その後


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 切手の発行事情を知らない人は、「なぜ、発売日まで待って、買い占めてから報告しなかったの」といいます。発行されてしまえば、たとえ売りさばきが中止になっても、発行初日の内に数十万シートが販売されてしまうので、希少価値は無くなるでしょう。発売後、かなり日が過ぎてから報告すれば、そのまま回収されずに終わったでしょう。あるいは、訂正した切手を別に発売することになったかもしれません。その方が郵趣的には面白いかな。

 切手回収の報道の中で、栃木郵便局が8シートを事前に発売してしまったことを知りました。切手の事前発売はこれまでに幾度もあり、すぐに同じ切手が出回るので、大きな問題になることはありませんでした。でも、今回は切手が回収されます。世間に8枚だけしか存在しない切手を購入できた人は、大喜びしているでしょう。



 愛唱歌シリーズ「めだかの学校」で、耳紙に表示した作曲家名を「田中喜直」と間違ったために、切手を刷り直したことがあります。「刷り直しの費用だけで1000万円以上かかる」と聞いた中田喜直氏は、冗談で(半分本気かな)「1000万円くれたら私の名前の方を変えてあげる」といったとか。再発行に1億2700万円もかかるなら、高山寺の石畳や木立を並びかえた方が安上がりかも知れません。しかし、こんな理由で世界遺産に手をつけることは許されないでしょうね。

 この切手は、心理学(認知科学?)的な点でも、面白い材料であることが分かりました。親類や同僚らに、裏焼きの切手のプリントと、高山寺のパンフレットの表紙(秋の表参道の風景で切手とほぼ同じ構図だがサイズが異なる)を見せて、「この切手が間違いで、パンフレットの方が正しいのだけと、どこが違うか分かる?」と聞いてみました。すぐに(数秒以内で)石畳が左右逆(つまりは全体が裏焼き)であることに気付く人と、「灯篭が違う、木が違う」と一つ一つ指摘していき、ようやく(30秒以上経って)石畳が左右逆になっていることに気付く人がいます。1分たっても石畳の違いに気付かない人もいました。すぐ気付く人とそうでない人が、ほぼ同数でした。この認知能力の差は、年齢や学業成績とあまり関係なさそうです

 図案が裏焼きだったために切手の発行が延期されたのは、日本切手では初めてです。切手では初めてですが、葉書では、回収されて再発行された例があります。絵入り葉書(お祭りの写真)やエコー葉書(着物の左前)などです。お祭りの写真の裏焼きは当事者でないと分かり難いでしょうが、女性の着物が左前であることに気付かないのは淋しい気がします。裏焼きではありませんが、切手の図案のミスはこれまでにも沢山あります。1960年頃に現在のようなインターネットがあれば、特急「白鳥」を描く北陸トンネル開通記念切手や、コノハチョウを描く琉球の13¢普通切手は刷り直しになったかも知れません。裏焼きなんて130年に1回のこと(?)ですが、本印刷に入る前の段階でホームページに切手原画を発表し、意見を求めるのも一法かも知れません。

 「裏焼き」になった原因はなんでしょう。多分、プリントではなく、リバーサルフィルムを入手し、それを表裏逆にスキャンした画像をマックで編集したのではないでしょうか。これは全く私の推定です。また、郵便局に掲示されている切手のポスターを見ると、切手画像の細部が分かります。戦後50年メモリアル以降、パソコンで図案を編集したと思われる切手が増えています。もしかしたら、画像処理ソフトの水平反転ボタンを知らないうちに押してしまったのかも。

 小林さんからのメールで、切手計画係の方も『うめ』を利用していることを知り、嬉しく思いました。

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