はじめに
わが国で環境影響評価制度の必要性が具体的に採り上げられたのは、1972年6月の「各種公共事業に係る環境保全対策について」の閣議決定であった。それから現在までの25年間、わが国の環境影響評価制度は、国の閣議による要綱、地方公共団体の条例または要綱によって実施されてきた。しかし、これまでのわが国の環境影響評価制度については、事業実施を前提として環境配慮を検討するなど多くの欠陥があり、評価の信頼性と環境保全の実効性が確保される統一的な制度の確立が強く求められている。また、国際的にも地球環境の保全についての関心が高まるとともに、各国が環境影響評価法を制定し、具体的な環境保全対策を実施することが要請されている。
このような状況下にあって、環境影響評価法の制定が今通常国会の具体的な日程にあがってきている。すなわち、政府は、環境影響評価法案づくりに向けて、平成9年2月10日付で中央環境審議会の答申「今後の環境影響評価制度の在り方について」(以下、「中環審答申」という)を受け、この3月11日までに環境影響評価法案を国会に提出する予定になっている。
日本弁護士連合会は、公害を防止し良好な環境を保全することは、人間の尊厳を確保することであり、すぐれて人権擁護に資するものであるとの立場から、一貫して実効性ある環境影響評価制度の確立を求め、かつ提言してきた。また当会は、平成8年10月、今回の環境影響評価法の制定作業に反映させるために、わが国の既存の制度が克服すべき事項や環境影響評価の国際的水準をふまえながら、環境保全という目標の達成に向けて実効性ある環境影響評価制度を確立することを求めた意見書「環境影響評価法の制定に向けて」(以下、「日弁連意見」という)で、制度の目的、理念など20項目にわたる提言をし公表した。
しかしながら、現在環境庁が作業を進めているとされる環境影響評価法案(要綱案)づくりの基本となる中環審答申の内容を検討すると、事業計画の早期段階から環境影響評価を開始し、スクリーニング手続やスコーピング手続を導入すること、法律による統一的な制度とすることを明確にしていることなど評価すべき点もある。しかし、実効性ある制度を確立するという視点からみると、中環審答申の内容には、以下に指摘するように住民参加の位置づけ、評価の審査方法、地方公共団体の環境影響評価制度との調整などの点で制度の根幹にかかわる重要な事項において不十分さがあるばかりか、法律の規定の仕方いかんによっては、これまで不十分ながらも実績を積み上げてきた地方公共団体の環境影響評価制度の運用が大きく制限されかねないという重大な問題が含まれている。
そこで、本意見書は、上記の日弁連意見の提言内容を環境影響評価法に盛り込むべきことを基調としつつ、仮に、政府において中環審答申の内容、わく組みの範囲で環境影響評価法案づくりを進めるとしても、日弁連意見の趣旨が最大限盛り込まれることを求めるものである。
環境影響評価法案(以下、「法案」という)に次の手続、事項が盛り込まれることを求める。
環境影響評価の対象行為すべてについて一つの法律による統一的な制度を定めること
環境影響評価制度の理念、目的を明確に示すこと
行為地が国外であると国内であるとを問わず、対象行為を拡大すること
代替案の提示を義務づけること
実施時期は、行為について中止、変更が可能な時期とすること
環境影響評価の調査に着手する前にスコーピング手続を実施すること
調査・予測・評価の項目を広く採用しうるものにすること
評価は、必要かつ適切な項目について、環境影響を回避し最少化するという視点から確実に実施すること
住民等が、手続きの開始時から事後のフォローアップ手続まで、いつでも実質的に参加し得る手続とすること
評価の審査の客観性、信頼性が確保される手続きにすること
環境影響評価の結果が、許認可等に確実かつ適切に反映され、環境影響評価の結果が許認可等の判断でどのように扱われ反映されたかを公表すること
評価後のフォローアップの結果を評価し、その結果を確実に当該行為の見直し等に反映する手続きを定めること
国の制度は、地域の特性に基づく地方公共団体の環境影響評価制度の実施を促進しつつ運用実施すること