ヤブツバキ(藪椿)/ツバキ科、ツバキ属

 手許の本には自生地、海岸沿いの山地と書かれているが、この辺の里山にもけっこう見られる常緑の高木である。その名について、私が愛用する大言海では、「艶葉木ノ義ニテ、葉ニ光沢アルヲ以ッテ云ウカ。」と由来を説明している。
 花期はこの辺では11月〜3月と長い。特に冬の時期は花が少ないので、子どものころは、よく採ってきては母に喜ばれた。
 写真は東隣りの一好さんの屋敷林の北縁で撮ったもの。枝先に一個づつ下向きに花を咲かせる。なんともつつましい花である。この冬はことのほか寒さが厳しいので、五弁の花びらは、この辺の表現を使えば、さすがに霜げている。
 花がおわると径3〜4cmの刮ハをむすび、熟すと三裂、黒い実が2〜3個こぼれる。その種は油を多く含むので、昔は硬い表皮を剥いて白い実を出し、戸障子のすべりをよくするために、ごしごしと敷居に塗りつけたものだ。
 椿油といえば伊豆の大島が有名で頭髪用としても用いられるが、昔、父の友人に凝り性の人がいて、その人は苦労して山で実を拾い集め、絞って天ぷら油として持ってきてくれたことがあったが、食用油としてもなかなかの絶品である。また椿の木質はきめ細かく、容易に手に入るので子どものころ柘植の代わりにしてハンコを彫ったり、首のまわらないコケシを作ったりして遊んだ。
 実際、木工用として算盤の珠、椀、盆などに使われ、今はあまり見なくなったが、折尺には欠かせない素材という。大きなものでは床柱にも使われる。  わが国では古代から愛されてきた花で、万葉集 巻廿に、「足引ノヤツヲノ都婆吉、ツラツラニ、見トモ飽カメヤ、植エテケル君」とあるなど、さまざまな本に登場する。この歌は、大伴家持が植えた椿を見て作ったという注がある。
 蛇足だが、この歌の意味は、「幾重にも連なる峰々に咲く椿のように、眺め、眺めても見飽きることがどうしてあろうか。この椿を植えたあなたを。」という恋歌である。



2005.02.
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