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2005年9月衆議院議員総選挙の分析とシミュレーション

同様・類似のシミュレーションは各新聞社でも行われていますが、ここでの分析とシミュレーションの手法は、私のオリジナルです。

 

 2005年9月11日投票の衆議院議員総選挙は、小泉純一郎総裁(首相)率いる自民党が圧勝しました。いっぽう政権交代を訴えていた民主党は壊滅的敗北に終わりました。小泉首相が争点として掲げた「郵政民営化」に対して、国民は圧倒的信任を与えたように見えます。

 しかし本当に自民党は「圧勝」したのでしょうか? 当選者数では確かに自民党は民主党の約3倍になっています。でも実際の得票数では両者に大きな差はありませんでした。それなのに、なぜ当選者数に3倍もの開きが出てしまったのでしょうか? その最大の理由は、実は選挙制度にあるのです。同じ投票数でも、選挙制度が違うと、当選者数が大きく変わってしまうのです。

 どちらが“実像”で、どちらが“虚像”なのか? 選挙に関する知識があれば、結果の見え方も違ってきます。「選挙制度が違うから結果が違っていい」はずはありません。結果が違ってしまうのは 、ゆがんだ結果を生むような欠点の多い選挙制度が存在するからです。「国民の代理人」たるにふさわしい正しい議会をつくるためには、ゆがみのない公正な結果を出す選挙制度が必要です。主権者として、選挙について学びませんか。

 ちなみに自民党の得票は、小選挙区で全国合計約3200万票、比例代表で全国合計約2500万票。いっぽう民主党の得票は、小選挙区で全国合計約2400万票、比例代表で全国合計約2100万票です。小選挙区・比例代表どちらを見ても、自民党の得票数は民主党の2倍にも達していません。ちなみに私の独自の分析では、全国を1ブロックとした比例代表制だけで今回の総選挙を実施していたと仮定して、今回の選挙で投じられたすべての票(小選挙区+比例代表)から選挙結果をシミュレーションすると、自民党と公明党(=与党)を合わせた当選者数は、過半数をギリギリ確保する程度の結果にとどまっていたはずで、少なくとも今回ほどの「自民党圧勝」にはならなかったはずです。

実際の結果・・・得票率と議席率は一致しているか?

 まず、総選挙の結果(得票数と当選者数)は下表の通りでした。

  全体 自民 民主 公明 共産 社民 その他
小選挙区の得票数 68066289 32518389 24804786 981105 4937375 996007 3828627
小選挙区の当選者数 300 219 52 8 0 1 20
比例代表の得票数 67811069 25887798 21036425 8987620 4919187 3719522 3260517
比例代表の当選者数 180 77 61 23 9 6 4
当選議席合計 480 296 113 31 9 7 24

 

 これを次のように分析します。

  全体 自民 民主 公明 共産 社民 その他
小選挙区の得票率(%) グラフA (a) 100.0 47.8 36.4 1.4 7.3 1.5 5.6
小選挙区の議席率(%) グラフB  (b) 100.0 73.0 17.3 2.7 0.0 0.3 6.7
小選挙区の得票率を100とした議席率(b/a) グラフE 100.0 152.7 47.5 192.9 0.0 20.0 119.6
比例代表の得票率(%) グラフC (c) 100.0 38.2 31.0 13.3 7.3 5.5 4.8
比例代表の議席率(%) グラフD (d) 100.0 42.8 33.9 12.8 5.0 3.3 2.2
比例代表の得票率を100とした議席率(d/c) グラフF 100.0 112.0 109.4 96.2 68.5 60.0 45.8

 

 この数値をグラフに描いてみました。

 まず、下に並んでいる左と中央のグラフ(A・B)をよく見比べてください。左のグラフ(A)は小選挙区での各党の得票率分布=民意構成を図化したものです。中央のグラフ(B)は同じ小選挙区での各党の議席率=議会構成を図化したものです。この2つが同じ図形であれば、民意の反映(いわば「縮小コピー」)が完全であることを示していますが、両者を重ねてみた右のグラフをみてください。「同じ図形」とは言えないのではないでしょうか? 「小選挙区制は民意を歪めてしまう」ことがハッキリ示されていますね。

グラフA(小選挙区の得票率)  グラフB(小選挙区の議席率) グラフAとBを重ねた(青線:A赤線:B

 

 次に、同じ分析を比例代表の場合についてやってみましょう。下に並んでいる左と中央のグラフ(C・D)をよく見比べてください。左のグラフ(C)は比例代表の各党の得票率分布=民意構成を図化したものです。中央のグラフ(D)は同じ比例代表の各党の議席率=議会構成を図化したものです。この2つが同じ図形であれば、民意の反映(いわば「縮小コピー」)が完全であることを示しています。両者を重ねてみた右のグラフをみてください。かなり「同じ図形」になっていますね? 「比例代表制は民意を正確に反映する」ことが示されています。

グラフC(比例代表の得票率) グラフD(比例代表の議席率) グラフCとDを重ねた(青線:C赤線:D

 

 下図(グラフE・F)は、「各党の得票率を100とした場合に、議席率が得票率をどの程度満たしているか」という観点から図化し、小選挙区と比例代表のそれぞれの得票率と議席率の差を表現したものです。得票率と議席率が完全に一致していれば赤色の線で描かれた図形になり、それから外れるほど民意の反映がうまくいっていないことを意味します。緑線の図形が今回の総選挙の得票率と議席率の一致度を表現したものです。これを見ると、小選挙区制では得票率と議席率がいかに一致しないかが、はっきり分かりますね。

グラフE(小選挙区:得票率と議席率の一致度)  グラフF(比例代表:得票率と議席率の一致度)

 

シミュレーション:もし全議員を「全国1ブロックの比例代表制」で選挙していたら?

 今回の選挙の投票数をそのまま使って、もし衆議院議員480人全員を「全国を1ブロックとした比例代表制」だけで選挙していたと仮定したら、結果はどうなっていたか計算してみると、次のようになります。

  全体 自民 民主 公明 共産 社民 その他
仮定の得票数(2005年総選挙の、小選挙区+比例代表の、実際の投票数) 135877358 58406187 45841211 9968725 9856562 4715529 7089144
仮定の得票数から計算した議席数(パソコンを利用して実際にドント式で算出した値 480 208 163 35 35 16 23
仮定の得票率(%) グラフG (g) 100.0 43.0 33.7 7.3 7.3 3.5 5.2
仮定の議席率(%) グラフH (h) 100.0 43.3 34.0 7.3 7.3 3.3 4.8
仮定の得票率を100とした議席率 (h/g) グラフI 100.0 100.7 100.8 99.5 100.6 95.1 92.0

 

 どうでしょうか? 下のグラフ(G・H)の左右の図形は一見しただけでは違いがわからないほど同じになっていますね。重ねてみてもほとんど違いがありません。既に説明してきたように、比例代表制は、得票率と議席率の一致、すなわち民意と議会の構成が同じになり、民意の反映が正確になるのですが、この一致の程度は、選挙の規模(投票数)が大きくなればなるほど高くなります。現行の衆議院議員選挙で実施されている比例代表制は全国を11のブロックに分けていますので、率の一致は全国を1つのブロックにしたと仮定したときほど高くはありません。しかし全国を1ブロックとすると、得票率と議席率は千分の3程度の違いしか生じません。

グラフG(仮定の得票率) グラフH(仮定の議席率) グラフGとHを重ねた(青線:G赤線:H
グラフI(得票率と議席率の一致度)    
   

 

 2005年9月総選挙時は、自民党と公明党が与党でした。自民党と公明党の当選者数の合計は衆議院議員定数の過半数ですので、仮に全国1ブロックの比例代表制だけで衆議院議員の全員を選挙していたとしても、実際には政権交代は起きなかった可能性が大きいと思います。しかし「過半数」とは言っても、ギリギリの過半数ですから、何らかの政界再編の可能性もあったと言えるでしょう。