SHOH's LIVE REPORTS

Def Leppard Live in Japan (June 18-22,1996)


PART 3

次の曲は1987年のアルバムのタイトルトラックだよ」

そう、そしてこの年、この曲で私はハードロックの世界を知った。"HYSTERIA"だ。この曲はいつどんな状況で聴いても感動してしまう。コーラスハーモニーも美しいけれど、フィルとヴィヴがシンクロさせて弾くギターのハーモニーが、信じられないくらい美しくて涙が出そう。"WHEN YOU NEAR" のあとのギターソロで背筋がぞくぞくするような感動に襲われ、しばらく金縛りにあったように聴きいってしまう。

サヴはもう汗びっしょりで、カーキ色だった半袖Tシャツが黒にしか見えなくなっている。襟がゆるんで広がってしまい、いまにも肩からずり落ちそうで、みょうに色っぽい。

ヴィヴは首をコクコク振りながら片足を上げたりして弾いている。前回はそうでもなかったが、今回の彼を見て感じたのは、自分のLEPPS での位置を確立したなってこと。最初の日のレポートでカマトトっぽい服装って書いたけれど、彼、DEF LEPPARDというバンドの中では「可愛いくてお茶目なヴィヴ」でいることに決めたような気がする。そして、そうしてくれているおかげで、昔の曲を聴いて思わずスティーブを思い出して泣きそうになる自分が、やさしくなだめられているような気がしたのだ。彼ってとても頭のいい人なのかもしれない。

最後の部分でフィルがステージに膝をついたまま後ろに倒れていき、最後の一音は背中をステージにつけたまま弾ききった。筋肉のついた裸の上半身に彫りの深い横顔、そして短い金髪。一瞬STING に見えてしまった。

"WORK IT OUT" が始まると、それまで静かな雰囲気だった照明もいきなりにぎやかになって、緑、赤、紫のミックスと青、赤、紫のミックスが交互に繰り広げられ、ものすごく華やか。途中でジョーがさっと腕を右に振り下ろすアクションを入れると、間髪入れずにサヴのベースが入って、それに合わせて緑と白のバリライトがストロボのように点滅するところなんて、最高にかっこいい。ジョーのブルーグレーの長袖シャツもすでに汗にぬれて黒っぽくなっている。背中なんて張りついてきてるが、それでも脱がずにがんばる。この曲はさすが日本でのシングルになっただけあって、コーラスのところは客席からも大きな声があがっていた。

(補) 特に22日の仙台ではすごかった。まるで昔からのヒット曲のように会場じゅうに厚いコーラスが響き渡って、メンバーも驚いたんじゃないかな。仙台のようにあまり来日コンサートがない所だと、みんな一生懸命予習してくるから、こういう結果になるんでしょうね。東京に住んでいて、日々の予定に追われてつい予習もせずにコンサートに臨んでしまい、結果として感動の薄いライブ体験になってしまうこともある私としては、大いに反省させられたことでした。
(補) 18日には、ジョーがギターソロのときにステージ右端にきてステージの端に腰をかけ、足をぶらぶらさせなていたのだが、そのままでは身軽に立ち上がれなかったのか、ころんとステージに1回横になり、それからごろっと向き直って起きていた。猫みたい。
引続きアルバム「SLANG」からタイトル曲の"SLANG"。これはファンキーな曲だから客席の盛り上がりも上々。「すら〜んぐ」と歌わせるところでは、客席の照明がパーッと明るくなってコーラスを要求する。途中のカウントはせっかくスペイン語を練習していったのに英語になってた。でも、まだまだ声が足りなかったぞ。

「ありがとう。次はHIGH AND DRYアルバムから2曲ほどやろう」

リックのドラムのカウントが入って始まったのは、うわぁ"BRINGIN' ON A HEARTBREAK"だ。前回ツアーでは1度もやらず、それが当然と思ってはいたけれど、永久に封印されたのではあまりにも悲しい。「VAULT」 に収録されていたのだから、やってくれるかもしれない、でも、実際に聴いたらどんな気持ちがするだろう、などと千々に乱れた気持ちでいたのだ。

ジョーの声はものすごく苦しそうだ。スティーブがどうこう言う前に、この曲彼にとって辛い曲なのかもしれない。それでも、コーラスが一生懸命にカバーしているのでなんとかもってるという感じ。特にヴィヴがものすごく一生懸命コーラスをつけているのが印象的だった。彼、途中のギターソロでよそに歩いていってしまい、コーラスのときにあわててマイクに駆け戻って歌うというシーンもみせてくれた。メインのギターソロはフィルだが、びよ〜んと伸ばすところはヴィヴ。全体の印象としてギターソロの音がやっぱりオリジナルはかなり違っていて、しかも短い。でも、逆にこれはこれでかえってよかったのかな、という気がした。少なくともこれを聴いて「スティーヴが生きていてくれたら」といった後ろ向きな悲嘆にくれた人はいなかったんじゃないかと思う。

最後の一音が長く伸びて、フィルが手拍子を煽る。うわあ、なんてことだ、"SWITCH 625"が始まっちゃったよぉ。まさか"BRINGIN' ON A HEARTBREAK"とこれを並べてくるとは……連中も人が悪いよなあ。初日なんて知らないところにこれをやられたから、あまりのショックと感動でしばらく固まってしまった。これはインストだから、ジョーは袖に引っ込んでしまっている。ともすると彼のほうに目が奪われがちな私としては、他のメンバーをじっくり見られるチャンスでもある。サヴは下を向いて首を振りながら一心にベースを弾いている。ほとんど顔が見えない。一度だけ、途中でヴィヴのほうに歩いていったときだけ、口許に楽しそうな笑みを浮かべているのが見えた。

最後にリックのドラムソロが少しだけ入り、ジョーが再び現われて「リック・アレン オン ドラムス!」と紹介する。立ち上がり、胸を張って右手を高く掲げ、四方を順番に向きながら歓声にこたえるリック。そして「ジャン!」とシンバルを叩くとドラム台を降りた。そう、次はアコースティックセットなのだ。


つづく

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