ホトトギス(杜鵑草)/ユリ科 ホトトギス属

 我が家から北に30分ほど林道をドライブすると榛名山頂上の火口原に着く。そこから東の方、ヤセオネ峠を下ったところに伊香保温泉はある。蘆花は伊香保を舞台に「不如帰」を書いたが、その遺されたさまざまな品々を見ることができる徳富蘆花記念文学館がそこにある。
 伊香保は思わぬことで有名になってしまったが、大部分はよい温泉である。その他、群馬県には榛名町にも榛名湖温泉(ゆうすげ)、ハルナ温泉、梅香温泉があるように、いたるところにすばらしい温泉が数え切れぬほどあるので、ぜひ訪ねて欲しい。お望みとあれば喜んでご案内したい。
 不如帰。浪子と武男の悲恋を歌いこんだ数え歌に、「鳴いて血を吐く、ほととぎす」という一節があるが、ほととぎすの甲高い鳴声は「帛を裂くが如し」といわれるほどで、鳴くときは口を大きく開け、真っ赤な喉の中が見えるので、鳴いて血を吐くという話が生まれた。鳴声は早口ことばにある、「(トウキョウト)トッキョ キョカキョク」と聞こえるが、これは関東であって、関西になると、「テッペン カケタカ」と聞こえるという。
 ほととぎす、ご承知のように、自らは巣を作らず、鶯などの巣に卵を産み、抱卵、育雛をさせる習性があるので、私はなんとなく嫌いだが、昔から鳴声を好まれた鳥で、鶯と同じく初音を聞くことが話題になったり、連歌や俳句の夏の季題にもなっている。小倉百人一首には後徳大寺左大臣の「ほととぎす なきつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる」があり、時代が下がれば蕪村の、「岩倉の 狂女恋せよ ほととぎす」がある。

 さて、庭のシロシキブの下にホトトギスが咲いた。ホトトギスの仲間は日本を中心にアジアに19種あるという。日本には12種、このうち10種は日本固有のもの。花の形は創造の神のみ手をつくづくと感じさせるものだ。凝ってはいるが渋いので茶花として珍重される。6個の花被片の外側は白、内側には濃紫色の斑点があり、これがほととぎすの胸の斑模様に似ているのでホトトギスと名づけられた。
 このように植物と動物で同じ和名を持つものがいくつかある。以前、教会の仲間と秋の乗鞍を訪ねたことがあったが、そこで見つけた奇妙な形の赤い実はゴンズイ(ミツバウツギ科の落葉低木)の実であった。そして本州中部以南の浅海に棲息するゴンズイはナマズ科の海魚である。
 ホトトギスが19世紀にヨーロッパに紹介されると、「JAPANESE TOAD LILY=日本から来たガマガエルの百合」と可哀想にも名づけられてしまった。それは写真でもわかるように、萼の基部が丸くコブ状にふくらんでいるからである。それに比べホトトギスという名のなんと優雅なことかと思う。
 夏の終わりに私たちの群れで経営している日立クリスチャン・キャンプ場を訪ねたとき、明るい林床にヤマホトトギスを見つけた。南アルプスの森林を歩いていて黄色い花のタマガワホトトギスを見た。ヤマジノホトトギスはいろいろな山で夏いっぱい見ることが出来る。ホトトギスはこの辺の家の庭にはどこでも咲いているが、あまり背高に繁りすぎるのも趣に欠けると思う。


2004.10.
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