読書記録

1998(平成10)年7月〜12月



<凡例>
冊数タイトル出版社
読了日著者初版
評価 コメント

<ジャンル分け>
理工系 人文系 文学 社会・実用書 未分類

No. 75
1998/12/24
IN・POCKET 1998 12月号 講談社
  1998/12/15

森博嗣、瀬名秀明の対談が載っていたので衝動買い

 
No. 74
1998/12/03
有限と微小のパン 講談社ノベルス
森 博嗣 1998/10/05

デフォルト買い。
シリーズ完結というよりも、ちょうど一段落といった感じ。
いつの日かまた、犀川のVMAX発動を期待したい。

 
No. 73
1998/11/29
アメリカハーブ紀行 講談社文庫
広田 静子 1998/10/15

10年程前、今ほどハーブというものが一般に知られていなかった頃、TVでこの人がハーブの紹介をやっていた。
その晴耕雨読の生活に惹かれて以来、この人の本は大体買っている。

読んでいて、本当に香りが漂ってきそうな感じがする。

衣食住よりも根源的な五感の世界。
まず、呼吸をする。すると、香りと適度な湿り気が感じられる。
それから、目を開ける。自然と、目の前の色彩が飛び込んでくる。
手を動かす。手は対象に触れる。その質感・触感。

まずは、そこから始まる。

 
No. 72
1998/11/27
リー群の話 日本評論社
佐武 一郎 1982/05/10

「線形代数雑談」はわかりやすい。線型代数をやる前後にこれを読んでおくと、全体の見通しがよくなる。
「リー群の話」は、第11章「不変微分作用素のリー環」あたりからついて行けなくなった。
それでも、昔読んだときに比べてかなりわかるようになった。

 
No. 71
1998/11/07
ループ 角川書店
鈴木 光司 1998/01/31

元々は「これを見たら一週間後に死ぬ」という、単なる怪談が出発点のはずだった。
それが、現代の『フェッセンデンの小宇宙』にまで発展するとは。
なかなかのストーリーテラーだと思う。

 
No. 70
1998/11/02
ファンタジーの冒険 ちくま新書
小谷 真理 1998/09/20

通史、という感じがして、なんとなく買った。
この本に書かれている程度の内容なら、有里さんあたりにとっては、既知なのか?

最初は、なるほどなあ、という感じ。
やはり、網羅的な紹介というよりは、通史、という側面が強い。そのため、少し醒めた印象を受ける。
井辻朱美『夢の仕掛け 私のファンタジーめぐり』を読むと、そこで紹介されているものを読んでみたくなるが、
この本を読んでも、あまりそういう気は起こらない。

第六章は本当にファンタジーなんだろうか?

有里さんへ。
もし、未購入なら買う必要はないです。未読なら読む必要もないです。ほとんど『図書館のドラゴン』。

 
No. 69
1998/10/30
実況中死 講談社ノベルス
西澤 保彦 1998/09/05

前作の 『幻惑密室』 は、なんかひきょうな感じがしたが、今回も水玉蛍之丞のイラストで買ってしまった。

今回は収穫。最近ではめずらしく、1日で読み終えてしまった。
ストーリーはひきょうとか最後が説明的とか、そんなことはどうでもよい。

森 博嗣が知的な赤川次郎なら、西澤 保彦はパズラーな赤川次郎
(実は、赤川次郎は我々が思っている以上に偉大な作家なのではないのか?)

 
No. 68
1998/10/29
北欧からの花束 絵本画家のピクチャーエッセイ 中公文庫
武田 和子 1998/06/18

「北欧」と、きれいなイラストに惹かれて買った。
確かに絵はきれいだが、文章の方は、饗庭 孝男の『フランス四季暦』を勝手に連想した自分が悪いのだろう。

 
No. 67
1998/10/27
Wielkosc Urojona I GOLEM XIV
虚数
国書刊行会
Stanisław Lem
スタニスワフ・レム
1998/02/25

1990年に『完全な真空』が訳されてから8年、今世紀中には無理かと思っていたが、 ついに読めるときが来た。

『エルンティク』は、ユリイカで紹介されたことがあったと思う。

『GOLEM XIV』は難し過ぎ。
再読したい気も多少はあるが、それで理解できるとはとても思えない。
『新しい宇宙創造説』『手記』と並んで、とても人間が作り出したものとは思えない
しかし現に存在する以上、人間が生み出した想像力の lim sup だと思う。

自分以外にこれを読んだ人の感想が聞きたい。

 
No. 66
1998/10/25
ハッカージャパン Vol. 1 白夜書房
  1998/10/01

仕事用。まじめな話、この本は役に立つ。
商売柄、何の手がかりもない状態から原因を突き止めていく、ということが多いので、
この本の後の方に書いてあるようなUNIXの基礎知識は、クラッキング用というよりも
まさにハッキング、自分の身近にいるエキスパートから一子相伝で引き継ぐ秘儀
(とまで云うと云い過ぎだが)、必要最低限の知識だと思う。

 
No. 65
1998/10/24
万葉の女性歌人たち 日本放送出版協会
杉本 苑子 1998/07/01

万葉集のころの日本語は「a」「o」の音が多く、特に、マ行、ヤ行、ワ行との組み合わせで、 独特の音色を持つ。

こういう本を読むたびに思うが、

  • 主だった古典は電子媒体で持ちたい。ないなら、自分で入力したい。
  • もう少し、歴史を勉強しておきたい。
  • そういう時間が欲しい。

 
No. 64
1998/10/17
フランス名詩選 岩波文庫
安藤 元雄、入沢 康夫、渋沢 孝輔 1998/04/16

中学2年の時、フランス語とフランスの詩に凝り、新潮文庫のボードレール、ヴェルレーヌ、ランボー、アポリネール、 岩波文庫のラ・フォンテーヌ、マラルメ、クセジュ文庫の「フランス詩の歩み」等、読みまくった。 が、当時、本当に欲しかったのは、これらの詩の訳詩集ではなく、原文だった。 この岩波のシリーズは、イギリス編、ドイツ編もあり、コールリッジの「kubla khan」や、 ゲーテの「ミニヨン」の原文を読めたのはうれしかったが、 やはり、このフランス詩の原文を、中学生時代に見たかったと思う。

既に名訳として定着しているものまでも、今回、全て新たに訳出されている。
一番驚いたのが、ジャン・コクトーの有名な詩。

Mon oreille est un coquillage
Qui aime le bruit de la mer.

私の耳は貝の殻
海の響きを懐かしむ
が、なんと、
僕の耳なら貝殻さ、
海の響きが、好きなんだ。
と訳されていたこと。確かに、ジャン・コクトーがあんな言葉使いをするはずがない。

ポール・ヴァレリーも

風が立つ!…… 生きる努力をせねばならぬ!
となっている。

「虚無への供物」もポール・ヴァレリーが出典だということを、今回初めて知った。

 
No. 63
1998/10/1
『危ない28号』特集ハッキング データハウス
  1998/08/01

私を知る人なら、私のような立場の者が、こういうのを読んでいいのか、と思うかも知れないが、
だからこそ知っておく必要がある。

ピッキングの話はパズルのようで面白い。
『子供たちの安全のために』は、真面目に考える必要がある。
薬の話はあまり興味がないが、栽培の話は、子供の頃、果物の種をまいて育てたいと思った、あの感覚が甦る。

これの没原稿というのは、いったいどういうものなのか?

 
No. 62
1998/10/16
国際おたく大学 1998年 最前線からの研究報告 光文社
岡田 斗司夫 編 1998/07/30

今にして思えば、これら一連の流れは、某アニメの持つパワーに引きずられていた感が強い。
そして、全てが沈静化した今、結局もとの鞘に戻った、つまり本来のファンのみが残った、という感じがする。

小野あづさ「海外スケール・モデラー事情」は、まさにオタ記事。全然理解できなかった。
秋本祥一「幻となるはずだったゲーム『G・O・D』の研究」は名文。
この文章故に、G・O・Dというゲームは永久に忘れ去られることはないはずである。

 
No. 61
1998/10/07
Contact (Vol.2)
コンタクト(下)
新潮文庫
Carl Sagan
カール・セーガン
1989/07/25

ヴェガに向かうための構造物、及び、その行く途中の描写が秀逸。
個人で大気圏内で十分な観測はできないまでも、ハッブル望遠鏡とか、
地上の大きな望遠鏡の観測データはインターネットを通じて入手することができる。
つまり、SETI計画とは行かないまでも、この小説の中で述べられているようなことは、
個人ベースでできるようになってきている。
アマチュアならではの情熱と無茶な解釈により、途方も無い発見がなされる日も来るかもしれない。

 
No. 60
1998/10/02
Contact (Vol.1)
コンタクト(上)
新潮文庫
Carl Sagan
カール・セーガン
1989/07/25
 
 
No. 59
1998/09/27
コンピュータ 悪のマニュアル データハウス
H&Cクラブ 1998/02/28

仕事がらみ。
こういうことは現役にはかなわない。
こういうことに関するコメントを求められても困る。

Nifty の FSCI の数学で、かつて、無意味な論争があった。
それは、確率をめぐる問題で、結論を云ってしまえば、

条件付き確率にまつわる、直感との乖離から来る違和感
の話なのだが、当然、わからない人にはわからないように、カモフラージュしてある。
それについての議論が、やがて、理解している/していない、の話に移っていき、
さらに、元々の定義がなされていない、ということと、暗黙の前提があるという、
妥協点のない論争というか言い合いに移っていった。

当時はちょうどフェルマーの定理が証明された時期であり、そのことに関する話題を読みたいと思っていたら、
このような不毛な議論に付き合わされ、それがきっかけで、私は Nifty の FSCI 数学を読むのをやめた。

で、何が云いたいかというと、このような本は、その反面教師として読むのが、大人としての姿勢だ、ということ。

 
No. 58
1998/09/27
事象の地平 白泉社
川原 泉 1998/07/29

現代のディオゲネス川原教授の 『本日のお言葉』 に続く第2弾。
このぐらいのペースで出るなら、『putao』はいらない。
漢字の多い、独特の言いまわしの川原節。
日曜の午前、のんびりと寝っころがって読むにはちょうどよい。

 
No. 57
1998/09/24
らせん 角川ホラー文庫
鈴木 光司 1997/12/01

主人公の息子が死んでいることが、ストーリーとどう関わってくるのか、最後までわからなかった。
それにしても、 『リング』 のほとんど最初のところで、すでに伏線がはってあったとは。

 
No. 56
1998/09/20
黒い聖母と悪魔の謎 キリスト教 異形の図像学 講談社現代新書
馬杉 宗夫 1998/07/20

西欧文明の暗黒部、というと猟奇趣味だが、所謂、キリスト教以前のヨーロッパの土着宗教
ハイネの 『精霊物語・流刑の神々』 のような話だと思うが。

これはちょっとおすすめ。
これまでほとんど(というかまったく)紹介されることのなかった、教会にまつわる図像の数々。
黒い聖母像目隠しされた女性像葉人間ガルグイユ(ガーゴイル)一角獣
一角獣はわかる。ガーゴイルも、のんびりとパリの街を眺める姿が印象的で、写真に撮って来た。
しかし、あとの3つは聞いたこともない。

 
No. 55
1998/09/19
新ゴーマニズム宣言 SPECIAL 戦争論 幻冬舎
小林よしのり 1998/07/10

新聞の広告の惹句で、
「今年60のおじいさんに見せたら、よくぞこのような本を書いてくれた、と言って泣いていました。」

というのを読んで、最初の方を立ち読みし、そのただならぬ迫力に押されて買った。
そして、読んでみて、確かに何度も泣けてきた。

2年前、家族を連れてハワイに入った時の話。オワフ島一周ツアーに参加した。
島を反時計まわりに進み、最後の目的地はアリゾナ記念館
ここでガイドの中年女性、日本人か日系人かはわからないが、彼女が言った。

パールハーバー。覚えてらっしゃいますか?
ここでたくさんの人が死んでいきました。
ツアーは50名ぐらい。70歳近くの戦争体験者もかなりいた。
パールハーバーで死んだのは兵隊だが、彼らは戦争で肉親を失ったかも知れない。
少なくとも、何の被害も受けなかったという人は一人もいないはずである。
その人たちを前にして、アメリカは日本の被害者だとでも言いたいのか?
―― おまえはいったい、どこの国の人間なんだ?
心の中で、ドス黒いものが育っていった。まわりの老人たちはさすがに大人で、静かに微笑みながら何も言わない。 もし、この沈黙を誤解して、
あのとき、日本軍はひどいことをしました。
などと言おうものなら、ツアーをぶち壊しにしてもかまわないので、一大論戦を挑もうかと思った。

もちろん私は、ホノルルと広島が姉妹都市であることを知っている。
この2つの都市は、それぞれ被害を受けている。
しかし、質は違う。
ノーモア・ヒロシマ、と言ったとき、それは、非人道的な殺戮兵器を二度と使ってはならないという決意であり、 人類全体の、しかも、この後未来永劫にわたっての決意である。
しかし、リメンバー・パールハーバー、というのは、アメリカの一都市が奇襲によって被害を受けたということに対する、 ひきょうな相手に対するアメリカの個人的な単なる恨みつらみである。
この2つを同レベルで論じてはならない。

…… ということを認識した上で、広島はホノルルと姉妹都市の関係を結んでいるのである。
それは、お互いの罪を認めた上で、もう二度と同じことを繰り返してはならない、という平和に対する決意である。
個人的な恨みつらみなど超越している。

それなのに、冒頭の発言。
こいつは、この年齢でこの場所に住んでいながら、そのような一方的な歴史観しか持てないのか?
単なる無知なのか、それとも、一方的な情報を教え込まれているのか?

だからこそ、この本は読んでおくべきである。
別に、もう一度戦争を起こそうという気はさらさらない。かつての加害者に復讐する気もない。
しかし、最近、大使館の爆破に対して報復爆撃を行い、それを正当化したあの国の正義を、全面的に信じていいのか?
まるで日本が一方的な加害者であったように語られている今の風潮の中、日本が被害者であったことは事実である。 それは、まさしく事実であり、それを主張するにあたって、誰に引け目を感じる必要もない。
これは、右翼的発言でもなく、愛国主義的タカ派的発言でもなく、単なるバランス感覚の問題である。
それにみんな気が付いて欲しい。

 
No. 54
1998/09/17
タイムマシンのつくり方 集英社文庫
広瀬 正 1982/07/25

カオス理論が周知のものとなった今、タイムトラベルでの過去のわずかな改変が、
現在に多大な影響を及ぼすことはほとんど明白であり、従って、タイムトラベルねたは、
現在のSF作家にとっては、こわくて手の出せないジャンルであると思われる。
(ならば、ドラえもんのやっていることは全て無駄、ということになってしまうのか?)
全体に星新一を小ぶりにしたような感じで、やはりSFの内部だけの作品かなと思った。

少し解説すると、ドラえもんは、のび太のひ孫のセワシにより、のび太の時代に派遣された。
その目的は、ずばり、過去の改変にある。
セワシの代になり、野比家は破産することが確定的になった。
その原因が、曾祖父ののび太がジャイ子と結婚したことに起因する、と突き止めたセワシは、
ドラえもんをのび太の時代に派遣し、のび太がジャイ子と結婚しないで済むように仕向ける。
そして、のび太はしずかちゃんと結婚し、セワシの代でも破産は免れ、めでたしめでたし、という訳である。

しかし、過去に溯って歴史を改変するのはタブーではないのか、という疑問が生まれる。
(実際、のび太もドラえもんにこのことを質問する。のび太らしからぬ、するどいツッコミである。)
これに対するドラえもんの回答は、歴史の慣性という理論である。
つまり、個人の生活に関係するような細かいことを変更しても、歴史の大きな流れは変わらない
という理論である。
この理論故、ドラえもんは未来の道具を平気で使うことができる。

これを御都合主義と見るかどうかは別にして、こういう理論武装を用意しておくあたり、
藤子不二雄のSF感覚は、ハンパではない。実際、ドラえもんの道具の中にも、
子供にはその有効性が理解できないのではないか、という道具がけっこうあったりする。

(ところで、母親が変わったのなら、セワシは完全に別人ではないか、というツッコミは却下。
 もともと、セワシはのび太に似ている。
 つまり、のび太の遺伝子が優性であり、母方の遺伝子は小文字と解釈すればよい。)
しかし、筒井康隆の後書きを読んで印象は一変した。

彼の本領は短篇ではなく長編で発揮されるものであり、短篇は当時の出版状況から来る制約によって、
やむなく書かれたものである。それは、筒井康隆本人にとっても同様である。
広瀬正の本質は、タイムトラベルねたを扱うにあたってのパズル的な細かさと辻褄合わせ、ではなく、
そのようなことを行わしめる、彼の完璧主義にある。
そして、その完璧主義の結果として、綿密な調査の結果再現された過去の風俗がもたらすノスタルジー
こそが、彼の本質であり、まさに、日本のジャック・フィニイと呼ぶにふさわしい、とのこと。

そう云われれば、 『マイナス・ゼロ』 に対する評価も一変する。
そして、私はこれまで、筒井康隆を誤解していたかもしれない。

 
No. 53
1998/09/15
数奇にして模型 講談社ノベルス
森 博嗣 1998/07/05

今度は、犀川助教授は少しは活躍するのだろうか。

前回、今回と「物足りない」感が残る。
その理由を少し考えてみたが、要するに、推理が役に立っていない点にあると思う。
真相には行き着くのだが、最後の犯行を未然に防ぐ訳でもなく、また、犯人が自白 or 逮捕されてしまうので、
探偵役の活躍の場がない。

というのも、計算の内なのだろう。
推理だけでなく、推理小説自体の枠組みについて、読者の読みをはずすことを追求しているように思える。
今回は『まどろみ消去』以上に、自分の書きたいことを書いたのではないか。
最近の藤島康介のように。

萌え萌えシリーズのアニメ化(Fancy LaLa version)。
配役

  • 西之園萌絵 …… ララ
  • 犀川 創平 …… ヨシオ
  • 儀同世津子 …… 川口理々香
  • 国枝 桃子 …… 菅野江美子
  • 喜多 北斗 …… 相川ひろや
  • 諏訪野   …… 不思議さん
  • 牧野 洋子 …… 篠原ちさ
(なんで9月で終わっちゃうんだよおう!(もう、どうでもいいや))

 
No. 52
1998/09/09
マイナス・ゼロ 集英社文庫
広瀬 正 1982/02/25

最初、目次の数字を見て、俊夫と啓子のすれ違いの切ない話になるのではないか、といやな予感がした。
なにせ最近、毎週楽しみにしていたある番組が、9月いっぱいで終わるということを知ってしまい、
かなり落ち込んでいたから、これが『タイム・トラベラー』の最終回のような終り方であれば、
ちょっと、耐えられないな、という気がした。

しかし、実際は希望を持たせた穏やかな終り方であり、読後、静かな余韻が残った。

文庫版では、星新一の解説が秀逸。
この読書記録でも、あのような文章が書けるようになってみたいものだ。

この本を薦めてくれた友人へ。これが、気に入ったのなら、

  • ロバート・ヤング『たんぽぽ娘』
  • 高畑 京一郎『タイム・リープ』
も気に入ると思います。特に前者は必読。

 
No. 51
1998/09/06
将棋王手飛車読本 ― 将棋の神に選ばれし者たちの叫びを聞け 宝島社
別冊宝島380 1998/05/15

将棋の本でありながら、棋譜が全然ない、ということで、将棋を知らない人にもおすすめの一冊。
とにかく、谷川がかっこいい。かっこよすぎる。

―― あなたのライバルは?
―― 書くまでもないことである。

私の前に座っているのは、しか考えられません。

なのに、何故、名人を明け渡してしまう?

 
No. 50
1998/09/04
リング 角川ホラー文庫
鈴木 光司 1993/04/24

何故、タイトルが『リング』なのか?
それは、最後にわかる。

 
No. 49
1998/08/30
宇宙を空想してきた人々 日本放送出版協会
野田 昌宏 1998/07/01

SF人気が低迷している中、題材としてとりあげられるのはめずらしい。
こういうのがきっかけとなって、もう一度ブームが起こり、絶版になっている作品群が復活して欲しいと思う。

私のSF原体験はベリヤーエフの 『両棲人間』

私は子供の頃から本が好きで、必ず図書委員に立候補していた。
図書室の本を整理していたある日の夕方、表紙も背表紙もとれていて、タイトルも作者もわからない、一冊の本を見つけた。
そこには、ある天才医師の手によって、サメのえらを移植され、水中でも呼吸ができるようになった少年の話が書かれていた。
薄暗い図書室でたったひとり、その話を読んだ時の恐怖
こういう体験が子供にどれ程の影響を与えるのか想像してみて欲しい。
私にはバスチアンの気持ちがよくわかる。

SFに対する、単刀直入なに貫かれていて、読んでいてうれしくなってくる。

 
No. 48
1998/08/26
On the Shoulders of Giants
物理と数学の不思議な関係
三田出版会
Malcom E. Lines
マルコム・E・ラインズ
1998/08/15

冒頭の小話は、以前、別の本で読んだことがあり、私が英語でしゃべる時の joke のレパートリーの一つだった。

天文学者と物理学者と数学者の3人がスコットランドを汽車で旅行した時の話。
汽車の窓から黒い牛が見えた。
それを見て、天文学者が、

スコットランドの牛は黒い。
と言った。それを聞いた物理学者は、鼻でせせら笑い、
スコットランドには、黒い牛がいる。
と訂正した。それを聞いた数学者が言った言葉
スコットランドには、少なくとも体の片側が黒い牛が、少なくとも1頭存在する。

かなりレベルが高いが、わかりやすい。
何よりも、これを読むと、本格的に勉強しようという気になってくる。

"On the shoulder ..." というのは、ニュートンの言葉。
子供の頃、伝記で読んで、かっこいいなあと思った。

 
No. 47
1998/08/13
インターネットセキュリティ 基礎と対策技術 オーム社
佐々木 良一、宝木 和夫、櫻庭 健年、寺田 真敏、浜田 成泰 1996/11/15

勉強用。ちょっとレベルが高い。
「おもしろい」という傾向の本ではないが、実務上は役に立つと思う。

 
No. 46
1998/08/13
宣戦布告 下 講談社
麻生 幾 1998/03/06

ノンフィクション作家だけあって、いろいろな組織のことをかなり詳しく調べてあり、それが作品にリアリティを与えている。
仕事上、これらの組織のことは多少知っているので、その正確さがよくわかる。
それにしても、これを読むと、日本海側に原発というのは、最悪の立地選定ではないか、と思わされる。
また、机上の空論を延々と戦わせて、いつまでたっても結論を出さず、その一方で他人の意見にだけは反対し、
要するに時間をかけるだけで何もしない、といった官僚の姿勢には、小説ながら腹が立つ。

「軍事オタクで数字に明るくてお坊ちゃん育ちで頭髪をジェルで固めた首相」は退陣してしまった。
それともこれは『沈黙の艦隊』のファンだった石原慎太郎のことを指しているのか?

あとがきの「文芸春秋 97 1月号『北朝鮮潜水艦敦賀半島に漂着す』をもとに書き下ろし」
を見て、そういえば、電車の吊り広告で見た記憶があることを思い出した。

(1998/09/04)
しかし、本当にミサイルが飛んでくるとは ……。

クリントンは報復攻撃を行って、正当化した。
レーガンなら、何をやったかわからない。
橋本でも、黙っていないだろう。
しかし、小渕は、この小説以上に、何もしないに違いない
(漢字を間違っているかも知れないが、どうでもいいや。)

―― 人工衛星の打ち上げに失敗したんです(← 何の目的の人工衛星なんだよ?)。
―― なあんだ、よかった。
って、違うだろ!

(1999/03/27)
しかも、工作船も来るし ……。
現場の自衛官は、防弾チョッキも与えられてないし ……。
(総理は変わってなかった)

 
No. 45
1998/08/09
宣戦布告 上 講談社
麻生 幾 1998/03/06
 
 
No. 44
1998/08/04
20世紀の数学 臨時別冊・数理科学 サイエンス社
  1998/06/10

なんとなく衝動買いしたが、少し拾い読みしてみると、妙に話題が古い。
それで、目次をよく読んでみると、実は、

主に94年前後に『数理科学』に掲載された論文を再録したものである、
ということがわかった。
確かに、どこにも『最前線』というような表現は書かれていない。

なかなかおもしろかった。
佐藤幹夫のラジカルな姿勢が興味深い。
またほとんどの記事が
「私がこの分野に手を付け始めた1980年代の初めは、今にして思えば、この分野の爛熟期にあった」
で始まっているが、それがちょうど自分自身の学生時代と重なるところがあり、感慨深かった。

この本のことを話すと友人が、

誰か「21世紀に考えるべき問題」というのを設定くれないだろうか
と云っていた。

 
No. 43
1998/07/26
Inter Communication 23 特集 反重力へ NTT出版
  1998/01/01

なんと、サルマン・ラシュディが寄稿している。
イリヤ・プリゴジンの対談も載っている。
このへんの有名人の対談が毎回載っているのが魅力。
最新号(25)では、ロジャー・ペンローズ。また、買ってしまうのだろう。

ステラークという人は、何を考えているのか?

 
No. 42
1998/07/19
哲学の現在 ― 生きること考えること ― 岩波新書
中村 雄二郎 1977/05/20

1997年の最大の収穫は、中村雄二郎の著作と出会ったこと。
他の著作と同じく、現代の哲学の諸問題に日常語で取り組む、という精神が貫かれている。
また、目次を引用しておこう。

  1. 哲学の現在
  2.  生きること考えること / 知識と知恵の分裂 / ことばの相のもとに
  3. 感覚と想像の働き
  4.  感覚と知覚が開示するもの / 見る・聞く・触る / イメージと想像力
  5. 自己とその基盤をなすもの
  6.  意識と主体の自覚 / 身体の在り様と働き / 関係性・場所・役割
  7. さまざまな知
  8.  経験の構造と常識の両義性 / 科学的知の位相 / 神話と魔術の領分
  9. 共同社会と歴史
  10.  目にみえる制度とみえない制度 / 必要原理と交感原理 / 歴史・出来事・時間

 
No. 41
1998/07/12
Rational Points on Elliptic Curves
楕円曲線論入門
シュプリンガー東京(株)
Joseph H. Silverman and John Tate
J.H.シルバーマン、J.テイト
1995/11/13

『楕円曲線上の有理点』を書くための再読。
とにかくわかりやすい。

読み終わったあと我慢しきれなくなり、続編の、
Advanced Topics in the Arithmetic of Elliptic Curves
を買ってしまった。読了するまで、訳が出ませんように。



読書記録 1998
(平成10年)1月〜6月
『枕草子*砂の本』 読書記録 1999
(平成11年)1月〜6月

E-mail : kc2h-msm@asahi-net.or.jp 三島 久典