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2017年10月衆議院議員総選挙の分析とシミュレーション

同様・類似のシミュレーションは各新聞社でも行われていますが、ここでの分析とシミュレーションの手法は、私のオリジナルです。

 

 2017年10月の衆議院議院総選挙は、森友・加計学園疑惑で追い詰められた安倍首相が、最大野党であった民進党内の混乱と、北朝鮮のミサイル発射による不安に乗じて、政権の延命を期して行った選挙でした。

 衆議院の解散後、前原誠司氏率いる民進党の多くの議員が東京都知事の小池百合子氏率いる「希望の党」に合流しようとした際、小池氏は安保法制などで同一歩調をとれない民進党議員を排除しました。このことによって「希望の党」は、「安倍政権批判」を口にしながら、本質的には自民党の補完勢力に過ぎないことを示しました。他方で「希望の党」に入った民進党議員たちは自らの政見を豹変させ、有権者の不信感を買いました。このような露骨な選挙目当ての行動に有権者が反発。「希望の党」は勢いを失いました。

 他方で「希望の党」に合流しなかった枝野幸男氏を中心とする民進党議員たちが告示直前に結党した「立憲民主党」は、「安倍政権批判の筋を通した」との評価が高まり、政権批判票の受け皿となって大躍進しました。

 このように波乱含みの選挙でしたが、盤石の支持を受けた自民・公明両党が合わせて3分の2の大勢力を維持し、自民・公明・希望・維新の改憲派4党で実に8割の勢力に達する結果となりました。

 でもこの結果は、本当に国民が「圧倒的に」自民党を支持した結果なのでしょうか? 選挙制度を通して考えてみましょう。

実際の結果・・・得票率と議席率は一致しているか?

 まず、選挙の結果(得票数と当選者数)は下表の通りでした (便宜上、代表的な8つの政党だけでまとめます)。

  全体 自民 立憲民主 希望 公明 共産 維新 社民 こころ
小選挙区の得票数 55,422,087 26,719,032 4,852,097 11,437,601 832,453 4,998,932 1,765,053 634,719 0
小選挙区の当選者数 289 218 18 18 8 1 3 1 0
比例代表の得票数 55,757,552 18,555,717 11,084,890 9,677,524 6,977,712 4,404,081 3,387,097 941,324 85,552
比例代表の当選者数 176 66 37 32 21 11 8 1 0
当選議席合計 465 284 55 50 29 12 11 2 0

 

  これを次のように分析します。

  全体 自民 立憲民主 希望 公明 共産 維新 社民 こころ
小選挙区の得票率(%) グラフA (a) 100.0 48.2 8.8 20.6 1.5 9.0 3.2 1.1 0.0
小選挙区の議席率(%) グラフB  (b) 100.0 75.4 6.2 6.2 2.8 0.3 1.0 0.3 0.0
小選挙区の得票率を100とした議席率(b/a) グラフE 100.0 156.4 70.5 30.1 186.7 3.3 31.3 27.3 0.0
比例代表の得票率(%) グラフC (c) 100.0 33.3 19.9 17.4 12.5 7.9 6.1 1.7 0.2
比例代表の議席率(%) グラフD (d) 100.0 37.5 21.0 18.2 11.9 6.3 4.5 0.6 0.0
比例代表の得票率を100とした議席率(d/c) グラフF 100.0 112.6 105.5 104.6 95.2 79.7 73.8 35.3 0.0

 

  ここまでで既にお分かりのように、今回の選挙では自民・公明両党が大勝しましたが、自民党は小選挙区での得票率は約48%にすぎないにもかかわらず75%を超える議席を獲得。公明党も得票率の2倍ちかくの議席率となりました。小選挙区制のマイナス面(得票率と議席率が一致せず、得票が多くなるほど議席率が肥大化する点)が、特に政権与党に如実に現れていますね。野党はすべてそのワリを食って、得票率に満たない議席しか獲得できませんでした。

 これとは対照的に、比例代表区ではどの政党も得票率にだいたい見合った議席を獲得していることがわかります。ただ、衆議院議員総選挙の比例代表制度は全国を11ブロックに分けて実施しているので、大政党である自民党に有利な結果になっています。

 

*  *  *

 

 このことをグラフで確認してみましょう。上の表の数値をグラフに描いてみました。

 まず、下に並んでいる左と中央のグラフ(A・B)をよく見比べてください。左のグラフ(A)は小選挙区での各党の得票率分布(=民意構成)を図化したものです。中央のグラフ(B)は同じ小選挙区での各党の議席率分布(=議会構成)を図化したものです。この2つが同じ図形であれば、民意の反映(いわば「縮小コピー」)が完全であることを示していますが、両者を重ねてみた右のグラフをみてください。「同じ図形」とは言えないのではないでしょうか? 「小選挙区制は民意を歪めてしまう」ことがハッキリ示されていますね。自民党の“突出”が目立っています。

グラフA(小選挙の得票率)  グラフB(小選挙の議席率) グラフAとBを重ねた(青線:A赤線:B

 

 次に、同じ分析を比例代表の場合についてやってみましょう。下に並んでいる左と中央のグラフ(C・D)をよく見比べてください。左のグラフ(C)は比例代表の各党の得票率分布(=民意構成)を図化したものです。中央のグラフ(D)は同じ比例代表の各党の議席率分布(=議会構成)を図化したものです。この2つが同じ図形であれば、民意の反映(いわば「縮小コピー」)が完全であることを示しています。両者を重ねてみた右のグラフをみてください。かなり「同じ図形」になっていますね?

 衆議院議員総選挙の比例代表は、(定数はこの選挙から175に減少しました)、全国を11のブロックに分けているので、各ブロックは規模が小さい選挙になります。比例代表制は、議員定数が多くなるほど得票率と議席率の一致程度が高くなる性質をもっていますので、それぞれのブロックでは比例代表の利点が十分に発揮されません。それゆえ11ブロックの結果を単純に足し合わせただけでは、得票率と議席率は完全には一致しません。

グラフC(比例代表の得票率) グラフD(比例代表の議席率) グラフCとDを重ねた(青線:C赤線:D

 

 下図(グラフE・F)は、「各党の得票率を100とした場合に、議席率が得票率をどの程度満たしているか」という観点から図化し、選挙区と比例代表区のそれぞれの得票率と議席率の差(ズレの程度)を表現したものです。得票率と議席率が完全に一致していれば赤色の線で描かれた図形(正六角形)になり、それから外れるほど両者の間にはズレがある(=民意の反映がうまくいっていない)ことを意味します。緑線の図形が今回の選挙の得票率と議席率の一致度を表現したものです。これを見ると、小選挙区制では比例代表に比べて得票率と議席率が一致しないことがはっきり分かりますね。

グラフE(小選挙区:得票率と議席率の一致度)  グラフF(比例代表:得票率と議席率の一致度)

 

 このように選挙は、たとえ同じ得票であっても、選挙制度が違えば結果は大きく異なるのです。ということは、選挙をする目的に一番適した選挙制度を使って選挙を実施しなければ、選挙をする意味がないことになります。いい加減な選挙制度のために誰かが大きくトクをして、実際に国民から信任された以上の力をもつ結果をもらたすようなことがあっては、民主主義の理念に反するのではないでしょうか。そのことをよく考える必要があると思いますね。

 

シミュレーション:もし全議員を「全国1ブロックの比例代表制」で選挙していたら?

 ちなみに、今回の選挙の投票数をそのまま使って、もし今回改選される衆議院議員480人全員を「全国を1ブロックとした比例代表制」だけで選挙していたと仮定したら、結果はどうなっていたか計算してみると、次のようになります。

  全体 自民 立憲民主 希望 公明 共産 維新 社民 こころ
仮定の得票数
(比例代表のみの投票数)
55,757,552 18,555,717 11,084,890 9,677,524 6,977,712 4,404,081 3,387,097 941,324 85,552
仮定の得票数から計算した議席数
(パソコンを利用して実際にドント式で
算出した値)
465 157 94 82 59 37 28 8 0
仮定の得票率(%) グラフG (g) 100.0 33.3 19.9 17.4 12.5 7.9 6.1 1.7 0.2
仮定の議席率(%) グラフH (h) 100.0 33.8 20.2 17.6 12.7 8.0 6.0 1.7 0.0
仮定の得票率を100とした議席率
 (h/g) グラフI
100.0 0.5 0.3 0.2 0.2 0.1 0.1 0.0 0.2

 

 どうでしょうか? 下のグラフ(G・H)の左右の図形は一見しただけでは違いがわからないほど同じになっていますね。重ねてみてもほとんど違いがありません。

グラフG(仮定の得票率) グラフH(仮定の議席率) グラフGとHを重ねた(青線:G赤線:H
グラフI(得票率と議席率の一致度)    
   

 

 お分かりでしょうか。私は、このような理由から、衆議院議員の総選挙は、議員の全員を「全国を1ブロックとした比例代表制」で選挙すべきだと思っています。皆さんはどのように考えますか?


2009/9/22 初出