上岡覺の日本語バックナンバー

 

はじめに

 

 私が、日本語に興味を持つたのは、福田恒存の「私の國語教室」を讀んでからのやうな気がする。戦後の國語改革を批判するこの書は、新假名遣ひ、當用漢字の不合理を指摘する。連續性・合理性を失つた日本語の代償は大きい。

 丸谷才一他、正字・歴史的假名遣ひを使ふ作家は、少いが存在する。このホームページで、私も正字・歴史的假名遣ひを用ゐることにした。

(1999.12.31)

 

1 「じゅっぴき」は間違ひか

 

 小學生の國語のテストにはしばしば驚かされる.。筆順の問題もあるが、それは後に論じるとして、今囘は、讀み假名の問題である。

「十匹」と書いてどう讀むか。殆どの人は「じゅっぴき」と讀んで憚らないが、文部省の正解は「じっぴき」なのである。實は、長女が「じゅっぴき」と答へて×になり、長男は「じっぴき」と答へたのに×になつたといふ事實もあつた。長女の担任は年配で、長男の担任は若手であつた。ご丁寧にも、文部省檢定済ヘ科書には、「十」に「ジッ」といふ、奇妙な音が付されてゐる。「十」は、歴史的には「ジフ」であり、「ジフヒキ」が促音化して「ジツピキ」が正しい。新假名遣ひにおいても「十」の音は「ジウ」とすべきであつたのだが、國語改革は、過度な表音主義を採り、「ジュウ」としてしまつた。「十匹」は「じゅうひき」、促音化して「じゅっぴき」となるのは、新假名遣ひにおいては自然の流れであらう。因みに、NHKは兩方認めてゐるさうである。

ところで、柔道家前田光世が傳へた柔道がブラジルで發展したものがグレイシー柔術だが、「柔術」は「ジウジュツ」なのだが、「JIU−JITSU」といふ表記を遣つてゐる。明治人前田は、「ジウジツ」と發音し、また認識してゐた可能性はある。ポルトガル語の素養は全くないので、確かなことは言へないが、ポルトガル語に「ジュ」といふ音がない可能性もある。

「『ことば』シリーズ3 ことばに関する問答集1」(文化庁編集、昭和5051日初版)の[問34]に、「十ぴき」「二十世紀」の「十」の發音についての記載がある。十七世紀初頭に刊行された、ロドリゲスの「日本語大文典」や「日葡辭書」には、「ジッ」はあるが、「ジュッ」といふ音はないさうである。

(2000.3.26)

 

2 十國峠

 

 6月10日、11日、伊豆高原へ行つて來た。途中、晝食休憩に寄つたのが十國峠である。なんと、看板には、「JUKKOKU」と表示されてゐた。ケーブルカーの驛の表示も「じゅっこく」となつてゐた。見たところ、十國峠はレストハウスもケーブルカーも西武鐵道の經營のやうである。堤義明氏の意向で、この表記をわざわざ遣つてゐるとも思へない。「じゅっこく」「じゅっぴき」が人口に膾炙してゐる一例。

 (2000.6.30)

 

3 SHINJO

 

 1218日、阪神タイガースの新庄剛志外野手が、ニューヨーク・メッツと正式契約した。ユニフォームの背中には、「SHINJO 」の文字。阪神時代は「SHINJYO」だつた。横浜ベイスターズに來てゐれば「SHINJOH」となつてゐたところだ。

日本語のローマ字表記混亂の一例である。

(2001.1.1)

 

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