Def Leppard Live in Sheffield (Nov 14,1996)
PART 6
再びサヴにスポットが当たり、ベースの音が響き出す。ドラムが合わせる。手拍子が始まる。"HYSTERIA"だ!
暗いステージに赤とピンクの中間みたいな色の照明が当たり、曲に合わせて動いている。日本公演のときは確か青っぽい光で、海の底にいるような気持ちになったんだけど、ライティングもこっちでは全然違うのね。どちらかというと、こっちのほうが地味で暗いような気がする。でも、ライティングなんてほんとはどうでもいい。私たちが見たいのは派手なバリライトやバックドロップなんかじゃなくて、彼らそのものなんだもの。
この曲を聴くと、私が初めて彼らのライブを見たときのことを思い出してしまう。ちょうどこの曲が大ヒットしてMTVでかかりまくった頃の来日だったせいもあるんだろうけど、代々木の2階席からステージを見降ろしてこの曲を聴いたときのことが脳裏にパーッと甦ってしまうのだ。
あのときはまだHRを聴き始めたばかりで、メンバーの名前も知らなければ、『HYSTERIA』以外のアルバムも聴いたことがなかった。あれから8年たって、いまこうしてイギリスまで見にくるほど彼らが好きになってしまっているなんて、あの頃は想像もしなかったなあ。
フィルのギターソロに酔いながらそんな感傷的な気分にひたっていたら、次の曲のイントロが始まってしまった。リックがシンバルを叩き、ギターの音が流れたとたんに女の子たちの「きゃあ〜!」という悲鳴のような叫びが響きわたった。私たちも思わず顔を見合わせ、次の瞬間抱き合ってしまった。
"WHEN LOVE AND HATE COLLIDE"! それもオリジナル・ヴァージョン。日本公演でアコースティックでずっとやっていたからこの曲はあまりにもキーが高過ぎて、もうライブでオリジナル・ヴァージョンは無理なのかと思っていた。ジョーの声に負担がかかりすぎるなら、それも仕方がないかとあきらめていた。それなのに、それなのに……聴いているうちに私の目からは涙がポタポタと流れ落ちてきた。うれしいのにどうしてこんなに泣けるんだ。
さっきまで手を振り上げながら大声で歌っていた日本人が、急に微動だにせずに涙を流し始めたので、まわりの人たちはさぞかし不気味だったんじゃないだろうか。
ジョーの歌はとてもやさしかった。アルバムで聴く切ない感じをさらにふっきれさせて、もうとことん相手のために生きてやろうと決意した男の優しさを感じさせるような歌い方。高い部分も完璧に歌っている。
会場は完全にジョーの歌に酔っていた。彼がマイクを両手でつかみ、体をふりしぼるようにして"CRAZY! CRAZY!" と叫んだときには、1万2千人も一緒に"CRAZY!" と叫んでいた。ほんとにクレイジーだ。ところどころでライターの炎が揺れている。そして、最後のフレーズを長くのばして歌いきったジョーに大きな拍手が送られた。