004「左京大夫が好きーッ」



大内義隆(1507―1551)


亀童丸、周防介、大内介、左京大夫、左兵衛権佐、兵部権大輔、伊予介、太宰大弐、兵部卿、侍従。周防・長門・豊前・筑前・石見・安芸の守護。大内義興の嫡男。室は万里小路秀房の女貞子。享禄元年(1528)、家督を相続。北九州の経略によって、大陸貿易の権益を掌握。天文五年(1536)、少弐氏を討伐。天文九年、毛利氏の郡山城を包囲した尼子氏を駆逐。翌年、安芸を支配下におさめる。天文十一年、尼子攻めに失敗し、敗退。重臣陶氏との軋轢が生じ、天文二十年、山口を追われ、長門大寧寺にて自害す。法名龍福寺殿瑞雲珠天。儒学・連歌など諸芸に通じ、戦国大名の中でも屈指の軍事力と高水準の文化を築いた。また、山口を訪れたザヴィエルにキリスト教布教を許可した。

◆戦国時代にもなると、南北朝以来の戦乱で朝廷も台所が苦しくなってきたんだよね。で、ふところのあたたかい地方の戦国大名に「御教書」と称して「内裏の雨漏り修繕や築地塀の修築をせよ」といいつけて、そのかわりに「官位」をあげたりすることが多くなった。

◆「官位」。わかるでしょう、ゲームが好きなあなたには。ステータスシンボルですよ。これがあると、近隣との交渉事もうまくいくんですよ。様子を窺っている国人衆が「ヘヘーッ」と恐れ入ってあなたの館へ伺候してくること間違いなし!。

◆戦国大名たちに特に喜ばれたのが「左京大夫」という官。大内義興、伊達稙宗、武田信虎、北条氏綱、大内義隆、六角義賢、赤松政村、岩城重隆、大宝寺晴時、結城晴広、大崎義直、大内義長、伊達晴宗、北条氏康、斎藤義龍、三好義継、徳川家康。こいつら、み〜んな、「左京大夫」なんだゼ(注:1493〜1568の間)。この中でも特に「左京大夫」にこだわったのが、山口の大内氏だな。父から子へ代々受け継がれて、まるで世襲化した観がある。

◆そもそも左京大夫という官はどういうものかというと、今谷明著『戦国大名と天皇』という本によると、「元来足利一門でもごく限られた、具体的にいえば侍所頭人となる資格のある、いわゆる四職家にしか許されない官であったと推測される」とある。

◆じゃあ、「右京大夫は?」ということになるが、こちらは管領細川氏オンリーだった。「京の大夫のみぎ・ひだり」というわけだからね、京都管領の細川氏がなるのは当然だ。もっとも、畠山とかが管領になると、次第にその範囲が広がっていった。いずれにしても、守護クラスは従五位下から正五位上までなのだが、左京大夫や右京大夫はもう一段上なのよ。京都など見たこともない田舎大名に与える官位ではないわけよ、本来は。

◆そもそもの問題が管領でもなく四職家でもない大内氏の任官がきっかけだ。しょうがないよ。天皇が短冊にサインして、露店(爆)開いて売ってたというほど朝廷も貧乏してて、それに大内はいっぱい金をくれるんだもの。ただ、大内氏は当時、将軍家に合戦をしかけるくらいの実力者(大内教弘の乱)であったが、さらに東北の小大名伊達稙宗が問題を大きくした。稙宗はいまだ陸奥半国でさえ統一していなかったが、左京大夫を拝命してしまったのだ。

◆伊達氏の左京大夫任官は、諸国に多くの波紋を呼びおこした。
「255貫かかりました。お公家さんたちへのおみやげも途中、関所をかまえる輩に差し出さなければなりませんでした。遠方の大名にはもう少し配慮が欲しいものです。官位のデリバリー・サービスなどがあるとありがたいのですが(伊達稙宗・談)」
大内義隆「ラ・ラ・ラ・むじんくんではあるまいし!。遠方ならば、わしとて同様じゃ」
ザビエル「オ〜、男ノ人ト男ノ人、愛シ合ウ。イケマセ〜ン」

◆「伊達にあげるんなら、ボクにもくれよ〜」と不平を鳴らしたのが北条氏綱と武田信虎。氏綱は伊豆・相模を平定し、武蔵をも支配しようとしている関東一の実力者。信虎も甲斐を平定した立派な国持ち大名だ。もうこれでメチャクチャ。われもわれも、とちっぽけな田舎大名にまで督促され、左京大夫の価値は一気に下落しちゃった。

◆面白くないのは大内義隆。彼は内裏の修繕や天皇即位の費用など、他の大名連中の数十倍もの金を供出していたんだからね。たとえば、通常の大名がやっとこさ百貫出すところを、義隆は二千貫ポーン!だから。大内の底力おそるべし、といったところだが、ついに太宰大弐という官を入手して、戦争相手の少弐氏をやっつけてしまった。理由は、(太宰)少弐氏より上の官「太宰大弐」を大内氏が手に入れたから、それまで味方していた豪族たちが、みんな寝返っちゃったの(笑)。従二位という高位も同時代では義隆ぐらいなものではなかろうか。

◆きちんと相手(朝廷)の言うままのお金払って官位を得ている大内義隆にとっては、雨後の筍みたいに現れた「左京大夫」どもが腹立たしかったでしょうな。
大内義隆「あいつらズルイぞ〜。わしなぞは、ちゃんと定価で買っておるというのに!」
ザビエル「ソンナコトヨリ、衆道、ヤメナサ〜イ」


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