King's Call(Tribute for Phil Lynott) (Jan 4,1996, Dublin)
Part 7
どのくらい待ったのだろうか。再び例のロゴが点滅を始めた。さっきのエリック・ベルのときに比べると、光量が多くて明るいような気がするのだが、気のせいか?
暗かったステージに人影が現われ、客席からの大歓声と同時に「JAILBREAK」が爆発した!
そう、日本公演と同じオープニングだ。
サイクシーの声は今まで聴いた中でいちばん調子がいいように思える。1曲目からギターは弾きまくるわ、歌の途中で「COM'ON!」と客を煽るわ、「BREAK OUT!」 と叫ぶわ、やることすべてがハイテンション。それでいて上っ調子なところは感じられない。
しかし、どうも変な気分だ。観客というよりも、まるで自分の子供のデビューを見ているように、他の観客の反応を気にしてしまう。日本で一度見ているから、まわりの人達と反応レベルが違ってしまってるらしい。
きのうのTVで、アイルランドでのサイクシーの無名さが感じられたから、かばうような気持ちになってるのかもしれない。2曲目は「WAITING FOR AN ALIBI」。うんうん、いい調子。
始まりのギターも、日本公演のときにはフラフラしたこともあったけど、きょうはばっちり。スコットとマルコのコーラスもビシッとキマって、胸がどきどきしてくるほどかっこいい。サイクシーのヴォーカルは、まるでフィルがのり移ったかのようだ(これは決して大げさではない。この日のライブを生中継していたラジオのパーソナリティは、番組の最後に本気で「ジョン・サイクスのヴォーカルは実によくやった!」と褒めていた)。最後のツインギターも決まった! スコット、やる気になればできるんじゃない。
ライブが始まってからここまで、当然立って腕を振り回しながら見ていたのだが、とうとう係員に注意された。この会場では指定席の客は立ってはいけないのだ。やっぱりスタンディングに行けばよかったか。
今からでも下の階へは行けると思うが、やはり見えないだろうなあ。現に、そこのカップルは下で見えなから上がってきて、空いた席にちゃっかり座ってるわけだし。仕方がない。座ったままで首を振ろう。
サイクシーは黒の長袖シャツに黒の革パンツ、スコットは黒のTシャツの上に黒地にケルト模様のようなプリントが入った長袖シャツを腕まくりしてはおり、黒のスリムジーンズをはいている。ダーレンは白い長袖のシャツ。ブライアンは黒地にプリントのある袖なしTシャツ、マルコは素肌にベストとジーンズ。
「次はEMERALD」 と告げると、ひときわ高い歓声が上がる。そう、これは美しいアイルランドを歌った曲なんだものね。スコットと並んでのツインギターからサイクシーのギターソロへと入ると、スクリーンに彼の姿が大写しになる。黒ずくめのせいかほっそりと見えて、豊かな金髪を振り乱して顔をのけぞらす例のポーズでギターを弾く彼の姿は、やはりとても美しい。私の近くにいた女性客は残らずスクリーンの彼に釘づけになっている。
日本公演でもそうだったけど、きょうはよりいっそう余計なMCはない。曲名を告げるだけで次の「COLD SWEAT」へ。少しテンポが速いかも。ただでさえ速いギターが入るのに、疾風怒涛のように駆け抜ける感じで終わってしまう。
うん?そうか。落ち着いてみえるけど、意外にあがりまくってるのかもしれないなあ、サイクシー。でも、そのほうが余計なことを考えずに歌と演奏に集中できている感じで、客席の反応はすこぶるいい。ここで余計なMCを挟んだり、妙に凝ったギターソロを延々と続けたりしたら絶対に反感を買うに決まってるのだから。
スコットはいつもとおんなじ。この人って、あがるとか緊張するとかってことがないのかもしれない。なんかいつも呑気でヘラヘラふざけてるような感じがしてしまう。フィルもゆうべのTVでのインタビューで、スコットの陽気なアメリカンぶりについて言っていたような気がするけれど、彼のそういうキャラクターって、THIN LIZZYの中にあってひとつの救いだったんじゃないだろうか? なんにせよ、私はそういう彼が好き。
マルコは、さすがに極力目立たないようにしていて、いつもの怪しい腰つきも目につかない。というか、ほとんどライトも当たってなかったのかも。
「DON'T BELIEVE A WORD」が終わると、ようやく挨拶をする余裕ができたらしく「HEY! HEY! HEY! THANK YOU!! WHAT A WONDERFUL AUDIENCE YOU ARE」などとお世辞を言っている。
次は「THE SUN GOES DOWN」 だ。これはきのうのTV番組にもBGMとして使われていたから、後期の作品の中でも案外知られているのかな、と思っていたのだけれど、やはり「RENEGADE」以降の曲は知名度が低いと思う。スローテンポだったこともあって、サイクシーが首をくんくん振りながらギターを弾く姿に女性の熱い視線は集まったものの、ここで会場のテンションが少し下がってしまった。