はじめに
あらゆる生命の母体である自然と良好な環境は、最善の方策をとることによって保全され、世代をこえて承継されなければならない。いったん破壊されるとその回復が極めて困難となる自然と環境に関する人間の諸活動は,それが許容する限度内でおこなわなければならない。したがって、影響をおよぼす行為について、事前に環境配慮を十全につくすことは環境保全施策の根幹をなすものである。
また、いまわが国では、薬害防止や公共事業のあり方など国民生活に関係するさまざまな分野で、行政主導による非公開のもとでの意志決定、政策の選択にともなう人権侵害や財政の不正が明らかにされてきている。これらの問題をつうじて、行政手続きや行政による意志決定を多くの人々の参加と公開の手続のもとで行うことの重要性と必要性が改めて強調されてきている。
環境影響評価制度は、環境に影響をおよぼす諸活動に関する意思決定にさきだって、住民参加と情報公開のもとで、代替案の検討を含めその活動の実施にともなう環境影響を調査、予測および評価し、環境保全に配慮した最善の意思決定をすることを目的としている。
日本弁護士連合会は、1970年代から、環境影響評価制度を確立することは環境保全施策として最優先の課題であると位置づけ、1975年12月に「環境影響事前評価制度の確立に関する意見書」を公表し、その中で「環境保全政策法試案要綱」を示したことをはじめとして、それ以降も環境保全に関する多くの意見書のなかでも実効性のある環境影響評価法の早期制定を政府に対して求めてきた。
しかし、わが国の既存の制度は、環境影響評価の理念やこの制度によって達成しようとする政策目標があいまいであること、その多くが行政指導によるものであり、手続・内容においても、行為実施が前提となっていること、代替案の検討が要求されていないこと、環境配慮項目が狭く一部の規制されている公害項目や限定された自然環境項目に限られていること、住民参加と情報公開が不十分であることなど良好な環境保全をはかるという制度の実効性からみて重大な欠陥を有している。
また、事前の影響予測の不確実さを検証し、その結果を行為や当該地域の環境管理計画に反映させるために必要な事後監視と監視も義務づけされていない。
このような現状のなかで、政府は多くの国民の要求を受け、また環境基本法(平成5年11月制定)で、国の施策について環境配慮を組み込むこと、個別行為について環境影響評価の推進を図ると定めたことをふまえて、いま環境影響評価法の制定作業をすすめている。
良好な環境保全の確保を目的とした環境影響評価法制を確立すべきことは、すでに国際的な要請となっている。環境影響評価制度を法律で定め、環境保全を進めている国は、すでに60ケ国を越え、とくにOECD加盟国27ケ国中、環境影響評価の実施を定める法律をもたないのは日本のみとなっている。
実効性のある環境影響評価制度の法制化は、かねてより多くの国民が強く望んでいるところである。
このような状況にかんがみ、我々は、政府に対し、わが国の環境施策の根幹をなす環境影響評価法の制定に際し、良好な環境保全の確保に向けた環境保全施策をより充実させるとともに、様々な意思決定過程の透明性を高めていくために、この意見書に指摘した手続、内容を盛り込んだ実効性のある環境影響評価法を早期制定を実現することを求めて、以下の内容の意見を表明する。