「うつ病」の治療 -1-

 「うつ病」と診断されたらどんな治療を行うのでしょうか。主なものは「薬物療法」と「休養」です。

【薬物療法】
 「うつ病」の治療には「抗うつ薬」という薬が使われます。また不安感が強い場合には「抗不安薬(精神安定剤)」、睡眠障害がある場合には「睡眠導入剤」や「睡眠薬」が適宜併用されます。
 「心の病」に薬を使うことには疑問があるかもしれませんが、現在、「うつ病」の治療法の第一選択肢は薬物療法です。「心の病」といっても、前述のように本質的には脳の変調ですからそれを薬によって治していくわけです。
● 抗うつ薬の働くメカニズム
 前述の通り、「うつ病」の状態では、脳の神経細胞間の神経伝達物質(主にセロトニン、ノルアドレナリン)が減少していると考えられています。神経伝達物質は、(送り側)神経細胞の末端から放出され、次の(受け側)神経細胞の受容体に取り込まれることで情報を伝達します。その後、神経伝達物質は送り出した側の神経細胞に再取り込みされ、再利用されます。抗うつ薬は、この再取り込みをブロックすることによって、神経細胞間の神経伝達物質の遊離量を増やし、情報伝達をスムーズにするように作用すると考えられています。
 抗うつ薬は風邪薬のように飲んですぐに効果が出てくる薬ではありません。効果があるかどうかは、最低2週間は飲み続けて様子を見る必要があります。長い場合には効果が現れるまでに1ヶ月くらいかかる場合もあります。なぜこのように時間がかかるのか、正確なことはまだ分かっていません。
 逆に副作用はすぐに現れるので、どうしても途中で飲むのをやめたくなりますが、前述の通り、効果が出るまで時間がかかるので、多少の副作用は我慢して飲み続けることが必要です。副作用の中には飲み続けることでしだいに軽くなってくるものもあります。
 また薬の効果と用量には個人差があり、「相性」のようなものがあります。治療の初期段階では色々な薬を色々な量で試しながらその人に合う薬と用量を探すことになります。
● 抗うつ薬の種類
 日本で処方される抗うつ薬には下表のようなものがあります。
分類
一般名(成分名)と主な効果
商品名
三環系 イミプラミン
 抑うつ気分や悲哀感、絶望感を改善し、気持ちを高揚させる
トフラニール
イミドール
クリテミン
クロミプラミン
 抑うつ気分や悲哀感、絶望感を改善し、気持ちを高揚させる
アナフラニール
トリミプラミン
 不安やあせりを鎮め、取り越し苦労を抑える
スルモンチール
※ 2001年3月末まで発売
アミトリプチリン
 不安やあせりを鎮め、取り越し苦労を抑える
トリプタノール
アデプレス
ラントロン
ミケトリン
ノルトリプチリン
 ものごとに対する意欲や、行動力を高める
ノリトレン
ロフェプラミン
 抑うつ気分や悲哀感、絶望感を改善し、気持ちを高揚させる
アンプリット
アモキサピン
 ものごとに対する意欲や、行動力を高める
アモキサン
ドスレピン
 不安やあせりを鎮め、取り越し苦労を抑える
プロチアデン
四環系 マプロチリン
 抑うつ気分や悲哀感、絶望感を改善し、気持ちを高揚させる
ルジオミール
ミアンセリン
 抑うつ気分や悲哀感、絶望感を改善し、気持ちを高揚させる
テトラミド
セチプリン
 抑うつ気分や悲哀感、絶望感を改善し、気持ちを高揚させる
テシプール
SSRI フルボキサミン
 抗うつ効果のうち、とくに不安軽減作用が強く、「うつ病」予防効果もある
ルボックス
デプロメール
パロキセチン
 抗うつ効果のうち、とくに不安軽減作用が強く、「うつ病」予防効果もある
パキシル
SNRI ミルナシプラン
 全般的な抗うつ効果があり、効果の発現が早い
トレドミン
その他 トラゾドン
 不安やあせりを鎮め、取り越し苦労を抑える
レスリン
デジレル
スルピリド
 抑うつ気分を改善し、不安やあせりを鎮める
ドグマチール
アビリット
[うつ病]これで安心 こころのかぜの治療法、予防法/監修・濱田秀伯/小学館より


◆ 三環系・四環系
 三環系抗うつ薬は、ベンゼン環と呼ばれる亀甲型の環が三つ連なった化学構造をしていることからこう呼ばれます。一番古くから使われている抗うつ薬で確かな効果が確認されています。ロフェプラミン、アモキサピン、ドスレピンを除く三環系抗うつ薬を特に「第一世代の抗うつ薬」に分類することがあります。これらの抗うつ薬はセロトニンやノルアドレナリンに作用し、効果が確かな反面、それ以外の神経伝達物質(アセチルコリンなど)にも作用するため、「口が渇く」、「動悸」、「便秘」、「目がチカチカする」、「目がかすむ」、「排尿が困難になる」、「眠気」などの副作用が現れることがあります。
 四環系抗うつ薬はベンゼン環が四つ連なった化学構造をしています。三環系抗うつ薬の副作用を軽減するために開発されました。前述の三つの三環系抗うつ薬と合わせて「第二世代の抗うつ薬」に分類されることがあります。第一世代の抗うつ薬に比べて副作用が軽減されていますが、効果の面では第一世代の抗うつ薬に比べてやや劣るといわれています。主に第一世代の抗うつ薬での副作用が重い場合に用いられます。


◆ SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors=選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
 「第三世代の抗うつ薬」に分類されます。神経伝達物質のうち、セロトニンにのみ選択的に作用する薬です。セロトニンだけに作用するため、三環系・四環系のような副作用が少ないといわれています。ただし、三環系・四環系にはない胃腸系(吐き気、下痢など)、性機能障害などの副作用が現れることがあります。胃腸系の副作用は飲み続けることで軽減されることもあります。効果は第二世代の抗うつ薬と同じくらいとされていますが、副作用の少なさから、現在、第一の選択肢として処方されることが多くなっています。  胃腸薬との相互作用がある場合があるので、併用する際は医師や薬剤師に相談することが必要です。


◆ SNRI(Serotonin Noradorenaline Reuptake Inhibitor=セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤)
 「第四世代の抗うつ薬」に分類され、日本ではもっとも新しく認可された抗うつ薬です。神経伝達物質のうち、セロトニンとノルアドレナリンにのみ選択的に作用する薬です。SSRI同様、他の神経伝達物質に作用しないため、三環系・四環系のような副作用が少ないといわれています。主な副作用として、「頭痛」、「排尿が困難になる」などが現れることがあります。抗うつ効果は第一世代の抗うつ薬に匹敵し、副作用はSSRI同様少ないこと、効果の発現が比較的早いことなどから、安全で使いやすい薬とされています。


◆ その他
 トラゾドンは第二世代の抗うつ薬に分類されます。ノルアドレナリンよりもセロトニンに対する作用が強く、重い副作用が少なく安全性の高い薬といわれています。イライラ感や不眠の改善に効果があるとされています。SSRIに近い薬です。
 スルピリドは本来、消化性潰瘍治療薬として開発された薬ですが、抗うつ作用もあるため「うつ病」にも用いられます。即効性があり、1週間ほどで効果が現れます。ただし、プロラクチンというホルモンの分泌を促す作用があるため、女性の場合、月経不順や、乳汁分泌などの副作用が現れることがあります。また、連続服用すると、体重が増加することもあります。  
● 抗うつ薬服用時の注意
 抗うつ薬は前述のように、飲んですぐに効果が出る薬ではありません。ですからすぐに効果が出ないからといって自己判断で飲むのを中止してはいけません。また抗うつ薬は少量から服用を開始して、効果が出るまで(副作用に耐えられる範囲で)量を徐々に増やしていきます。量と期間を十分に飲むことが必要な薬です。量を増やしてある程度の期間飲んでも効果がない場合でも自己判断でやめずに、必ず医師に相談して下さい。また副作用が耐えられないほど重い場合も同様です。医師が他の薬に変えてくれます。
 また、薬を飲んでいる間は原則としてアルコールは避けて下さい。辛い思いをアルコールで紛らそうとする気持ちは分かりますが、アルコールはそれ自体に依存性があり、だんだん飲酒量が増えていくことと、薬の作用を弱めたり逆に極端に強めたりすること、睡眠の質を悪化させることなどがあるからです。また肝臓にも負担をかけます。
【私の場合】
 三環系(プロチアデン)+四環系(ルジオミール)
       ↓
  (クリニックを変えて)
       ↓
 SSRI(デプロメール)
       ↓
 SNRI(トレドミン)+レスリン
       ↓
 SNRI(トレドミン)+三環系(アモキサン)+レスリン

 という変遷を経て、現在は、

 SSRI(パキシル)+三環系(アモキサン)+レスリン

という処方に落ち着きました(他に抗不安薬1種類と睡眠薬2種類も併用)。今のところこれでしっくりきているので、この処方で1年半以上服用しています。
 副作用として、便秘(対策として下剤も飲んでいます)、目のかすみ、口が渇く、性機能障害、眠気(処方直後のみでした)があります。
 アルコールに関しては、治療開始当初は禁酒していましたが、ある時期から酒に逃げてしまい、飲酒量がかなり増えました。悪いことに歩いてすぐのところに24時間営業で酒を扱っている某スーパーH信があり、呑み足りずに深夜3時頃に酒を買い足しに行くほどでした。その結果、睡眠も浅くなり、睡眠障害が多くなりました。また現在、肝機能障害も出ていて(クリニックで半年に1回血液検査をしています)、再び禁酒中です(苦笑)。禁酒してからは肝機能も回復に向かい、睡眠も落ち着いています。

 合う薬の種類と量が決まったら、その量を続けて飲むことになります。このときも、症状がなくなったからといって勝手に薬を飲むのを中断してはいけません。「うつ病」は再発しやすい病気なので、症状がなくなったあとも再発予防のために維持療法として一定期間(半年から1年程度)、同じ量の薬を継続して飲む必要があるのです。また、薬を飲むのを急にやめると、イライラする、頭痛がする、手が震える、かえって症状が悪化する、といった離脱症状が出る場合があります。維持療法の期間が終わったら、医師の指示に従って徐々に薬の量を減らしていきます。
【私の場合】
 あるとき、何もかも投げ出したくなって、全ての薬を飲むのをやめたことがありました。そのときは全身の筋肉痛(というか全身肩こり状態)、頭の中でシャンシャン音がする、全身が痺れる、気分はどん底...という離脱症状が出ました。結局、断薬(薬をやめること)は1日半しかできませんでした。薬は医師の指示通りの用量、用法を守って正しく服用しましょう。

 それでも「心の病」に薬を使うことに抵抗があるかもしれません。でも例えば風邪をひいて熱が40度近く出たらそのままにしておくでしょうか?内科に行って、解熱剤を処方してもらうはずです。それと本質的な違いはありません。


質問:「まだ続くのかよ!」と思っている。→はい/いいえ