説明をする必要がしばしばある。しかし、分かりやすいことばで簡潔に説明をするというのはなかなか難しい。だから、分かりやすいことばで説明するということを何時も心がけていて欲しい。私は、少なくとも医師になってから、その方針でこれまでやってきたつもりだ。やさしいことを難しいことばで説明するようなことはもってのほかである。

10.おわりに

以上で医院勤務者のことばづかいに対する私の希望を終える。このようなものを書いたからといって、私が手本になるようなことばづかいをしているわけでは決してない。むしろ、自分自身のためにまとめてみたものである。誤りや不適切な所は改めていきたく思っているのでご協力願いたい。


補足説明:
病院勤務をしていた時に一番嫌だったのは、医療関係者の横柄な態度だった。だから、自分が開業してからは、それをできるだけしないように努め、職員にもそのように指導して来た。そのことを「医院勤務の基本」のトップに書いた「患者さんの身になる」ということばで表したつもりだ。開業10年目に作った「野村医院勤務マニュアル」から掲載している。

開業18年目に作った勤務マニュアルから「医院勤務者のことばづかい」という1章を加えることにしたのは、職員は医院勤務の基本をかなり理解してくれているが、ことばづかいにいささか不満を感じ、その基本を教育する必要があると思ったからである。

私は開業以来、中学生以上の患者には敬語を使ってきた。敬語といってもほとんどは「ていねい語」である。職員には「あっさりした敬語」を使うように求めてきた。最近一部医療機関で、患者様、だれだれ様などと敬語を使う風潮にあるようだが、当院では使うことはないだろう。「患者さんの身になる」ということは、様づけで呼んでもらって済む問題ではないからである。手紙などの文章では「さま」だが、会話では「さん」が自然ではなかろうか?

(91年11月、記)


<2004.4.27.>

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