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医院経営と表計算ソフト

1998.07.05. 掲載
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目次
  1.医院経営にめざめるまで
  2.青色申告と表計算ソフト
  3.表計算ソフトの変遷と混在
  4.表計算ソフトがなぜ経営に有用なのか
  5.当院の経営に使っている表計算ソフト
  6.薬剤購入見積と表計算ソフト


1.医院経営にめざめるまで

私どものような開業医は医療サービスを業とする零細企業である。企業であるからには経理・経営を無視することはできない。しかし、私ども医師のだれもが、大学時代はもちろんのこと、勤務医時代にも、経理・経営に関するトレーニングを受けたことは皆目なかった。医師は医学のこと、医療のことを考えておれば良いとされ、世間も暗黙のうちにそれを了解していたようだった。

73年に開業をしたが、診療の必要経費を72%と計算しても良いという特別措置法が存在していて、記帳をしなくても税金の計算を簡単に行うことができるので、経理や経営について勉強することもなかった。

しかし、この特別措置法は「医師優遇税制」だとする世間の非難のボルテージが高くなるにつれ、本当にこの措置法で医師は優遇されているのかについて疑問が生じて来た。

そこで、開業10年目の83年に、1年間の薬問屋の支払いなどの経費を計算してみた。これは、ほとんどの請求書や領収書を残していたので実行可能だった。また、水揚げに相当する総収入は、99%が健康保険からの振込なので、経費割合の計算も簡単であった。

その結果は、予想通り70%近い費用となった。そこで、大阪府医師会に関与している会計事務所に、これを見てもらったところ、抜けている費用がもっとあると指摘され、即座に青色申告を勧められた。その指摘を取り入れ、翌84年から、世間で非難される「医師優遇税制」と決別し、青色申告を採用したが、その結果は1年後に大幅な節税になって戻ってきた。白色から青色に変更して正解だったのである。

悪名高い特別措置法が「医師優遇税制」では決してないことを、その時にはっきり知った。大部分の医師たちは、記帳と計算に慣れていないので、その手間の要らないこの措置法を使って丼勘定をしてきたというのが真相であろう。


2.青色申告と表計算ソフト

前置きが長くなったが、この青色申告に変えてから、パソコンの表計算ソフトが非常に有用になった。青色最初の年である84年は、電卓を使った手計算で行ったが、それは大変だった。毎月1回、監査のために会計事務所の訪問がある。その前の日は整理計算のため、明け方近くまでかかるのが常だった。翌85年にパソコンを購入するや、これに対してパソコンを活用することにより、手計算の3分の1以下の時間と労力で、より正確で美しい書類を作成することが可能になったのである。

その主役を担ってくれたのが、表計算ソフトだった。当時の表計算ソフトは、MultiplanとSuperCalc3が主流であったが、私はデータベース機能とグラフ作成機能のある後の方を使った。そして、85年末には現在使っている経理用のフォームのほとんどを完成させた。


3.表計算ソフトの変遷と混在

アメリカでベストセラーのロータス1−2−3が、86年秋に日本に上陸すると、真っ先にこれを購入した。しかし、すでに使っているフォームをこれに移植するメリットも少なく面倒なので、そのまま現在もこれを使っている。もちろん、新しく作るフォームや、SuperCalc3から移植した方が便利なフォームは積極的に移植し改良して使ってきた。

1−2−3はその後日本でも爆発的に普及し、1−2−3は表計算ソフトの代名詞と言われるほどになり、世間からそれ以外のソフトを駆逐してしまう勢いとなった。以上はすべてDOSで動くソフトである。

しかし、Windows3.0、3.1が普及しはじめると、マイクロソフト社のExcelが勢力を伸ばしてきた。Windows95が爆発的に普及してからは、1−2−3を凌駕しはじめ、現在ではこれに大きく差をつけている。

当院でも96年からWindowsマシーンを購入したので、Excelも使い始めたが、大部分はSuperCalc3や1−2−3の過去のフォームを使ってきた。

ところが、今年に入ってExcelを触っていると、1−2−3ファイルをそのままExcelに取り込むことができることが分かった。これはDOSの古いバージョンに対しても対応していて、ほとんどのバージョンの1−2−3のファイルを、あたかもExcelのファイルように取り込むのである。しかも、単にデータだけでなく、計算式、関数までも一緒に取り込む。その上、Excelに取り込んで加工したファイルをExcelのファイルとして保存できるだけでなく、1−2−3のファイルとしても保存できるのである。これには驚嘆した。

対抗する強力なソフトから、ユーザーを奪い取るために役立つことなら、いかなる努力も費用も惜しまないマイクロソフト社のすさまじさをここに感じる。ジャストシステム社の「一太郎」に対する「Word」でもマイクロソフト社は同様の対応をしたため、ジャストシステムは大幅赤字を出してしまった。

話は少し脱線するが、ここでマイクロソフトのすごい戦略について2、3触れておきたい。私がパソコンを始めた84年は、それまでのBASICというプログラミング言語で動かしていたパソコンが、MS−DOSというOSの下で動くように飛躍した年であった。この時、マイクロソフト社はMS−DOSバージョン2.1を無償で世界中に提供した。これによって、OSとして、より優れているといわれていたデジタル・リサーチ社のCP/M−86を駆逐してしまい、DOSを独占してしまった。太郎、一太郎、1−2−3の最初のバージョンは、全てこの無償のMS−DOS2.1の上で動いたのである。

しかし、MS−DOSが普及すると、3.1バージョンから有料にして、ソフトと切り離してOS単独で購入しなければ使えないようにした。そして、3.5、5.0、6.0と次々にバージョンアップしては、それを購入するように仕向けていった。

同じような戦略を、インターネットのホームページを見るためのソフトでも行った。このホームページを見るソフトをブラウザというが、ネットスケープ社のNavigatorが先行していた。これに対して、マイクロソフト社は、Internet Explorer 2.0というブラウザをWindows95に無償で添付したり、あるいはダウンロードを許すことで有料のNavigatorのシェアを確実に侵食して行き、3.0で互角近く追い上げ、4.0をWindows98に組み込むことで、Navigatorを駆逐しようとしている。


4.表計算ソフトがなぜ経営に有用なのか

表計算ソフトは、縦横碁盤目状の表の形式で、そのます目にデータを入れて計算をさせる集計表である。ます目には数値や文字だけでなく、計算式や関数を組み込ませることができる。この表計算ソフトの利点を数え上げてみると、

 1)構造が非常にシンプルで理解しやすい。
 2)日常のほとんどの計算をこの表計算で行うことができる。
   計算式や関数を使えば、数値を入力するだけで必要な計算結果が得られる。
 3)シミュレーションといって、数値を入れ替えることで、条件を変えた場合の
   結果を即座に知ることができる。
 4)ソート機能を利用すると、文字データの整理検索が容易に行える。
 5)グラフ化が簡単に行える。
 6)2000個程度のデータであれば、データベースソフトの代用ができる。
 7)構造がシンプルであるため、ソフトが変っても乗り換えが容易である。
   データーベースソフトは数えきれないほど現れ、もてはやされて、消えて
   行ったが、表計算ソフトは初代のVisicalc、SuperCalc、
   Multiplan、1−2−3、Excelなど数は知れており、古い
   ソフトでも計算に支障がなく、ソフト間の移行も容易である。

以上の理由と、これまで14年間パソコンを使ってきた経験から、パソコンの実用ソフトとしては、ワープロに次いで表計算が有用だと思っている。


5.当院の経営に使っている表計算ソフト

  現在使用している表計算ソフトの略号は以下の通りである。
   SC3:SuperCalc3(85年に作成のフォームのまま)
   123:Lotus1−2−3(86年から)
   EXL:Excel(98年から)

1)毎月定期的に利用していることがら
  1.給与計算 (毎月21日頃).................SC3
   理事と職員合わせて12名分の給与計算
  2.経年レセプトデータ(毎月7日、レセプト最終集計終了後)...123
  3.各種記帳整理 (毎月後半、会計事務所の監査のある前日)...SC3
   A.自費収入台帳集計(毎日の窓口の自費収入)
   B.未収金台帳集計(毎日の窓口での未収金)
   C.普通預金の出納帳作成(毎日の日計表と預金通帳、領収書類などから)
   D.現金の出納帳作成(主に領収書から)
  4.出勤簿(毎月月末).....................123

2)毎年定期的に利用していることがら
  1.棚卸し (毎年8月末)...................123
  2.年末調整 (毎年12月末).................SC3
  3.薬剤購入見積(毎年7月ないし8月).............EXL

3)不定期に利用していることがら
  1.経営関連データの整理分析..................EXL


6.薬剤購入見積と表計算ソフト

毎年、棚卸し前の7月ないし8月に、薬剤問屋に購入薬剤の納入価格の見積を出してもらい、その結果に基づいて各製薬メーカーに対応する薬問屋を決めてきた。昨年までは当院で使用している約450種目の薬剤を1−2−3で整理して、そのプリントアウトしたものを薬問屋6社に渡して、納入価を記入してもらった。

今年に入って、DOSで使ってきた1−2−3のファイルが、そのままExcelに移行できることを知った。また、今年からは各問屋もすべてExcelに対応できるようになった。そこで、これまでの1−2−3のファイルをExcelに読み込んで整理した上で、Excelファイルを収めたフロッピーを各薬問屋に手渡し、納入価を入力してもらい、FDで回収することに変更した。こうすることで、直接入力が格段に減り、手間が大幅に省けるようになった。世の中にパソコンが確実に普及してきたことが実感できる。

今年は4月の薬価改定以来、薬価は下がったのにもかかわらず、逆に納入価は上がる薬剤が続出し、薬剤のトラストが行われているかの様相を呈している。そこで、毎年7月ないし8月に行ってきた薬剤の見積を今年は6月に行い、正確なデータを得ることにした。

Excel薬剤見積のファイルは、メーカー、品名、薬価、納入包装、納入価の5列から構成され、納入価の列に入力していただく。ただし、品名の幾つかには、* マークが、付けてある。これは、前月の使用量(薬価換算)の上位50品目であることを示している。そして、* マークの付いた品名の納入価だけで、見積を判断すると各薬問屋にお知らせしておいた。この前月の使用量(薬価換算)は、レセプトコンピュータから簡単に得ることができる。


薬剤見積ファイル(部分図解)

この約450品目の薬剤の内で、使用量の上位50品目だけを見積の対象とする方法は数年前から採用している。これまでは上位40品目にしてきたが、今年は50品目に増やした。この原理ははABC(パレート)分析という経営分析の手法と同じである。

イタリアの経済学者V.Paretoは、ある項目の20%が全体の80%を占めると唱えた。今年5月の当院の診療から見た場合、上位50品目は全体の約10%に過ぎないが、この10%が使用量に占める割合は全体の71%である。このように、数少ない重点品目をチェックし管理するということは、時間と労力を省くというメリットより以上に、大勢の判断を誤らないという重要な効用があると思っている。

今年から始めたフロッピーによる薬剤見積は方法的には成功し、時間と労力の節約ができた。フロッピーを回収した2時間後には、各薬品メーカに対応する薬問屋を決定することができた。また、同時に各薬剤の対薬価率も即座に算出することができた。しかし、その結果はこれまでに新聞や雑誌で報告されていたもののと変わらず、非常に厳しいものであった。ほとんどの薬剤の対薬価率が90%を上回っているのである。


薬剤見積の総括ファイル(部分図解)

薬剤の購入に際しては5%の消費税が加算されるが、診療費には消費税は含めないことになっている。その上、薬剤には期限切れなどの不良在庫が出ることが必然であり、その両方を合わせると、実質薬剤差益はほとんどないという結果が得られた。それも致し方ないのかも知れない。しかし、薬価が下がると同時に納入価が一斉に以前より上がるという不自然さは、カルテルがあると考えざるを得ないのではなかろうか。もう一つの不思議は、このような公明正大な入札方法にも関わらず、問屋の帳合いがほとんど変わらなかったことである。


<1998.7.5.>

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