とよティーの喫茶室
 

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■選挙制度にはどのようなものがあるか?

Q1、選挙制度にもいろいろあるの? 

●基本的な3つの制度

 選挙制度には、基本的に3つの制度があります。

@小選挙区制

 1つの選挙区から1人の当選者を出す選挙制度を言います。

 「小」という字が使われていますが、本来、選挙区の面積の大小はまったく関係ありません。

A大選挙区制

 1つの選挙区から2人以上の当選者を出す選挙制度を言います。

 当選者が2〜3人の少人数のときを特に「中選挙区制」と表現する場合があります。

B比例代表制

 1つの選挙区から多数の当選者を出しますが、国民の意見と議会の意見を一致させるため、得票率議席率が一致するように、まず政党ごとの当選者数を決め、次に各政党の当選者を決めるという手続きが取られます。

 ふつう投票用紙に政党名を書いて投票する点が、小選挙区制・大選挙区制と異なります。

 

では順に説明していきましょう。

 

●小選挙区制

 最も伝統的な選挙制度で、選挙母体(選挙区)から、代表者(議員)を1人選ぶ制度です。選挙される議員が一人ですから、選挙母体(選挙区)の住民と代表(議員)との間の結びつきが強いという長所があります。

 しかしこの選挙制度には、重大な欠点があります。死票(結果的に落選した候補者に投じられた票)が多くなるという欠点です。候補者が多数の場合には、半数以下の得票でも当選するという矛盾が生じやすくなるのです。それゆえ、相対的に多数の票を獲得できる政党には有利で、支持率の低い党が当選者を出すのは困難になります。一般的な教科書で長所として「政権交代が起こりやすい」と説明されているのは、このことと関連がありますが、ここでは保留します(つまり本当は「長所」とはいえないということ)。

 (例) A候補 40票 (当選)

     B候補 30票 (死票)

     C候補 20票 (死票)

     D候補 10票 (死票)

     合 計 100票

 左の例の場合、当選したA候補の得票(40票)よりも、落選したBCD候補の得票(60票)の方が多くなり、A候補は半数にも満たない支持しかないのに、代表として議員になってしまう矛盾が生じます。

 このような欠点を克服する方法は少なくとも2つ考えられます。一つは、上位2人で決選投票をする方法です。しかし再度投票する手間がかかります。もう一つの方法は、当選者を2人以上にして、死票を少なくする方法です。これが大選挙区制の発想です。
 

 

 

●大・中選挙区制

 死票をなるべく少なくし、世論を議会に反映しやすくするために、当選者数を複数にした制度だと考えればよいのです。

 (例) A候補 40票 (当選)

     B候補 30票 (当選)

     C候補 20票 (死票)

     D候補 10票 (死票)

     合 計 100票

 左の例の場合、当選したAB候補の得票(70票)は、落選したCD候補の得票(30票)よりも多くなっています。死票は小選挙区の時よりも減りましたし、当選者の得票が半数にも満たないという矛盾は解消されています。当選者を増やせば、死票が半数以上になるというケースが生じる可能性は極めて小さくなるのです。

 しかし、この制度にも欠点があります。第一に、当選者が複数になると、多数の当選者を得たい大きな政党は、1つの選挙区に複数の立候補者を立てなければならず、所属政党を同じくする立候補者の間にも熾烈な競争がつきまといます。第二に、厳密には国民の意見と議会の意見は一致しません。得票率と議席率が一致していないからです。例えば上の例で、A候補の得票率は40%ですが、A候補の議席率は50%です(当選2議席のうち1議席をとるから)。つまりA候補は、40%の支持しかないのに、議会では50%の意見を代表していることになってしまうのです。

 

●比例代表制

 国民の意見と議会の意見が一致するように(つまり得票率と議席率が一致するように)考案された制度です。そのことによって、国民の世論(民意)を議会に正確に反映することができるようになります。

■「国民の世論(民意)を議会に正確に反映する」とは、どういうことでしょうか?

■なぜ「得票率と議席率が一致すれば国民の世論(民意)が議会に正確に反映している」といえるのでしょうか?

 これは、国民世論の構成比を“縮小コピー”したものが議会の議員構成比と一致する、というふうに考えてみると分かりやすいと思います。つまり、議会は国民全体を代表して話し合いをする存在なのですから、本当に国民のための話し合いをするのであれば、議会は国民の政治意識を正確に再現したものでなければならないはずです。「国民の世論を正確に議会に反映する」とはそういうことなのです。

 得票率は国民世論の構成比です。いっぽう議席率は議員の意見の構成比率です。ですから、この2つが一致していれば、国民の政治意識が正確に議会に再現していると考えられるわけです。

 

 得票率と議席率が一致するようにするため、実際にはさまざまな方法が考案されていますが、日本ではドント式という方法で各政党の当選者数を決めています。当選者数が決まったあとの各党の当選者の決め方については、拘束名簿式、非拘束名簿式などがあります。

■ドント式の計算方法

 各政党の得票数を、自然数で割り算し、その答えの大きいものから当選者を割り当てます。

        (例)議員定数10の選挙区で、投票結果から各党の当選者数を決める方法

 

A党

B党

C党

D党

得票数(/1)

20,000 @

15,000 A

10,000 C

 5,000 I

          /2

10,000 B

 7,500 D

 5,000 H

 2,500

          /3

 6,666 E

 5,000 G

 3,333

 

          /4

 5,000 F

 3,750

 

 

          /5

 4,000

 

 

 

  当選者数

     4人

     3人

     2人

     1人

 

 

 比例代表制では、このように各党の得票率に議席率を一致させるため、小さい政党でも得票数に応じて議席が与えられます。それゆえ、たくさんの政党が立候補すれば、小党分立になる可能性があります。(例:ドイツ)

Q2、現在の日本の国会議員の選挙制度は?

●参議院議員の選挙制度

 現在の参議院議員(242人)の選挙制度は、全国を1選挙区とする比例代表制(議員定数96)と、各都道府県を1選挙区とする中選挙区制(議員定数146)の2本立てで実施されています。

  参議院議員の選挙制度は、1982年までは、全国を1選挙区とする大選挙区制(議員定数100)<全国区と呼ばれた>と、各都道府県を1選挙区とする中選挙区制(議員定数の合計152)の2本立てで実施されていましたが、1982年に制度が変わり、<全国区>のかわりに、日本で初めて比例代表制が導入されました。比例代表制と中選挙区制の両方に重複して立候補することはできません。

 比例代表制は、従来は「拘束名簿式」と言って、政党名だけを書いて投票し、ドント式で各党の当選者数が決まったあとは、あらかじめ各党が準備しておく名簿の順位に従って上位者から当選とする方式が行われていましたが、2001年夏の選挙から「非拘束名簿式」で実施されることになりました(2000年に法律改正)。

 非拘束名簿式では、政党は候補者の名簿を順位をつけずに発表します。有権者は政党名で投票しても候補者個人名で投票しても構いません。開票作業では、まず政党名票と個人名票の合計数を政党(所属政党)の得票とみなしてドント式で計算し、各党の当選者数を決めます。その後、個人名票をたくさん獲得した候補者から当選を決めていくのです。

 

●衆議院議員の選挙制度

 現在の衆議院議員(現在480人1996年当時は500人)の選挙制度は、1996年以前は全員が中選挙区制で選挙されていましたが、1994年に法律が改正され、1996年実施の総選挙からは、「小選挙区比例代表並立制」と言って、全国を11の選挙区に分割した比例代表制(議員定数の合計180人但し1996年当時は200人)と、全国300の選挙区による小選挙区制(議員定数300人)の並立制で実施されています。

 並立制では、小選挙区と比例代表の両方に同時に立候補できます(重複立候補)。比例代表制の名簿は拘束名簿式ですが、同順位に複数の候補者を並べることができます。有権者は、小選挙区制度の投票では個人名を、比例代表制度の投票では政党名を書いて投票します。開票作業は小選挙区から始めます。小選挙区で当選した重複立候補者は、比例代表の名簿からは抜けます(勝ち抜け)。いっぽう小選挙区で落選しても比例代表で当選する可能性があります(復活当選)。この場合、小選挙区で落選した重複立候補者が、比例代表の名簿で同順位者との競争になったときは、惜敗率(セキハイリツ)の大きい者から優先的に当選します。惜敗率というのは、その重複立候補者が落選した小選挙区で、当選者の得票の何%まで票を獲得していたか、を表わす割合です(対立候補が10万票で当選した小選挙区で、7万票で落選したとすると惜敗率は70%)。

 小選挙区制と比例代表制という、民意の反映という点では全く正反対の性質をもつ制度が(しかも並立制という複雑なしくみで)存在するのは、世界的に見てもあまり例がありません。それは、現在の制度が妥協の産物だからです。つまり1994年に現在の制度を導入するときに、小選挙区制を導入しようとする政党と、比例代表制を導入しようとする政党の激突があり、その妥協として現在の制度ができたのです。(1994年に細川護煕内閣は「小選挙区250・全国比例区250」の法案を国会に提出したのですが、参議院が反対したため、当時の土井たか子衆議院議長の斡旋がきっかけで、細川首相と自民党が妥協し現在の制度になったのです) 

■Q3、公正な選挙制度とは?

●選挙制度の優劣を決めるのは「政権交代の可能性」ではない

 1994年に衆議院議員選挙に小選挙区比例代表並立制が導入された時、国会では「政権交代の可能性」が大きい制度を求めるような論調がありました。そこでは、「比例代表制は小党分立になるから、政権が不安定になる」と主張され、マイナスイメージが強調されました。そのいっぽうで、「小選挙区制なら、小党が議席を取れなくなるから、やがて二大政党制が実現し、わずかの差で政権が交代するようになる」とされたのです。当時は、「選挙制度の専門家」を自称する大学教授や、マスコミが、このような考え方を大々的に宣伝しましたし、教科書にもそのような説明がありました。

 しかし、このような議論が間違いであることは現在ではほぼ明らかになりました。誤りの理由は、少し考えてみれば分かります。

 「小党分立になるから政権が不安定になる」とか、「小党が壊滅して2大政党になるから政権交代の可能性が増す」というようなことは、合理的根拠のない希望的観測論にすぎません。小党分立になっても、連立によって安定した政権を作っている国もあれば(例えばドイツ)、2大政党であっても長期間保守党政権の続いた経験のある国もある(例えばイギリス)ことを見れば、明らかです。だいいち、「政権交代を実現する」として導入された小選挙区比例代表並立制を導入してから既に何回も総選挙が行われたにもかかわらず、(しかも与党・自民党の支持率が大きく落ち込んでいるときに実施された選挙のときでさえ)政権交代が起きないではありませんか!

 逆に、仮に、衆議院議員の全員を、もし全国を1つの選挙区とする比例代表制で選挙していたとしたら、1996年や2000年の総選挙では、自民党は議席を激減させ、もしかすると政権の座を滑り落ちていたかもしれないのです。

 

●最も優れているのは「民意の反映」を第一とする比例代表制

 選挙制度の優劣を判断する時に必要な視点は、「政権交代の可能性が大きいか小さいか」ではなく、「民意を正しく反映する選挙制度はどれか」という視点です。

 政権交代という現象は、「与党を信任しない」という民意が正確に議会に反映された結果として起きる現象なのです。そういう民意がハッキリしないところで、いわば選挙制度の性質によって政権交代が起きてしまったのでは、かえって国民のためにはならないのです。

 どうして選挙をする必要があったのでしょうか? それは「全員が集まって議論できない」からでした。全員が集まって議論できないからこそ、選挙をして議会をつくるのです。その基本に戻って考えれば、選挙制度の優劣を判断する基準は「民意の正確な反映を実現するかどうか」であり、その点で最も優れているのは、比例代表制だということになります。

 

●重複立候補(と「復活当選」)は問題なのか?

 衆議院議員総選挙のあとでは、いつも衆議院議員の選挙制度に重複立候補(と「復活当選」)の制度があることが問題であるかのように一部マスコミは報道していますが、私はこの制度にはマスコミが問題にするほど大きな問題はないと考えています。

 確かに、同一人物が小選挙区制と比例代表制の両方に立候補できて、小選挙区で落選しても比例代表で「復活当選」できるというのは、何だか虫のいい話で、不合理に感じるのは無理もないことだと思います。しかし、仮に重複立候補と復活当選の制度がないとしても、現在のように小選挙区と比例代表を並立している以上、全体の当選者数は同じになるはずです。なぜなら現在の制度でも、一人の当選者は小選挙区か比例代表のいずれかで当選したことになっているからです。もちろん当選者の顔ぶれは違ってくるでしょうが・・・。

 「復活当選」が不合理に思えるのは、無意識のうちに“小選挙区を主、比例代表を従”と考えているからではないでしょうか。逆に、“比例代表を主、小選挙区を従”と考えれば、比例代表で当選した候補者は最初から小選挙区に立候補していなかったのと同じことなのですから、「復活当選」という言い方もなくなります。ちなみに石川真澄氏は、比例代表の票から先に開票すれば、比例代表の当選者が先に決まるのだから、「復活当選」という表現が間違いであることに気づくはずだ、という趣旨の発言をしています。

 

●全国を1ブロックの比例代表制では、“選挙区ごとに個人を選ぶ”ことができないのでは?

 日本国憲法(第43条)にも定められているように、国会議員は選挙区の代表ではなく、国民全体の代表です。ですから私は、ほんらい国会議員は全国1ブロックで選ぶべきだと思います。従来の「選挙区」というのは、情報伝達手段が未発達だった時代の名残にすぎないのではないでしょうか。全国1ブロックの比例代表が国会議員の選挙制度として最もふさわしいと考えるのはそのためです。

 全国1ブロックにすると個人を選ぶことができない、というわけではありません。衆議院議員選挙の比例代表制は「拘束名簿式」ですから、有権者は投票のときに政党しか選ぶことができず、候補者個人を選ぶことができません。しかし参議院議員選挙の比例代表制は「非拘束名簿式」ですから、有権者は政党ではなく、候補者を選ぶことができます。つまり候補者個人名を投票用紙に書いて投票することができます。衆議院議員選挙でも、非拘束名簿式の比例代表制にすることによって、個人を選ぶ側面を強めることができるのです。

 比例代表制は、選挙母体が大きくなればなるほど、正確に得票率と議席率が一致します。その点でも、全国1ブロックの比例代表が国会議員の選挙制度として最もふさわしいと、私は思いますね。

Q4、選挙制度についてもっと知るには? 

●図書では

 ○石川真澄『選挙制度』岩波ブックレット(岩波書店)

  著者はもう亡くなりましたが、選挙制度に詳しい新聞記者でした。入門書として最適と思います。

 

●雑誌記事では

 ○岩波書店『世界』2000年12月号

  ちょっと古い文献ですが、選挙制度についての面白い提言があります。


2006/11/25 初出

2007/7/29 参議院議員の定数訂正

2007/7/31 参議院議員通常選挙の分析を追加

2010/ 分析へのリンクをはずす。タイトルを改める