私たちは、7月26日の午後、ブアノイの再定住地を訪ねた。
ブアノイの再定住地は、山の上、奥まったところにあった。
そこには1世帯あたり78平方メートルの土地が用意され、40世帯分の居住地が用意された。
しかし、現実に立っているのは、5、6軒の家屋のみだ。
朽ちかけた空き家もあった。
ある家で、2年前に移住したという70歳の女性と36歳の娘が質問に答えてくれた。
娘の夫は、小作人として、4分の1ヘクタールの土地にトウモロコシを耕作していた。
そこが買収されたので、いまは、 K&A METALの土木関係の仕事についているという。
パートタイムの労働者なため、毎月の収入は3000ペソほど(1ペソ=約4円。月3000ペソでは家族持ちが生活するにはやや不足の金額)。
迷惑料などで1万ペソの補償金をもらったが、いまだに土地の権利証がもらえないのが不安だと語っていた。
私たちは、ブアノイの再定住地に続いて、アルピリの再定住地を訪ねた。
アルピリの再定住地は、ブアノイの再定住地に比べると便利な平野部に位置していた。42世帯が移ったアルピリの再定住地は、ブアノイの再定住地よりも人も多く、生活のにおいがした。
そこで、話を聞けた60歳と38歳になるという夫婦は、「買収された土地でまだ小作を続けているが、工場が拡張するとそれができなくなり、生計の道が無くなってしまう」と語った。
また、ある中年女性は、「家だけ提供されたが、補償金はもらっていない。トライシクル(サイドカー付バイク)の運転手をしている夫の稼ぎは、1日100ペソ程度で生活は苦しい」と話していた。
今年64歳になる農民のロベルト・インテックさんは、FBMマリンの工場のすぐ脇に住んでいる(アルピリ村)。だがそこは、工業団地建設予定地のため立退き問題に直面した。
私たちは、7月27日、同氏の自宅を訪問し、話を聞いた。
「すでに多くの農民が開発の影響を受けて、生計の手段を失った。これ以上、工業団地の拡大はしないでほしい」とインテックさんは語る。
近隣の立退き対象37世帯のうち、すでに10世帯が、前述したアルピリの再定住地に移転したという。
インテックさんのところは、地主がアボイテスへの売却を拒んでいることから、まだ耕作を続けていられる。しかし、農地は、すでに買収されたところともつながっており、孤立していく場合には耕作を続けることも困難となりかねない。
「アルピリの農民の叫び」のリーダーでもあるが、もの静かな同人の顔には不安もよぎっていた。
ブアノイの住民たちも口々に将来の生計への不安を語っていた。
ブアノイは、アルピリに比べ対応が遅れたこともあり、再定住地などの整備も遅れ、農民たちの不満も強い。ブアノイ村の位置は、ちょうどK&A METALや常石造船セブ造船所の裏手にあたる。まだ、農地として残っている土地も多いが、工場が拡張されれば農地が失われることが予定されている。
「自分たちは、ずっと農民でやって来た。工場ができても働く場はない。どうやって生計をたてればいいのか」と高齢の農民たちが口々に語った。
私たち調査団がみたところでは、アボイテスまたはCIPDIが買い占めた土地のうち、現実に工場敷地として使用されているのは、まだ一部に過ぎない。
いままでみたように、アルピリ村地域でも、ブアノイ村地域でも、いまだに耕作は続けられている。
すでに耕作されていない土地でも灌漑用水に結びついており、農地として再利用可能な土地は多く見られた。
工場は、技術を用いるというその性格上、技術をもたない農民たちを多く雇用することは困難である(これは常石に限ったことでなく、世界中どこでも共通していることだが)。現に、常石側は、雇用条件を若年かつ高卒以上としており、高齢の学歴もない農民たちにはハードルが高い。工業団地全体の従業員1000人のうち、地元からの採用は100人ほどといわれている。
農民たちの生計手段は、農民として生きていく道を確保することであり、今必要なことは、工場開発を最小限に絞り、農民たちに農地を戻し、その耕作を認めることではなかろうか。
それが後述するような、土地利用計画や農地改革法などとの整合性を確保する方法でもあると思われる。