降り立った釧路駅は土砂降りの雨だった。予約ホテルは徒歩10分の距離とは言えこれではどうにもならない。タクシーで乗り付けたホテル「ラピスタ釧路川」は真新しいシティーホテルだった。
 チェックインを済ませホテルで傘を借りて夕食に出掛ける。釧路は炉端焼き発祥の地であることを今回初めて知った。ガイドブックで見つけたホテル近くの「炉端焼・煉瓦」のドアを開ける。案内された四人掛けテーブルは真ん中が囲炉裏になっており真っ赤に焼けた炭火の熱風が顔をほてらせる。「新ちゃんセット2310円」「北海セット3150円」と生ビールを注文。ホッケ、カレー、帆立て貝、エビ、サイコロステーキ、とうもろこし、茄子、その他諸々の素材が次々に運ばれる。網の上にどんどんのせていく。ほどなく味噌汁付きのご飯がやってきた。一つはマグロ&イクラ、一つはイクラのみの丼だった。それぞれが新鮮で肉厚の素材の数々は圧倒的なボリュウムだ。さすがに発祥の地の料理に恥じないものだった。
 帰り着いたホテルの部屋もゆったりした快適な空間だった。最上階には天然温泉が設けられ、旅の疲れを癒すに十分な設備が整えられている。豊かな夕食のなごりと快適なベッドに包まれて二日目の眠りについた。
 三日目の朝の寝覚めを迎えた。6時前には天然温泉の朝風呂という旅先ならではの楽しみも味わった。13階の大浴場隣接のラウンジからは釧路川河口の絶景が望めた。眼下にフィッシャーマンズワーフMOOの巨大な建物が見える。贅沢な惣菜の数々を並べた和洋バイキングの朝食は質の高いホテル食の醍醐味を存分に味あわせてくれる内容だった。朝食後ホテル周辺を散策する。隣接の幣舞(ぬさまい)橋は、欄干の4箇所に著名彫刻家による「四季の像」があり、釧路の観光スポットにもなっている。
 8時過ぎにチェックアウトし現地ツアー「ノロッコ号とバスの釧路湿原めぐり」の集合地に向う。集合地はホテルと通りを隔てて向かいのショッピングビル・フィッシャーマンズワーフMOOの中にあるバスセンターだ。
 8時半の定刻に到着した小型バスに乗り込み総勢10名の乗客を乗せてツアーバスが出発した。人口19.5万人の道東最大の都市である釧路の市街地を抜けるとすぐに広大な田園風景が広がる。放牧されている乳牛の群れがいやおうなく北海道の旅を実感させてくれる。
 9時過ぎに最初の訪問地「釧路市丹頂鶴自然公園」に着いた。細長い長方形の敷地の片側に天井のないネットフェンスが続いている。間仕切りされた部屋ごとに丹頂鶴のカップルたちの睦ましそうな姿が見える。常時20羽前後がこの公園に飛来しているという。
 次の訪問地は「釧路市湿原展望台」である。茶色の円形の建物は、谷地坊主(ヤチボウズ)という湿原に群生する人の頭に似た形のカヤツリグサ科の植物の株をモチーフにしているとのこと。2階の展示室では釧路湿原にかかわる多くの資料が展示されている。屋上展望台から湿原を望むが小雨模様の空の下では広大な湿原のイメージにはほど遠い。展望台を中心に周囲2.5kmの湿原探勝歩道が設けられている。残念ながら私たちのツアーコースには組み込まれていない。
 次の目的地に向う途中で車窓から様々な動物を目にした。丹頂鶴を何ヶ所かで見かけたり、蝦夷鹿や「どさんこ牧場」の北海道産の馬もみた。車道を横切ったキタキツネが草叢からじっと見つめていた様は圧巻だった。
 「コッタロ湿原展望台」は、200段以上もの階段を登った先にあった。20代の若いガイドさんの後を私たち夫婦をはじめ年配のツアー客たちが息を切らせながらついて行く。辿り着いた展望台からの見晴らしは、これぞ湿原!というイメージどおりの光景だった。
 最後のスポット「エコミュージアムセンターあるこっと」は、塘路湖畔にあった。この施設は、塘路湖の自然や野鳥の観察ができる展望室を備えた釧路湿原の自然や利用についての情報センターだ。湿原から出土した縄文土器の展示を見てふと疑問に思った。「古来、北海道はアイヌ人しか住んでいなかった筈だが狩猟民族であるアイヌ人が縄文土器を使っていたとは考えられない。ではこの土器を造った民族は誰なのか」。センター職員に質問したが納得できる答えは得られなかった。
 すぐ近くに塘路駅がある。いよいよノロッコ号の乗車である。釧路〜塘路間を折り返す6両編成のノロッコ号が既にホームに到着していた。デジカメのシャッターを思う存分押した後、乗車した。観光用の木目内装の自由席車両は既に満席だった。最後尾の車両に陣取った。単線の復路運行なのですぐ後が機関車である。12:07定刻に発車したノロッコはまもなく釧路川と最も接近する絶好のビューポイントを迎える。ノロッコの名の通り、ポイントを通るたびに列車は極端に速度を落としてくれる。おかげでシャッターチャンスを逃さずカーブする車両と川の双方を収めることができた。ログハウス風の釧路湿原駅の情緒のある駅舎を見ながら南下する。釧路川の洪水を防ぐ岩保木水門の独特の形が珍しい。河口付近の釧路川を跨ぐ鉄橋を越えるとすぐに釧路駅に到着した。50分足らずの旅情溢れる列車の旅を終えた。
 改札を出たところでツアーバスのガイドさんが待っていてくれた。駅から乗車地点のフィッシャーマンズワーフMOOまで送ってもらう。釧路駅からの再乗車は結局私たちだけで恐縮しながら乗車した。
 MOOの2階に「港の屋台」とネーミングされた和風のフードコートがあった。14時前の遅い昼食を取る。カニチャーハンと味噌チャーシュラーメンをオーダーした。タラバガニとズワイガニの身がたっぷり混ざったカニチャーハンの美味しさに舌づつみした。MOO内でちょっとしたショッピングを済ませ釧路駅に向う。途中、勝手丼で有名な和商市場に立ち寄る。
 乗換えを含めて次の目的地の富良野着は20:33である。車内で食べる駅弁を駅で調達した。16:17釧路発札幌行きの特急スーパーおおぞら10号に乗り込む。乗換駅の新得駅では1時間以上もの待合せ時間がある。改札を出て駅周辺を散策する。旭川行の各駅停車に乗車する。新得駅の次ぎの落合駅間に「日本三大車窓」のひとつ狩勝峠があるが17:20発の列車の漆黒の車窓からは望むべくもない。  腹いせに調達した駅弁を味わうことにした。「いわしのほっかぶり寿司と焼いわしののり巻」は駅弁大会銀賞受賞の触込みだったがいまいちの味。「あっけしのかき弁」が肉厚の牡蠣に味のしゅんだご飯がよくあった逸品だった。
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