徒然草 6    


99年8月22日に埼玉県鶴ヶ島市で初演される吹奏楽、和太鼓、ソプラノ、児童合唱による

「FANTASIA」について、鶴ヶ島市長、編曲監修、作曲の3人による鼎談が行われました。

8月1日付け鶴ヶ島市報に掲載された記事の一部を鶴ヶ島市教育委員会のご厚意により転載します。

 

「FANTASIA 未来へ、そして子どもたちへ」

 〜 つるがしまをイメージした吹奏楽曲が誕生します 〜

 

 埼玉県鶴ヶ島市音楽連盟(会長 麻生幸作さん)は、市が昨年策定した「つるがしま緑のまちづくり

計画」に共感し、つるがしまの自然や歴史をイメージした吹奏楽曲を市にプレゼントする企画を

進めています。

この曲は8月22日の「夏休みファミリーコンサート」で披露されることになっています。

曲がほぼ完成した5月26日(水)、作曲者の川崎絵都夫さん、編曲監修・指揮者の福田滋さんと

品川義雄市長の3人に、作品のことやまちづくりのことなどについて熱く語っていただきました。

 

第1楽章 音楽に込めたふるさとへの思い

市長 この作品の構成を見て、ベートーヴェン交響曲第9番を思い浮かべました。序章は混沌から

秩序へ。第2楽章はつかの間の平安。第3楽章は人間の煩悩から生じる悩みや苦しみ。終章でそれら

が解決され昇華していくというところなどは、同じなのだなあと思いました。つるがしまの開拓の歴史

などは、まさに混沌とした土地に秩序を求めた先人の努力の結晶だと言えます。

川崎 ベートーヴェンは人類を想い、僕は鶴ヶ島市民を想って作曲しました。結局、人の生きる喜び

ということに想いを馳せると、同じような構成になるのかもしれませんね。

序章では、鶴ヶ島市がたどってきた歴史に思いをめぐらせていたら混沌としたイメージに結びついて

きたわけです。特に開拓の歴史の印象は強かった。第3楽章などは、そうした状況を思い、いくつもの

悲しみを乗り越えた人々が生きていく力を蓄えていく姿をイメージしてみました。人の生きる喜びという

ことに思いを馳せると、ある地域のことを極めて作曲しているはずなのに、結局普遍的に通用する人間

の生き方が見えてくるのだと思います。

福田 鶴ヶ島市独自の曲ですが、他の人たちが聞いても共感できる普遍性を持たせたかったわけです。

市長 我々がオセアニア民族造形美術品に共感を覚えるのも、音楽と同じように、どこか普遍性が

あるからでしょう。

川崎 オセアニア民族造形美術品は私も見学しましたが、他の民族の発想や境遇を突き詰めていけば

きっと普遍性が見えてくる。そういう民族の心に触れることで自分たちの生き方を振り返るきっかけ

ができる、そういう意味で鶴ヶ島市にはいいものがあると思いました。

今回の作品も鶴ヶ島市独自の曲なんだけれども、他の人たちが聞いても共感できる普遍性を持たせたい

ですね。

第2楽章 本当の美しさを求めて

福田 日本の吹奏楽団も外国で演奏する機会が増えましたが、せっかく日本からきてなぜ外国の音楽

をやるのかとよく言われます。それでしだいに日本の曲をやるようになってきて、日本の曲も外国で

出版されるようになってきました。

日本人は元々自分の国のことを前面に出すのが苦手な上に、オーケストラや吹奏楽は西洋音楽なので、

どうしても西洋指向になってしまう。だから技術だけでなく精神面を兼ね備えてないと、音楽が持つ

内面性をよりよく表現できないのではないでしょうか。

それと、どうしても人の耳が派手な曲に集中してしまうと、作曲する方も決してモーツァルト的という

意味ではなく、みんなが好む同じようなタイプの曲を多く作ってしまう。

川崎 一見きらびやかでも派手でもないが、みんなが必要と感じて生まれた音楽は美しく、また人の心

を打つのではないでしょうか。

市長 音楽も行政も地域の風土や住んでいる人々の感性が活かされないと、オリジナリティは出て

こない。日本人として、鶴ヶ島市民としての風格があってこそ、人々の心に訴えかける真善美が

生まれてくるのだと思います。気持ちを込めずにやった仕事は、どんなにきれいにまとまっていても、

それが伝わってこない。思いを込めてやった仕事は、結果はどうであれ、その思いが伝わってくるものです。

 

第3楽章 市民一人ひとりの関わりがまちを活性化させる

市長 21世紀は福祉・環境・人権の世紀だと感じています。他人を思いやる、かけがえのない自然を

守る、差別やいじめのない自由で平等な社会を実現する。これらを貫く根底には平和を希求する人間性

の回帰が求められている。この曲はまさにこうした想いとつながってきます。

川崎 鶴ヶ島市は阪神・淡路大震災の時に、被災地の一日も早い復興を願ってコンサートを開催しまし

たよね。あの時も関わらせていただいて、市長さんをはじめ、市民の方々の自然に対する考え方や他人

への暖かい思いやりの気持ちがとても強く印象に残っていました。

作曲家も自分の作品に思い入れがあれば、本当に人に伝えたいと思う。題名を一生懸命考える、楽譜を

きれいに書く、みんなにアピールする、そういうことを本当にまじめにやるものです。「みどりのまち

づくり計画」を読んでみて、本気でやろうとする姿勢が伝わってきました。

福田 この曲は、和太鼓や邦楽器で一般の人はもちろん、子どもの合唱や学校の吹奏楽部が参加する

ことで、年齢や分野の違う人たちが集うことができ、交流ができる、市民参加型の音楽によるまちづくり

が実現できる曲だと思います。外来の演奏家や有名な楽団が来ることも必要なのかもしれませんが、例えば

市民参加型のコンサートや異なった分野の演奏家たちの交流コンサートを盛んに行うことで、演奏者と

聴衆が一体となった雰囲気が醸成されれば、音楽をより有意義に活用できるでしょう。

一方的に与えるだけのコンサートを企画することは簡単ですが、手間と時間をかけた、みんなが参加できる

手作りのコンサートをひとつでも多く企画してもらいたいです。

この企画は、この曲のメロディがだれでも口ずさめるように広まっていくことが大きな目標と言えますが、

その重要な鍵をにぎっているのは、タイトルにもあるように子どもたちでしょう。楽譜を学校に配って

一回でも多く演奏してもらい、末永く伝えていってもらいたいですね。

市長 親しんでもらうためには、メロディが身近にあることが大切ですね。

 

第4楽章 音楽で彩るまちづくり

市長 将来子どもたちがまちを歩いていると、ふとこの曲のメロディを口ずさんでいるような、

音楽が身近にある文化を育てたいし、何よりそれに合った自然環境を守りたいですね。

川崎 昨年取材のため鶴ヶ島市を訪れ、晩秋の寂寥感ただよう雑木林を歩き武蔵野の面影を堪能し、

また、路傍の馬頭観音などを見ていたら、家族の安全や五穀豊穣の祈りを捧げていた人々の姿が浮かんで

きて、資料を見ながら蓄積してきたイメージと重なって、曲に込める鶴ヶ島市の印象が固まってきました。

曲は、雑木林を歩いた時の足の感触を思い出しながら、いただいた資料や写真を譜面台に乗せ、即興的に

作り始めたわけです。

こうしてモチーフをあたためては構成して作曲していく作業はとても楽しかったです。また、この曲は、

音楽的な完成度の高さだけでなく、学校や市のイベントなどのプログラムで、日常的に使ってもらえるよう

心がけ、実用的な曲にしたつもりです。実際に練習が始まったらぜひお邪魔します。

福田 それはすばらしい。曲のイメージを作曲者から直接聞ける機会なんてめったにないことですから。

これからの課題は、初演の成功はもちろんですが、その後どう展開させるかでしょう。

この曲がいつの日か鶴ヶ島市の誇りになるように頑張りたいと思います。

市長 みんなが関わり、参加していることを有意義に感じてもらえなければ、まちづくりに発展は

ありません。

今回の企画は、市民一人ひとりが持ち味を活かし、まちが光り輝いている、このようなまちづくりの

大きなきっかけとなるでしょう。音楽にはそういう力と人の感性に訴えるものがあると思います。

川崎先生、福田先生、そして関係者のみなさんの想いが込められたこの曲が、市民の心をひとつにした

まちづくりに役立って欲しいと願います。今日はどうもありがとうございました。

 

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