旅その18 オタモイ海岸のカモメたち(小樽市 1997年5月)

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小樽市の位置    今年も例によって、毎月のように札幌へやって来ている。その割にはどこへも出かけていない。
 仕事で来ている以上、そう都合良く週末に出張が重なるわけでもなく、またたとえ週末に運良くぶつかったとしても、そのたび毎にどこかへ足を延ばせるわけでもない。そこが「さすらいの旅人」に成りきれない「悲しいサラリーマンの性」というわけ。

 さて今年1998年も、ライラックが開花する季節に札幌を訪れていた。
 今年も5月23日から3日間「札幌ライラック祭り」が開かれている。そして今日は土曜日。丁度、祭りの真ん中の日。

 それにしても良い天気だ。「こんな良い天気にどこも行かないの?」と、どこからか聞こえてきそうだが、今日はどうしても帰京しなくてはならない。もっとも今日中に帰りすれば良いので、夕方の便でゆっくり帰ろうとは思っている。

 そんなことを思いながら大通公園までやって来た。今年はライラックの開花が早いそうだが、確かに去年と比べるとかなり暖かい。旅日記に以前も登場した(旅その9を参照下さい)ライラック祭りだが、去年はコートが欲しいくらいの気温だった。だが今日はスーツ姿で早足で歩いていると、少々汗ばむような感じだ。
 大通公園を離れ、駅に向かって歩く。とりあえず、コーヒーが飲みたい。
 駅に着いて、さっそく何度か利用したことのある喫茶店に入ったところで、「小樽にでも行って、寿司を食べてから帰るかぁ・・・でも、ちょっと面倒くさいなぁ・・・やっぱり、真っ直ぐ帰るか・・・」などと、この後の過ごし方を考える。
 そんなことを考えている内に、ふと思い出したのが小樽の祝津。「そう言えば去年も5月に小樽行ったっけ。小樽の祝津・・・あの旅日記も確か書くには書いたんだよな。だけど、"お蔵入り"にしたんだっけ・・・」
 思い出したら、急に小樽・祝津岬への旅が懐かしく思えてきた。あの旅を紹介しない手はない。急にそんな気がしてきた。

 「よし、帰ったら1年遅れになるけれど、旅日記にしよう!」

 ひょんなことから私の記憶に突然甦った小樽・祝津岬への旅。
 曇り空の肌寒い日。なんだ、ちゃんと覚えているじゃないか。
 波荒いオタモイ海岸。そうそう、乗る前は船酔いが心配で・・・。
 「お蔵入り」なんてもったいない。



 さて、ここからはちょうど1年前に戻る。
 当時書いた文章そのままの小樽・祝津岬への旅・・・



小樽駅前風景  今回も小樽。
 「小樽という町は"旅心"をくすぐるところがある町だ!」などと私が力説するまでもなく、誰もが北海道を訪れたなら、足を運びたいと思う町の一つだろう。
 さて私の状況はと言うと、またまた札幌へ長期出張に来ている。そして迎えた最初の日曜日が今日というわけで、私にとって「小樽の町を訪れる」と言うことは、一種の儀式みたいなものだ(笑)。

 昨日はかなり強い雨が降っていたので、「今日辺りは晴れるんじゃないの?」という下駄で予報するよりもさらに精度の低い予報を自分でしていたが、やはり世の中そんなに甘くはない。もっともこれは予報と言うよりも、私の淡い期待から出たのだが。
 もっとも雨はあがっている。曇り空ではあるが、幸い雨は降ってはいない。



 さて今回は小樽の市街地からちょっと離れた「祝津」に向かって路線バスに揺られている。道路は舗装こそされてはいるが、狭い道を縫うように走るので、本当に「揺られている」という気分だ。
 この路線バスは小樽駅前のバスターミナルから出ている。

 この祝津というところは、小樽の市街から日本海へ突き出した岬にある港町だ。この岬から小樽港にかけての海岸線にはいくつかの漁港があり、新鮮な魚を味わうことが出来る。
 祝津には、かつては東洋一(たぶん)と詠われた大きな水族館があり、札幌の小学生の(札幌以外も)遠足コースとしては定番の地だ。
 他にも「鰊御殿」という、やや名前が先行気味の歴史的建造物などがある。

 だが今回の目的は「旨いもの」と「船」。
 旨いものとは言うまでもなく、地場で取れる魚介類。船とはこの祝津から発着しているオタモイ海岸の遊覧船に乗ることだ。
 たびたび札幌に出張するようになってから、祝津を訪れるのはこれで2度目。最初に訪れた時は夕方近い時間だったため、船に乗ることは出来なかった。いわば、今回はそのリターンマッチ?みたいなものだが、今日の天候ではリターンマッチに失敗するかも知れない。

 さてバスは終点に到着。ここでバスを降り、まずは祝津灯台へ。



焼きニシン・・・旨そうだ!  ところで・・・白状してしまおう。この「北海道・行きあたりばったり旅日記」は「一人旅」が基本。だが実はこの時点では、一緒に出張に来ている同僚が一緒だ。で、祝津が初めてという同僚のため、とりあえず祝津岬の灯台へと向かったわけだ。
 しばらく灯台付近の展望台で過ごし、鰊御殿はパスして再び戻って来て入ったのは、お待ちかねの「青柳食堂」。ここは民宿も併営している食堂で、このような食堂はこの辺りに数軒並んでいる。
 店先では「さあ、どうだ!」と言わんばかりに炭火で巨大なニシンを焼いていたりする。

 片っ端から食べたい物を注文する。当然ビールも欠かせない。
 ツブ貝焼き、イカゴロ焼き(腸と一緒に焼いた大きなイカ)、ヤリイカの刺身(4月〜6月季節限定)、ウニ丼(なんとウニが一折/ホタテ貝のみそ汁付き)、生ホタテ丼、ハッカクの刺身(八角形の胴体を持つ、ちょっとグロテスクな感じの魚。身は白身だが脂がすごくのっている。好きな人には最高なのだろうが、私は苦手)などなど・・・二人じゃ、とてもじゃないけど食べきれない(と言いながら、すべて綺麗に食べたけど)。

 しばらくの間、海の幸を堪能し、ほろ酔い気分・・・と言うよりも、かなり酔いが回った状態で(これは私だけ。同僚はケロリとしている)店を出た。



祝津港風景 オタモイ遊覧船  さてここからは、「水族館を見たい」という同僚と別れ、正真正銘の一人旅。

 遊覧船の出発時刻を見に行くと、次の出船まで40分ほど時間があるようだ。今の状態で船に乗ると、間違いなく船酔いしてしまいそうだから、酔いを醒ます時間としてはちょうど良いかも知れない。もっとも、「船酔いしないコツは先に酒に酔うこと」という酒飲みの言い訳のような説があるらしい。真偽のほどはわからないが。

 遊覧船は釣り船程度の大きさのようだ。遊覧船が着く場所も漁港の突堤のようなところで、「もしかしてこんな波の高い日は欠航するんじゃないか?」と心配になってくる。船酔いよりも欠航を心配するなんて余裕があるように思えるかも知れないが、これは酒に酔っているため。冷静な状態だったら、引き返す気になっているかも知れない。
 この船はここ祝津からのオタモイ海岸の遊覧と、祝津〜小樽港間を運行している。その気になれば小樽港から船で祝津に来ることも出来るのだ。

 そんなことを考えながら港に入ってくる漁船を眺めて過ごす。
 少し天候は回復しつつあるようで、薄曇りの状態。漁港特有の魚と潮の混じったような匂いが漂う。「なんか旅してるって感じだよなぁ」と思う。

 やがて遊覧船が到着。
 降りる客が10人程度。私と一緒に乗り込む客は5人。
 ここから1時間程度でオタモイ海岸を一周して、再びここへ戻ってくることになる。



港の外へ! 海より祝津岬の灯台と鰊御殿  船が突堤を抜けた途端、いきなりすごい勢いでジャンプする。
 「おお〜い!この船はいつからジェットボートになったんだぁ〜!」。
 それほど波が高い。それでも沖合に出るに連れて、徐々に細かい揺れが少なくなる。変わって大きなうねりのような揺れに変わる。

 私はあまり船に強い方ではないと思っている。20年ほど前に青函連絡船に乗ったときには、体調が不良だったこともあり、ひどい船酔いになったことがある。それ以降も何度か船には乗っているが船酔いしたことはないので、本当のところはわからない。だがその時の記憶がかなり強烈で、それ以来、船が苦手なのだ。

 大きな波を一つづつ越えながら、船は岬の先端へ回り込んで行く。
 先ほど同僚と行った灯台近くの展望台を、今度は海から眺める。海から眺めて初めて岬の下にポッカリと穴が空いていることを知った。
 少々肌寒いが、船室にいるよりも風に当たっている方が気持ちが良い。その方が「酔わないんじゃないかな」という気持ちもある。



オタモイの岸壁風景(1) オタモイの岸壁風景(2)  やがて観光ポイントまで来るとテープの説明が流れ出す。最近はこの手の「味気ないガイド」が多くなった。別に女性ガイドを乗せろと言うつもりはないが、生の声で説明してもらうのとでは、やはり雰囲気が違う。いっそのことパンフレットなどを貰って、それを読む方が気が利いていると思う(でも、船酔いしちゃうかな?)。
 いや、そんな説明はいらない。通り一遍のそんな説明よりも雄弁な「断崖絶壁」という景観が、実際の目の前に広がっているのだから・・・

 さっきまで「なんで、俺は船に乗っちまったんだ・・・」と思っていたのに、何だか嬉しくなってくる。たまに顔にまで飛び散ってくる波頭も気にならない。口にこそ出さないけど、内心「すげぇ、すげぇ!」を連発している(だって、いい年をした男が、しかも一人で「すげぇ、すげぇ」って言っていたら、気味が悪いでしょう?)。
 断崖絶壁の風景というものは、陸からではその迫力のすべてを掴むことは出来ない。

 海に浮かんだ洞門のようなところまで来て「おお、積丹が見えるじゃん!」と喜び、「次はいよいよあそこくぐるんだな」とワクワクしていると、「あらっ・・・」。無情にも船は手前で折り返し・・・。

オタモイの岸壁風景(3) オタモイのカモメたち  往きは海岸線の景色に気を取られていたが、周りを見渡すとカモメが船を取り囲むように飛んでいる。見ると、おじさんがせんべいのようなものを海に向かって放り投げている。カモメたちは器用に空中でその餌をくわえる。
 船の中ではカモメの餌が50円(だったと思う)で売っていて、一緒に乗船した家族連れが買っていた。
 なるほどカモメたちもこの船が来ると餌にありつけるということを知っているようで、これもこの遊覧船の売り物なのだろうなぁ。

 それにしても器用だ。動く船から投げられるフラフラと飛ぶ軽い餌を、水面に落下する前にうまいこと口でパクリとくわえ込むのだ。
 しかしよく観察していると、何度も餌にありつくカモメもいれば、タッチの差でいつも逃してばかりのカモメもいる。その様子が何だか面白く、ちょっぴり悲しい。
 もっとも、同じ姿のカモメが無数に飛び回っているわけで、同じカモメなのか自信はないのだが。そしてそんなことを考えると同時に「カモメってなんで白いんだ?」などと、全然関係ないことも考えていた。



再び祝津へ  船は相変わらず揺れているのだが、もう全然気にならない。船酔いのことなんてすっかり忘れている。再び灯台が見えてくる頃には、「もうおしまい?」という気になっていた。

 遊覧船は再び船着き場に到着。下船しても何だか身体が揺れている感じだ。

 見るとすぐ近くにカモメが停まっている。「何か餌になるものないかな」とポケットを漁るが、タバコぐらいしか出てこない。いくら何でもタバコが餌になるわけがない。
 「今度は"カッパエビセン"持参で来るからな」と思いながら、その場を後にした。



 この後、再び水族館前からバスに乗り小樽駅に戻り、小樽からは高速バスで札幌へ戻ることにして、バスターミナルに向かった。
 この時思いついて、同僚に電話をした。
 「今、どこ?」「今ねえ、石原裕次郎記念館・・・」
 札幌駅からは北大の中を散策して夕方までのんびりと過ごし、夜にはまた同僚と合流して、本日2回目の酒を飲んだ。

 普段の休日と違って出張中の休日は、一日がとても有意義でとても長い。



 さてさて、1年前の祝津岬の旅の話はここまで。



 札幌駅の喫茶店。頼んだコーヒーの最後の一口を飲みほした。

 晴天の札幌。気持ちがよい新緑の季節だ。何だかもったいない・・・そんな気がしてくる。
 「やっぱり、どこかへ足を延ばそうか・・・」

 夕方まではまだ時間がある。


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1999.6.16 Ver.5.0 Presented by Yamasan (Masayuki Yamada)