7 漁民たちが植えたマングローブ林の未来は

  バランバンの市場から、さらに2キロメートル以上北に上がったところに、小さな漁村がある。プロという名の集落である。

  ここでは、過去台風の都度に高潮によって、海岸が流され、大変な被害を受けてきた経験から、海岸にマングローブを植え、海岸の保全をはかるとともに、稚魚の生育域をつくり、漁業にも役立てようとしている。

  ここも工業開発とともに進行するバランバンの総合開発の流れの中で、開発計画が進行中だということで、7月27日の朝、現地を訪ねた。

  ちょうど引き潮の時間帯で、沖合にまで、干潟が広がっていた。みると、干潟には無数の小さな「モノ」がうごめいていた。カニ、ヤドカリ、貝などが多数干潟の上で動いていたのだ。

  干潟は、無数の生物が生息する場所で、自然の浄水場だとも聞く。しかし、これだけ多数の生物の姿を目にするのははじめてだった。干潟をうめるように、おびただしい数の生物がうごめいている。そして、それが周囲のマングローブ林へとつながっている。

  干潟が生物の貴重な生息の場であり、マングローブ林がその基盤をつくっていることを痛感する風景だった。そこでは、漁民たちは潮干狩りをしたり、沖合で、マングローブの植林を続けたりしていた。

  住民たちは、このマングローブ林の植栽が、豊かな生態系を生み、また、海岸線を守り、自分たちの暮らしを守り、支えていくことを知っている。そのために自分たちで、植林をし、守り育てようとしているのだ。この植林プロジェクトは、フィリピン天然資源環境省がはじめたが、立派に住民たちの間に根付いていた。

  小さいながらも、ひとつの「持続可能な開発」のモデルがみられたように感じた。

  しかし、ここも、バランバンの総合開発が進行する中で、バランバン市によって「商業用地」に指定されたという。しかもそれは、日本の国際協力事業団(JICA)が作成したセブ総合開発のマスタープランに記されているという。何よりも尊重されるべきは、地域社会の意向であり、自然環境条件であるはずである。「持続可能な開発」をすすめようとする住民の意向と今までの努力が無視されるのには違和感を禁じえない。

  私たちが干潟を歩いていると、子どもたちが大勢集まってきた。子ども達は、決して豊かには見えなかったが、光り輝いているように感じた。彼らの目を曇らせるようにしない責任がかかわったものにはあるのではなかろうか。

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