SHOH's LIVE REPORTS

Def Leppard Live in Sheffield (Nov 14,1996)


PART 5

「今度はアルバム『SLANG』からの新しい曲だよ!」

ヴィヴにスポットライトが当たり、ガギギギギギというギターの音が弾ける。これだけで"WORK IT OUT" だとわかってしまう。昔からのファンに新譜の反応はどうかしら、などと少し心配していたのなんてまったくの杞憂に終わり、サビの部分ではステージのコーラスをかき消すほどの大合唱が。もちろん隣りの女の子も大声で最初から最後まで歌っている。

途中の間奏に入る部分でジョーが「り〜っく・さべ〜じ!」と叫ぶと、すっと前に出てきて、頭を振りながらベースを叩くように弾くサヴの姿がスポットライトの中に浮かび上がる。キャア!かっこいい!

すぐに続けて同じく『SLANG』からの"DELIVER ME"。アルバム『SLANG』 に関しては、私は日本公演の前と後ではとらえ方が大幅にちがってしまっている。公演前には頭で聞いている部分が大きくて、あまりにも変わってしまったLEPPS にとまどいながら、なんとかついていこうと必死になっていたように思う。が、実際に彼らのステージを見て、この"DELIVER ME"をはじめ何曲かを聴いたあとでは、アルバムを聴くたびに心の奥深くまでしみこんでくるようになって、もうこのアルバムなしでは生きていけないほど捉えられてしまっていたのだ。こんな経験は生まれて初めてだった。歌詞までじっくりと読んで、曲の意味を考えながら聴いたりもした。

『SLANG』 の曲は、どれもこれも歌詞が深くて、愛の歌はどこまでも甘く切なく、人生を歌った曲は時に絶望を感じさせるまでに鋭い。特にこの"DELIVER ME"ってなんだかとってもイギリスらしいというか、暗い曲だったから、ぜひもう一度、きちんとライブで聴き直してみたいと思っていた。しかも、そんな曲が生まれるのが自然に思われるこのイギリスの地で。

でもね、そんな私の思い入れなんて吹き飛ばしてしまうかのように、シェフィールドの客はあっけらかんと歌いながらこの曲を楽しんでしまってた。そうよね、なんだかんだ言ったって、「音楽は人々をエンタテインするためにあるんだ。人々の顔に微笑みを浮かべさせるために俺たちはやってるんだ」ってジョーも言ってたじゃない。

そう。それに気がついたのはジョーのパフォーマンスが日本公演のときとまったくちがっていて、ものすごくシンプルで飾り気のないものになってたから。日本公演では時に「キザ」と言いたくなるくらいスタイリッシュにきめてたジョー。もちろんそれはそれでほんとにスーパースターらしくてかっこよくて、そのために暑い思いを我慢している彼に感謝したのだけれど、でも、ここシェフィールドではとてもじゃないけど、そんなことはできないにちがいない。

あんなふうにかっこつけて歌ったりしたら、ライブが終わったあとで親戚や友達から何を言われるかわかったものじゃないもの。「おいジョー! なんなんだよ〜、あの気どりようは〜?」なんて言われちゃいそうじゃない?

まるで昔に返ったかのようにピョンピョン飛んだり跳ねたりしてるジョーを見ていたら、"HELLO AMERICA" のビデオクリップの頃を思い出してしまった。きっと彼自身もシェフィールドに帰ってきて懐かしい顔に囲まれてライブをしていると、気持ちがあの頃にタイムスリップしちゃうんだろうなあ。


つづく

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