暮らす旅

前口上

 旅行での一番の楽しみが、荷造り、という人間である。
 パッキンがどうのとか、便利グッズがどうのとか、そういった話ではない。私にとっての荷造りの楽しさは、
「日常生活のエッセンスを、コンパクトに表現する」
ところにあるのだと思う。
 バクダイなモノを詰めこんだ家にいる間は、「必要なモノがない」という感覚を味わうことはほとんどない。そんな私にとっては、旅行に行くという感覚は、物資を備蓄した基地を離れて活動する時のそれに、一番近いのだろう。
 自分の生活で必要不可欠なもので、持って歩けるものは何なのか。荷造りの時に考えるのはその一点のみ。で、そういうことを繰り返しているうちに。

 つまり私は、「生活に必要不可欠なものを見極める」という作業が楽しいんだー。

 ということにふと気づいてしまった訳である。

 さらに。
 私は旅行先で、スーパーマーケットや商店街を歩くのが好きだ。観光名所よりも、生活臭あふれるところを見てる方が面白いタイプの人間。でも、自分が暮らす訳でもない土地でそういったものを見ていても、野次馬以上の面白さは味わえない。いい喫茶店を見つけようと、良心的な八百屋さんを見つけようと、そこに通うことはできないのだから。
 知らない町は歩きたい。でも暮らせない町を歩いてもつまんない。

 じゃ、暮らせばいいのか、知らない町に。


 という訳で、この旅を始めることに決めた。
 必要最低限のモノを持って、知らない町へ行って、そこで二週間暮らすというプロジェクトである。
 天下の旅行下手なので、日本の中で行ったことがない場所がほとんど。「知らない町」には事欠かない訳だが、片っ端からそれを歩いて回っていたら、百回くらい転生しないといけなくなる。
 それに、せっかくなら色々な町を比べて特色を感じて、勝手な脳内地図を作りたいので、どこかで条件を揃えたところを訪問したい。
 で、決めた条件が
「いわゆる県庁所在地であるところ」
「そばに、市町村区立の図書館があるところ」
の二つである。この条件で、日本全国47都道府県に「暮らして」みたら、どんな違いがあってどんな楽しさがあるのか。あるいはぜーんぜん楽しくないのか。
 ま、その辺は当たり前だけど、やってみないとわからない。


とりあえず埼玉県