一度きりのレコーディング/ココロノウサギ

1997.12.14

 待望の、バラードシングル。 CDから流れる歌から、素の彼女が透けて見える感じがします。そこに、ココロノウサギの息遣いが聞こえるようです。

 ところどころかすれかけたり、微妙にフラットする声。彼女ならば、もっと音の完成度を高める事は、十分に可能だったハズです。ではなぜそうしなかったのでしょう。・・・そうした、技術的な完成度には代え難い貴重なものが、このCDには感じられます。

 これまでのシングルでは、テイクを重ね、トラックを活用し、非常に完成度の高い「音」を送り出してきました。ところが『ココロノウサギ』は、なんとテイク1がそのままOKになっています。レコーディング前に、いっぱいいっぱい練習して、服や髪型に気を使い、雰囲気を作り、椅子に掛けて、気持ちの高まりが頂点に届く直前。

 「じゃあ、まず試しに一回歌ってみよう。」と思って歌った、テイク1。真剣になればなるほど、「上手く歌おう」とか「緊張するぅ!」という意識が表面にでます。こうした意識を離れ、無我の境地に到達するのは、プレイヤーの理想でしょうが、とっても難しい事です。

思い入れが頂点に達する直前。
気持ちは、すっかり曲に向いている。もちろん、真剣。
でも、仮歌のつもりだから、緊張からは解放されて。
「上手く歌おう」という、雑念にもとらわれずに。

 こうして、偶然が作り出した「場」のなかで、あの演奏が生まれました。収録スタッフは、それを感じ、その価値を見抜いて、このテイク1にOKを出したのだと思います。本人は仮歌のつもりで歌ったので、「やだやだやだやだ」と、抵抗したそうですが(^^;。でも、この選択に関しては、私もスタッフに賛成です。

 まさに、「二度と無いプレイ」を大切にしたCDだと思えます。もしテイク1で、ひとつでも歌詞を間違えたりしていたら、この「ウサギ」は世に出なかったかもしれません。心温まる、息遣いの聞こえる、本当のココロノウサギ。一度きりのレコーディングだからこそ生まれた、・・・そんな気がします。

メルヘン・プロフィール


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