煙突は虚空をつかむ(海原の終わり・2)

(ショベルカーも最後の入浴)
このお風呂やさんも、時間が経つにつれて、その面影を削ぎ落としていきます。
おなじみの海原は、とうに消えてしまいました。
そして、ショベルカーが浴槽を瓦解に戻そうとしているところです。この日は解体工事が休みでしたので、最後の入浴と洒落こんでいるのかもしれません。
千葉県松戸市にて

(悲しいほど無力な蛇口)
赤と青で色分けされた蛇口。
なす術もなく、木切れや埃をかぶっていました。

(最後に残るは・・・)
さらに次の週。
既に、浴槽は跡形もなく、若干の瓦礫が残るばかり。
でも、煙突だけは、その姿をとどめていました。
ご覧のように、煙突よりもさらに高いところにマンションの部屋がいくつもあります。このお風呂やさんが廃業に至った一因はここにもありそうです。
僕は、しばらくの間、この煙突を見上げていました。
煤けた煙突の先っぽと、光るマンションの壁が対照的でした。

(そして煙突も消えた)
しばらくは、煙を吐かない煙突も残っているかに思えましたが、さらに翌週のこと。
煙突はもはや煙突ではなく、ただのコンクリートの塊になっていました。
煙突の土台は、その口からタールの塊を吐き出して、恨みがましく僕を見つめているようでした。幻になった煙突は、幻の空をつかんでいることでしょう
その後、この場所は新地に戻っています。いったい、何ができるのでありましょう。