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2007年7月参議院議員通常選挙の分析とシミュレーション

同様・類似のシミュレーションは各新聞社でも行われていますが、ここでの分析とシミュレーションの手法は、私のオリジナルです。

 

 2007年7月の参議院選挙は、年金問題・政治資金問題などが争点となり、安倍首相率いる自民党が歴史的大敗を喫しました。これに対して小沢一郎氏率いる民主党が圧倒的勝利を収め、参議院は非改選議員を含めて野党勢力が過半数を押さえる結果となりました。

実際の結果・・・得票率と議席率は一致しているか?

 まず、選挙の結果(得票数と当選者数)は下表の通りでした (便宜上、代表的な5つの政党を中心にまとめます)。

  全体 自民 民主 公明 共産 社民 その他
選挙区の得票数 59,347,627 18,606,193 24,006,817 3,534,672 5,164,572 1,352,018 6,683,355
選挙区の当選者数 73 23 40 2 0 0 8
比例代表区の得票数 58,913,679 16,544,696 23,256,242 7,765,324 4,407,937 2,634,716 4,304,764
比例代表区の当選者数 48 14 20 7 3 2 2
当選議席合計 121 37 60 9 3 2 10

 

 これを次のように分析します。

  全体 自民 民主 公明 共産 社民 その他
選挙区の得票率(%) グラフA (a) 100.0 31.4 40.5 6.0 8.7 2.3 11.3
選挙区の議席率(%) グラフB  (b) 100.0 31.5 54.8 2.7 0.0 0.0 11.0
選挙区の得票率を100とした議席率(b/a) グラフE 100.0 100.3 135.3 45.0 0.0 0.0 97.3
比例代表区の得票率(%) グラフC (c) 100.0 28.1 39.5 13.2 7.5 4.5 7.3
比例代表区の議席率(%) グラフD (d) 100.0 29.2 41.7 14.6 6.3 4.2 4.2
比例代表区の得票率を100とした議席率(d/c) グラフF 100.0 103.9 105.6 110.6 84.0 93.3 57.5

 

  ここまでで既にお分かりのように、今回の選挙では自民党が大敗し民主党が躍進しましたが、民主党は選挙区での得票率は約40%であるにもかかわらず、 55%近い議席を獲得しています。参議院議員通常選挙の選挙区は、もともとは小選挙区制ではないのですが、議員の定数が2であるため、改選数が1となる、いわゆる「一人区」と呼ばれる「事実上の小選挙区」が29もあり、全選挙区(47選挙区)の過半数を占めています。そのため実質的には小選挙区制のマイナス面(得票率と議席率が一致せず、得票が多くなるほど議席率が肥大化する点)が表に現れてしまうのですね。結果的に、2005年9月の衆議院議員総選挙で、自民党が約48%の得票しかないのに約73%の議席を獲得したのとちょうど同じような現象が起こったということが言えると思います。そのワリを食った形になっているのが公明党・共産党・社民党です。特に公明党と共産党の間では、得票数では共産党のほうが多いにも関わらず、公明党が2議席獲得しているのに対して共産党は1議席も得られていません。

 これとは対照的に、比例代表区ではどの政党も得票率に見合った議席を獲得していることがわかります。「その他」で得票率と議席率があまり一致していないのは、このページでは便宜上もろもろの政党の得票を全部1つにまとめてしまっているからです。

 

*  *  *

 

 このことをグラフで確認してみましょう。上の表の数値をグラフに描いてみました。

 まず、下に並んでいる左と中央のグラフ(A・B)をよく見比べてください。左のグラフ(A)は選挙区での各党の得票率分布(=民意構成)を図化したものです。中央のグラフ(B)は同じ選挙区での各党の議席率(=議会構成)を図化したものです。この2つが同じ図形であれば、民意の反映(いわば「縮小コピー」)が完全であることを示していますが、両者を重ねてみた右のグラフをみてください。「同じ図形」とは言えないのではないでしょうか? 「選挙区制は民意を歪めてしまう」ことがハッキリ示されていますね。民主党の“突出”が目立っています。

グラフA(選挙区の得票率)  グラフB(選挙区の議席率) グラフAとBを重ねた(青線:A赤線:B

 

 次に、同じ分析を比例代表区の場合についてやってみましょう。下に並んでいる左と中央のグラフ(C・D)をよく見比べてください。左のグラフ(C)は比例代表の各党の得票率分布(=民意構成)を図化したものです。中央のグラフ(D)は同じ比例代表の各党の議席率(=議会構成)を図化したものです。この2つが同じ図形であれば、民意の反映(いわば「縮小コピー」)が完全であることを示しています。両者を重ねてみた右のグラフをみてください。かなり「同じ図形」になっていますね?

 参議院議員の比例代表区は、定数が48で、規模が小さい選挙です。比例代表制は、議員定数が多くなるほど得票率と議席率の一致程度が高くなる性質をもっていますので、衆議院議員総選挙のときほどクリアには一致しませんが、それでも「比例代表制は民意を正確に反映する」ことが相当程度示されていると思います。

グラフC(比例代表区の得票率) グラフD(比例代表区の議席率) グラフCとDを重ねた(青線:C赤線:D

 

 下図(グラフE・F)は、「各党の得票率を100とした場合に、議席率が得票率をどの程度満たしているか」という観点から図化し、選挙区と比例代表区のそれぞれの得票率と議席率の差(ズレの程度)を表現したものです。得票率と議席率が完全に一致していれば赤色の線で描かれた図形になり、それから外れるほど両者の間にはズレがある(=民意の反映がうまくいっていない)ことを意味します。緑線の図形が今回の選挙の得票率と議席率の一致度を表現したものです。これを見ると、選挙区制では得票率と議席率がいかに一致しないかが、はっきり分かりますね。

グラフE(選挙区:得票率と議席率の一致度)  グラフF(比例代表区:得票率と議席率の一致度)

 

 このように選挙は、たとえ同じ得票であっても、選挙制度が違えば結果は大きく異なるのです。ということは、選挙をする目的に一番適した選挙制度を使って選挙を実施しなければ、選挙をする意味がないことになります。いい加減な選挙制度のために誰かが大きくトクをして、実際に国民から信任された以上の力をもつ結果をもらたすようなことがあっては、民主主義の理念に反するのではないでしょうか。そのことをよく考える必要があると思いますね。

 

シミュレーション:もし全議員を「全国1ブロックの比例代表制」で選挙していたら?

 今回の選挙の投票数をそのまま使って、もし今回改選される参議院議員121人全員を「全国を1ブロックとした比例代表制」だけで選挙していたと仮定したら、結果はどうなっていたか計算してみると、次のようになります。

  全体 自民 民主 公明 共産 社民 その他
仮定の得票数(選挙区+比例代表区の投票数) 118,261,306 35,150,889 47,263,059 11,299,996 9,572,509 3,986,734 10,988,119
仮定の得票数から計算した議席数(パソコンを利用して実際にドント式で算出した値 121 36 49 11 10 4 11
仮定の得票率(%) グラフG (g) 100.0 29.7 40.0 9.6 8.1 3.4 9.3
仮定の議席率(%) グラフH (h) 100.0 29.8 40.5 9.1 8.3 3.3 9.1
仮定の得票率を100とした議席率 (h/g) グラフI 100.0 100.3 101.3 95.2 102.5 97.9 97.9

 

 どうでしょうか? 下のグラフ(G・H)の左右の図形は一見しただけでは違いがわからないほど同じになっていますね。重ねてみてもほとんど違いがありません。

グラフG(仮定の得票率) グラフH(仮定の議席率) グラフGとHを重ねた(青線:G赤線:H
グラフI(得票率と議席率の一致度)    
   

2007/7/31 初出

2007/8/14 「もし全国を1ブロックとした比例代表だけで実施したら」シミュレーション追加