1991年秋
ペガサスクラブ・アメリカセミナー レポート

問題意識----日本型GMSの不思議----
「なぜアメリカのG.M.Sには食品部門がないのか」 初めてのアメリカ視察に当たって最初に抱いた素朴な問題意識でした。
10日間にわたるアメリカセミナーを終えた今、この疑問は「日本型G.M.S」と通称されている日本型スーパーストアは、なぜ食品部門も含めた総合店として成立し、発展してきたのか」という新たな疑問に取って代わられています。
そしてこの問題意識の転換こそ、今回の私にとっての最大の成果ではなかったかと思います。
日本における「G.M.S]を巡るこの認識と実態の違いの中に「チェーンストア」と「フォーマット」に関する決定的で本質的な問題点が含まれているように思います。
学習・体験----チェーンストアの原則----
”Return to Basics” ”Principle” これは今回のセミナーを通して、改めて噛締めさせられた言葉です。
「チェーンストアとは何か」 自分自身の生活基盤そのものであるはずのこのテーマについての再認識が求められました。
「経済民主主義を目的に、マス・マーチャンダイジング・システムづくりを手段とする経営システム」 (用語集より抜粋)
そして、チェーンストア実現の手段たる「マス・マーチャンダイジングとは何か」という点についての学習が必要でした。
「標準化された店舗を200以上に増やすことでマスの特別な経済的効果を出すこと」であり、それは「@ユニット・マーチャンダイジング Aクリエイティブ・マーチャンダイジング Bバーティカル・マーチャンダイジング Cフィジカル・ディストリビューション・マネジメント Dマス・ストアーズ・オペレーション」の五つの技術を組み合わせて展開され、これらの技術に共通の考え方は、「@単純化(simplification)、A差別化・徹底化(specialization)、B標準化(standardization)」の3S主義である。また、マス・マーチャンダイジングのための絶対条件として「@ポピュラーアイテム、Aポピュラープライス、Bベーシ
ック商品 」という点がある。
(用語集より抜粋)
アメリカ視察での課題は、こうした概念や考え方を、実際の店舗において、現実に実現されている形として追体験することでもありました。
「アルバートソン」のいくつかの店舗を視察することで「標準化された店舗」の「実際」を目にすることができました。
「Kマート」で購入したスポーツシャツやビジネスシューズの驚くほどの安さに、マス・マーチャンダイジングのもたらす効果を実感させられました。
「アルバートソン」の深夜の品だし、陳列作業の視察を通して、マス・ストアーズ・オペレーションの一端を垣間見ることができました。
発見----豊かさとフォーマット---
今回のセミナーで得られたもののひとつに、これまで今ひとつピンとこなかった「フォーマット」という言葉の理解があります。
あらためて整理してみると、今回我々は、以下の14ものフォーマットを視察したわけです。
食品・・・・・ S.S.M、S.W.S、M.W.S、グルメS.M、自然食S.M
非食品・・・ S.Dg.S、V.S、S.S、メガH.C、H.Fa.S、文具D.H、O.P.S、Dept

視察する以前なら「アメリカでは何故これほど多くの業態類型が必要なのか」という疑問があったに違いありません。
ところがフォーマットごとの店舗をいくつも視察するなかで、各フォーマットがそれぞれに自らの存在理由を主張し、顧客にもそのことを承認させている現実を思い知らされました。フォーマットの多様さは、アメリカの小売業における競争の苛烈さの裏返しでもあります。同時にそれは、小売業に携わる者たちの、顧客に対する徹底した「便利さ(Convenience)」の追求の具体的な成果でもあります。

「人は、様々なTPOS(用途)ごとに違った買物をする。文明水準が高まるにつれて、その種類が増えていく。しかしTPOSごとにそれに適した商品(のあるべき性質=機能)は違っている。そこでTPOSごとに別のフォーマットが作られねばならなくなる。」(海外セミナーテキストより要約)
「豊かさとは何か」 これも今回のセミナー期間中、絶えず考えさせられたテーマです。
「用途」「価格」「頻度」「商圏人口」をキーワードに、徹底した絞り込みのもとで成立している多様なフォーマットを理解する中で得られた、この点についての私なりの発見がありました。
それは「豊かさとは『限られた条件のもとでの選択肢の多様さ』ということではないか」ということです。
「高品質=高価=豊かさ」といった日本では常識的とも思えるこの安易な図式を、アメリカの小売業は否定しています。
「売価で品質(機能)の良し悪しが左右されるのではない」「高品質とは用途によって異なる」(海外セミナーテキストより)といった考え方は、当然といえば当然なのですが、日本の常識に浸ってきた私にとっては、極めて新鮮なものでした。
様々の生活シーンに応じて、それにふさわしい過ごし方をエンジョイするには、多くの消費者にとっては、その所得には限りがあります。忙しい日常生活を過ごしている多くの消費者にとっては、用途に沿った手ごろな価格の商品を見つけるために費やされる時間には限りがあります。
アメリカにおけるフォーマットの多様さは、そうした限られた所得や時間の制約のもとで消費者に多様な選択肢を提供しています。フォーマットの多様さこそが、消費生活水準の成熟度のバロメーターであり、本当の豊かさを約束する基盤ではないかと痛感しました。
納得----G.M.Sに食品部門がないわけ----
アメリカのG.M.Sが出店する際の一般的なケースについて、今回のセミナーを通して得られた私の理解は次の通りです。

サバーバン・エリアが形成されはじめると、比較的地価の安い段階でS.S.Mを核としたネバフッド・ショッピングセンターが次々にオープンします。エリア拡大とともに、居住人口も増え、一定規模以上の商圏が形成されるとG.M.SやDeptを核としたリージョナ

ル・ショッピングセンターが進出してきます。その時には既に地価も相当以上に上昇しているはずです。
マス・マーチャンダイジングを基本とするチェーンストアにとって、食品とそれ以外の商品のマーチャンダイジング上の違いは極めて大きいはずです。配送、在庫管理、回転率といった商品管理上の違いと、それに伴う作業システムや作業形態の違いに加えて、値入率等の数値上の違いも無視できません。
このマーチャンダイジング上の根本的な違いを無視して、食品と非食品を同一の店舗において同じオペレーションのもとで扱うことは、標準化された店舗の多店舗化をはかる上では、決定的なマイナスです。
他方で、消費者の側からすれば、食品とそれ以外の商品の購買動機や頻度は、まったく別個のものであり、わざわざG.M.Sで食品を買わずとも、もっと近くにより便利な形ですでに成立しているはずのS.S.Mを利用すればよいわけです。そのためにもG.M.SとS.S.Mが各々の存在理由を持った別個のフォーマットとして成立しています。
課題----実践(日本的現実のもとで)----
アメリカにおける「チェーンストア」と「フォーマット」についての以上のような整理を踏まえて、あらためて「日本型G.M.S」を眺めてみたとき、その「不思議さ」を思わずにはおれません。とはいえ、本来成立しえないはずの「日本型G.M.S」が、食品も含めたフルラインの商品構成をもって現に存在しているのも日本の現実です。
「何故それが成立し、発展してきたのか」という新たな疑問をあえて解明してみようというつもりはありません。何故なら、「日本型G.M.S」のこの現実の中に、日本における「チェーンストア」と「フォーマット」についての決定的で本質的な問題点が含まれていることを、自分なりに整理し理解しておくことこそ、このレポートの趣旨だからです。
典型的な「日本型G.M.S」の中型店を現に預かっている立場にある私にとって、こうした考え方の整理と理解は、一面では不安と憂鬱をもたらすものです。
反面でそれは、今後の店運営に当たってのあるべき方向性の指針を与えてくれています。今回のセミナーの成果を踏まえて、日本的現実のもとで、そして与えられた権限の枠内で、自分なりに問題提起し、実践していきたいと思います。
当面、今後の実践に向けて、以下のようなテーマについて検討してみたいと思います。
@、”Everybody,Everyday,Popular-Price(普通の人々の普段の生活の充実)”ということの店運営面での具体化
A、ベーシック・アイテムへの絞り込みということ
B、衣料におけるカラーの絞り込みとサイズの充実化ということ
C、チラシ等の販促活動での食品と非食品の区分を念頭においた在り方の検討
D、店での作業種類の洗い直しと絞り込みによる標準化
結び---「顧客のために」という理念の再確認----
私にとって初めてのアメリカ視察であった1991年秋、アメリカと並ぶ超大国・ソ連は、クーデター直後の混乱の中から「解体」の兆しすらうかがえる情勢下にありました。米ソともに多数の民族・人種がひとつの国家のもとに生活を営む「他民族・超大国」でありながら、一方は解体の危機に瀕し、他方は、今尚残された唯一の超大国としての繁栄を保持するという、まさしく明暗を分けた1991年の秋でした。
アメリカにおける豊かな消費生活の実態を目の当たりにして「『豊かさ』という裏付けこそが、アメリカという多民族国家をして、民族・人種の違いを超えて、国家という共通のアイデンティーを保持させているのではないか」という思いを強く抱きました。そしてその豊かさを支えている最大の要因の一つに、アメリカでの小売業の、とりわけチェーンストア産業の苛烈な競争のもとでのたゆみない努力があることを知って、ある種の感動を覚えたことも事実です。
今日の社会主義に対する資本主義の勝利をもたらした最大の要因は、資本主義経済体制の持つ「市場経済の原理」であったといわれています。市場経済のメカニズムとは、何よりも消費者大衆が「市場における主人公」であるということではないでしょうか。
その意味で、資本主義経済のもとでは「顧客の満足」の徹底した追及こそが、あらゆる企業に共通した課題です。今回のアメリカにおいて視察した各店舗の姿は、まさしくその理念の優れた実践の成果ともいえます。

多くのことを学んだ貴重な今回のセミナーであったことはいうまでもありませんが、私にとって何よりも大切にしたい今回の教訓は、「顧客のために」という理念の再確認であったことを付記してこのレポートの結びとしたいと思います。

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