明日香亮のつぶやき日記 2000年4月
4月20日(木) S氏への手紙
今年の正月、大学サークルの久々の同窓会があった。同窓会では、学生時代、特に親しかった先輩のひとりであるSさんと卒業以来初めて再会した。卒業と同時にSさんが、左翼政党の影響力の強い医療法人に就職したとの消息を耳にしていた。当時私は、ロマンチストだったSさんの別の一面を見たようで、意外感をもってその情報を受け止めた。
4月8日、Sさんから冊子とともに書簡が届けられた。書簡の中の「30数年前、皆で闘わせたカオスのままで今もさ迷っています」という一節が心に響く。冊子は、彼の勤務する医療法人の機関誌だった。「非営利・協同のお話」と題する彼の論文が掲載されていた。原稿用紙にして80枚近くの大作である。10日ばかりかけてようやく読み終えた。
以下は、Sさんへの読後感をしたためた書簡である。

前略
「研究所報」を頂きました。返信が遅れまして申し訳ありませんでした。
久々の休日の雨上がりの朝です。妻は外出、娘はお仕事。静かな我が家にはキーボードを叩く音だけが響いています。
Sさんの大作を、通勤時間の合間を見つけてようやく読み終えました。
学生時代の到達点をそのまま自分の人生の選択肢としたSさんの、50の半ばを超えての到達点の披瀝ともいえる論文なのでしょうか。
株式会社の経営のど真ん中の部署に身を置き、リストラの執行に手を染めている側の小生の今のポジションとの距離の遠さをおもいしらされました。
久しく考えることのなかったマルキシズムの「今日の論理」についても考えさせていただきました。ソ連の崩壊や中国はじめ社会主義国の市場経済的手法の導入といった流れの中で、正直言って私の思考の中ではマルキシズムは既に過去のものとなっていました。Sさんの論文を通して、マルキシズムが形を変えて「非営利・協同の理論」として生き延びている?との感想を持ったのですが・・・。だとすれば、それ自体の今日的な存続意義を主張する上で、一定の説得力を持っているというのが感想です。
論文全体を通して流れるSさんの思想に異議を挟んだり、Sさんの確信に疑問を持ったりするつもりは毛頭ありません。
「美しい心」を持った在日朝鮮人の老婆の、タバコに執着する様を「キタナイジャン」と戒めるSさんの心情に共感を覚えます。「お話・王女さま」を著した30年前のSさんの真骨頂が今尚健在であることに安堵しています。組織人としては一流になりきれない要素でもある筈の部分を引きずって、「30数年前のカオスのままで今もさ迷っている」Sさんに共感を覚えます。
30年前そのままに、好き勝手な戯言を吐露したかもしれません。お許し下さい。貴重な「所報」のお礼と感想まで。
草々
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