「うつ病」の病前性格

 「うつ病」は誰でもなる可能性のある病気ですが、特になりやすい性格の傾向があるといわれています。

【病前性格】
 精神疾患になる前のその人の性格のことを「病前性格」といいます。「うつ病」には、なりやすいいくつかの病前性格があることがわかってきています。
● 循環気質
 ドイツの精神医学者・クレッチマー(1888〜1964)が1921年に提唱した「躁うつ病」に親和性を持つ気質です。
  (1) 社交的、親切、善良、温和
  (2) 陽気、ユーモアに富む、活発、せっかち
  (3) もの静か、悲観的、弱気、陰気
という特徴を持ち、(1)を基盤として、(2)が前面に出る「躁」状態と(3)が前面に出る「うつ」状態を周期的に繰り返すところから「循環」と名付けられました。循環気質の人は他人に同調する傾向が強く、周りの人に振り回されたり、大事な選択を迫られる場面で板ばさみになることから「躁うつ病」になりやすいと考えられています。
● 執着性格
 日本の精神医学者・下田光造(みつぞう1885〜1978)が1932年に提唱した「躁うつ病」に親和性を持つ性格傾向です。
  ・几帳面
  ・きまじめ
  ・責任感や正義感が強い
  ・凝り性
  ・仕事熱心
  ・ごまかしやおおざっぱなことが嫌いでなにごとも徹底的にやらないと気がすまない
という特徴を持っています。責任感が強く仕事熱心なあまり、どうしてもムリを重ねがちになります。また、働きすぎだとわかっていてもうまく休むことができず、自分でも気づかないうちに疲労困憊し、「躁うつ病」に陥るケースが多いとされています。また現在では「躁うつ病」に限らず、「うつ病」に対しても親和性のある性格と考えられています。
● メランコリー親和型性格
 ドイツの精神医学者・テレンバッハ(1914〜1994)が1961年に提唱した「うつ病」に親和性を持つ性格傾向です。
  ・秩序やルールに忠実
  ・他人に対して献身的で、頼まれると嫌といえない
  ・相手と対立する場面では自分から折れる傾向がある
  ・几帳面
  ・律儀
  ・綿密
  ・責任感が強い
  ・仕事好き
という特徴を持っています。下田氏の「執着性格」との共通点も多く見られます。この性格傾向の人は、一定の秩序やリズムが乱されることを嫌います。また仕事においては量も質も完璧にこなそうと努め、さらには周囲と合わせようとするあまり、自分のペースが乱れてストレスが蓄積されてしまいます。「柔軟性に欠け、手を抜けない」ことが「うつ病」の引き金になるようです。
 上記の性格傾向のうち、「執着性格」、「メランコリー親和型性格」に見られるまじめ、几帳面、責任感が強い、仕事熱心、といった性格的特徴は一般的には好ましいものとされ、社会的にもプラスの評価をされる場面が多いでしょう。日本人に多い性格傾向ともいえます。しかしこの好ましい性格傾向が現代社会では逆にストレスの原因となり、「うつ病」を招く誘因になると考えられています。これらの性格は他面では、融通が利かない、頑固、自己主張ができない、人の目を気にしすぎる、といったマイナスの面も併せ持っているからです。
【私の場合】
 自分でいうのもナンですが、テレンバッハの「メランコリー親和型性格」にあてはまる部分が多いように思います(ハイ、今「え〜!?」と思った人、一歩前に出て歯を食いしばれ!)。特に、
 ・秩序やルールに忠実
 ・他人に対して献身的で、頼まれると嫌といえない
 ・相手と対立する場面では自分から折れる傾向がある
の3点などはよく当てはまっていると思います。また、22歳まで一緒に過ごした両親にいわせると、私の性格は「几帳面」らしいです(ハイ、再び「なにぃ!?」と思った人、放課後体育館の裏で待ってるからね!(微笑))。

 以下のような性格傾向のある方は自分はストレスを溜めやすいことを自覚して、ストレス・コントロールを心がける方が良いでしょう。
  ・神経質で几帳面
  ・仕事を他人に任せられない
  ・頑固で融通が利かない
  ・自分の感情を表現せずにのみ込んでしまう
  ・他人の評価を気にする
  ・まじめで仕事熱心、責任感や義務感が強い
  ・道徳観が強く、義理がたい
  ・完璧主義者、理想主義者
  ・人に頼まれると「NO」といえず、他人のことを優先させる
  ・自分さえ我慢すれば良いと思ってしまう

 「うつ病」になりやすい性格傾向の人にはある共通した考え方のパターンもあるようです。1970年代に「認知療法」(後述)を確立したアメリカのベックは、「うつ病」になりやすい人は、「自分自身、世界(周囲の人との関係)、将来」の三つに対して否定的なとらえ方をするとしています(「否定的認知の三徴」)。例えば、たったひとつの失敗で、「自分はダメな人間だ」と自分自身を責め、「周りの人から嫌われるのではないか」と周囲の人の評価にこだわり、「自分の人生にはこの先も良いことなどあるはずもない」と将来に対して悲観的になります。こうして一旦気持ちが沈みこむと、ものごとを悲観的にとらえるようになり、ますます気持ちがふさぐという悪循環に陥ってしまうのです。


質問:眠くなってきた。→はい/いいえ