King's Call(Tribute for Phil Lynott) (Jan 4,1996, Dublin)
Part 3
などと考えているうちに場内が暗くなり、大きな歓声があがった。ステージには短めの髪を後ろで縛った、小太りの中年男性が登場した。きょうの総合司会のようだ。この人がフィルの旧友で、今回のイベントの中心人物でもあるスマイリー・ボルガーかな? 彼はフィル・ライノットと発音してた。
しかし、当たり前だけどMCがほとんどわからない。来日公演だとみんなわかりやすくゆっくり発音してくれてるし、言おうとしていることは大体こちらの予想のつくことばかりだかりだからなんとかなるのだが、英語圏に来てしまうともうまるでダメ。次に登場するミュージシャンの紹介すら聞きとれないんだもの。すっごいショック。
オープニングは若い男性(DAMIEN DEMPSEY)がギターを抱えてひとりで出てきた。アコースティックのフォークソングっぽい弾き語りで1曲(WILD ONE)。お祭り騒ぎを期待していた観客は、ちょっととまどった感じで、静かなまま終わる。
暗くなったステージにスポットライトがひと筋当たり、前奏が始まると、そこには「LIFE」のジャケにあるような、両足を大きく開き、ベースを高く掲げたフィルの姿が! と思ったけど、そんなわけはなくて、どうやらこれはTHIN LIZZYのコピーバンドらしい(イギリスのLIMEHOUSE LIZZY というバンドだそう)。「KILLER ON THE LOOSE」 を歌うヴォーカルの人は、声とスタイルはまあまあ似ているけど、顔と髪型はどちらかというとポール・スタンレー。ギタリストふたりも、あまりグッドルッキングではない。ただし、ステージングはさすがにそっくり。2曲目の「BABY DRIVES ME CRAZY」なんて、合間に入るメンバー紹介や観客との掛け合いなど、本物そっくり。これでTHE POINT のテンションは一気に高まった。
司会のスマイリーが「レコード会社の思惑がどうなのかは知らないけれど」みたいなことをごちゃごちゃ言ってから紹介されて登場したのは、いかにも「アイルランドの母!」という感じの、貫禄たっぷりの女性歌手(BREE HARRIS)。ひょっとしたらアイリッシュトラッドの大御所なのかも?
ギター伴奏の若い男性をひき連れ、自分もギターを弾きながら「KING'S CALL」 を歌った。これがもう「熱唱!」と表現するのにふさわしい歌いっぷりで、思い入れたっぷり。私なんかシャイな日本人だから、ちょびっと照れてしまったのだけれど、観客はやんやの喝采で、心の底から感動しているのが肌で感じられた。
英語ができないのをつくづく悲しいと思ったのは、次に登場した男性(EAMON CARR)が詩を朗読したとき。きっとフィルが書いたTHIN LIZZYの曲の歌詞だと思うんだけど、よく聞きとれないし、元の歌詞をきちんと覚えていないから、メロディがついていないと何をやっているのか見当もつかない。CAROLINE とかLOVEとかSWEET とかいう単語が聞こえたような気がするんだけど、ひょっとして「CAROLINE」という曲はなくても、彼女に捧げた曲があって、それを朗読したのかしら?
朗読のあと、そのままその男性はステージに残り、バイオリンや民族楽器を持った人たちがたくさん出てきてバンドの形になった(TOSS THE FEATHERS with EAMON CARR)。あの手に持って短いバチで叩く太鼓 BODHRAN(なんて発音するんだっけ?)のリズムで、アイリッシュトラッド風にアレンジした「SITAMOIA」と「VAGABONDS OF THE WESTERN WORLD」が始まる。これが実にかっこよくて、あの太鼓のリズムって、ブライアン・ダウニーのドラミングの原点になってるんだなあ、って気がしてきた。
すっかりほぐれてなごんできた聴衆の前に現われたのは、華奢な感じの若い男性(MARK DIGNAM)ひとり。少し脚をひきずりながらマイクの前に立つと、いきなりアカペラで「CATHREEN」を歌い始めた。それほど上手なわけでもないし、あまりにも唐突だったので、みんな、かなりあっけにとられはしたけれど、きちんと手拍子を打って応援してあげるのはアイリッシュらしい暖かいおつきあいか。が、次に続けて「SARAH」 が始まると、会場からは今度はごく自然に大合唱がわき起こった。わあ、なんだかすごい迫力。私はこの日初めての鳥肌状態になっていた。