浅草のホテルは、楽天トラベルでホテルテナントのロイヤルホストの朝食付プランをネット予約した。朝6時過ぎに1階レストランで洋風朝食をオーダーした。7時前にチェックアウトし東武浅草駅に向う。7時30分発のけごん1号東武日光行に乗車する。2時間弱で東武日光駅に到着。駅構内の東武ツーリストセンターに定期観光バスの受付カウンターがあった。係員に予約の名前を告げると、5400円の料金と引換えにツアーワッペン、記念キーホルダー、案内パンフレット等がワンセットで渡される。昼食は別途注文とのこと。バス会社の昼食場所ホテルの定番メニューも勧められたが選択の自由を留保した。同行客らしいおばさん4人組から家内が有力情報を聞き込んできた。駅弁持参でもホテル談話室が用意されるという。駅構内の2ヶ所の駅弁販売店の豊富で地元色豊かな弁当から二種類選択した。
 10時にツアー客19名を乗せた定期観光バスが出発した。すぐに聖地日光の表玄関ともいうべき神橋(しんきょう)に着いた。中禅寺湖、華厳の滝を源流とする大谷川の激流に架かる朱塗りの橋である。バスを降り、日光開山の勝道上人の伝説にまつわる橋を渡り引返す。
 日光観光は世界遺産の二社(二荒山神社と東照宮)一寺(輪王寺)のある中心部と中禅寺湖周辺の奥日光に分れる。二つの地域を奥日光に向う第一いろは坂と中心部に向う第二いろは坂の一方通行の坂が結んでいる。ちなみにいろは坂の名称は、48ヶ所の九十九折れのカーブをいろは順にナンバー付けしたことに始まるという。大型バスはドライバーの巧みなハンドル捌きで急カーブをこなしていく。
 奥日光に着いた。今にも泣きそうな空模様が奥日光3ヶ所の観光順を決めるようだ。華厳の滝は雨が降り出すと滝壺近くの観瀑台からの鑑賞ができなくなるとのことだ。そこで最後に予定されていた華厳の滝観光が急遽最初に変更された。バスを降り大型エレベーターで90mを降下する。トンネル通路を抜けると2層の観瀑台に出る。かって見たこともないほどの迫力ある水瀑が目に飛び込む。落差97m幅7mの滝から落下する水量の規模に圧倒される。滝の中心部を正面に眺められるというロケーションも素晴らしい。地上展望台から見下ろす華厳の滝も新緑に包まれ違った趣きを愉しめた。バスガイドさんの説明で華厳の滝が中禅寺湖の水量の調節弁にもなっていることを知った。
 次の観光地は二荒山中宮祠だった。二荒山神社の中宮で男体山の山麓、中禅寺湖畔の景勝地にある。神官の神社の由緒等の説明の後、お祓いと巫女さんの舞を鑑賞し、お守り札まで貰うという定期観光バスならではの特典があった。  
 
 奥日光最後の観光は中禅寺である。日光開山の勝道上人によって創建されたといわれる。上人自ら桂の立木を手刻されたと伝わる千手観音を本尊としていることから立木観音とも呼ばれている。境内背後の山腹に建つ五大堂の風情は見ごたえがあり、ここからの中禅寺湖や男体山を望む眺望は一見の価値がある。
 中禅寺のすぐ近くのレークサイドホテルで昼食となる。ホテルレストランの予約組と弁当持参組に分かれる。弁当組の私たちは談話室に案内され用意されたお茶を使いながら弁当を開いた。日光名産のゆばをあしらった「ゆばちらし寿司」と「ささむすび」を味わう。  
 
 昼食後、第二いろは坂を下り、日光中心部の二社一寺に向う。二荒山神社と輪王寺は奈良時代に山岳信仰の社寺として創建されたもので東照宮よりはるかに長い歴史をもっている。明治初年の神仏分離令以前は、二社一寺を総称して「日光山」と呼ばれていたようだ。二社一寺の参拝ガイドは特別な案内人が必要だった。
 最初の訪問は天台宗寺院の輪王寺である。境内に足を踏み入れると折りよく大勢の僧侶が列をなして本堂に向っている光景に出くわした。本堂に安置された本尊は千手観音、阿弥陀如来、馬頭観音と三体もある。その珍しさとともに大きさにも驚かされる。
 境内すぐ横に東照宮の参道がある。いよいよ日光観光のクライマックスを迎える。最初に目に入るのは朱塗りの五重塔だ。正面の表門をくぐると馬具や装束を納めた倉庫である三神庫、神馬の厩である神厩舎などが境内を取り巻いている。
   
 神厩舎のなげしにはアノ「見ざる・言わざる・聞かざる」の三猿の彫刻があった。一段高くなった境内の石段上の正面に陽明門が見えた。私にとって今回ツアーの感動の一瞬である。日本で最も美しいといっても過言でない絢爛豪華な装飾と色彩が目を奪う。老後の楽しみのひとつはこの陽明門の木造模型を作ることだった。右手親指をなくしその夢を断たれた今、目前の実物を眺める感慨はひとしおである。奥社入口を護る「眠り猫」も見落とせない。唐門をくぐり拝殿から本殿を参拝する。最後に陽明門下の本地堂に立ち寄る。堂内に入り天井に描かれた巨大な竜の絵を眺める。説明役の僧が拍子木を打ち鳴らした時だった。聞こえる筈の鈴の音のような音が分けのわからない機械音となって鳴り響いた。観光客の手にしたぬいぐるみの猿が赤い目を点滅させながら叫んでいた。ナント鳴竜の共鳴と同じ仕掛けを持った玩具が拍子木音の度に共鳴音を発していた。結局私たちは本物の鳴竜の声を聞くことはなかった。謎の奇怪音の正体を知った周囲の観光客からのブーイングに件の猿の持ち主は逃げるように去った。
最後の観光は二荒山神社である。ここも日光開山の勝道上人によって創建されたと伝えられる(上人の活躍ぶりは目を見張るものがある)。杉の巨木に囲まれた広大な境内を持つ朱塗りの社殿が美しい。神門の左右には根を同じくする3本の杉の大木と2本の杉の大木がそれぞれ親子杉、夫婦杉と名付けられて聳えている。
 予定のコースを終えて定期観光バスが東武日光駅前に到着した。予定時間を1時間近く短縮しての到着だった。近くのJR日光駅で東北新幹線指定席の列車変更を済ませ、16時発の宇都宮行普通電車に乗り込んだ。5時44分に東京駅に着きすぐさま18時発ののぞみ新大阪行の指定券を確保した。構内売店ですき焼き肉弁当とアナゴ弁当を求めた。「お飲み物は?」との声にすかさず「ビールッ!」と答える。隣で家内が連日の飲酒を咎めるような顔を向ける。「サイズはどうしましょう?」と再び打診がある。「ロングッ!」間髪を入れず叫ぶ。ここらは気合勝負である。2時間半の新幹線車内を心地良いほろ酔い気分で過ごした。自宅に辿り着いたのは予定時間の1時間早い22時前だった。

伊豆箱根 鎌倉