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「自分とつながる」
我々は、刻々と過ぎ行く「時間」の中を生きている。 しかし、過去の自分自身を省みることはほとんどない。 「今」を生きるために精一杯で、昨日の自分はすぐに消えうせてしまうのである。 時には立ち止まって、過去の自分に出会ってみるのもいいかもしれない。 そこで、この「TODAYシリーズ」を展示し、来館者が作品を鑑賞することを通して、過去や未来の自分自身に思いをはせることができるような美術館を考える。 |
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「『TODAY』シリーズ」
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コンセプチュアル・アートは、1960年代後半から始まった現代芸術の1つのスタイルである。 これは従来の流派や主義とは大きく異なり、何をつくるのかということよりも、どんな考えでつくるのかを問題とするものであった。 それゆえに、時間に対するアプローチもそれ以前とは違うものとなった。 コンセプチュアル・アートを代表する作家の一人である河原温は、「時間」を創作活動の大きな主題においてデイトプリンティングを展開した。 しかしながら、一瞥しただけでは芸術作品とは思えないそのスタイルは、むしろ時間の概念を的確に表現しているといえる。 さらに、過去から現在にわたって制作され続け今後もつくられるだろう、という独特の制作スタイルが、ことさらに時間の流れを我々に対して印象深いものにしている。 |
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「どのような空間に展示するか」
「TODAY」シリーズの展示室は、ストイックな空間がふさわしい。 それでいて、かつ「時間の流れ」を感じさせるような空間。 来館者がそれまでの自分の人生をふりかえり、過去の自分を改めて見つめなおす、そんなきっかけとなる空間。 展示空間として、上下左右の四方をガラスで囲まれた空間を考える。 展示空間をかたちづくるガラス壁は、白い障子のように室内の照明をほのかに外側へ漏らす。来館者の動きは、向こう側に見える展示空間に淡い光と影のうつろいをもたらす。来館者は、お互いの存在をぼんやりと感じながら、展示空間を巡ることになる。 この迷路状の展示空間には、決まった順路指示は存在しない。展示空間に入ってしまえば、始点も終点もない。来館者はなんら手がかりのないまま、迷いながら作品を鑑賞する間に、自らの運命に翻弄される人生を疑似体験することになる。 展示空間が上下に錯綜したり、あるいはガラス壁のすぐ向こう側に展示空間が見えているのに、そこへ行くためには遠回りをしなければならなかったり、という複雑な経路をたどる展示空間は、人生における不確定さや、自分ではどうにもならない運命的な力を意識させる。 |
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「美術館の諸機能」
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この迷路状の展示室は、外への開口部を持たない暗黒の直方体空間の中に収められる。 そこでは、展示室内の作品を照らし出す照明が、ガラスの床や壁ごしにもれ出す。 展示室は、迷路状に複雑に絡まった光の帯として、暗闇のなかに浮かびあがる。 展示室を内包する暗い直方体空間を囲むように、美術館の諸機能が配置される。 美術館のエントランスは1階と2階の2ヶ所に設けられている。 |
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「美術館の光と闇」
大階段の上部は天井に開口部を持ち、直接自然光が館内へ差し込む。 さらに、2階のカフェは直上の3階部分が吹き抜けであり、頭上から自然光が降り注ぐ。 加えて、カフェは南側が大開口となったオープンカフェスタイルであり、明るく開放的な空間が演出されている。 これは、展示室を内包する暗闇の直方体空間と対照的であり、展示室の特性をより強調したものとなっている。 |
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「オープンカフェ」
カフェは非常に開放的であり、美術館が面する白川通のにぎわいをそのまま取り込むように、大きな開口部をもつ。さらに、通りから美術館エントランスを結ぶブリッジ上も、オープンカフェとして使われる。 このカフェが有する閉鎖的な展示空間と比べて大きなギャップは、来館者が展示室をめぐる間に作品から感じたことを、よりクリアに心に刻み込んでもらうためには、効果的に作用する。 人によっては、作品を通して過去の自分と向き合った後で、今後の自分自身を想像するかもしれない。 |
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「美術館と作品の関係」
美術館の外部形状は、前面黒色で塗られた直方体になっている。 東側からは、傾斜のため西側よりも高くなっており1階は隠れて見えない。 そのために、あまり厚みのない直方体として眼に映る。 内部の複雑な形状を持つ展示室とは対照的な外観は、河原温の作品世界を建築で表現することを目指している。 |
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