ジョヴァンニ・ピッキ作曲 パッサメッツォ・アンティコ

Giovanni Picchi/Pass'e Mezzo (antico)
(Intavolatura di Balli d'Arpicordo, 1621)


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 ジョヴァンニ・ピッキは,16世紀後半から17世紀前半にかけて生きた人であろうと 考えられているが,その生涯については殆ど知られていない。ピッキの作曲は, 器楽アンサンブルの曲集を1巻と,鍵盤楽器独奏の曲集を2巻がイタリアで出版されており, そのほかにイギリスで編纂された「フィッツウィリアム・ヴァージナルブック」の中に 1曲だけ,彼の作曲したトッカータが含まれている。中でも鍵盤楽器独奏曲集のうちの 1巻は特に独創的でエキサイティングな曲が多数収められている。今回紹介する 「パッサメッツォ・アンティコ」は,その最初に収められている曲である。

 「パッサメッツォ」とは,ルネサンスからバロック期にしばしば用いられた一種の ハーモニックパターンで,ロマネスカやフォリアなどのハーモニックパターンと近い 関係にある。パッサメッツォにはアンティコとモデルノの2つの変形があり,モデルノが どちらかといえば長調的な響きをもつのに対して,アンティコは短調的な響きをもっている。

 パッサメッツォ・アンティコの例として恐らく最もよく知られているのは 「グリーンスリーブス」であろう。またこのほかにもルネサンス期の舞曲にはパッサメッツォ・ アンティコがベースになっているものが沢山ある。


 そんな中で,ピッキの「パッサメッツォ・アンティコ」が最もスケールが大きく, 最もエキサイティングなものの一つであることは疑いない。曲は6つの変奏から 成っているが,グリーンスリーブス等,他のパッサメッツォと比べて,はるかに一つの 変奏が長く,しかも各々の変奏が極めて新しいセンスにあふれたパッセージを含んでいる。 冒頭から,決然とした印象の曲想が聞き手を引き付ける。

同じ根音を持つ2つの小節をつなぐ低音部の独特なパターン

や,独特な根音の跳躍のパターン

がこの曲の和声進行を強く印象づける。このようなパターンは,ピッキの他の パッサメッツォや,同じ時代のファコーリのパッサメッツォにも見られる。

 最初の変奏("Prima Parte")の終止形に出てくる装飾音には,一瞬我が耳を 疑ってしまうであろう。

この悪魔的ともいうべき驚異的な終止形は,殆ど現代音楽を思い起こさせるものがある。 これはこの後の変奏でも更に3回登場する。筆者が想像するところ,ピッキは,彼自身の曲や, ひょっとすると他の作曲家の鍵盤曲を弾いているときにも,しばしば即興的にこの終止形の 装飾音を使ったのではないだろうか。
 この後の5つの変奏では,即興的な速い装飾音形をともなったヴィルトゥオーゾ的な部分と, どちらかというとリラックスした,ゆっくりとした部分とが交代で現われ,聞き手を常に 引き付ける。最もエキサイティングな部分は,例えば第3変奏("Terza Parte")に現われる, 非常に長い16分音符が連続したパッセージが登場する部分であろう。
 一つのハーモニックパターンを繰り返すという,ある意味で簡単な構造の曲でありながら, この曲は最後まで聞き手を飽きさせることがない。そして最後は,やはり非常に印象的な コーダでこの曲が締めくくられる。


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