特許明細書の作成(未完成)


  1. 特許明細書の記載事項


      特許出願を行う際には、願書、明細書、図面、要約の添付が必要であり、図面は発明の開示に必要であれば添付し、化学発明のように不要であれば省略できる。明細書には、【発明の名称】【特許請求の範囲】【発明の詳細な説明】【図面の簡単な説明】の見出しを設け、特に特許請求の範囲は発明の権利範囲を定めるうえで重要である。




  2. 特許請求の範囲について


      私がこれまで処理した特許出願は、従来技術に近い発明が多く、3割以上が審査請求なしで特許率も5割を切り、一般的に出願内容はあまり高度ではない。受件の際には、従来技術に近い発明でも特許化を期待される場合、均等論などに期待することなく、もっぱら特許請求の範囲の作成に活路を見いだそうとしている。これは単なるテクニックであり、特許請求の範囲を概ね下記のような自己流の基準に沿って作成している。このようなテクニックは、発明が比較的高度であって、直近の従来技術が明確であれば使用することはない。


    1. 請求項の数
        比較的単純な発明である場合、原則として5項前後の多数項にし、基本的に独立項を多用する。但し、コストアップを避けるために10項を越えることは殆どしない。公開公報を読むとかなり多数の請求項があっても、請求項2以降がすべて請求項1だけに従属する場合が多く、これでは多項制を利用しても実際の権利範囲は殆ど拡がらないと判断している。


    2. 各請求項における主従関係
        例えば、請求項A+B+CとA+B+C+Dを作成する場合、単純ならば従属関係になっても共に独立項とする。そして後者におけるA+B+Cを前者と同一にせず、一部機能的表現にしたり限定事項を適宜増減させる。この場合には、真似をしようとする時に、相手側は多少とも不安感が生じ、真似を止めることを期待している。


    3. 請求範囲の広さ
        殆どの特許出願について、拒絶理由通知なしで特許になることを期待せず、最初の拒絶理由の引用例に応じて請求の範囲を調整する。このため、請求の範囲はいずれかの項目において従来技術とほぼ同一またはそれよりも多少広くする。


        従来技術を調査していない依頼では、安全率を見込んである程度広い請求の範囲を作成するしかない。このような出願でも、意見書の段階で当該発明の比較対象が限られてしまうと対応が比較的容易であり、請求の範囲を微妙に整形しやすい。


    4. 出願後における請求項の拡張
        拒絶理由通知を受けて補正書を作成する際に、引用例のために一部の項目を限定すれば、引用例と関係ない他の項目を請求項から除くことは時々行っている。勿論、ストレートで特許になってもかまわない。引用例に近い請求項でも特許になってしまうと、現在のように特許法第29条第2項を殆ど顧慮しない審判では無効になることは少ない。


    5. 最も広い請求項の位置
        特許法第36条や第37条では請求の範囲の記載について規定しているが、請求項1を最も広い範囲とせよとの規定はないから、実質的に最も広い請求範囲に2項目以降に持ってくる。可能であれば、請求の範囲をボックス形式などで構成する。請求の範囲が広いか狭いかは、並列的な請求の範囲が列挙されていると判断者の立場によって変わることもあり、個々に明確に判断することは実際上難しい。最も広い請求範囲に2項目以降に持ってくる際には、少なくとも行数などの形式について各請求項をほぼ同じ態様をすることを要する。


    6. ボックス形式の請求項の配置
        前記のボックス形式とは、簡単に言うと、要件がA+B+Cであれば、請求の範囲がA+B、B+C、C+Aの3形式で作成し、ここでのA、B、Cは相互に適当に変更し、項目に応じて一部機能的表現にしたり限定事項を適宜減らしておく。但し、各請求項をボックス形式などで配置することは作成に時間をとられるうえに、請求項を限定した際に同じ内容の請求項が並立してしまうことがある。


    7. 主たる請求項が請求項2以下である利点
        ここ数年の審査傾向を見ると、一時期細かく請求項ごとに合否判断をしていたのに、最近では再び下位の独立項や従属項を考慮せずにひと纏めで拒絶理由通知を出す事例も増えている。この状況を推定すると、審査官はおそらく請求項1だけで当該発明の内容を概略的に把握し、後位の請求項を読んでいないか読み飛ばすかしているにちがいない。このため、最初の請求項1に細かい限定事項が存在するならば、仮に請求項2以降に広い請求項が存在しても審査の際に顧慮されず、そのまま特許になる場合がある。雑な審査については数回受けた経験がある。


        第三者が他人の特許の有無を特許調査する際にも、このような措置により、調査洩れというエラーを誘発する蓋然性が高くなる。出願人の本心を言えば、従来技術に近い発明であるのでできれば公開をしたくなく、公開しても他人の目に着きやすくしたくないから、その意向に添って明細書を作成したとも解釈できる。




  3. 発明の詳細な説明について


      発明の詳細な説明は、【発明の属する技術分野】【従来の技術】【発明が解決しようとする課題】【課題を解決するための手段】【発明の実施の形態】【実施例】【発明の効果】の見出しで構成するが、各見だし毎に厳密な記載内容の規定があるわけではなく、一部を省略や変更しても問題はない。重要であるのは【発明の実施の形態】(または【実施例】)であり、出願後には補正で内容を追加することができないので十分且つ詳細に発明を開示しておくことが必要である。各見出しの記載例として、


    1. 発明の属する技術分野
        当該発明が属する技術分野について2〜3行程度で記載し、時には構造や利点を加える。この個所は完全にパターン化している。
    2. 従来の技術
        当該発明の関連技術について、直近の技術を開示すればよく、自社内だけの実験で新規性を有するものは開示しない。気分によって大昔の話から書き出すこともある。真のパイオニア発明ならば従来技術は存在しない。
    3. 発明が解決しようとする課題
        前記の従来技術が内包する欠点を具体的に説明する。この欠点は当該発明で解決されることになる。
    4. 課題を解決するための手段<BR>   特に意味はないが、この個所には特許請求の範囲を再掲載することが多い。当該発明で用いる語句をここで定義付けることもある。この定義付けでは、通常の語義よりも広くなってもよく、広くすると後日有利なこともある。
    5. 発明の実施の形態
        必須の見出しであり、当該発明を十分且つ詳細に開示しておく。発明に直接関連しない事項であっても書いておいて損なことはない。例えば、拒絶理由通知を受け取った際に、発明者に引例との差異を質問すると、当初は発明に直接関連していない事項であっても、実は重要な事項であることがしばしば発生している。
    6. 実施例
        いずれの発明についても、通常、実施例は多い方が好ましい。明細書作成時に別の実施例を考え出すことができれば、出願人の了解があれば加えている。
    7. 発明の効果
        有用な発明である限り作用効果を有するから、それを説明すればよい。文章の長短には殆ど関係ない。




  4. 図面について


      図面は、発明の内容を容易に把握できるように描き、一般に、拡大した要部図面と全体図面とを組み合わせると判りやすくなる。図面には、適宜、断面図や斜視図を加えると好ましい。




  5. 願書の国際分類について


      願書は特許法施行規則に規定する通りに作成する。記載事項の国際分類は、特許用語による特許分類索引(特許庁編)から適当に取り出せばよい。




  6. 要約について


      要約は特許の権利範囲に関係ないから、【課題】は発明の詳細な説明の【発明の属する技術分野】から、【解決手段】は特許請求の範囲の請求項1から取り出し、若干文の整形をするだけである。【選択図】は図1であることが多い。





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