◎はじめに



 〈THATTA〉という会員制ファンジンがある。一九八三年の五月に創刊された。B6版、一〇円コピー印刷によるお手軽ファンジンである。編集長は寺尾公博(通称てらさん)。氏の個人誌として出発し、すぐにKSFA(海外SF研究会)の落書き帳になった。最初は翻訳作品を連載したりもしていたのだが、そのうち本文である翻訳がどんどん短くなって、かわりに連載枕のあいさつだった雑談が長々場所を占めるようになり、近況報告を中心とした情報誌になってしまった。ずっとてらさんが一人で資金を出している。部数は六〇部強。おおよそ月刊ペースで発行されて一〇〇号を越えている。創刊号は八ページ。現在は三〇ページから六〇ページくらいの厚さで推移している。九五年の一二月現在で一一八号である。
 この会誌に〈みだれめも〉というタイトルで、雑文をずっと書いてきた。文章というのは書いていると歪んでくるし、書かずにいると錆びつくというやっかいきわまりないものなのだが、とりあえず、このファンジンを砥石がわりに役だてさせてもらってきた。この前勘定したら、原稿にしてなんと一〇〇〇枚以上の分量になる。うち、かなりの部分がワープロ原稿として残っている。塵も積もれば山となる、とはよく言ったものである。その場かぎりの日常茶話も多いけど、読んだ本についての寸評やら、将来本を書く時のタネの含みを持たしたものもあり、これだけあれば量で勝負ができそうである。そしてなにより、整理しきれないガラクタ箱の形状がなんとも魅力的である。本のかたちをめざした場合、消えてしまう雑然とした気配というのに未練が残る。ここは一丁、そんな気配を重んじながら総集編にまとめてみようでないかいと、さもしく考え及んでしまった。
 とはいえ、仲間内に向けた視線で書いたものである。たとえばけなし言葉が連なる本も、お友達である書いたり訳した本人や、担当編集者の目に触れることを考慮したじゃれあい気分のものが大量にある。なにせたかだか六〇部ながら、やたら業界関係者がまじっているのだ。
 だから外向けに発表するにはかなりいじくらなければればならないのだけど、あんまり整理しすぎるとよそよそしくなりすぎるきらいもある。成立事情を説明し、読み手に斟酌してもらい、言葉足らずの補足を一部する程度、一部削除をする程度にしてなるべく元のままでをこころがけた。
(たとえば、アシモフをアイザック・アシモフとちゃんとフル・ネームで書くとか、うざったくならない程度に本の出版社名をいれていくとか、リスト関係については現時点で判明しているデータを書き加えるとか、圧縮気味の文章を書き開いていくこととか。そのての追加をした程度。)
 過去に書いた文章と今の気分にちがいが出てきたものには、なるべく今の気分に合わせての書き直しやらコメントを、加えたりもしたかったのだが、書評している本の内容をほとんど忘れてしまってて、直したくても直せないのもいっぱいあってあきらめた。ところどころ書いている文章の意味が、書いた本人にもつかめなかったりする。困ったものである。
 一九八七年にシャープのワープロを買った。
 それ以降、九四年の末までの原稿である。
 八七年というのは、SFについてかなり頭が煮詰まって文章もくだくだしいものが多い。おまけにワープロを買ったばかりの気負いもある。最初の部分にいちばんとっつきにくい文章が並んでいるけど、だんだんインプット量が減ってきて、自然アウトプットも薄味になり、読みやすくなる。たまにこんなばかばっかりやってちゃいかんと反省したりもするところがあって、適度にアクセントを作ってくれているものと期待をしている。
 ついでだから、その他のファンジンに書いた原稿もいくつか放りこんでいる。
 とりまとめにあたっては、前述どおり、商業出版物である単行本では不可能なこと、容量とか構成とかでの縛りのはずれた、ガラクタ箱をひっくりかえした楽しさをめざす指針のひとつとした。
 うまくいったらご喝采。

著者注 出版社名について 早川、創元については、原則として出版社名を省略した。ただし、文庫本についても(新潮)とか(徳間)(角川)(講談社)といった表記にとどめるともりだったが、ちょっと徹底できなかった。サンケイ文庫は頭から(扶桑)で揃える。また日本の作家の新書本、有名作家の有名本についてはめんどくさくなったのとよくわからなくなったのとで途中からやめてしまった。また、とくに最後の方は時間切れで、ボロボロである。


編注 本ファイルおよび以下のファイルはすべて、筆者の水鏡子によって松文書1ファイル(803212バイト)にまとめられていたものを、大森の責任のもとに、貴重な時間と労働力を投入していいかげんにhtml化し、読者の便宜を考えて、年度ごとに分割したものである。目に余る誤字脱字は、うっかり気がついてしまったものに関してのみ修正し、最小限の統一作業を行なったが、筆者の個性と思われるもの(ヴァン・ヴォートをヴァン・ヴォクトと表記するなどの所行)はあえてそのままにしてある。縦横無尽に使われている98機種依存文字に関しては対応をほぼ放棄したことをお断わりしておく。
 書名にアンカーをつけて検索の便宜をはかることも考えたが、めんどくさいのでやめた。だらだら書かれた原稿はだらだら読むのがスジであろう(笑) 貴重な記録だったり鋭い指摘だったりするところもあるが、なにしろぜんぶで単行本二冊分の分量なので、オンラインで読破しようとすると4時間はかかってしまうと思われるので、ローカルに保存するなりしてお楽しみください。
 ……と思ったけどせめてサンプル原稿がないと途方に暮れる人が多いような気もするので(笑)水鏡子師匠本人が「これはウケた」と語っている原稿(内輪ネタ)「てらさんは名探偵」を一本だけ見本として別ファイルに収録しておく。ただしこの一本で全体が代表されるというわけではもちろんない。



●1987年
●1988年
●1989年
●1990年
●1991年
●1992年
●1993年
●1994年


top | link | board | articles | other days