海外図書紹介 『ウディ・アレンの映画』

書籍名:The Films of Woody Allen
著者名:Douglas Brode
ISBN :0-8065-1259-8
出版社:A Citadel Press Book
価 格:$17.95
出版年:1992(初版は1985。その後、新作を追加して改訂)


<内容>
『何かいいことないか子猫ちゃん』(1965)から『結婚記念日』(1991)までのウディの監督作や出演作、合計27本を紹介したもの。この手の本はけっこうたくさんあるけど、著者のウディ映画への思い入れを長々と解説したものや、作品をもとにウディの心理を”分析”したものなどが多くてやや辟易させられる。しかしダグラス・ブロードのこの本は、映画それぞれについて章をもうけ、ストーリー、作品解説、インタビューや裏話など客観的にバランスをとって、しかもつっこんでよく書かれており、ウディ映画の解説本としてはとてもできがいい方だと思う。実際ウディ・アレンに関するあらゆる資料が集められているスティーブン・スピネッシの著書『ウディ・アレン・コンパニオン』では、この本について「ウディ・アレンの作品について書かれたなかで最良のもののひとつ」と賞賛されている。(『ウディ・アレン・コンパニオン』の105ページにはスピネッシのブロードへのインタビューが載っている。)ウディの新作を追加して何回か改訂されているため、これから(ひょっとしてもう出ているかもしれないが)新作をおりこんだ改訂版が出るかもしれない。サイズはA4版で毎ページに映画のシーンや撮影中の写真がのっていて、パラパラ見ているだけでも楽しい。Recommended.

 全288ページ。


<引用>
「1978年のアカデミー賞受賞式の翌朝、ウディは『アニーホール』が主演女優、脚本、監督そして作品で受賞したことをニューヨークタイムズの記事で知った。ウディは式に出席するためにカリフォルニアへ行く代わりに、その夜はマイケルズパブでクラリネットを吹き、そして『カール・ユングとの対話』を読みながら眠ってしまった。受賞について聞かれて『とても驚いたよ。ダイアンは受賞したがってたからよかったね。友達のマーシャル(ウディと共同脚本のマーシャル・ブリックマン)やプロデューサーのジャック・ロリンズとチャールズ・ジョフェには素晴らしい夜だったろう。でも私自身は"anhedonic"なんだ』

 実は『アニーホール』のもとのタイトルは"Anhedonia"だった。ユナイテッドアーチストの説得で公開の数週間前にウディはタイトルを変えたのだ。"Anhedonia"とは、ものごとを楽しむことのできない、急性憂鬱症とでもいうべき心理状態のことである。脚本や撮影、編集の過程で映画がユダヤ人コメディアンのアルヴィー・シンガーとそのGFのアニー・ホールとの関係に映画の重点が変わっていっても、この"Anhedonia"のテーマは、依然としてアルヴィーのキャラクターをひもとくカギとなっている。マーシャル・ブリックマンはスーザン・ブラディとのインタビューの中で、彼とウディの脚本の制作は『レキシントン通りからマディスンまで、何回も行ったり来たりしながら、ひたすら話して話して話し続けて』行われたと語っている。・・・

 初期の脚本では、ウディとマーシャルはダイアン・キートンを神経症のNY女性としていたが、それではドラマに発展性がないことに気付いた。それが彼女にはウィスコンシン州に家族がいるという設定につながった。『とにかくおたがいに質問をあびせ続けたよ。この男はどんな人間なのか、何を考えているのか。映画は深遠な問題にはそれとなく触れるぐらいだったけど、ぼくらはよく話し合ったよ。ウディが演じる人物が悲観的なのは神経症からか、それとも彼が正直だからなのか。単なる適応不良か成熟不順か、容赦なき哲学的な正直さからなのか。』」(156〜157ページ)


<入手先>
 96年1月、有楽町のイエナ書店で2,690円で購入。

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96年12月1日作成