SHOH's LIVE REPORTS

King's Call(Tribute for Phil Lynott) (Jan 4,1996, Dublin)


Part 1

[KING'S CALL]
10TH ANNIVERSARY VIBE FOR PHILO 4 JANUARY 1996
VENUE:POINT DEPOT, DUBLIN, IRELAND
DATE:THURSDAY, 4TH JANUARY 1996
TICKETS:16.75(SEATED)/15.75(STANDING)

その日も朝から雨だった。ダブリンに着いてから、朝起きると雨が降っているのが日常になってはいたけれど、この日は特に降りが激しくて、いっときの休みもなしに降り続けている。ひょっとしたらコンサートの前には晴れてくれるかもしれない、という期待も裏切られた。

ほんとうは少し早めに行って、会場の様子を見ようなどと思っていた気持ちも萎えてしまい、軟弱な私は開場時間30分前にタクシーを呼んでくれるようゲストハウスのお姉さんに頼んだ。

「THE POINT まで? きょうは何があるの?」
「フィル・ライノットの追悼コンサート」
「フィル、誰ですって?」
「フィル・リノットよ」
「ああ、きょうなのね。楽しんできてね」

そう、アイルランドの人にはフィル・ライノットと言っても通じないことが多い。なぜかみんなリノットと発音するのだ。前日見たTVの追悼番組で冒頭に流れた、フィルの死を告げるラジオのニュース・アナウンスでも「フィル・リノット イズ デッド」とはっきり言っていた。

タクシーの運転手にも、フィル・リノットで通じた。今夜のコンサートのためにはるばる日本から来た、と言うと、くるっと後ろを振り返り(おいおい危ないって)、いきなり「WHISKEY IN THE JAR」を歌い出す。

ロックなんて聴きそうにないおじいさんだったけど、この曲は元々はトラッドだから、アイルランド人なら誰でも知ってるのかもしれない。

「THE POINT は、倉庫を改装した建物だけど、とてもいいホールだよ。楽しんでおいで。帰りは人が大勢いるから歩いても帰れるさ」
「ありがとう、おじさん」

タクシーを降りた正面はパブになっていて、ホールへの入口は見当たらない。みんながぞろぞろ行く裏の駐車場のほうに回っていくと、あったあった、人の列がどんどん入口に吸い込まれていく。

急に気がせいてきて、あわてて列の後ろにつき、ボディチェックしているお姉さんに「チケットを電話で予約したんですけど」と言うと、あ、それならあっちで引き換えよ、と端のほうにある小屋を指さした。もう1度列の外に出て小屋の外の列に並び直す。けっこうたくさんの人がいたので、開演時間に間に合わなくなったらどうしようと心配になったけれど、意外なほどすいすいと列は進み、私の番が来た。

「名前は?」と聞かれたので答えると、手元のボックスの中を一生懸命見ているが、みつからない。不安になってくる。なにしろ英語もろくにできないのに、行きたい一心で日本から電話したのだから、うまく予約がとれてない可能性だって充分あるのだもの。

「これかしら? でも、スペルが……」

渡された封筒の表には、頭文字だけは合っているものの、とても人間の名前とは思えないアルファベットの並びが記されていた(^^;)。

「そうだと思いますけど……」
「クレジットカード持ってきてるでしょ? 見せてみて。ああ、だいじょうぶ、同じ番号だから。これがあなたのチケットよ」
「ありがとう!」

また走って列に戻ろうとすると、ガタイのいいお兄さんに押しとどめられる。

「あんたはあっち」

え? どーして? 人種差別かしら、と思いながらよく見たら、その列は男性専用でボディチェックをするのが男性だった。あわててお姉さんのいる列に並び直したが、結局は「缶や瓶は持ってないわね?」と聞かれただけでボディチェックはなし。日本人は暴れないものね。


つづく

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