●辺境の電脳たち スペシャル Ohmori×Mizutama語録


――本年1月号よりリニューアルした『TheBASIC』でしたが,残念ながらこの9月号で休刊とあいなり,「辺境の電脳たち」もいったん最終回となります.本連載を振り返るこのスペシャルでは,大森×水玉両氏に,SFのこと,コンピュータのことなど,諸々語っていただきました.


《プロフィール》
大森 望:61年生.翻訳&雑文業.仕事のジャンルは,SF,ゲーム,アニメ,映画…と多岐に渡る.『SFマガジン』『CD-ROMファン』『月刊アスキー』『アニメージュ』などで連載執筆中.最近の訳書に,リチャード・レイモン『殺戮の〈野獣館〉』(扶桑社ミステリー文庫),ルーディ・ラッカー『ハッカーと蟻』『ラッカー奇想展覧会』(ハヤカワ文庫SF),J・C・ハーツ『インターネット中毒者の告白』(共訳,草思社)など.

水玉螢之丞:59年生.イラストレータ.連載としては『ファミ通』『ログイン』『月刊アスキーDOS/V ISSUE』,読売新聞,週刊文春…などなど.独特の視点がイラスト&文字でポップに描き上げられ,熱烈なファンも多い.「そういう人が絶対フォローできない,何か業界誌とかの仕事がしてみたいんですけれどね(笑)」

■ざべざべざべざべ…

――本連載「辺境の電脳たち」は,SF作品に登場するコンピュータの紹介ということでスタートしましたけれども.
大森 SFをネタにアニメの話をするページになってしまったという(笑)
水玉 『ざべ』で連載するよって言っただけでウケが取れてしばらく楽しかったです(笑).「え? 何やるのー?」とか言われて.
大森 ねえ,やっぱりMicrosoftに喧嘩売ったりしないと申し訳ないような(笑).
――そんなこともありました(笑).


■パソコンとお仕事

――コンピュータの環境についてお伺いしましょう.
大森 ぴかちゅうのシールが…とか(笑)
水玉 『エヴァンゲリオン・鋼鉄のガールフレンド』にアスカのポスターが付いていたので,新宿で買ったのだが.買ったのですがうちのマシンではどうやら動かないらしいので….
大森 推奨環境がPentium120以上でしたっけ.
水玉 だってうち90だもの.
大森 って一応言ってるけど,まあ動きますよ.
水玉 …というのでちょっとショックを受ける程度の環境です.買った当時は世界最速とか言って,3週間くらいは威張っていたんですが(笑)
――『こんなもんいかがっすかぁ』(92年初版,アスキー出版局)という単行本に,当時アミーガとX68をお使いとありますが.
水玉 はいはい,アミーガはどっかに埋もれています.オブジェクト指向がオブジェになっちゃった,みたいな.
――Macには興味は移られなかったんですか?
水玉 Macは嫌いじゃないんだけれども,Macユーザってゆうイメージが,大変にナニにアレで.
――排他的な気配を感じて?
水玉 Macユーザになっちゃうと,Macユーザしか友達が,その先の人生,増えていかないかな,と.底知れないものを感じてですねー.
――CGにはトライされたりしないんですか?
水玉 うん,でもストレスが多いんでやめました.観るのは好きだけど.手で描く方が絶対に早いって言うのと,やっぱり,タブレット・ペンでもまだ違うんですよね.物理的に紙の表面に直接書くのと,ここで書いたものがここに表示されていくのとは生理的にぜんぜん違うんで.絵を描く作業というのは,手が楽しい部分ってのがすごくあるんだってのが,逆にマウスとかタブレットペンとか使って絵を描いてみようと思ったらよくわかっちゃって.ていうのもあるし,手で描いた方が早いんですー(笑)
――大森さんの方の環境はいかがなんでしょう.SF関連の定番,ファンジン魂溢れるホームページをお作りになってらっしゃいます.
大森 今はThinkPadの535ですね.昔からサブノート派で,軽いコンピュータがなかった頃は,文豪miniキャーリーワード使ってました.あと98note NS/Lとか,DynabookSS450とか,2キロくらいの携帯マシンを持ち歩いて,喫茶店やファミレスで原稿を書く,っていうのが長年の習慣で.仕事場を作っても仕事場にはいない,という.
水玉 それは仕事場とは言わないのでわ(笑).
大森 本置き場(笑).ノートとデスクトップの両方だとデータのやりとりがめんどくさいでしょ.今はもうサブノート一台で全部済んじゃうから.
水玉 それはサブノートと言わないのでわ(笑).

■CONFIGの昔

――水玉さんは,『EYE-COM』が,コンピュータ雑誌に描かれるきっかけになったんですよね.
水玉 そう.『Hot DOG Press』の連載をむかーしやっていたんですけれど.それをご覧になった方が『EYE-COM』で仕事をしないかって.その発想自体がいまだに不思議ですけど.なんでまた良く思いついたなあって.
 『EYE-COM』の仕事を始めたころは,ハードディスクが高価くて,高価くて.1Mバイトいくらだろう.
大森 今のメモリよりずっと高価かった.
水玉 1Mバイト何万円とか,そういう感じだったですよ.だからメモリをいかに節約しつつ,快適な環境で自分ちのマシンを使っているか,というのがユーザさまの自慢になっていて.パソコン通信とかでも自己紹介にCONFIGがだらだら書いてあって.
大森 初心者が相談すると,「ちょっときみのCONFIG.SYS見せてみたまい」とか(笑)
水玉 そういう時代に「買ってみたもののよくわかんないけどおもしろそうだと思います,マル」みたいなことを書いていたのでですね.ワケもなく反感買いましてね.(…)とにかくその頃はユーザレベルの高さと人間としての格っていうのが,自分の中で同一視されちゃってる方がすごく多くて,ずいぶん不愉快なことを言われましたよ(苦笑).
大森 ぼくも昔のざべなんて,「電脳騒乱節」しかわかんなかった.
水玉 今はやっぱり,『アンジェリーク』の壁紙のためにマシンを買うみたいな,そういうことができるから.実際に.
――すでに,コンピュータを手段として何ができるか,という時流になっている.
水玉 いや.私が今言ってるのは,単に物価が下がったという話なのかもしれませんが.
――オチはそれ…?(一同笑)
水玉 それはともかく.


■SFの中のコンピュータ?!

――連載中,フラグが立って「ざべ読者58%には理解できない(?!)」ゲーム&アニメネタが登場しました(笑)
水玉 おもに私の責任ですが(笑).どんな雑誌に書いても,その雑誌の趣旨からちょっとはずれるというのが,オレの持ちネタらしいんで.芸風っていうか.
大森 読者が分かっていることをわざわざ外国語に翻訳して注をつける.そういう連載ですね,これは.
―― 対談形式で進めていただいてましたけど,あれは大森さんによる水玉口調(笑).「辺境の電脳たち」というタイトルは水玉さんに付けていただきました.お題の選択基準で苦労されたこと,感想など伺いましょう.
大森 今考えるとぜんぜん関係なかったんだけど,『電脳都市』(85年初版,冬樹社)という,坂村健先生の本があるので,最初はそれに載ってないものでやりましょうと.
――という約束でしたね.
水玉 といったらなんか,AIが搭載されてりゃいいじゃんというところまで,あっという間に行きましたね.
――え゛,という(笑)
水玉 早かったねっ,みたいな(笑).
大森 掃除機だってマイコン入ってるぞ,みたいな.
水玉 そうそう.だいじょぶ,だいじょぶ.おんなじおんなじっ(笑)
――ロボット,多かったですね.
大森 それは水玉さんがやっぱり,人間の形をしてないと納得がいかない.
水玉 特に弱いっていうのがありますけどね.
大森 この連載は,基本的に締め切りの1週間後ぐらいに(って!!―編集部)水玉さんに電話して30分くらい喋る.そのまま使えそうな水玉さんのキメゼリフとかは,電話口で僕が入力してるんですが,後でそれを読んで,さあ原稿化しようと思うとよくわからなかったり(笑).自分の中で理屈が付けられなかったりするんですよ.水玉思想は難解なので.
――2人でひとりというか.1人で考えるより対話っていうのはおもしろいですよね.
水玉 ただ,オレが言ってることが筋が通ってないことが多いので(笑).ふだんと違う苦労があったのではないかと.
大森 いや,後半だんだん水玉さんが熱く語るモードに入ってきたから.
水玉 あれやりたいよねっていうお題に限って,入手困難本と化していたりですね.
――一応シバリとして,皆さんが気軽に手にとって読んでいただけるものということで,入手の容易な文庫からのラインナップで揃えていただきました.


■SFがやめられない

――『本の雑誌』の3月号の特集「この10年のSFはみんなクズだ!」に始まる多々の論争もありましたが,お二方はいかがでしょう.最近のSFは基本的に楽しい,と,お思いでしょうか? (笑)
水玉 あれば読むっていうものだからな,SFっていうのは.
大森 「だってみんなクズでしょ」…とかいって(笑)
水玉 やっぱりね,あれば読むんだよ.読んだけどおもしろくなかったというのはときどきはもちろんあるんですけど.そういうのが何冊続いたら読むのをやめちゃうかというのはあんまり考えたことがなくて.あれば読むっていうことだけは変わらないっていう気が,オレ的にはしてるものなんですよ,SFっていうのは.
――SFというジャンルについて…ご自分の中でこれはSFだというのと,これはSFじゃないし,これはいいやっていう区切りっていうのはどういうところで.
水玉 それはこの間『SFマガジン』の連載で書いたんですけれど,私は読んでから決めているらしい(笑).どうも言葉にならないレベルで脳が判断してるらしいんですよ.脳というか魂の問題としてですね.
大森 魂の中にあるんですよ.SF判定回路が.
水玉 結構,いわゆるベタベタ系のSF好きだしね.好きとかいうレベルと違うところにいっちゃってる気がして.治んない.強い意志を持ってすればやめられるっていうものでなくなってる気がするんですよね(笑),すでに.まだ禁煙する方が簡単じゃないかな.


■すべての始まりの一冊

――きっかけの一冊を持ってらっしゃると思うんですけれども.
水玉 そりゃあもう,王道中の王道の星新一さんの『ぼっこちゃん』ですよ.しかも四六判の.初版.
大森 『人造美人』ですか.
水玉 そう! 六浦みつおさんが表紙描いてたやつ.
大森 ソフトカバーの暗い表紙のやつですね.四六判じゃないでしょ.
水玉 こんくらいの不思議な大きさ.新書判よりちょっと横幅のある.
――じゃあ,日本のSFから入られた.
水玉 そうですよ.60年代の子どものたどる一番広い道だよね.SFに続く道の中では(笑).たぶん.
大森 僕も,最初に自分のお金で買った文庫本が新潮文庫の『ボッコちゃん』だった.
水玉 そういうもんですよね.…2人で多数決で決めるなっていう(笑) おたくの口癖は『みんな』っていうのよねっ(笑). みんなそうですよ.
大森 僕が生まれて初めて読んだSFは,母親が古本屋で買ってきた『両棲人間一号』ですね.著者はロシア人のアレクサンドル・ベリャーエフ.当時は基本でしたね(笑).『ドーウェル教授の首』とか.
水玉 岩崎書店でしたっけ? 『少年少女世界SF全集』.あれの何だっけラルフ124C41+…
大森 『27世紀の発明王』ね.ツボですよね.未来は何でもできる.
水玉 それでねー人生曲がった人がねー,60年代生まれには多いんですよね.マナベヒロシさんが絵…(※?????).
大森 真鍋さんは星新一のカバーも描いてたし.オレ的にも,あれがSFの原点かな.
水玉 星新一さんて,心のお父さんだからな.
大森 でもあらためて考えてみると,ほんとにSFだったかどうかは疑問で.今だとホラーって呼ばれちゃうよね,「ボッコちゃん」も「おーい,出てこい」も.
水玉 うん.そうかも


■本連載のお題作品について

――ざべのラインナップの8冊では一番どれが愛着がありますか? 
水玉 『アド・バード』かなぁ.
大森 …やっぱりラッカーかなぁ.
水玉 SFだよって言われて読んでみて,なるほどおもしろいや,そうかSFっておもしろいんだなあって思ってくれる人が出そうなのはラッカーですよね.
 SFっていうものを世の中の人がみんな…また「みんな」って言っちゃった(笑),みんなが読めばいいのにって思ってた時期があるでしょう,ほんの短い間でも.
大森 僕はあんまりない.人にSFを勧めるのって恥ずかしいし(笑)
水玉 オレも人に勧めたことはないですよ.
大森 いろいろ勧めてるでしょ(笑).羽交い締めにして『ワイルドカード』読ませたりとか.
水玉 読めばいいのになーっと思ったことはよくあるんですけど.個々の作品はあるんですよ.「これは君,ものすごいおもしろいから,『忍者武芸帳』ぐらいおもしろいから読みなさい」とか訳の分からない勧め方で,創元SF文庫を押しつけてみたりとかね.それはするんですけれど,それを読んだ人が,他にもっとないのってSFを読みたがってくれるようになればいいのにな…と,そこまで大それた望みは抱いていないので.自分は好きだけど,人に勧めようという気にならないってとこまでいっちゃうのは,やっぱりちょっと呪われた状態だと思うんですよね.「最近おもしろいSFない?」って人に聞く自分っていうのが,たぶんもう一生,絶対にないだろうって気がするの.
――好きなものは自分で見つけてやるっていう.
水玉 うん.だから最近おもしろい何とかない? って聞けるか聞けないかっていうのが,愛情の度合いのね,一番オレにとっては大きな物差しなんですよ.
――なるほど.
水玉 それができないのが,SFとマンガとゲームとアニメかな.映画とかはもう見なくなってるから平気で聞けるもん.だからきっと,最近おもしろいパソコンない? とか(笑)って言わない人,っていうのが,ざべの読者かな.
大森 う〜ん.なるほど.