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神戸ジャズ・ストリート

2008.10.06. 掲載
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昨日(2008.10.5.)神戸ジャズ・ストリートへはじめて行って来ました。私は神戸で生まれ、31歳までを神戸で過ごし、それ以後大阪で40年以上暮らしていますが、今もこころのふるさとは神戸です。しかし、神戸ジャズ・ストリートが今年で第27回目の開催だというのに、これまでは行ってみたいという気持ちが何故か起らなかったのです。

一昨日神戸の諏訪山展望台の横にある「トゥール・ドール」というレストランで高校3年のクラス会がありました。ここから眺める神戸の夕景・夜景は素晴しく、参加したクラスメート23名はふるさと神戸を懐かしんだようです。そのクラスメートの一人から、神戸ジャズ・ストリートの1日券をいただきました。

かなり前から、妻は神戸ジャズ・ストリートに行きたいと言っていたのですが、私が生返事なのでぐっとこらえてきたようで、「来年からは私一人でも来る」と言い出す始末です。

11時からパレードが始まるので、それに合わせてパレードのスタート地点に行ってみると、残念ながら雨天中止。ちょっとガッカリはしたものの、ゆっくり北野界隈を眺めるのも良いことなので北野坂(ジャズ・ストリート)を登りながら、途中数箇所あるライブ会場をチェックし、異人館通りを西に進んで、神戸外国倶楽部にたどりつきました。

ライブ会場は11箇所あり、まず最初はここと決めて会場に入ると、開演まで30分以上あるというのに、満席で立ち見しかできない状態です。隣に立って並んでいる人は東京から来られたとのこと、何度もこの神戸ジャズ・ストリートには家族揃って来られており、今回もそれぞれが自分の聴きたい会場へ行ったと話されました。

この会場を最初に選んだのは、北村英治とか秋満義孝という誰もが知っているミュージシャンの名前があったからというミーハー的発想からです。ここを最初に、二つのライブ会場で合計5時間を興奮のうちに過ごしました。その記録を残して置きます。


     神戸ジャズ・ストリート会場案内図 神戸ジャズ・ストリートより

●神戸外国倶楽部

時間:12:10〜12:55
出演:北村英治(Cla)、五十嵐明要(alt Sax)、右近茂(ten Sax)、原田忠幸(bar Sax)、秋満義孝(P)、
    水田欽博(B)、田中ヒロシ(Ds)
ジャンル:スイング・ジャズ
感想:
グレン・ミラー物語、ベニー・グッドマン物語の時代を思い出させるスイング・ジャズを、超ベテランがガンガン聴かせてくれて感動ものでした。アンサンブル良し、アドリブ・ソロ良し、さすがはプロです。開演前から合わせて1時間以上立ちっ放しを余儀なくされたのですが、全体がよく見えて、まったく苦痛がなかったというのは、それほど素晴しかったと言えるでしょう。

ただ、軽妙な司会の北村英治氏が何度も腕時計を気にして、しかも、予定時間より早く切り上げてしまい、結局2曲をそのあとで追加演奏したのは少々鼻白む思いがしました。他の演奏を聴いてからは、私たち夫婦にはスイングよりもディキシーランド・ジャズの方が合っている、プロにない音楽の原点をアマチュアの方が持っているのではないかという感想を持ちました。

その他には、北村氏と秋滿氏がともに1929年生まれで、来年は80歳になるということ、ベースの水田欽博氏がベースだけでなくヴォーカルも上手く、ペリー・コモを思い出す歌いかただったことが印象に残っています。

時間:13:10〜13:55
出演:右近雅夫(Tp)、清水万紀夫(Cla)、ディキシー・キャッスル(及川義弘(Tb)、青木研(Bjo)、井桁賢一(Shon)
ジャンル:ディキシーランド・ジャズ
感想
輝くばかりの右近雅氏夫のトランペットの音色に痺れてしまいました。小学校の友人との喜寿の祝いのため、ブラジルから帰国した人とはとうてい思えない驚くばかりの見事な演奏で、演奏者はもちろん、聴衆を楽しい興奮状態に自然と包み込んでいく人柄を目の前にして、人間讃歌が頭に浮かびました。

この方は関西学院大学の学生の時に学生バンドを作り、「聖者の行進」を日本で最初に演奏したとか、1953年にサッチモが来日した時、右近氏のレコードを聞いて‘Oh, My Boy!’と言って彼を抱きしめたというエピソードがあることを知りました。その彼は2年後の1955年に、ご両親や弟妹とブラジルへ移民され、ブラジルでは事業家として成功し、ブラジル人を妻としているとのこと。

「家では日本語を話すことはまったくありませんけど、大阪弁は今でも話せます」とユーモアタップリに司会され、「打ち合わせも、リハーサルもしていなくて、ぶっつけ本番ですので、間違ったらかんにんして下さい」と言われながら、演奏に間違いはなく、高く強く華麗なサッチモのトランペットでした。

清水万紀夫氏のクラリネットはもう少し明るい感じだったら良かったのではないでしょうか。及川義弘氏のトロンボーンはテクニックが申し分ない上、陽気で先輩への尊敬が満ち溢れていて、気持ちよく聴けました。青木研氏のバンジョーは、これまで地味なリズム楽器と思ってきたのが間違いで、メロディー楽器としてこのような高度で華やかな演奏ができる楽器であることを教えてくれました。その信じられないような巧みな演奏が、ニコニコ微笑みながら何の苦も無く行なわれることにカルチャーショックを受けました。

もう一つの初めての経験は、クラリネットやトロンボーンのアドリブ・ソロの時に、右近氏はほとんどいつもソロ以外の楽器の人と二人で静かにハーモニーを付け、ソロの演奏を引き立たせるのです。このような演奏はこれまで聴いたディキシーランド・ジャズにはなかったと思います。この後、二つのディキシーランド・ジャズバンドの演奏を聴きましたが、このスタイルはなかったので、やはり珍しいのではないでしょうか?

聴き終えて次の会場へ向う途中で、「音楽ってすごいね、絵でこれほどの感動はないものね」と妻がつぶやくのを嬉しく聞きながら、「だから、何かに利用されるとこわい魔力がある」とコメントしました。ふだんはあまり音楽に関心が少なそうな妻が、このように気持になるのはやはり音楽の力でしょう。そして、案外ディキシーランド・ジャズが妻の好みに合っているのではないかと思うのです。

●神戸バプテスト教会

時間:14:10〜14:55
出演:神戸マスクァイア
ジャンル:ゴスペル・コーラス
感想:ゴスペル・コーラスをライブで聴いたのははじめて。先のスイング・ジャズとディキシーランド・ジャズが素晴しかったので、その比較としてかなりレベルが低いと感じました。結成10周年目とは言え、やはり力不足の感じがします。特にソロ・ヴォーカルが弱かった印象が強い。二人の男声を除いて、声量と迫力不足で、ゴスペルの訴える力が弱かったと誰も感じたのではないでしょうか?

時間:15:10〜17:15
出演:1.ニューオリンズ・ラスカルズ 
     河合良一(Cla)、川合純一(Bjo.)、志賀奎太郎(Tp,Vo)、福田恒民(Tb)、
     尾崎喜康(P)、石田信雄(B)、木村陽一(Dms) & ジェフ・ブル(Tp & Vo)オーストラリア
   2.ニューオリンズ・レッドビーンズ 
     池本徳和(Tp)、山田洋一(Tb)、風間晶世(Cla)、井上博行(Bjo)、佐々木秀成(B)、
     梁瀬文博(Drms) & 森 朋子(Vo)
   3.ニューオリンズ・ラスカルズ & トーマス・レティエンヌ(Cla) ドイツ & 
     ジェフ・ブル(Tp & Vo)
ジャンル:ディキシーランド・ジャズ
感想:
1.ニューオリンズ・ラスカルズは1961年に結成されたアマチュアバンドで、リーダーは河合良一氏。本年で満47周年の成果は、プロジャズメンに決して劣ることなく、ニューオリンズ・ジャズのエスプリを堪能させてくれました。かなり前に、大阪梅田のライブハウスや、結成40周年の記念コンサートで演奏を聴いたことがあり、その頃とあまり変わっていません。

リーダーの河合良一氏のクラリネットは相変らず素晴しいのですが、志賀奎太郎氏のトランペットは少し迫力に欠け、クラリネットが目立ちすぎる感じでした。そこへバンドの友人であるジェフ・ブル氏が加わると、トランペットが力強くなり、遊び心いっぱいで、わくわく楽しくなる演奏に変わります。この人はヴォーカルもめっぽう上手く、盛り上がり度が一段と増すのです。

ニューオリンズ・ラスカルズのメンバーは、まじめで難しい表情で演奏される方が多く、もっと楽しい顔で遊びごころあふれる演奏をされる方が、聴いている者を惹きつけるのではないかと感じました。

2.ニューオリンズ・レッドビーンズは1986年結成されたアマチュアバンドで、リーダーの池本徳和氏のトランペットは歯切れ良く上手です。山田洋一氏のトロンボーンも上手く、そして楽しいのですが、音量が特大なため、トランペットが目立たなくなることが多いのが残念でした。クラリネットは演奏も良く、音量もバランスがとれていました。森 朋子氏のヴォーカルは上手いけれど、心にひびくところが少し足りないような感じでした。

3.ニューオリンズ・ラスカルズにバンドの友人のジェフ・ブル氏(Tr & Vo)とトーマス・レティエンヌ氏(Cla) ドイツが加わった最後の演奏は、ニューオリンズ・ジャズの醍醐味を存分に味あわせてくれ、フィナーレにまことふさわしい演奏でした。終りが最高の仕上がりで、誰もがその余韻を胸に納めて帰途についたのです。また来年お目にかかりましょうと挨拶を交わして、、、

●感想の総括

初めて体験した神戸ジャズ・ストリートは予想以上に素晴しいものでした。オールドタイプのジャズの演奏が多いと感じましたが、それが神戸ジャズの目指すところだと知りました。アメリカで失われてしまった伝統的ジャズが、神戸やヨーロッパで大切にされているのです。1923年に日本初のジャズバンド「ラッフィング・スターズ」が、ここ神戸で誕生したことを知りました。やはり、私のこころのふるさと神戸はすばらしい。

来年からは泊りがけで神戸に来て、事前に良く研究をしておいて、好みの演奏をできるだけたくさん聴くつもりだという妻に従うことになりそうです。

<2008.10.6.>

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