ノコンギク(野紺菊)/キク科 シオン属

 父の勤務の都合で大森区の桐里にしばらく住んでいたことがある。入新井第四国民学校(小学校)3年生のとき音楽の時間に「野菊」という唱歌を習った。「遠い山から吹いてくる。こ寒い風にゆれながら、気高く清く、匂う花。きれいな野菊うす紫よ。」という歌詞である。ボーイ・ソプラノであった私がよく歌った懐かしい唱歌の一つである。この野菊は何の花であったろうか。三節を見ると、「霜が降りても負けないで、野原や山に群れて咲き、秋の名残を惜しむ花、明るい野菊、うす紫よ。」と出てくるから、ヨメナも代表的な野菊ではあるが、庭のヨメナは霜を待たずに枯れてしまっているので、秋の名残を惜しむ野菊とはノコンギクを歌っているのだと思う。
 シオン属は世界中に何百という種類があるが、ノコンギクは日本が原産地。今、晩秋の日差しの中で、歌さながらにきれいに咲いている。
 さて、教会の花壇にはキク科のシオン属とヨメナ属のさまざまな花が咲いていた。カントウヨメナ(ヨメナ属)、ユウガギク(ヨメナ属)、ユウゼンギク(シオン属)、ヤマシロギク=シロヨメナ(シオン属)など、そして、今も咲いているのはノコンギク、シラヤマギク(シオン属)である。
 ところでノコンギクとヨメナの区別はなかなか難しい。両方とも舌状花は紫色系、管状花は黄色である。気温の低下にともない舌状花が淡紫色から紫色へと濃くなっていくのも似ている。ただ、ノコンギクの花をルーペでよく見ると、長い冠毛があるのが分かるがヨメナにはない。葉や茎もノコンギクはざらついているが、ヨメナは無毛なので、かろうじて区別できる。
 ヨメナは古名を「ウハギ、またはオハギ」といい春の摘み草の対象として親しまれていた。万葉集にそれを詠った二首がある。十の十一に「春日野ニ、煙立ツ見ユ、少女等シ、春野ノ菟芽子(うはぎ)、摘ミテ煮ラシモ」−作者不詳―。なんとのどかな万葉の風景であろうか、ふたたび帰ってきて欲しい。
ヨメナは特有の香りがあって、私はセリよりも上品でおいしいと思う。ただ、私の記憶からいうと、春、ヨメナもノコンギクの若芽も同じように摘んで、同じようにおひたしにしていただき、同じ味であった。万葉の人々はこれを区別していたのだろうかとふと思う。


2004.11.
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