日本弁護士連合会 意見書「環境影響評価法の制定に向けて」

目次

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意見とその理由

第1 環境影響評価制度の目的

(意見)目的

  この法律は、環境に影響を及ぼす諸活動について、住民参加、情報公開および代替案の提示を含む環境影響評価手続きを定めることにより環境保全対策を積極的に推進し、もって、良好な環境の保全と回復を図るとともに、現在および将来の人類の健康で文化的な生活を確保し、その福祉の向上を増進することを目的とする。

(理由)

1  環境保全の目的は、良好な環境の保全と回復を図るとともに、現在および将来の人類の健康で文化的な生活を確保し、その福祉の向上を増進することにある。

  環境影響評価制度は、この環境保全の目的を達成するための施策の一環として制度化され、運用されるものでなければならない。

  環境影響評価制度によって評価されるべき事項は、狭く限定せず、次の第2の「良好な環境」の定義、第10の「評価の項目」にあるように広く解すべきである。

2 これまでの環境影響評価については、環境に影響を及ぼす活動について、その影響を調査、予測、評価したうえで、その結果を当該活動にかかる許認可などの行政判断の適正化を図るための資料として提供する手続きであるとの考え方と、以上に加えて、環境影響評価は、良好な環境の保全を目的とし、環境影響評価の結果によっては当該活動の中止、変更ができるという拘束力をも定める手続きであるとの考え方があった。

  本意見は、このうち後者の考え方に立っている。

3 環境影響評価法の目的の中に住民参加、情報公開、対象となる活動に関する代替案の提示を盛り込むべきとしたのは以下の理由による。

  住民参加、情報公開の実現は、環境影響評価の実効性を確保するために欠かすことのできない重要な要素である。

  何びとも、良好な環境を享受する権利(環境権・自然享有権)、知る権利が憲法上保障されている。また、環境に影響を及ぼすおそれのある活動によって、環境権やその他の利益を侵害されるおそれのある者は、その権利・利益が侵害されようとする場合には、問題となる行為などに関する情報を入手し、参加して自らの権益を主張し、かつ防御しうる適正手続が保障されなければならない。

  また、地域住民は、地域の環境や特性についての情報を有しており、環境影響評価に不可欠の地域の情報を提供することが可能な立場にある。環境保護団体や専門家は、行為者等がもたない、あるいは不正確な情報について、これを補いまたは訂正することができる有益な情報や経験、知識、技術などを有している。

  そのうえ、環境影響評価手続は、評価実施計画書作成手続、調査、準備書作成、評価書作成、審査などの手続の客観性・公正を確保し、その内容についても情報の正確性、評価の科学性、合理性を担保するものでなければならない。このような環境影響評価制度の基本的な要請を充たすためには、情報の公開、手続の公開、住民などの意見の反映のもとに、外部からの監視、是正の機会を認めた公正な判断形成手続が確保されなければならない。

4  環境影響評価において、環境に影響を及ぼすおそれのある活動とこれに係る代替案の提示・検討は、当該活動にともなう環境影響を比較検討することを可能にし、かつ選択の範囲を明確に示す。代替案の提案は、これによってより環境影響に配慮した選択をすることを可能とするもので、制度の核心的要素である。

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第2  用語の定義

(意見) 定義

1 この法律において「良好な環境」とは、次の各項に掲げる条件が自国のみならず、広く地球全体において充足されることをいう。

  a  現在および将来の人間が健康で文化的な生活を営むために必要で、かつ、十分な自然的、社会的、文化的環境がそれぞれ保全、整備されていること。

  b  生活環境が保全、整備されていること。

  c  生物の遺伝子、種および自然の生態系をふくむ生物の多様性が確保され、森林、農地、水辺などにおける多様な自然環境が体系的に保全されていること。

  d  歴史的、文化的遺産が保存され、景観が保全されていること。

  e  鉱物資源の永続性ある利用が確保されていること

  f  地球環境保全がなされていること。

2 この法律において、「行為者等」とは、環境に影響を及ぼす行為を立案、企画、計画または実施しようとする者をいう。

(理由)

1 この法律の解釈、適用において、特に明確にしておくべき用語を定義した。

2 「良好な環境」は、この制度の保全の目的とされるものであるが、それは必ずしも狭く自然的環境に限定すべきではなく、人の生活の基盤となる社会的文化的環境も含めるものとした。その意味で、環境基本法の定める範囲よりも広く解釈することとなる。

3 「生活環境」の意味は、環境基本法第2条第3項の定義による。

4 「地球環境保全」の意味は、環境基本法第2条第2項の定義による。

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第3  環境影響評価の基本原則

(意見)環境影響評価の基本原則

1 環境影響評価は、次の原則に則って実施されなければならない。

  a 人類の諸活動は、環境の許容する限度内で行われること。

  b 何びとにも等しく良好な環境を享受する権利が保障されること。

  c 住民参加と情報公開が十分に保障されること。

2 環境影響評価は、環境上最善の決定を得るという観点から、環境に影響を及ぼす行為について環境影響を回避し、または最小化することを目標として、実施されなければならない。

(理由)

1 わが国の環境保全政策の理念およびこの理念に基づいた環境保全施策については、環境基本法などに定められているところであるが、環境基本法は個々の具体的な環境に影響を及ぼす活動について、行為実施に関する具体的な環境保全の目標を明示してはいない。また具体的な政策目標あるいは指針を有しない環境影響評価制度は実効性に欠ける。このため、環境影響評価実施における原則を示した。

2 人間の諸活動は、大なり小なり環境に影響を及ぼすものである。そこで、環境影響評価は、環境に影響を及ぼすおそれのある行為について、事前に環境影響を予測、評価し、その結果を当該行為に反映させることにより、良好な環境の保全と回復に配慮した意思決定しようとする制度である。

  従って、環境影響評価では、影響を受ける環境項目、影響の質、程度など環境の変化と、その環境の変化に起因する地域、住民への影響(動植物の減少という環境の変化が、住民にどのような影響をあたえるかなど)を明確に示すことが重要である。

  ところが、従来の環境影響評価では、上記の環境保全をめざした環境影響に関する情報はとぼしく、むしろ環境影響はない、あるいは軽微であるとしたうえで、当該行為の実施によるバラ色の効果、効用が強調され、行為の実施を正当化するために利用されがちであった。

  また、環境影響評価を実施したからといって、当該行為の環境影響が当然に回避または最小化されるわけではない。行為者等は環境影響評価を実施した後の行為実施ないし施設の運用にともなう環境影響対策をとらなければならない。

  従って、環境影響評価実施の指針は、当該行為の採用、実施を正当化することにおかれてはならない。環境影響評価の目標は、あくまで環境保全のために最善の決定を得るという観点から、環境影響が避けられない対象行為について環境影響を回避し、または最小化することにおかれなければならない。

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第4  国と地方公共団体の関係

(意見)国と地方公共団体との関係

1 この法律を制定するにあたっては、地方の独立性を尊重しつつ、全国で充実した環境影響評価制度を実施する観点より、国と地方公共団体の権限について調整規定を定める。

2 二以上の都道府県に及ぶ広域的な行為については国の、その他の行為については地方公共団体の、それぞれ所管とする。

3 地方公共団体の所管となる行為についても、この法の定めるところによるが、条例による「上乗せ」「横出し」を認める規定を置く。

(理由)

1 現在、条例や要綱に基づく地方の環境影響評価制度が実施されているので、環境影響評価法が制定されると、同法に基づく国の環境影響評価と従来の条例などに基づく地方公共団体の環境影響評価との関係が問題となる。

2 憲法に定める地方自治の本旨からみて、また、現在実施されている地方の環境影響評価制度を後退させないためにも、法は基本的な事項を定めるのみとし、地方公共団体の環境政策の独自性を確保するために、「上乗せ」「横出し」を認める規定を環境影響評価法に盛り込むという方法をとるのが適切と思われる。

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第5  環境影響評価の対象

(意見)対象

1(国、地方公共団体の計画などについて)

  国、地方公共団体は、環境に影響を与える法令の提案、政策および計画の立案などの行為について、本法の規定に基づき環境影響評価を行わなければならない。

  ただし、当該行為が環境に与える影響が軽微な場合で環境影響審査会の環境影響評価免除決定を受けた場合はこれを省略することができる。

2(事業)

  行為者等は、環境に影響を与える行為のうち政令によって定められたもの(1項の場合を除く)(ただし、この対象行為は、大規模なものだけでなく、小規模でも有害な物質を取り扱う施設など環境への影響が大きいおそれがあると認められるものを網羅しなければならない)について、本法の規定に基づき環境影響評価を行わなければならない。

  この場合1項の但書を適用する。

3(環境影響評価実施命令)

  何びとも、環境影響審査会に対し、前項に定める行為以外の行為(第1項の行為を除く)について、環境影響評価実施命令を発するよう申立てることができる。

  この場合、環境影響審査会が、当該行為の環境への影響が大きいと認められるときは、行為者等に対し、環境影響評価実施命令を発しなければならない。

  環境影響評価実施命令は公表され、これに対しては、行為者等は異議を申し立てることができる。 

(環境影響評価免除決定の手続)

4 国、地方公共団体が1項の但書による、行為者等が2項の但書による各環境影響評価免除の申請をする場合には、当該行為の環境影響に関する調査報告書(以下、調査報告書という)を作成し、それを環境影響審査会に届け出しなければならない。

  環境影響審査会は、環境影響評価免除の申請があった場合には、その旨を関係地方公共団体を含む多くの人々に告知するとともに、調査報告書を相当期間縦覧に供しなければならない。

5 4項の場合、何びともその意見を陳述するための公聴会の開催を環境影響審査会に請求することができる。公聴会において意見が述べられた場合、行為者等はその意見に対する判断を明らかにし、これを公表しなければならない。

6 環境影響評価免除決定は、公表する。

7 1項および2項による環境影響評価免除決定に対しては、何びとも、異議を申し立てることができる。

(理由)

1 環境影響評価の対象行為の拡大の必要性 

  どのような行為であれ、環境に影響を及ぼす行為については、その実施に際して環境配慮を加えることが不可欠である。

  この項では、環境に影響を及ぼすおそれのあるすべての行為について、環境影響評価の対象行為となしうるものとし対象行為を次のとおりとしている。

  対象行為ーー1項:国、地方公共団体が行う環境に影響をあたえる法令の提案、政策および計画の立案策定のすべて(免除される場合あり)

        2項:何びとが行うかにかかわらず、1項以外の環境に影響をあたえる行為で政令で定める行為(免除される場合あり)

        3項:政令で対象行為とされていない2項の行為であっても、新しい危険性を有する行為の出現、行為者等の脱法行為などについては環境影響評価の実施が命じられる場合がある。

  なお、1項でいう国、地方公共団体は、第2「定義」の項の「行為者等」に含まれるが、この項で対象とされる行為を行うものは、国、地方公共団体のみであることから「国、地方公共団体」とした。2項の「行為者等」には、国、地方公共団体、法人、団体、個人を問わずすべての主体をふくむ。

  また、2項の「上記第1項の行為以外の行為」とは、これまで環境影響評価で対象行為とされていた「事業」(たとえば、環境基本法第20条の「土地の形状の変更、工作物の新設その他これらに類する事業」という用語)を意味している。

2 法令の提案、政策、計画の立案などへの対象の拡大

1)計画などを対象とする必要性

  一般に、実施段階にある行為が対象になることは争いはない。

しかし、この段階の行為のみを環境影響評価の対象とすることは、以下の通り、良好な環境の保全を目的とする環境影響評価の実効性確保にとって重大な欠陥になっている。

  a 行為のもととなる計画においてすでに立地などの選定がされており、大幅な変更が困難である。そのため、実施段階で問題点が明らかになった場合でも中止か強行かということになりがちで適切な代替案がとれない。また、行為実施直前に中止となった場合には、行為者等の損失が大きい。

  b 当該行為に関連する社会経済活動に伴う環境への影響を総体として評価することができない。

  c 個々の行為の単位または規模が小さいために、行為段階の環境影響評価になじまない個々の行為について、その累積的な影響を検討することが困難である。

  d 異なる行為主体が実施する行為が集積する地域全体の環境の将来の姿を検討することに限界がある。

  このため、国・地方公共団体の行為については、実施段階の行為のみならず、これに先立つ政策、計画、プログラムについても、広い観点からの総合的な環境影響評価を実施することとする。

 

 (参考ー国土開発幹線自動車道路の場合の環境影響評価実施の場面)

  全国総合開発計画ー高規格幹線道路の構想

          ↓

  国土開発幹線自動車道建設法ー予定路線

          ↓

  同法の国土開発幹線自動車建設審議会の審議を経てー基本計画決定

    (道路の建設区間、路線は数百メートル幅で決まっている)

          ↓

  環境影響評価および都市計画決定

          ↓

  高速自動車国道法ー整備計画決定

          ↓

  建設大臣による施行命令、工事実施計画書の認可

          ↓

        工事着工・実施

 

  道路建設では、上記の高規格幹線道路をふくめ建設実施を決定する直前の段階で環境影響評価を実施するということで、都市計画決定段階で環境影響評価が実施されてきた。しかし、この段階に至る前にも多くの上位の構想、計画段階があり、それぞれの段階で計画が策定されている。そして、実際にはそれらの計画がすすめられて計画の熟度が高まるにつれて、路線の変更は困難となる。

  また、実際に環境影響評価の対象となるのは、長い路線のうち、その時点で実施が決められた一部の区間のみで(たとえば、東京から大阪までの区間のうち限られた一部の工区間のみ)、環境への影響も分断されバラバラなものとした予測、評価されてしまう。最も上位の計画段階から環境影響評価を実施することによってこうした弊害をさけることが出来る。

2)先行行為における環境影響評価と後行行為における環境影響評価

   なお、このように多段階で行為を環境影響評価の対象行為とする場合、先行する手段段階での検討の範囲が比較的広い環境影響評価書が、後続行為についての環境影響評価に活用されることを可能とし、手続、検討の反復を避ける工夫が必要である。アメリカ合衆国では、このためにティアリング(積み重ね)という手法を導入している。

3)対象行為の選定をどうするか(スクリーニング)

  この場合、環境影響評価の対象となる計画をどのように規定するかが問題となるが、一応すべての計画について簡単な調査を実施させたうえで、環境に影響を及ぼさないことが確認された場合には、環境影響審査会の決定で、環境影響評価の実施を免除する手続を定める。アメリカ合衆国のNEPAが同様の手続を設けており、この点で参考となろう。

  具体的には、環境影響評価免除決定を受けようとする国、地方公共団体は、事前に環境影響評価免除の申請をする。国、地方公共団体は、その申請の際に、当該行為の環境影響に関する調査報告書(以下、調査報告書という)を作成し、それを環境影響審査会に提出する。

  その後公聴会その他の手続を経て、関係地方公共団体・住民・環境保護団体などの意見を聴取し、それらについての国・地方公共団体の見解をさらに聞いたうえで、環境影響評価免除とするかどうか審査会が決定する。

  免除決定は公表され、これに対しては、何びとも異議を申し立てることができる。アメリカ合衆国やカナダでも同様の制度を設け、住民からの参加を確保している。

3 対象となる行為の拡大

1)対象行為の拡大(網羅的列挙)

  わが国の現行の環境影響評価制度では、実施段階にある行為が対象とされてきた。

  しかし、一般的には環境影響評価の対象とされてきた実施段階にある行為についても、その対象は特定の種類のものに限定され、かつ一定規模以上のものを対象としたいわゆる足切りが実施されるため、対象は極めて限定され、環境に影響を及ぼす行為の多くが対象外とされたり、あるいは行為者等が意図的に行為規模を対象基準規模未満ぎりぎりにすることにより環境影響評価手続を免れるといった事態がみられた。

  その結果、有害物質を扱う施設、小規模の自社廃棄物処理施設のように小規模でも環境に及ぼす影響が無視できないものであっても環境影響評価の対象から外されているものがある。またある一定面積以上のゴルフ場建設を対象行為とするとその範囲をわずかに下回る面積のゴルフ場を建設したり、本来対象となる行為を分断し時期をずらして実施するなどして環境影響評価手続を免れようとする弊害が出ている。

  このような弊害をなくするためには、環境影響評価の対象とする計画や行為の範囲を広げ、面積などの規模による対象の限定はできるだけ避けるとともに、小さな規模でも環境に影響を及ぼすおそれのある行為については、環境影響評価の対象に加える必要がある。これによって、脱法行為的に規模を縮小した行為や新しいタイプの問題のありそうな行為について環境影響評価の網をかけられるようにすることができることとなる。

2)計画等以外の行為についての環境影響評価免除決定

  ただし、行為についても網羅的なリストに該当したからといって環境への影響が少ない事案についてもすべて環境影響評価を実施させる必要はない。

  計画の場合と同様の環境影響評価免除決定の手続を導入すべきである。

3)環境影響評価実施命令

  しかし、いくら網羅的にしても新しい危険性をもった行為(例えばバイオテクノロジー施設など)や悪質な行為者等の脱法的行為は包含できないおそれがあるのではないかとの問題があり得る。それらの点については、そうした問題を防ぐため、「何びとも、環境影響審査会に対し、前項に定める行為以外の行為について、環境影響評価実施命令を発する申立てることができ、この場合、環境影響審査会が、当該行為の環境への影響が大きいと認められるときは、行為者等に対し、環境影響評価実施命令を発しなければならないとする」制度を設ける必要がある。

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第6 経済協力と環境影響評価

(意見) 経済協力と環境影響評価

1 企業の海外進出に対する環境影響評価の実施の義務付け

  日本国内の企業が海外で一定の行為を実施する際に環境影響評価を実施しなければならないとする。

2 政府開発援助に対する環境影響評価の実施の義務付け

  政府開発援助について環境影響評価を実施しなければならないとする。

(理由)

1 我が国の企業の活動が東南アジアなど海外で深刻な公害を発生させ、熱帯林の破壊などの地球環境破壊の原因をもたらしている事実、酸性雨や廃棄物移動、気候変動など、今日の環境問題が一国のみの範囲にとどまらない事から、国内での企業活動についてのみ環境影響評価を実施するだけでは不十分である。

  OECDの多国籍企業の行動指針についても、多国籍企業は、その意思決定に際して、環境に重大な影響を及ぼすおそれのある企業活動の予見し続き得る結果を評価・考慮すべきとされている。

  また、日本の経団連の地球環境憲章も、同様の観点から、企業進出にあたっては環境影響評価を十分に行い、活動開始後も事後評価を行うべき旨述べている。

  過去の例からも、進出先の国の環境影響評価制度によるのみでは、十分な環境に対する配慮がなされない場合が多く、わが国の環境基準を基本として更に進出先の国内の基準をも満たすことが必要である。

2 ODAは、具体的行為について、援助国側が、その内容を承知した上で提供されるものであり、しかも実際上その行為の内容の詳細を決めるのは援助国たる日本の側である。

  そうすると、被援助国の環境影響評価制度の内容にかかわらず、環境影響評価の実施は援助国の責任と負担で行うべきである。

  そして、今日の援助は、被援助国政府の意向が地元住民の意向であるとの前提で多くが行われてきたが、現実はそうでないことが多い。

  被援助国では深刻な民族問題を抱えていることも多く、援助行為が少数民族・先住民の存亡にかかわることすらある。

  環境影響評価の手続きは、開発調査の段階で行われるべきで、これを経た後に、交換公文締結に至るべきである。

  さらに、環境影響評価手続きにおける情報公開・住民参加の対象は、援助国たる日本の国民の他、当該行為によって直接影響を受ける被援助国住民も加えるべきである。これには、被援助国への内政干渉であるとの議論が生じるおそれがあるが、援助要請を受付ける条件として、被援助国政府の了解を事前に得ておけば回避できる問題である。

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第7  環境影響評価の実施時期

(意見)実施時期

1 環境影響評価は、対象行為の廃止・変更が可能な早い段階に行うものとする。

2 環境影響評価は、成熟度の変化に応じて各段階ごとに実施するものとする。

(理由)

1 環境影響評価の早期実施の必要性

  環境影響評価は、その環境影響への配慮が当該行為に反映でき、環境影響評価が効果的に実施できる早い時期に行うことが必要である。

  従来の制度では、環境影響評価は、当該の対象行為についての「計画がほぼ固まった段階」から開始されていたが、「計画の固まらない段階」で環境影響評価を開始し、環境影響評価の結果を当該行為に反映しうるものとする必要がある。

  そのことによって、行為者等にとっても、不要な支出を避け、損失を防ぐことができる。

2 成熟度の変化による各段階での評価の実施の必要性

  第5で定めた通り、政策ー基本計画ー実施計画などといったように行為の実施にむけて成熟度が高まっていく場合に、法令でそれぞれの構想、計画段階の行為(構想、計画の立案・決定)が明確に定められている場合には、それぞれの計画段階での行為が環境影響評価の対象となる。

  しかし、環境に影響を及ぼす行為のすべてについて、前記のように構想・計画の段階を明確に区切ることはできない。それでも、ある行為とくに土地の形状変化をともなう行為や施設の建設などの実施についてみると、立地の選定ー行為の概要の設計ー詳細設計といったように、行為実施に至るまでにはさまざまな立案、構想、決定を経るのが常である。従って、どのような対象行為であれ、その成熟度が変化していくような場合には、1回の環境影響評価で足りるとするのではなく、成熟度の変化に応じて各段階で環境影響評価を実施すべきである。

  この場合、すでに実施した環境影響評価の成果は、同一行為についてその後実施される環境影響評価においても活用でき、前回実施後に変化のあった項目、要素などについて環境影響評価を行えば足りるとすべきこととなる(前記のティアリング手法の導入)。

3 評価実施後の時間経過や評価条件・要因の変化の場合

  この場合は、別途環境影響評価を実施すべきである(→第17

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第8  環境影響評価実施計画書の作成手続

(意見)環境影響評価実施計画書の作成手続

1 評価実施計画書の作成

  行為者等は、環境影響評価を行うに先立ち、環境影響評価技術指針に基づき、次の各号に掲げる事項を記載した環境影響評価実施計画書(以下、評価実施計画書という)を作成しなければならない。

  a 行為者等の氏名(法人の場合は法人名と代表者の氏名)、住所、連絡先

  b 開発行為の名称、種類、目的、位置、規模

  c 代替案

  d 現況調査の地域範囲、開始時期、項目、方法

  e 予測の項目、方法

  f 評価の項目、方法

  g その他必要と認められる事項

2 評価実施計画書の届出

  行為者等は、前項の事項を記載した評価実施計画書の案(以下、評価実施計画書案という)を環境影響審査会に届け出なければならない。

3 届出の時期

  評価実施計画書案の届出の時期は、現況調査着手の相当期間前とする。

4 告知・縦覧

  環境影響審査会は、前項の届出があった場合は、速やかにその旨を公告し、様々な手段によって地域住民、専門家、環境保護団体などに告知するとともに、関係地方公共団体に当該評価実施計画書案の写しを送付して、そのうえで、同文書の写しを当該公告の日から起算して相当期間公衆の縦覧に供するものとする。

5 説明会開催

  何びとも、評価実施計画書案の縦覧期間中、行為者等に評価実施計画書の内容などについて説明会の開催を請求できる。

  行為者等は、説明会開催要求があった場合は、速やかに説明会を開催しなければならない。

6 意見書の提出

  何びとも、前項の縦覧期間の満了日から相当期間を経過するまでの間、評価実施計画書案に掲げられた事項についての意見書を環境影響審査会に提出できる。

7 意見書に対する文書での回答

  行為者等は、6項の意見に対する見解書を作成し、これを環境影響審査会に届け出なければならない。

8 協議と審査会の意見

  環境影響審査会は、行為者等と6項の意見を提出した者などとの協議の場を設定したうえで、その協議を踏まえ、評価実施計画書に定めるべき事項について、その内容の適正化を図るために、行為者等に対し意見を述べることができる。

9 評価実施計画書の作成

  行為者等は、6項の意見、前項の協議および審査会の意見を尊重して、評価実施計画書を作成し、これを環境影響審査会に届け出なければならない。

10 評価実施計画書および見解書の届出の時期

  前項に規定する評価実施計画書の届出の時期は、現況調査の着手前とする。

11 公表の規定

  前項の評価実施計画書は、公表される。

(理由)

1 評価実施計画書作成手続の必要性

  評価実施計画書作成手続とは、環境影響評価の実施に先立ち、調査や評価の項目、方法について、事前に計画を立案させ、それについて住民・環境保護団体などの意見を聞くなどして、その内容の適正化を図るための手続きである。

  閣議決定による環境影響評価制度のもとでは、環境影響評価に着手する前の段階で行為や環境影響評価の実施内容が外部に公表されず、または抽象的な内容のみが公表される制度になっている。そのため、住民などは環境影響評価準備書が公表されてはじめて具体的な行為の内容や、調査・予測・評価の項目などを知ることが出来るという状況で、このことが環境影響評価の手続や内容についての透明性や公正さについての不信感を呼ぶ大きな要因になっている。

  これに対して、内外の制度では、準備書の提出の前の段階で、住民などに意見表明の機会を与える何らかの事前手続を導入しているものが多い。

  外国の制度としては、アメリカのNEPAの「評価実施計画書作成手続」が有名であり、スコーピング手続として実施されている。環境影響評価書(EIS)を作成する手続の開始に先立ち、評価対象などの検討すべき問題の範囲の絞り込み(スコーピング)が関係諸機関や環境保護団体などの意見を聴きながら行われる。このスコーピング手続は、手続の初期の段階で、「何が環境への著しい影響か」について、提案行為に関心をもっているあらゆる人々の合意を得るための最善の手段として位置づけられている。

  また、わが国の自治体における環境影響評価では、「評価実施計画書作成手続」に関する規定を有している自治体が過半数を占めており、規定がなくても運用として行っているところを含めれば、環境影響評価制度を有しているすべての自治体で何らかの「評価実施計画書作成手続」が行われている。具体的な内容としては、環境影響評価の実施に先立ち、行為者等に対し、「環境影響評価実施計画書の作成、届出」、「環境影響評価実施の通知、届出」、「事業計画書の作成」などを義務づけ、それを公開して、住民に意見提出の機会を与えているのが多い。「環境影響評価実施計画書の作成・届出」を認めている地方自治体としては、滋賀県、宮城県、石川県、岐阜県、大阪府、埼玉県、名古屋市、神戸市、尼崎市などかなり多数に上がっている。

  評価実施計画書作成手続を導入することは、環境影響評価手続の早期の段階で、評価項目や手法などについて住民・環境保護団体などや行政の意見を聞き、必要な評価項目の欠落を防ぐとともに、調査、予測、評価の重点を定めることができるので、手戻りの防止に役立つとともに、環境影響評価を効率化するというメリットがある。

  住民・環境保護団体なども、早期に行為の内容について知ることができ、また評価項目の手法についても行為者等と共通の認識を持つことができることから、効果的な環境影響評価への参加をすることができる。また、行政、行為者等、住民・環境保護団体など、関係当事者間の調整が早期から始められるので、手続も円滑に進めることができる。

  また、行為者等は、行政や住民・環境保護団体などが保有する環境データや情報を早期に取り入れることが可能となり、後の段階における紛争を防ぎ、かつ、手戻りによる時間と経費の無駄をなくすとともに、論点を絞った予測評価が可能となるので、あらゆる項目についてばく大な費用をかけ、詳細に調査、予測、評価を行うといった現在の日本の環境影響評価に往々にしてみられる無駄を省くことができる。

  実際、スコーピング制度を整備した後のアメリカ合衆国やカナダでは、環境影響評価をめぐる法的紛争が減少したり、手続が効率化したりし、住民らのみならず、行為者等からも高く評価されている。

2 評価実施計画書作成手続の要件

1)環境影響評価実施計画書の作成・届出

  評価実施計画書作成手続の要件としては、行為者等に環境影響評価実施計画書案を作成させ、それを環境影響審査会へ届け出ることを義務づけたうえ、この評価実施計画書案に対して、住民が意見を表明できる機会を保障することが必要である。地方自治体が導入している評価実施計画書作成手続の具体例の中には、行為者等と行政との連絡、協議、協力などを図るものもあるが、それだけでは住民参加の実を上げることはできない。また、これまでの評価実施計画書作成手続の主宰は、知事、市町村長がその実施主体となっているが、中立的な第三者機関である環境影響審査会にこれを行わせるのが適当であるので、評価実施計画書案は環境影響審査会に届け出ることを義務づけるものとする。

  この評価実施計画書案には、調査、予測、評価の項目、方法や代替案を始めとする所定の事項を記載させる。調査・予測・評価の項目・方法が明確に記載されれば住民としても意見を表明しやすくなり、評価実施計画書作成手続の効果が発揮されるので、それに記載する事項を明らかにしておかなければならない。

2)評価実施計画書案の届出の時期

  評価実施計画書の作成時期については、地方自治体の例では2通りの方法が見られる。

  一つは、当該行為の内容がおおむね特定され、かつ環境影響評価に基づいてその計画の変更が可能な時期とするという定め方である(神戸市など)。もう一つは、環境影響評価書を提出する日の30日前までという期間を明示した定め方である(千葉県)。

  しかし、最初の例は環境影響評価の実施時期の定めで、環境影響評価手続における評価実施計画書の作成時期の定めではない。また、環境影響評価を提出する30日前までというのでは、手戻り防止や評価などの効率化といった前述したような評価実施計画書作成手続のメリットからみて遅すぎる可能性も高い。

  そこで、作成時期は、環境影響評価手続において実質的な調査が開始される前として、具体的には、案の届出時期は、現況調査着手の相当期間前(例えばその少なくとも90日前)、完成した評価実施計画書の届出も現況調査着手前とするのが妥当である。

3)告知・縦覧

  評価実施計画書案の告知・縦覧は、住民・環境保護団体などに意見表明の機会を与えるための必要不可欠のものである。縦覧期間としては相当期間(例えば30日間)は必要である。

  告知の方法としては、様々な手段によって、関係する地域の住民に完全に徹底するとともに、それ以外に関心を持つと思われる専門家や環境保護団体にも情報が行き渡るような仕組みをつくるべきである。告知の方法としては

     関係地方公共団体への通知、

     地方自治体の広報や地域の地方紙の活用、

     地域住民への郵送による告知、

     全国的な環境関係の広報紙・パソコン通信網などを利用した告知

     専門家・環境保護団体リストを整備しそこへの郵送

 などの方法が考えられる。

  この告知は、関係地方公共団体、住民や環境保護団体などに対し、新たな環境影響評価を開始することを初めて知らせる手続でもあり、住民参加の実質化にとって極めて重要なものであり、徹底して行われるべきである。

  この評価実施計画書作成手続を遂行する主体は中立的な第三者機関である環境影響審査会であるので、その審査会が告知・縦覧の手続を行う。

4)住民参加

  評価実施計画書案に対しては、住民や環境保護団体などは説明会開催の要求と意見書の提出ができることおよび行為者等との協議ができることを明示する必要がある。この定めは、評価実施計画書作成手続において住民参加を保障するという点で不可欠である。

  説明会の開催については、評価実施計画書案を検討しても分からない点があったり、行為者等の真意をただす必要も生じることがあるので、住民・環境保護団体などは行為者等に説明会の開催を請求でき、それに対し行為者等はすみやかに開催する義務があるとしなければならない。評価実施計画書作成手続の実効性を確保するうえできわめて重要なことである。

  住民・環境保護団体などの意見書は環境影響審査会に提出し、この意見書に対しては、行為者等は見解書を作成して環境影響審査会に届け出る義務を負うものとする。住民の意見は言いっぱなし・聞きっぱなしにされるのではなく、行為者等が誠実にこれに答えることによって、住民参加の実をあげることが必要である。

5)行為者等と審査会による意見の手続き

  環境影響審査会は、その主宰のもとで、行為者等と住民・環境保護団体などの協議を設定する。その場では、環境影響評価のための現況調査、予測、評価の項目、方法その他必要と認める事項について協議が行われ、行為者等は、それをもとに評価実施計画書を作成する。

  審査会は、その協議をふまえ、評価実施計画書に定めるべき事項について、行為者等に対し意見をいう。

  この協議を十分尽くすことが評価実施計画書作成手続の核心をなすものであり、これを活用することによってその後の手続きも円滑に進むことになる。

6)評価実施計画書の作成と公表

  行為者等は、以上のような住民参加手続を経て、評価実施計画書案について検討し、審査会からの意見を聞いたうえで、最終的に環境影響評価を実施するための評価実施計画書を作成し、それを実際の現況調査にかかる前に、審査会に届け出、審査会はそれを公表するものとする。

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第9  代替案

(意見)代替案

1 行為者等は、代替案を検討し、提示すべきである。

2 前項の代替案の中には以下のような代替案が必ず含まれなければならない。

 a 環境に最も好ましい代替案

 b 行為の目的を達成する他の手段・方法の代替案

 c 何もしない代替案

(理由)

1 わが国の現行の環境影響評価制度が、諸外国の制度に比べて一番異なっている点は、代替案の提示・検討が義務づけられていない点である。

  主要な諸外国では、環境への影響を回避または最小化し、適切な案を選択するため、代替案の作成が取り入れられている場合が多く、代替案の作成が義務づけらている国は、アメリカ、オランダ、ドイツなど18ケ国ある。

2 環境影響評価は、ある行為が環境にどのような負荷を与えるのか、それらが実施される前に、あらかじめ検討するものであるところ、その行為の目的を達成する他の手段方法があったり、また、設計・技術を変えたり、他の場所で行ったり、行為規模を縮小したりすることによって、環境にどのような影響を生じるのかを検討し、それらと元の行為とを比較する中で、環境に影響が少ない行為を選択することが重要であり、まさに、代替案の検討・提示こそが環境影響評価の核心であると言って過言でないのである

3 しかし、行為者等が実施しようとする行為について、環境影響を回避し、または環境に影響が最も少ない行為を選択していくという意志決定に資するためには、良好な環境保全に向けた判断の枠組みあるいは選択肢を具体的に示すことが重視される。

  以上のような環境影響評価の目的、要請から、複数の代替案が検討されるべきであるが、少なくとも「環境に最も好ましい代替案」、「行為の目的を達成する手段・方法の代替案」、「何もしない代替案」については、必ず提示・検討を要することとした。

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第10  調査・予測・評価の項目

(意見)調査・予測・評価の項目

1 評価項目の内容

  環境影響評価の項目は、典型7公害のうち特に法規制のある項目および自然環境保全法などの指定地などの特別な限定された一部の自然環境にかかる項目に限定せず、以下の項目なども取り入れるものとする。

  1)法規制のない様々な公害問題・放射能汚染の問題・廃棄物処理・物的設備の確保などを含む生活環境に関する項目、

  2)アメニティなど生活の質に関する項目

  3)交通・危険物・災害などの人および動植物の安全にかかわる項目

  4)先住民に関する問題や地域社会に及ぼす影響を含む社会的・文化的環境に関する項目   

  5)生物の遺伝子、種および自然の生態系をふくむ生物の多様性の確保と森林、農地、水辺などにおける多様な自然環境の体系的な保全に関する項目

  6)歴史的・文化的遺産の保全に関する項目

  7)景観に関する項目

  8)鉱物資源の永続的利用と保全に関する項目

  9)地球環境保全にかかる項目

  10)行為の社会的経済的な必要性と相当性に関する項目

2 評価項目の定め方

  政令において、行為の種類、または行為の段階に応じて、原則として一般的に関連すると考えれる環境要素を摘示しておき、さらに環境影響評価の実施に先だって、その行為の特性に応じて、第8の評価実施計画書作成手続により、評価項目を定めるものとする。

  行為の成熟度の低い段階では、摘示される項目は、概要を定めるものとならざるをえないと思われるが、その場合は評価実施計画書作成手続において、評価項目の十分な検討協議を行い、評価の充実を図るものとする。

(理由)

1 評価の項目の拡大の必要性とその内容

1)今までの傾向

  現在わが国で行われている環境影響評価制度については、生活環境に関することや自然環境に関するものが評価の項目とはされていても、それは主に、典型7公害のうち特に法規制のあるもの(法により規制対象とされ、環境基準や排出基準などが設定されているもの)や、自然環境保全法などの指定地などの特別な限定された一部の自然環境にかかる項目に限定されていた傾向がある。

  この結果、必ずしも環境全般についての評価が適正にされず、特に良好であるが何の指定もされていないような自然生態系への影響などについては、調査すらもされないということがしばしばみられた。環境基本法が、生物の多様性の保護を重要な視点のひとつとして掲げ、また、自然とのふれあいなど生活の質の問題も重視していることからみて、このような環境影響評価の実態は極めて不十分である。

2)生物の多様性保護の視点からの項目拡大を

  生物の多様性に関わる様々なことがら、すなわち、法により特別に保護すべき対象として指定されているといないとに関わらず貴重な種の保護に関係することや里山など身近な環境を含めた様々な生態系と自然環境の保全に関係することがらも、環境影響評価において重視されるべきである。また、生活環境項目としてのみ把握されがちな様々な公害項目も、生物の多様性の保護という観点から評価することも必要である(例えば、窒素酸化物について環境基本法、大気汚染防止法の基準を満たすかどうかだけでなく、行為対象地の生物種や生態系に影響を及ぼさないかという評価項目を設定する必要がある)。

3)規制対象外の生活環境項目の扱い

  また、生活環境項目についても、典型7公害以外の問題(廃棄物の問題や生活環境施設の整備、放射能汚染や電波障害など)あるいは規制対象とされていない汚染物質(ダイオキシンなど)については、評価項目とされず、その結果、生活環境の保全という点でも不十分な例がみられた。

4)社会的影響に関する項目

  そのうえ、生活環境や自然環境項目に限らず、広く社会的影響に関する項目についても調査、予測、評価は不十分であった。

  アメリカ合衆国のNEPAでは、社会的経済的必要性や相当性も評価項目とされている。また、日本でも、実際上行為者等は、当該行為について、社会的経済的必要性や相当性などを広報・宣伝するもののその検証をしてみると実際にはその必要性や相当性が疑わしい場合も多くみられる。島根県の中海の干拓事業、長良川河口堰事業などのようにそもそも社会的経済的な必要性があるのか疑わしい行為について、その点が十分に吟味されないことが大きな問題となっている。

  そうしたことなどから考えると、様々な社会的影響に関連する事項についても、公開と参加の原則のもとで、十分な検討を事前にすることが、結局は望ましい結果をもたらすと思われる。

  その視点から、交通・危険物・災害などの人および動植物の安全にかかわる項目、先住民に関する問題や地域社会に及ぼす影響を含む社会的・文化的環境に関する項目、歴史的・文化的遺産の保全に関する項目、景観に関する項目、鉱物資源の保全に関する項目、行為の社会的経済的な必要性と相当性に関する項目なども評価項目に加える必要がある。

5)地球環境項目

  また、地球温暖化などの問題が深刻な状況となっている今日、地球環境項目についても評価項目とすべきである。

6)まとめ  

  以上の通り、環境影響評価制度における評価の項目は、環境基本法に記載された事項に限られず、地域住民および地球規模で人々が影響を受けると思われる様々な項目をすべて含むものとすべきである。

2 評価の項目の決定方法

1)技術指針などにのみよる方法の問題点とスコーピングの必要性

  環境影響評価の実施にあたって、どのように評価項目を決定するかという点については、現在わが国で行われている環境影響評価では、対象行為ごとに、あらかじめ技術指針などで評価要素などを提示し、その評価の視点も定めている。

  評価を実施する者にとって、手続の明確さという点では一定役にたつ方法かもしれないが、個別の行為や対象地域の特性などに即して、参加と公開の原則のもとで行為者等の意思決定上の判断材料とするという環境影響評価制度の特質からみてそのような制度が望ましいといえるかどうかは疑問である。しかも必要な評価項目がもれた場合、当初の評価(準備書の作成まで)に多くの年月が経過してしまうために、その後の段階で評価項目のもれが指摘された場合などには、時間的手続的ロスが多大なものとなってしまう。また、技術指針などに記載されている評価項目をどのような場合にもすべて実施するものとしている結果、環境影響評価にばく大な費用を要することになっており、費用的なロスも多い一方、重点的に調査、予測、評価すべきことについて、力点が置かれていないという問題がある。

  そのような状況を改善するためには、政令において、行為の種類、または行為の段階に応じて、原則として一般的に関連すると考えれる環境要素を摘示しておき、それを中心として評価項目を設定しつつも、第8に示した評価実施計画書作成手続によって、評価項目を定めるべきである。すなわち、行為者等は、環境影響評価の実施に先だって、技術指針などに加え、その行為の特性や対象地域の状況などに即して(その意味では簡単な現況調査を事前に実施する必要性もあるかもしれない)その他につけ加えるべき項目も検討し、評価実施計画書において、評価の項目とすべきところを明らかにし、審査会の主催する手続において、住民や専門家・環境保護団体の意見を十分に聞いて、評価の項目を設定するようにすべきである。

2)行為の成熟度の低い段階

  この段階では、行為の成熟度の高い段階のような緻密な環境影響評価を実施することは現実にも困難であると思われるが、その場合は、評価対象項目としては、技術指針などで概要を定めるだけとし、評価実施計画書作成手続において、評価項目の十分な検討協議を行い、評価の充実を図るものとする。

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第11 評価の実施

(意見)

1 評価の主体と評価における責任と負担の所在

  環境影響評価は、行為者等が行い、その責任と負担において十分な環境影響評価を尽くすものとする。

2 評価の視点と用いられるべき指標

  環境影響評価にあたり、環境基準・環境保全目標を達成するかどうかは必須の検討事項であるが、環境基準・環境保全目標の達成は最低限実現すべき指標であり、さらに、環境影響を回避し、または最小化するという視点に主眼をおくものとし、良好な環境の保全および回復という点が指標として重視されるべきである。

3 総合的環境影響評価

  複数の行為が累積的に行われる大規模行為については、累積的な影響も含めた複合的総合的な環境影響評価が実施されるべきである。

4 評価の前提

1)評価手法などについて

  調査・予測のための技術手法に関する情報を広く周知すべきである。

2)バックグラウンド情報の調査・予測について

  行為者等は実態調査を行うなどして、バックグラウンドの環境情報を収集する。国、地方公共団体は、収集したバックグラウンドの環境情報を行為者等に提供する。

5 不確実性の勘案

  評価の結論については、その調査資料の信用性、予測手法の不確実性の内容、程度を明らかにするものとする。

  また、評価に当たっては、このような不確実性をふまえ、評価の結果を得た安全率を明示するものとする。

6 環境保全対策の検討

  環境保全対策について、その内容、実現方法、予測した対策効果の実現の見通し、対策の効果が達成できなかった場合に行為者等がとる措置などを明示するものとする。

  環境保全対策としては、環境影響の回避、最小化、復元、軽減、代償の順で、優先順位を設け、それぞれについて検討がなされるべきである。

7 準備書または評価書の記載内容と情報の公開

1)基礎資料などの提示と記載方法

  準備書または評価書には、専門的な情報を十分に提供し、データの根拠となった基礎資料・技術資料を示した上で、評価の内容、結果を示す。ただし、その内容、結果は、平易な内容で記述し、詳細報告書とは別に概要書も作成するものとする。 

2)調査担当者などの氏名の公表

  環境影響評価手続に関連して、調査に従事した者、予測の委託を受けた者などの会社名・氏名も記載する。

(理由)

1 評価書の作成主体について

  評価を当該行為を行おうとする行為者等ではなく、政府機関がこれを実施することも考えられる(たとえば、アメリカの制度)。

  汚染者費用負担の原則、環境基本法第6条の規定の趣旨から行為者等がこれを実施するものとする。国や地方公共団体が行為者等に該当する場合(国や地方公共団体の行為の場合)には、当然、行為者等として、国および地方公共団体が、環境影響評価を実施する。ただし、国の場合は、行為を管轄する省庁が行為者等として環境影響評価を実施する。

2 評価の視点について

  環境影響を及ぼす行為が、環境基準・環境保全目標を守る達成すべきことは当然のことである。

  しかしながら、わが国におけるこれまでの環境影響評価では、環境基準・環境保全目標が守れない場合でも、環境影響評価の結果影響は軽微であり問題なしとする事例がみられた。これは環境影響評価の趣旨に反する扱いであり、そのような場合には、当該行為の実施は、再検討・中止されるべきである。

  また、従来、ともすれば環境基準の範囲内であれば環境の悪化があっても許容されるとの考え方が根強く残っていた。

  しかし、このような姿勢、これに基づく開発行為の累積的影響により、環境基準内にある環境も次第に悪化してきた。また、この姿勢をとる限り既に悪化している環境の回復を達成することはできない。そのうえ、仮に評価の項目として、生物の多様性保護に関するものが設定されたとしても指標や基準のない場合が多く、そのような場合など環境基準のない項目についての評価は不十分となってきた。例えば、自然生態系の保全が問題となるような場合でも、窒素酸化物が環境基準内におさまればいいとする例などがみられた。

  環境影響評価での環境影響の評価の視点の主眼は、いかにして環境影響を回避しまたは最小化するかにあることを評価に当たっての指針として明記するものとする。実際には、環境への影響を回避し、または最小化するためにどれだけの努力をしたのかの明記が求められることになる。

3 総合的環境影響評価について

  現在のわが国で実施されている環境影響評価では、複数の行為が累積的に行われる大規模開発の場合に、個々の行為ごとに環境影響評価が行われ、総合的な開発行為全体の影響を評価する総合的な環境影響評価が行われていない傾向がある。そのため、開発行為が総体として環境に多大な影響を与えている場合にも、その全体像は個々の環境影響評価手続からは全く見えてこないという問題点が指摘されている。

  その典型的問題としては、例えば、東京における臨海部副都心開発などがあげられている。

  このような問題点を解決するためには、第5で検討したように、基本となるような計画や政策についての環境影響評価を実施することが重要であるが、同時に、個別の行為についても、累積的な影響も含めた複合的総合的な環境影響評価が実施されるべきである。

  アメリカ合衆国の環境影響評価制度では、累積的影響についても環境影響評価を実施すべきことが明示されている。

4 評価の前提

1)評価手法などについて

  調査・予測のための技術手法に関する情報を収集し、その評価および検証を継続的に実施し、結果を広く公表して、適切なものについては普及につとめるものとする。

2)バックグラウンド情報の調査・予測について

  当該行為についての環境影響評価に際して、バックグランドの環境情報の調査・予測は極めて重要である。国・地方自治体がこれに関する情報を収集し提供することが必要であるとしても、行為者等が自ら実態調査などを実施して関係情報を収集することを原則とし、文献的資料の利用は極力避けるものとする。

5 不確実性の勘案

  評価の予測結果には、技術的な限界や諸条件の変化などによる不確実性を避けられない。したがって、評価の結論については、その調査資料の信用性、予測手法の不確実性の内容、程度を明らかにするものとする。

  また、評価に当たっては、このような不確実性をふまえ、評価の結果を得た安全率を明示するものとする。

  特に、将来、環境汚染が改善することを前提に評価をする場合には、改善が実現する可能性の程度を明示し、かつ、改善されなかった場合、どうなるかを予測、評価すべきである。例えば、現状では、道路についての環境影響評価において、大気汚染の改善の目標を、所与の前提として与えられ、将来改善されることとして予測がされているが、「目標」にすぎないものを、予測にあたり、その前提とするのはおかしい。実際にその目標が達成されず、結果として環境への悪影響が起きた事案も生じており、そうした予測方法の誤りは明白となっている。可能性の程度の明示や改善されなかった場合の予測、評価もあわせ実施されるべきである。

6 環境保全対策の検討

  環境保全対策や代償措置について、その内容、実現方法、予測した対策効果の実現の見通し、対策の効果が達成できなかった場合に行為者等がとる措置などを明示するものとする。

  その場合、環境に及ぼす影響を回避し、または最小化するという環境影響評価の原則(第3の第2項)からみて、環境保全対策としては、環境影響の回避、最小化、復元、軽減、代償の順で、優先順位を設け、それぞれについて検討がなされるべきである。アメリカ合衆国のNEPAの実施のためのCEQの規則では、ミティゲーションという名の下に、その旨を規定している。

なお、従来、計画段階で考慮した保全対策(対策をふくんだ計画に対する予測ー評価ー影響なし)と、環境影響評価の結果必要となった保全対策(予測ー評価ー影響ー対策)とが明確に区別されていないことが多いが、両者は明確に区別して評価するものとする。

7 準備書または評価書の記載内容と情報の公開

  準備書または評価書には、評価の根拠について検証できるに足るデータなどが示されていなくてはならないとともに、全体像を把握するためのわかりやすい概要書が必要であるから、専門的な情報が十分に提供され、データの根拠が示された上で、評価の内容、結果が示されなければならない。ただし、その内容、結果は、平易な内容で記述し、詳細報告書とは別に概要書も作成するものとする。 

  環境影響評価手続に関連して、責任の所在と内容の正確さを担保するために、調査に従事した者、予測の委託を受けた者の氏名(環境コンサルタント名、実施した担当者氏名、学者の所属・氏名など)も記載する。

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第12 評価過程における住民参加

(意見)評価過程における住民参加

1 準備書の縦覧・告知とその後の手続の告知

  準備書の縦覧・告知とその後の手続(説明会、意見書の提出、公聴会など)の告知については、関連する地方公共団体に告知するとともに、さまざまな手段によって、地域住民に徹底して知らせるとともに、それ以外に関心をもっていると思われる専門家や環境保護団体などにも情報が行きわたるような仕組みを作るべきである。

2 説明会の開催の義務づけ

  行為者等主催による説明会を義務づける。

3 意見書の提出

  何びとも広く意見書を環境影響審査会あてに提出できることとする。

4 公聴会の開催

  環境影響審査会の主催で、しかるべき時期に公聴会を開催するべきことを義務づける(但し、公聴会における意見陳述を希望する者がいない場合は別)。

  公聴会は、相互に意見の交換ができ、協議ができるような内容のものとする。

5 意見に対する行為者などの回答の義務付け

  行為者等は、意見書や公聴会で提出された意見について、見解書を作成し、回答する。

6 環境影響審査会の勧告・是正命令権

  環境影響審査会は、行為者等の環境影響評価手続の遅れ、準備書の問題点、準備書の縦覧・告知、行為者等による説明会の開催、見解書などについて、行為者等に対し、是正するよう指導勧告することができる。行為者等が指導勧告にしたがわない場合は、環境影響審査会は是正命令を発することができる。

  何びとも、環境影響審査会に対し、本項前段の指導勧告および是正命令の権限を発動するよう要請することができる。

  行為者等は、前記是正命令に対しては、異議を申し立てることができる。

7 評価書の作成・公表とそれに対する意見書の提出権

  行為者等は、準備書に対する意見書や公聴会での意見・協議結果、環境影響審査会の指導勧告などを踏まえ、評価書を作成し、それを環境影響審査会に提出する。

  環境影響審査会は、評価書を公表し、準備書同様の方法によって告知し、縦覧する。

  何びとも、評価書に対し、意見書を環境影響審査会に提出することができる。

8 参加する側の自主調査に対する支援策

  住民参加によって、環境影響評価手続を実効的なものとするためには、住民による 自主調査に対する情報面、技術面、財政面での支援が不可欠である(→第20)。

(理由)

1 環境影響評価の実効性を確保するためには住民参加の実現は、欠かすことのできない要素である。

 参加をどのように位置づけるべきかについては第1を参照されたい。

2 環境影響評価における住民の範囲に制限を加えることをやめ、関心を有するすべての人の参加を認めるものとされるべきである。

  いまや、地域環境の問題が地球環境の問題になりつつある。たとえば、一地域の干潟開発の問題は、同時に渡り鳥の生息地の開発の問題として、ラムサール条約などの国際条約の問題であり、同時に生物の多様性保全という地球環境の問題でもある。

  また、火力発電所の建設問題は、温暖化に関係するという点で地球規模の問題でもある。

  その意味で、環境影響評価手続における参加の主体は、すべての人が(何びとも)主体とされ、広く環境保護団体や専門家が居住地域にかかわらず手続に参加しうるものとすべきである。海外の専門的な保護団体の手続参加も当然に認められるべきである。権利防衛という点から温暖化の被害者になる可能性のある途上国の人々の参加も認められるべきことは当然である。

  この点については、たとえば、東京都の条例では、広く「都民は」とし、行為の直接の影響を受ける地域に限らず、東京都の住民ならば環境影響評価手続に参加できるとしている。しかも、これまでの制度の実施でも、過去地域住民に限定しなかったことによる弊害などは発生していない。

  また、広く多くの人々の参加を可能とした場合、住民といっても、様々な利害が生じ、その間で利害対立が生じたり、また、地域住民の一部と環境保護団体との意見対立が生じたりすることもある。

  環境影響評価は、当該行為にかかわる様々な利害・意見を顕在化させ、公開の場で、その様々な意見を踏まえて意思決定・判断形成をしていく手続であって、そうした問題に関心を持つできる限り多くの人々の参加を実現することこそ必要とされることである。そうした参加を広範囲で実現すること、それもスクリーニングや評価実施計画書作成手続といった手続の早期の時点から実現することによって、意思決定過程を透明なものにし、公正で民主的なものにすることができ、行為者等からみれば、有効な対策を少ないコストでとることができることになる(後に無用な反対に出会って行為が停滞したり、重大な環境破壊を起こし多大な損害賠償責任を負担するといった事態)を防ぐことができるのである。これは、HIVその他でみられるように、昨今弊害がはっきりしている密室の内部的な意思決定からオープンな意思決定システムへ変革していくことにもつながる。

3 準備書についての縦覧・告知手続、説明会、意見の提出、公聴会など

  行為者等が作成した準備書の縦覧告知手続、説明会、意見の提出、公聴会などは住民参加の中心といえる手続要素であり、いずれも不可欠な手続である。

1)準備書の縦覧・告知の手続

  準備書の縦覧・告知の手続については、様々な手段によって、関係する地域の住民に完全に徹底するとともに、それ以外に関心を持つと思われる専門家や環境保護団体にも情報が行き渡るような仕組みをつくるべきである。告知の方法としては、

     関係地方公共団体への通知、

     地方自治体の広報や地域の地方紙の活用、

     地域住民への郵送による告知、

     全国的な環境関係の広報紙・パソコン通信網などを利用した告知

     専門家・環境保護団体リストを整備しそこへの郵送

 などの方法が考えられる。

  縦覧期間は最低30日、その後もいつでも縦覧できるものとし、またコピーの取得も広く無料で認め、また、オンラインでアクセスできる体制も整備すべきである。

  準備書は、できる限り平易な内容で作成させることを義務づけるべきである。

2)説明会の開催の義務づけ

  行為者等主催による説明会を準備書の縦覧開始から60日以内位に実施させるべきであり、縦覧・告知の際に説明会開催を告知すべきである。

3)意見書の提出

  縦覧・告知や説明会を経た後、意見書を所轄する審査会に提出させる。意見書は何びとも提出できるものとし、関係地域住民のみならず、専門家や環境保護団体などが地域を問わず意見を提出できるようにする。また、準備書の縦覧・告知の際に、意見書を提出できる旨もあわせ告知すべきである。

  この際、関係地方公共団体は、議会の意見を聞き、かつ、広く地域住民の意見を聞いたうえで、意見を必ず提出しなければならないとすべき。

4)意見に対する行為者等の回答の義務づけ

  行為者等は、意見書や公聴会で提出された意見について、見解書を作成し、この点について、どのように検討し、行為などを変更するなどの対策を講じたかなどその理由も付して、回答することを義務づけるべきである(現行の環境影響評価では、意見についての回答が必ずしも明確になっていないことが多い)。

5)公聴会の開催

  そのうえでしかるべき時期に公聴会を開催することとする。公聴会は審査会が主体となって実施するものとし、原則として開催を義務とする。(ただし、公聴会における意見陳述を希望する者がいなかった場合は別)

  公聴会は、相互に意見の交換ができ、協議ができるような内容のものとする。そのためには、公聴会を複数回開催することとするのもひとつの方法である。例えば川崎市などでは、行為者等と住民の間の協議を実現するために公聴会を3回開催し、質疑を尽くし、意見の応答をさせるようにしている。

  評価段階の住民参加を実質化するためには、公聴会などの場で、行為者等と住民・環境保護団体などとの間の協議を尽くすことが重要である。

4 環境影響審査会の指導勧告・是正命令権

  評価の手続およびその過程での住民参加を適正に行わさせるため、環境影響審査会は、行為者等の環境影響評価手続の遅れ、準備書に示された問題点、準備書の縦覧・告知、行為者等による説明会の開催、見解書などについて、行為者等に対し、是正するよう指導勧告することができるとするのが相当である。その都度、訴訟で過ちを是正できるようにすべきだとの意見もあるが、これでは手続がしばしば停止することになりかねない。審査会をして手続の主宰者として、適切な指導勧告をできるとするのが実際的には妥当と思われる。

  また、行為者等が、審査会の指導勧告にしたがわない場合は、是正命令も発することができるとすべきである。

  この際、すべて審査会の職権発動に委ねるのではなく、一応、「何びとも、環境影響審査会に対し、本項前段の指導勧告の権限を発動するよう要請することができる」として指導勧告・是正命令権を行使するよう促す手続を設けておく必要があろう。

  行為者等は、この是正命令に対しては、異議もうしたてをすることができる。

5 評価書の作成・公表と意見書の提出権

  行為者等は、評価書を最終的に作成するが、評価書も準備書同様の方法で公表、告知・縦覧することとし、それについての意見書を審査会宛に提出させることとすべきであろう。

  審査会は、評価書について提出された意見書を、それまでに出された意見書と併せて考慮し、評価書の審査をすることになる(→第14)。

6 参加する側の自主調査に対する支援策ー環境影響評価情報センターの設置と財政支援

  住民参加によって、環境影響評価手続を実効的なものとするためには、住民による自主調査や準備書・評価書の検討について、情報面、技術面、財政面での支援が不可欠である。

  一般的な環境情報、環境影響評価に関する情報センターの整備が必要であり、かつ、技術・財政面では、住民側が行う自主調査や準備書・評価書の検討などに対する財政支援が必要である(詳しくは第20を参照)。

7 情報の徹底した公開

  住民参加の実質化には情報の徹底した公開が不可欠である。

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第13 審査会

(意見)審査会

1 環境影響評価手続の適正かつ円滑な実施を確保し、環境影響評価の結果を審査するために、行為者等や許認可権者とは独立した中立の地位にある第三者機関としての環境影響審査会を設置するものとする。

2 環境影響審査会の設置

  環境影響審査会として、国に中央環境影響審査会を置き、都道府県に都道府県環境影響審査会を置くものとする。市町村は、市町村環境影響審査会を置くことができる。

3 各環境影響審査会の管轄

  中央環境影響審査会は、国が審査主体となる行為についての環境影響評価について管轄し、都道府県環境影響審査会および市町村環境影響審査会は、地方公共団体が審査主体となる環境影響評価について管轄するものとする。

4 組織に関する事項と規則制定権

  環境影響審査会の組織に関する事項は、別途法令で、定めることとする。但し、環境影響審査は、その行う手続に関し法令の範囲内において規則を制定し、公布(告示)することができるものとする。

  なお、環境影響審査会の委員のうち3分の1は、住民あるいは環境保護団体の推薦する者から、選ばれるものとする。

  また、環境影響審査会のすべての文書および会議は公開とする。

5 環境影響審査会は、本法律に定めのある事項の他、別途法令によって定められた事項を行うものとする。

6 環境影響審査会は、その職務を行うため必要があるときは、公務所、特別の法令により設立された法人、行為者等、環境保護団体または学識経験者に対し必要な調査を求め、出頭、報告の提出もしくは必要な資料の提出を求め、委員もしくは事務局職員に対象行為の現場などに臨検し検査、調査させることができるものとする。

(理由)

1 独立した中立の地位にある第三者機関設置の必要性

  環境影響評価手続の具体的な運用、実施において、対象行為か否かの決定、評価実施計画書作成のための手続の主宰、準備書の縦覧・告知、意見書の受理、公聴会の主催、評価の審査と審査結果の送付・公表、そして事後評価の履行確保とその結果の行為への反映など、手続の開始から事後評価まで、その適正かつ円滑な履行を確保するためには、この手続に一貫して関与し、適切な指導、勧告、命令などをなしうる機関が不可欠である。

  特に、評価実施計画書作成手続において評価の項目の適正な設定によって、以後の評価手続を効率的にすすめることおよび行為者等が行う環境影響評価の結果について、これを公正かつ客観的な立場で審査し、環境保全の観点から当該行為についての適切な意見表明をすることはこの制度の効率的かつ実効的運用のうえで欠かせない。

  また、住民参加との関係で、関係地域の住民やその他専門家、環境保護団体などから手続についての意見をその都度受けて、適正な手続運営をするためにも当該機関の役割は大きい。

  このため、上記の審査、事務を担当する独立、中立な第三者機関として環境影響審査会を設置するものとする。

2 国と地方公共団体の審査会(意見の2項および3項)

  第4にみたように、国と地方公共団体で所轄を分配したので、国の権限に基づき手続を所轄する審査会として中央環境影響審査会を、地方公共団体の権限に基づき手続を所轄する審査会として、都道府県に都道府県環境影響審査会を設け、市町村もその必要に応じ、市町村環境影響審査会を設けることができるものとした。

3 環境影響審査会の組織に関する事項

  環境影響審査会の組織に関する事項は、別途法令(地方公共団体の条例・規則も含む)で定めることとした。ただし、手続に関する規則制定権は法で定めるべきである。

  所轄、委員選任・任期、委員会の権限、委員の地位などは以下のとおりとしてはどうかと考えている。

1) 環境影響審査会の委員は、学識経験者のうちから、各30人以内をもって任命するものとする。

2) 委員の任期は3年とする。ただし再任されることができるものとする。

3) 環境影響審査会の委員長は委員の互選によるものとする。

4) この法律に規定する環境影響審査会の委員および職員は、公務に従事する職員と扱うものとする。

5) 環境影響審査会にその事務を処理させるため、事務局を置き、事務局長のほか職員を置くものとする。

6) 環境影響審査会の委員長および委員は、公務員の欠格条項に該当する場合を除いては、在任中、その意に反して罷免されることがないものとする。

7) 環境影響審査会の委員長および委員は独立してその職権を行うものとする。

  ただし、既存のわが国の制度でも、上記に類した第三者機関による環境影響評価の審査が実施されているものもあるが、審査会の構成、審査方法などの点で開発側に偏しており、その公正さに疑問が出されることが多くあったことも否定できない。

  従って、委員は上記の委員資格を有する候補者の中から選任するとしても、定員の三分の一は、住民あるいは環境保護団体の推薦する者の中から選任するルールを確立することが必要である。

  また、手続の公正さを担保するうえで、審査会のすべての手続と文書を公開のものとすることが必要である。

4 審査会の臨検・調査権

  審査会としては、その権限を実施するうえで、独自の調査権限をもつ必要がある。

5 審査会の権限

  審査会の権限は前述のように多岐にわたるが、本意見書で審査会の権限として定めたものは以下の通りである。

 1)環境影響評価免除の決定(第5

 2)対象リスト以外の行為についての環境影響評価実施命令の発行(第5

 3)評価実施計画書作成手続の主宰(第8

      案の受理

      案の告知・縦覧

      意見書の受理

      協議の場の設定

      行為者等に対する意見

 4)準備書の縦覧・告知(第12

 5)準備書に対する意見書の受理(第12

 6)公聴会の主催(第12

 7)評価手続と内容についての是正勧告・是正命令(第12

 8)評価の審査と審査結果の送付・公表(第14

 9)事後評価の履行確保とその結果の行為への反映(第16

 10)評価後の時間経過、評価条件・要因などの変化の場合の環境影響評価実施の命令(第17

 11)専門家依頼の費用の支出(第20

 12)臨検・調査の権限(第13

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第14 環境影響評価書の審査

(意見)環境影響評価書の審査

1 環境影響審査会は、その所属する主体の所轄する環境影響評価手続において作成された環境影響評価書をすみやかに審査し、その審査の結果とその理由を記載した審査書を作成する。

  前項の審査結果には、調査、予測、評価のやり直し・追加、行為の中止・変更についての勧告を含む。

2 環境影響審査会は、環境影響評価書の審査にあたっては、最低以下の観点を考慮するものとする。

 a この法律および関連法令を遵守しているか。

 b 手続が公正かつ民主的に実施されたか。

 c 行為者等の調査・予測・評価に関する情報が十分か。

 d 行為者等の調査・予測・評価に関する情報が信用しうるものか。

 e 行為者等の評価または報告結果の内容が科学的で合理的か。

 f 過去の同種の行為に係る環境影響評価の検討結果に照らして適正か。

3 環境影響審査会は、環境影響評価書の審査にあたって自ら調査することができる。

4 環境影響審査会は、環境影響評価の手続における地域住民、環境保護団体、専門家などの意見を尊重して、審査書にこれらの意見を反映させなければならない。

5 環境影響審査会は、審査書を、環境庁長官または地方公共団体の長、免許などの権限を有する者、行為者等に送付するとともに、公表しなければならない。

(理由)

1 審査会による審査書の作成

  審査会は、審査が終了したときには、審査の結果とその理由を記載した審査書を作成しなければならない。

  審査の結果としては、第2項に定めた審査の視点などからみて、当該評価書における調査、予測、評価が、適切になされたかどうか、適切でないとした場合行為者等としてはさらにどのような調査、予測、評価をすべきか、調査、予測、評価を検討し直した場合、行為についてどのような措置がとられるべきか(中止・変更すべきか、特段の環境保全対策がとられるべきか)などといったことについての意見が含まれるべきである。

2 審査の視点

  どのような観点から審査を実施するべきか最低限の要素を示した。

3 審査会は評価書の審査のためのために独自に調査をすることができるとすることが必要である。

4 人々の参加の権限

  環境影響評価制度における住民参加の重要な位置づけからみて、審査会の審査にあたっては、関係地方公共団体、関係地域の住民や専門家、環境保護団体など多くの人々の意見が十分に斟酌され、審査には反映されるべきである。

  東京都条例など同様の趣旨を定めた条例もある。

5 環境影響審査会は、審査の結果を、各関係当事者の判断に影響を及ぼすために、環境庁長官または地方公共団体の長、免許などの権限を有する者、行為者等に送付する。また、当然公表すべきものである。

  審査結果は、次の第15の通り、a 主務官庁の許認可にかかる場合は、「横断条項」によって審査結果は、許認可手続に反映され、b それ以外の場合でも、環境庁長官・地方公共団体の長の許可に要する場合には、その手続に反映される。

  それ以外の場合には、行政的な拘束力はないが、調査などのやり直しや行為の中止・変更の勧告が審査結果には含まれるので、それを行為者等や主務官庁に送付することによって、行為者等の意思決定に反映させることとする。

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第15  許認可・行為者等の意思決定への反映

(意見)許認可・行為者等の意思決定への反映

1 いわゆる「横断条項」の規定

  免許などの権限を有する者は、免許などに当たって、当該免許などに係る法律の規定にかかわらず、当該規定に定めるところによるほか、当該環境影響評価の審査への結果を併せて判断して当該免許などに関する処分を行うものとする。

2 環境庁長官または地方公共団体の長の許可の規定

  前項に定める行為以外の行為で、環境庁長官または地方公共団体の長が環境に重大な影響を及ぼすものとして政令または規則で定める行為については、環境庁長官の許可または地方公共団体の長の許可を要するものとする

3 環境影響審査会と主務官庁・行為者等との協議などの規定

  環境影響審査会は、1および2の場合以外の場合でも、審査結果に基づき、主務官庁および行為者等に対し、協議を申し入れることができる。

4 公表の規定

  1および2に規定した許認可、3に規定した協議を行ったときは主務官庁などは、直ちにこれを公表しなければならないとする。

(理由)

1 環境影響評価の結果を許認可などに反映させることの重要性について

  環境影響評価制度は、一定の行為を行う場合にその行為が環境に及ぼす影響を事前に調査、評価し、もって良好な環境を守ろうとするものであるから、環境影響評価の審査の結果は、その行為の可否に反映されるものでなければならないことは言うまでもない。環境影響評価の審査を実効性あるものとすべきことは、環境影響評価制度に不可欠の要素である。

2 いわゆる「横断条項」について

  環境影響評価を実効あらしめるために、個別法に基づき許認可を要する行為について、環境影響評価の審査の結果をその許認可に反映させることが必要である。

  この点について、旧法案では「対象事業の実施に係る免許などを行う者は、当該免許などの審査に際し、評価書の記載につき、当該対象行為の実施において公害の防止などについての適正な配慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならない。この場合においては、当該免許などに係る法律の規定にかかわらず、当該規定に定めるところによるほか、当該審査の結果を併せて判断して当該免許などに関する処分を行うものとする。」(20条)と定めていた。

  このような、いわゆる「横断条項」は、諸外国の立法例にも見られるところであり、このような規定を設けるべきである。

3 環境庁長官などの許可の規定について

  個別法により主務官庁の許認可を要する行為については、前項のとおり横断条項により環境影響評価の審査の結果をこれに反映させるべきであるが、個別法による許認可は、各々の法の趣旨目的から主務官庁の許認可に係らしめているのであり、環境保全の見地からされている訳ではない。そのため環境保全の見地から見て極めて重大な行為が免許などの権限を有する者の許認可の対象とされておらず、環境影響評価の審査の結果をその行為の可否に有効に反映させえない場合が存することとなる。実際、届出制をひいている場合(一部の廃棄物処分場の建設など)や許認可も届出も要しない民間事業の場合(ゴルフ場開発など)は、横断条項によっては、環境影響評価の審査の結果を届出手続などに反映させるることは難しい。

  そこで、環境に重大な影響を及ぼす一定の行為については、個別法による主務官庁などに対する届出などとは別に、国が手続を所轄する場合には環境庁長官の許可を、地方公共団体が手続を所轄する場合には地方公共団体の長の許可を、それぞれ要するものとし、これに環境影響評価の審査の結果を反映させるべきである。

  諸外国では、フィリピンが同様の制度を設け、その制度の運用によって最近は環境保全の実効性を高めつつある。

4 環境影響審査会と主務官庁・行為者等との協議などについて

  主務官庁の許認可にかかる場合や環境庁長官などの許可にかかる場合以外の場合には、環境影響審査会は、第14の4項によって、主務官庁や行為者等に対し審査の結果を送付することによって、調査などのやり直しや行為の中止・変更の勧告を含む意見を、主務官庁や行為者等に対し、申し述べることになる。

  しかし、そのような場合に、主務官庁や行為者等がそうした意見を意思決定に反映させるとはかぎらず、そのような場合などに、環境影響審査会がその意見を意思決定に反映させるために、主務官庁や行為者等に対し、協議を行うことができるようにする制度を設ける必要がある。

5 公表の規定について

  環境影響評価の審査の結果に基づく主務官庁の許認可、環境庁長官または地方公共団体の長の許可、環境影響審査会と主務官庁との協議については、これを直ちに公表し、国民に知らせる必要がある。

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第16 事後評価

(意見)事後評価

1 行為者等は、対象行為の工事中および行為開始後、これにより生じた、または生じると予想される環境影響の状況について、別に定めるところにより事後評価を行うものとする。

2 行為者等は、環境影響審査会に、事後評価の内容、結果について書面で報告するものとする。

  また、環境影響審査会は、必要と認めるときはいつでも行為者等に対して事後評価の内容、結果について書面による報告をさせることができることとし、また審査会も自ら調査することができるものとする。

3 事後評価の報告書は、これを公表・縦覧するものとする。

4 何びとも、対象行為について、対象行為に係る環境影響予測と異なり、かつ環境保全の観点から是正の必要性があると認めるときは、その旨を環境影響審査会に意見を申し出ることができるものとする。

5 環境影響審査会は、事後報告書を受理したときまたは4項の場合、事後評価の結果について当該対象行為に係る環境影響評価の結果との関係で必要な分析および検討をなしたうえ、当該対象行為の停止、是正など必要な措置を行為者等に命じるべきと判断した場合には、行為者等に対し、当該対象行為の停止、是正など必要な措置を命ずることができる。

(理由)

1 事後評価とは、工事中や供用後の環境の状態や環境への負荷の調査、行為者等が行為についての計画や環境影響評価手続をふまえて実施するとした環境保全対策の実施状況およびその効果を調査することである。

2 事後評価の目的、必要性

  環境影響評価実施後も、次の事情から事後評価が必要性となる。

  a 予測の不確実さにともなう行為実施後の予測しなかった影響、予測を上回る影響などが生じた場合に必要に応じた対策、措置をとる。

  b 工事中、供用後の環境への負荷の状況を調査し、その後の環境対策に利用反映させる。

  c 行為についての監督官庁としては、予測の不確実性を前提として、予期し得なかった影響を検出し、必要に応じて対策を講じる必要がある。

  この事後評価が、環境影響評価手続と一体のものとして計画され実行されることにより、事後評価を考慮した環境保全対策の内容などの決定が可能となる。

そして事後評価により行為などの実施後の環境状況の収集、解析、その結果情報を広く公表することにより、環境保全対策の効果についての知見の充実、環境影響の予測手法の検証、制度の苦情、社会全体の環境配慮能力の向上に資することが可能となる。

  また、事後評価には環境影響評価を慎重にさせ、行為実施前の計画段階で環境保全対策のチェックを強化できること、予測できなかった環境影響を検証することができること、行為者等の環境保全対策を監視できるなどの利点がある。

3 事後評価の内容

  事後評価は、工事中の調査、行為実施後の調査をふくむ。

  特に、行為者等の環境保全対策が効果をあげているか、環境影響予測・評価の段階では予測できなかった影響、評価に不確実性がともなった影響などを重視して調査・評価するものとする。

  環境影響評価実施後、長期間実施または着工されない行為の場合や行為内容変更がなされた場合には、その理由を調査報告するものとする。

4 事後評価の方法

  行為者等が自ら調査し報告するものとする。環境影響審査会は、必要に応じて自らまたは住民などの意見に応じて関連調査を実施することができるものとする。

5 事後評価の報告書は、行為者等が提出したもの、審査会の調査によるものいずれも公表・縦覧し、これについて住民などの意見提出を認めるものとする。

6 環境影響審査会は、事後評価の結果にもとづき必要な分析、検討を加えたうえ、当該行為者等に対し環境保全を図るために当該対象行為の停止、是正など環境保全を図るために必要な措置を命じることができるものとする。

第17 環境影響評価後の時間経過、評価条件・要因などの変化

(意見)

1 環境影響審査会は、環境影響評価手続が完了した行為について、その後政令で定める期間経過後に至っても行為の着手または実施がなされていないものおよび環境影響評価における評価条件・要因などの変化があったものについては、改めてこの環境影響評価手続を実施すべきことを命じることができるものとする。

2 何びとも、環境影響審査会に対し、環境影響評価手続が完了した後政令で定める期間経過後に至っても行為の着手または実施がなされていないものおよび環境影響評価における評価条件・要因などの変化があったものについては、改めて、この影響評価手続を実施すべきよう命ずることを申し立てる権利を有するものとする。

(理由)

1 環境影響評価後、長い年月が経過し、行為の必要性や周辺環境の状況の変化、予測手法の発展といった様々な事情の変更がみられるにもかかわらず、古い環境影響評価のみで、行為実施にあたる例も散見され、問題となってきている。

  環境影響評価実施後一定期間(例えば5年以上)経過した場合やそれにいたらずとも環境影響評価における評価条件や要因などの変化があった場合(例えば、阪神大震災の結果、従来の耐震基準の大幅な見直しがされた場合や行為実施がされないうちに当初の環境影響評価の前提となった環境の改善が実現されないことが明らかとなった場合ー具体的には道路建設問題における大気汚染の基準実現においてよくみられる)には、審査会の権限で環境影響評価の再実施を命ずることができるとすべきである。

2 また、環境影響審査会がその命令を発するよう求める権利を国民に与えることが住民参加の観点から望ましい。

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第18 不服申立・訴訟

(意見)

1 何びとも、第15、1項に定める環境庁長官または地方公共団体の長の許可があったことが公表された日から3カ月以内に、環境庁長官または地方公共団体の長に対し、その許可の取消を求める異議申し立てをすることができる。

2 異議申し立てが棄却された場合には、環境庁長官または地方公共団体の長を被告として、その許可の取消を求める訴訟を提起することができる。

3 前項の訴訟は、評価対象行為に関する民事訴訟または行政訴訟の提起を妨げない。

(理由)

1 環境影響評価についての違法があった場合の権利救済・是正の方法について

  環境影響評価を公正で民主的なものにするためには、環境影響評価について手続上または内容上の問題があった場合に、その是正を求めるための権利が、関係地域の住民や専門家・環境保護団体などにあたえられなければならない。

  その権利救済・是正のための制度としては、行政上の不服申立制度・抗告訴訟の制度と民事上の差止請求訴訟を活用する方法と両方が考えられる。

  アメリカ合衆国においては、民事上の差止請求において請求原因として環境影響評価手続の違法および内容の違法を主張し、差止を認めることが判例法上確立しており、具体的な判断基準についての判例も集積している。日本でも、環境影響評価制度を法的に確立させることによって、民事上の差止請求において請求原因として主張することは可能になるものと思われ、その制度を権利救済および環境影響評価の手続上および内容上の違法の是正に用いることは可能である。

  また、第15において、環境影響評価の審査の結果が許認可の要件とされるために、当該許認可決定に対し、環境影響評価の手続上および内容上の違法を理由として、行政訴訟(取消訴訟など)を提起することも可能である。

  しかし、民事上の救済は、性質上、手続が全部終了した時点になるうえに、関係地域の住民でない専門家や環境保護団体にどこまで原告適格が認められるか、計画などについての差止がどの程度認められるかといった日本の今までの判例法上の問題が存在する。

  また、取消訴訟などの行政訴訟についても、原告適格の問題と処分性の問題があり、民事上の救済手段とほぼ同様の問題が存在する。

  日本弁護士連合会は、環境問題についての原告適格や訴訟対象の拡大などを現状よりも広く認めるべきことは現行法でも十分に可能であり、そうすべきであるという立場に立ち、その趣旨の提言もたびたびしてきた。アメリカ合衆国はもちろん、日本と同様の大陸法系のドイツなどでも現実にそのような法的解釈で制度運用がされてきている。

  その方向で現行法の解釈を変更し、民事上の救済の可能性や行政訴訟上の救済の可能性をより拡大することによって、環境影響評価における違法について権利救済や是正の方途を拡大することは十分に可能であると考えられるが、それと並行して、環境影響評価制度の中で、独自に行政上の不服申立制度を設け、それに関連して独自に行政訴訟を提起することを可能とする道も開くべきである。

2 環境影響評価制度独自の行政上の不服申立制度

  評価対象とするかどうかの判断の段階、スコーピングの段階、準備の縦覧・告知、説明会、公聴会の各開催段階、評価書の提出段階、審査会の審査の段階、環境庁長官などの許可の段階など、様々な段階で、環境影響評価の内容または手続上の違法が問題となりうる。

  そのすべての段階で、行政上の不服申立権を認め、すべて行政訴訟の提起を認めるべきだとの意見もある。これは違法の是正および権利救済に重点を置いたものであるが、この見解によると、手続があまりにもしばしばストップすることになりかねず、妥当ではない。

  行政上の不服申立権は、環境影響評価手続を最初のスクリーニングで免除された場合と手続の最後の段階(環境庁長官などの許可の段階)で、認められるとするのが相当である。

  最後の段階での不服申立権については、内容上の違法はもちろん、それまでの手続上存在するあらゆる違法が請求原因になると考えるべきである。

  なお、これについては、違法が存したらその都度是正を求めたほうが、無駄な手続を省くという点で効率的ではないかとの意見もあると思われる。もっともな意見であるが、この点については、審査会に対する人々の是正勧告の要請という手続を設け、手続の主宰者である審査会をして、適切な是正措置を適宜行っていくようにさせたほうが現実的であると思われる(そのためには、審査会そのものの民主制、独立性、中立性を高める必要があることはいうまでもない)(→第13)。

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第19 制裁措置

(意見)

1 環境影響評価手続を実施すべきなのに実施しないで行為を実施した場合、行為者等が環境影響審査会の命令に反した場合や環境庁長官などの許可の対象となる行為について許可がなかったときに行為実施をした場合など、手続または内容上に重大な違法があったときには、当該行為者等を処罰する規定を設けるべきである。

2 処罰の方法としては、懲役を含む刑事処罰とすべきである。

(理由)

1 環境影響評価制度において、本来環境影響評価を実施すべきなのに全くそれを行わなかった場合、行為者等が環境影響審査会の命令に反した場合(第12第16の是正命令に反した場合など)や環境庁長官などの許可の対象となる行為について許可がなかったときに行為実施をした場合など、手続または内容上に重大な違法があったときには、刑事処罰をすべきとすることによって、重大な違法行為を防止する必要がある。

  環境への影響は不可逆的であり、また、その影響が地球規模に及ぶ可能性のある今日においては、前述した場合のような重大な違法行為については厳罰をもって対処すべきであり、それが国際的要請でもある。

2 その厳罰の必要性からみて、刑事処罰の内容は懲役を含むものとすべきである。

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第20 環境影響評価の基盤の整備

(意見)環境影響評価情報センターの設置など

(国・地方自治体の責務)

1 国は、環境保全目的を達成するため、環境影響評価を支える基盤の整備に関する総合的な施策を策定し、およびこれを実施する責務を有する。

2 地方公共団体は、国の施策に準じて施策を講じるとともに、当該地域の社会的、経済的状況に応じた環境影響評価を支える基盤の整備に関する施策を策定し、およびこれを実施する責務を有する。

(環境影響評価情報センター)

1 国および都道府県は、環境影響評価の調査研究および情報の収集・提供に関する施策を講じるため、環境影響評価情報センターを設置する。

2 環境影響評価情報センターは、現在および過去の環境影響評価に関する報告書ならびに関連する資料・情報・文献の収集、記録、保存、整備を行うとともに、それらを公開しなければならない。

3 環境影響評価情報センターは、累積的な環境影響評価を把握するために、必要なバックグランド、公害などのモニタリング、生物の生息状況など多様な自然環境の状況についての情報・資料の収集、記録、保存、整備を行うとともに、それらを公開しなければならない。

4 環境影響評価情報センターは、新しい調査・予測手法など環境影響評価の技術手法および環境保全対策の技術手法に関する国内、国外の情報・資料・文献の収集、記録、保存、整備を行うとともに、それらを公開しなければならない。

5 環境影響評価情報センターは、その収集した情報・資料・文献のすべてを整理して公開登録台帳を作成し、これを何びとに対しても公開して閲覧に供し、要求に応じて無償で写しを交付し、かつ、通信ネットワークによってこれらを提供しなければならない。

(専門家依頼権と調査実費請求権)

1 何びとも、環境影響評価の検討に関して専門家を依頼する必要があるまたは自己の調査に多額の実費を要するときは、その指定する専門家を付することまたは調査の実費を支払うべきことを環境影響審査会に請求することができる。

2 前項の請求があったときで、環境影響審査会が必要と認める場合は、住民に専門家を付し、その必要経費を支払い、あるいは調査の実費を支払う。

3 環境影響審査会は、前項で要した費用を行為者等から徴収しなければならない。

(理由)

1 住民参加は環境影響評価制度の基本的な要素をなすものであるが、この住民参加を効果的かつ効率的にすすめるためには、情報の公開が前提となる。

  また、調査・予測・評価という環境影響評価手続きの進行にあわせて、住民が自主的に実施する調査検討に対する技術的、財政的支援を整備しておくことが必要である。

2 このため、過去の様々な環境影響評価の調査計画書、準備書、それについて出された意見、評価書、行為実施後の調査・評価があるときはその事後評価報告書などのデータをきちんと整理して、だれもが容易に閲覧し、コピーできるよう整備することが極めて重要である。

  問題点を分析するにあたって、過去の資料は非常に役に立つものであるが、既存の制度では、環境影響評価関連情報の整備は不十分で、一部の情報(たとえば、電力行為についての環境影響評価情報)は非公開とされているなど情報入手ができないか、あるいは極めて困難である場合が多い。

  各都道府県に環境影響評価情報センターを整備し、そこで環境についての基礎情報、その他の技術的情報、さらに過去の環境影響評価の情報を整理して提供できるようにすべきである。

3 技術面では、住民側が環境影響評価の進行にともなう調査・予測・評価などの内容、結果を検討するために、専門的知見をもった専門家に依頼することが必要となることが多い。住民が広く専門的、技術的知見を得て、意見の提出など環境影響評価手続きに積極的に参加することは、制度の実効性を向上させ環境影響評価の公正さを確保することになる。

4 財政面では、上記の専門家依頼にともなう諸費用、その他住民が環境影響評価手続きに関連して実施する自主的な調査、検討に要する費用などについての財政支援

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