- 特許出願をして出願審査請求すると
特許出願して審査請求すると、そのまま特許査定になる場合と、特許庁から拒絶理由通知が送付される場合とがある。拒絶理由通知は、最初と最後との2種類があるらしいが、最後の拒絶理由通知を受けたことは殆ど無く、とにかく審査官が意見書で発明の進歩性を認めなければ直ちに拒絶査定になることを覚悟しなければならない。
- 拒絶理由通知に対して
特許庁から拒絶理由通知が送付されたら、意見書で拒絶理由が存在しないことを具体的且つ論理的に説明する。審査官がちゃんと審査していれば、意見書だけで特許査定になることはないはずであり、意見書と同時に補正書を提出するのが原則である。意見書を作成する際に、意見書の内容形式のパターン化は容易であり、数をこなすにはパターン化は必要であるにしても、重要な場合には定型的なパターンを作らず、ケース・バイ・ケースで処理することが必要であろう。
意見書作成時の注意点
- 大体において、意見書の提出と同時に補正書で特許請求の範囲を限定する。この限定は、審査官の真の意図を推定して拒絶理由に相当する部分だけに絞りたい。拒絶理由に対して意見書だけで反論することは、当該審査官の審査自体を軽視することになるため、形式的にも特許請求の範囲を限定したような補正を加える。
- 可能ならば、最初の拒絶理由通知の場合には、たとえ請求の範囲を部分的に限定しても、他の個所で拡張になるように画策する。限りなく小に近い中小企業の顧客は、一回特許出願をしてしまえば、実際の仕様をかなり変更してもその変更部分に関する出願を続けることが少ないため、最初の拒絶理由通知を受けることは、特許出願の内容を実際の仕様と一致させる千載一遇の機会でもある。
- 時には、意見書を作成する際に禁反言の法則に引っ掛からないように文言に注意する。実際には、このような注意をする余裕がないほど特許査定になりにくい出願が多い。本当に重要な出願ならば、拒絶査定の覚悟のうえで意見書だけを提出し、拒絶査定になれば不服審判で勝負すればよい。今でも不服審判では審査段階よりも特許査定の確率が高く、進歩性を有する点にかなり疑問点があっても特許査定になることが多い。
最近の審査傾向
長年の意見書作成の結果として、認識できる最近の審査傾向は一般的な傾向と同様に大体下記の通りである。
- 拒絶理由通知への対応が以前よりも容易になってきた。
外国特許公報が引用例として用いられることが少なく、日本特許公報でも引用される技術範囲が狭くなっている。また、請求の範囲が多項目であると、現在では請求項ごとに拒絶理由が通知されるので対応措置が容易である。
但し、この場合でも該当請求項の削除だけでなく、一応全クレームを検討するように努めている。
- 審査が一般的に甘く、雑な審査もかなり増えている。
特許出願の代理人である場合には、特許査定を受けると成功謝金を請求でき、この点だけでは歓迎できる。この反面、弁理士として特許侵害の有無を相談されると雑な審査は非常に困る。
例えば、公開公報の分類が全く同じであり内容的にもほぼ同一の発明であるのに、顧客所有の先願の特許が後願の発明の引用例にさえなっておらず、実質的にダブルパテントになっていた。他の例として、一件書類を取り寄せると、請求の範囲では「締付部材」になっているのに、意見書では「バネ」による作用効果の違いを強調している。「締付部材」は「バネ」に対して明らかに上位概念であり、バネ以外にナットで締め付ける方法(引用例)も存在するのに請求の範囲の限定を求めず、そのまま特許査定しているので権利範囲が非常に広くなっている。
- 未だに常識外の拒絶理由通知が発送されることがある。
最近、1回目の拒絶理由通知で引用例が7件、2回目の拒絶理由通知で引用例が11件(一部1回目と重複)のうえに記載不備まで加わっていた。量的な点はいざ知らず、請求の範囲を限定しただけで何故新たに記載不備が加わったのか理解できない。また、昭和63年の特許出願に対して、一義的に導き出せないとの理由で削除することを電話で要求されたこともある。
最近の審査傾向から判断すると、規制緩和の時代になって弁理士も弁護士も厳しい生存競争に巻き込まれるのに比べて、特許庁の審査官には厳しい競争の原理が働いておらず、官の世界は未だに甘いようである。
- 商標登録出願に対する拒絶理由通知に対し
商標出願では、拒絶理由通知が送達された際に指定商品を限定して登録になるのは当たり前であり、これで登録になっても意見書で通ったとは言わない。出願商標について、指定商品が同一でも引例商標と称呼が異なるならば、次のような理由を適宜組み合わせて引例商標と非類似であるとの意見書を提出すればよい。
- 出願商標が、一般需要者において特殊な意味を暗示することを立証する。例えば、英文字の商標ならばその意味するところを英和辞書などの該当個所を添付して説明し、日本語でも方言で特定の意味があるならばそれを説明する。単語だけでは特別の意味が無くても、2以上の単語の組み合わせたり、文字と図形の組み合わせで特定の意味が生じることもある。
- 出願商標の指定商品から、その需要者が研究者などの特殊層であることを述べ、通常の需要者よりも商標に対する注意力が優れていることを強調する。両商標の差異が通常の需要者では判明できなくても、需要層が特殊であるから識別能力が高く、類否の識別が可能であると説明する。
- 出願商標の指定商品から、その使用態様が特殊であることを述べ、通常の使用態様の場合では類否の識別できなくても、当該商標の使用態様が特殊であるから識別可能であると説明する。また、使用態様が特殊であるから、商標の要部が商標の一部に存在することを
- 拒絶理由が特別顕著性がないとの第3条第1項であるならば、第3条第2項の規定に該当するように使用証明に相当する書類を提出する。また、当該指定商品が属する業界では、需要者層が特殊であるから当該商標の判別能力があるとの反論もできる。
- 意匠登録出願に対する拒絶理由通知に対し
意匠出願については、一旦拒絶理由通知が送達されたら、意見書で登録にすることは不可能であることが多い。私の場合には、改正後の意匠法で創作性がどの程度強化されたか知らないが、数少ない昔の意匠出願について、拒絶理由通知に対して意見書を提出した際に半分程登録になっている。登録になった時の様式は全くのワンパターンであり、概略下記のような態様であって、これは類似判断の基準を自分の都合の良いように言い換えているにすぎない。
下記の様式においても、当該意匠の特徴ははっきりと強調しておく。審査の際の効果の点は不明であるが、当該意匠を付した物品の販売が好調であること、当該意匠出願の後に類似商品が続々出現してきていることなどを述べ、証拠となる書類や写真を貼付してもよい。意見書で登録になることは、審査官の心理が登録か拒絶か微妙であって一応拒絶理由を通知した場合に起こりうると判断している。
引用例との差異がかなり存在するならば、下記のABCの個所に具体的な物品名を入れ、個々の意匠について若干表現を変えると完成する。この形式だけで処理すると1件当たり1時間程度で終了する。
- 意匠法第3条第1項第3号では、公知意匠または刊行物記載の意匠に類似する意匠を除き、意匠登録を受けることができると規定している。この場合において、「意匠」とは意匠法第2条第1項に規定するよう物品の形状、模様若しくは色彩またはこれらの結合である。
本願意匠および引例意匠は、物品はともに「ABC」に関するけれども、本願意匠は模様と形状の意匠であるのに対し、引例意匠は形状だけの意匠である。それ故に、ABC正面の模様の有無に関して、本願意匠は、絶対に引例意匠と同一または類似でありえないものである。
本願意匠には、ABC正面において…模様を有し、さらにその上方中間において…状の字体模様を有する。この字体は、英語しての普通の配列であるけれども、字体がくずれて図案化が相当に進み、且つアルファベットの…などは単なる音標にすぎず、それらは漢字に比べて意味や観念を表わす弊害が少ないことにより、模様を構成するに至っていると解釈すべきである(この解釈は既に判決においても支持されている)。
- 次に、本願意匠および引例意匠を意匠の類似判断の基準の主たる点によって比較すれば、下記の通りである。
(1) 意匠の類似判断は、一般の需要者を基準にして混同するか否かを判断する。
本願意匠におけるABC正面の模様を見れば、一般需要者が本願意匠と引例意匠を混同するはずがない。つまり不正競争の防止という面から見て、本願意匠を引例意匠らしく見せかけて需要者に購入させることは全く不可能である。
(2) 斬新なものほど混同の範囲すなわち類似の幅が広い。
本願意匠および引例意匠は、確かにABCの形状の点で類似するけれども、多少歪んだ形状のABCは従来から多数存在するから、ABCの形状自体はそれほど斬新なものでなく、その類似の幅はきわめて狭いと判断すべきである。したがって、本願意匠のABCの一部が、引例意匠のそれよりも長くて平坦である点からでも、両意匠が非類似である可能性は高い。
(3) 肉眼をもってする間接対比観察であり、外観類似に主体をおき、全体観察による総合判断である。
本願意匠と引例意匠とを、外観を主体にして間接対比観察しさらに全体観察すれば、本願意匠におけるABC正面の模様によって、本願意匠が引例意匠と類似しないことがいっそう明らかになる。
(4) 物品の見やすい部分の意匠の相違は大きなウエイトを持っている。
物品「ABC」において、一般にABC内面や背面は見にくく、最も見えやすい部分は明らかにABC正面であるから、その正面における模様の有無は大きなウエイトを持ち、それだけで非類似である可能性が高くなる。
(5) ありふれた部分は小さく評価され、特徴のある部分は大きく評価される。
本願意匠および引例意匠において、ABCの形状自体は多少歪んだ形状でもありふれているから小さく評価すべきである。本願意匠における特徴のある部分はABC正面の模様であり、これを大きく評価するのが当然である。
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