旅その17 静々とイルミネーションの町(夕張市 1997年12月)

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札幌市の位置  札幌はイベントが多い町だ。一年中、何かしらのイベントが行われているように思える。
 これは札幌という町が180万人に近い人口を有する大商業都市であると同時に、「観光都市」としての性格も有していることに因るかも知れない。碁盤目上に区切られ整備された町並み。空き缶や紙屑が目立たない美しい通り。そして、北海道らしい澄んだ空。そんなところに惹かれてか、毎年多くの観光客が札幌の町を目指す。

 札幌を「北国のロマン溢れる町」と呼んだ人がいる。確かに本州以西の多くの都市とはまた違った印象を持つ町かも知れない。雑多な雰囲気にドキドキするのではなく、透き通った雰囲気にワクワクするとでも言おうか。

 だがそんな札幌にも観光的にウイークポイントの時期がある。
 毎年、秋の観光シーズンを終え、初冬から雪祭りが始まるまでの期間は、どうしても観光客が減少するらしい。
 ホテルなども11月に入ると一斉にディスカウント料金になる。ホテルによっては夏のハイシーズンの半額に近い場合もあるほどだ。
 この時期は雪が降ったり止んだり・・・一日の内で目まぐるしく天候が変わる。朝晴れていたと思って、急いで着替えて外に出てみると、もういつの間にか雪が降っていたりする。
 こんな天候を繰り返して、やがて12月の中旬頃から降る雪が根雪となって行く(例年だと)。
 だが観光客は「どうせ来るなら雪祭りの時期」と考える。スキー客は「長期の休みが取れる正月休みは料金が高いし、混雑している。ならば、積雪状態も安定する2月頃」と考える(たぶん。私の想像だけど)。
 そんな辺りにも、この時期観光客が減少する要因があるような気がする。



 この時期にもイベントが行われている。もう今年で17回目となる「ホワイトイルミネーション」だ。
 観光客を誘致するためだけに開催しているわけでもないだろうが、開催の時期も「11月下旬から1月上旬」という辺りからも「なんとかこの時期の観光の目玉に」と考えて始めたのではないかと邪推してしまう。

 だが、そんなことを考えずに「"白い季節"の訪れを告げるセレモニー」と考えると、それはとっても美しくロマンチックなイベントとなる。そう邪推はいけない。素直な気持ちで光のハーモニーに「ウットリ」とすれば良いのだ(笑)。

 ・・・というわけで、今回はそんな季節のイルミネーションの町を。



ホテルの窓より中島公園方面  「ホワイトイルミネーション」というぐらいだから、やはり雪がある方が断然雰囲気が出る。だが、私が札幌に来る直前まで町中に雪は全然無かったそうだ。運が良いのか?私が訪れる前夜から雪が降り始め、札幌の町は白い世界になっていた。
 仕事を終えて、例によってかなり酒が回った状態でホテルに向かって歩く。途中、雪が圧雪されていないところで足を取られながら歩くとき、「ああ、札幌も本格的な冬になったんだなぁ」とあらためて思った。

 さて翌日。
 今回もいつもの通り、中島公園近くにホテルを取っていた。この周辺はススキノにも近く(ススキノの南に中島公園がある)、中心部に出るにも歩いていけるロケーション。そのためかこの界隈にはホテルも多く、またコンビニも多いため何かと便利で、最近は短期の出張の場合、いつもこの辺りのホテルを利用することにしている。
 泊まっているホテルからは中島公園が、そして車道が見える。
 夜中にまた相当な量の雪が降ったようだ。昨日にも増して雪が多い。

 これから札幌駅まで行くつもりでいるが、せっかくだから雪景色の中歩いていこうと思った。



朝のすすきの 夜のすすきの  新雪の道ばかり歩いていては、今私が履いているごく普通の革靴ではたまらない。結局、ロードヒーティングされている道路を歩くことにした。
 歩きながら「とあるホテル」を探す。
 実は今回ある人から「"村上春樹"の"羊をめぐる冒険"という小説に登場する"いるかホテル" を探して」と依頼を受けていた。正確に言うと、「小説の中のホテルのモデルとなったホテルが、この中島公園周辺にある」らしいと言うのだ。そこで多少探偵気分で、キョロキョロしながら歩いていると言うわけだ。だが私はその小説を読んでいないし、手掛かりも「地味なホテルらしい」ということだけなので、最初から見つかるとは思っていない。

 結局キョロキョロしながら歩いているせいで、転びそうになること数回を繰り返している間にススキノまで来てしまった。
 ここでホテル探索は中断。またいつものペースで歩き出す。
 いつの間にか快晴に近い青空になっている。



朝の大通公園 夜の大通公園  「どうせだから、駅までの道、少し寄り道して行こう」と思い立ち、まずは修復なった札幌時計台の前まで来る。札幌時計台は、もう何年か前から修復作業に入っていてガラスケース?に覆われて中に入ることが出来なかった。今でも中には入れないようだが、覆いは取り除かれていたので全体を見ることが出来た。お色直しされているので、何だか真新しく、歴史的な重みが薄れたような気がしないでもない。
 この札幌時計台は人に聞いた話では「日本3大ガッカリ観光名所」(正式な言い方は忘れてしまった)とかで、来てみて「なぁ〜んだ」とガッカリする観光名所のベスト3に入っているらしい。
 他には高知の「はりまや橋」ともう一つ(これも忘れてしまった)。なるほど、はりまや橋を見て私もそう思った。橋の欄干しかないのだから・・・。
 だが時計台については異論がある。確かにテレビなどで見ているより、実際に見てみると小さく感じる(事実小さい)のだが、こちらはちゃんとした建物であり、中も本来ならば見学できるようになっているのだ。そして何よりも、この時計台が札幌市民のシンボルであり、札幌市民憲章などでもちゃんと登場する札幌市民にとっては思い入れの深い建築物なのだ(別に高知の"はりまや橋"がそうではない、と言う意味ではない)。

 さて少々いきりたったところで(笑)、次は赤レンガの道庁を目指す。



改修なった時計台 赤レンガの道庁  道庁自体ももちろん良い雰囲気なのだが、私はその道庁正門から垂直に延びる銀杏並木の道も気に入っている。もちろん今の季節は銀杏の葉は完全に落ちているのだが、特に秋に銀杏の葉が色付く季節には、その一角だけ異国情緒が感じられて好きなのだ。

 道庁の門をくぐると、思っていたより多くの観光客が写真撮影などをしていた。

 さてこの後、私は札幌駅まで向かうのだが、いきなり時間は夜に飛ぶ。



 「さっぽろホワイトイルミネーション」は大きく分けると二つの会場に別れている。
 一つは大通会場で、大通西1丁目から12丁目まで、つまりは大通公園全体が会場となる。もう一つが駅前通会場で、これは札幌駅前(北5条)からススキノ(南4条/正確に言うと、このススキノと言う地名はない)に至る駅前通りだ。

 会期も異なり、今年の場合、大通会場が11月21日から1998年の1月7日まで。駅前通会場の方は11月21日から1998年の2月11日まで続く。これは雪祭りのため、大通公園がその準備を始めなくてはならないためだろう。

さっぽろテレビ塔  とりあえず大通公園の一丁目に向かうことにした。
 時間が早いせいか、人の数が比較的多いような気がする。
 雪は降っていないのだが、その分寒さが厳しい。手袋をしていない状態で手を出しているとかなり辛い。耳も冷たさを通り越して痛いような感じだ。
 だが「冷たいから」と言って、ポケットに手を突っ込んで歩くと転倒時にはかなり危険を伴うので(顔面で受け身をしなくてはならなくなる)、我慢して歩く。

 2丁目ではイベントをやっていた。今年、Jリーグ昇格が決まった「コンサドーレ札幌」のイベントだ。
 この辺りは人の数も多く、にぎやかな雰囲気に溢れている。
 大通会場では「丁目」ごとにそれぞれテーマを掲げ、そのテーマに沿ったオブジェが光りきらめいている。ちなみに2丁目は「宇宙広場」で3丁目が「クリスマス広場」、4丁目が「北の自然広場」、5丁目が「光のふれあい広場」という具合だ。
 でもテーマなんて、見ている方にはあまり意味がない。その光の瞬きに、イルミネーションの輝きに素直に「綺麗だ」と思うだけで、幸せな気分に浸れるのだから。



スズランのオブジェ 光る帆船のオブジェ  ここ4,5年の間、毎年のようにこのイルミネーションを目にしている。毎年見ていると、この会場できらめくオブジェが、実は毎年同じ物だということに気が付く。そして開催時期ではないときには、これらのオブジェはどこにあるのか。そのうちのいくつかが例えば、羊が丘展望台に飾られていたりする。

 そんなことを思い出しながら歩いていると、ふと2年ほど前の出来事を思い出した。
 その日は今日とは違って雪が降っていた。寒さは今日以上だったと思う。
 ライトを消灯する時間(たぶん10時頃?)に近い頃だった。
 この大通公園を通り掛かって、なんとなく大通公園を歩き出した。いつも目にしている割には、あまりゆっくりと見た記憶がない。そう思って、のんびり歩いていた。

 時間が遅いせいか、それとも雪が降っているせいか、人の数は少なかった。
 適当なところで腰をおろして、オブジェを眺める。一人でそんなことをしているのは私ぐらいだ。周りはカップルと観光客と思えるいくつかのグループだけ。

ライラックのオブジェ  決して誰も話をしていないわけではない。
 グループは声高に話をしていたはずだし、恋人たちもひそひそとお決まりの「綺麗ねぇ」「君の方が綺麗だよ」をささやき合っていたに違いない。
 だが一瞬、静寂の時間が現れた。物音の聞こえない静々としたイルミネーションだけの時間。降る雪が光を反射し、ゆっくりと舞い落ちている。
 身体の芯からジーンとしてくるような静寂な一瞬だった。光が瞬くだけの音のない時間。
 たぶん、確かに「一瞬」だったのだと思う。相変わらず車はエンジン音を立てて走っているし、どこからか笑い声も聞こえてくる。

 そんなことを思い出すと、急にまたあの瞬間に立ち会いたいような気がしてきた。それにはこの辺りは人が多すぎる。
 そう思って、どんどん西に向かって歩き出す。



光の森広場  西6丁目までやって来た。この辺りまで来ると人の数も少なくなる。
 だがそう都合良くあの瞬間に立ち会える訳はない。しばらくそこに立っていたが、そんな瞬間は訪れない。ただこの辺りまで来ると、先ほどまでの喧噪も嘘のような感じで、落ち着いた感じに浸ることが出来る。
 何だかさっきまで思っていたことが急に気恥ずかしく思えてきて、急いでその場を離れることにした。

 また4丁目まで戻ってきた。
 カップルに写真撮影を頼まれる。
 後ろのオブジェを入れて、撮影して欲しいのだろうが、立ち位置がまずい。もう少しオブジェから離れて立つか、もっと広角レンズのカメラを渡して欲しい。だが説明するのも面倒だし、そこまでしてあげる義理もない。こちらは冷たい手を、出来るだけ露出させないでいたいのだ。
 「はい。いいいですかぁ〜」
 フラッシュが光らない。オブジェに露出が合ってしまったようだ。「それでもいいかぁ・・・」とも思ったが、いくら何でもちょっと可哀想だ・・・と今度は急に優しい気持ちになって、「あのぉ、光らなかったみたいなのでもう1枚撮りましょう」と言って、今度は慎重に撮ってあげた。向こうが動く気がないようなので、わざわざ私の方が動いてあげて、オブジェと人がバランス良く写るようにしてあげる。
 でもきっと後でDPEから上がってきた写真を見て「なんだ、オブジェがちょっとしか入っていないじゃないか。頼んだやつを間違えたなぁ」とか言い合うに違いない(笑)。

 歩いていると、また捕まった。私はどうも写真撮影を頼みやすいタイプなのかも知れない。いや一人で歩きながら私も写真をパチパチしているので、そのためかも知れない。
 いずれにしても、このままここにいるといつの間にか、にわか「写真屋さん」になってしまいそうなので、すぐに退散することにした。



駅前通会場のイルミネーション  駅前通りまで来て、最後にもう一度オブジェを眺める。
 オブジェの光が瞬いているように見える。
 ふと、「あの時も音が消えたわけではなかったのかも知れない」と思った。
 そう、その時の気持ちの状態で、そこは静寂な場所になる。「静々としたイルミネーションの時」はもしかして私の中にあったのかも知れない。その時の心の中はハッキリとは思い出せないのだけど。

 さて、冷え切った身体にはお酒。身も心も暖めるにはお酒。
 馴染みの店で身体を暖めてから、仕上げはラーメンでも食べに行こう。
 そう思って、早足でススキノに向けて歩き出した。



 私はホワイトイルミネーションが好きだ。
 ここ10年ぐらい、ちゃんと雪祭りを見たことがないけれど(雪像を作っている最中ばっかり)、あの賑やかさよりも私の性には合っているかも知れない。
 こんな季節の札幌も良いですよ。もし機会があったら、あなたにもぜひ・・・。

 ところで、「いるかホテル」(のモデル)は結局見つからずじまい。情報をお持ちの方、ご連絡を(笑)


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1999.6.16 Ver.5.0 Presented by Yamasan (Masayuki Yamada)