リニア中央新幹線について意見を述べます

 

 

森本 優

2010/08/26


 「東海道新幹線の経年劣化対策」・「地震対策」として、JR東海が新たにリニア中央新幹線(以下、リニアと呼ぶ)を敷設するとのことですが、それが唯一無二・最良の方策であるとは私には到底考えられません。

 国家プロジェクトとしての性質上、JR東海と沿線自治体との間だけの話し合いに止めず、必要な情報は広く公開していただき、リニア以外の代替案の検討も含め、今後の公共交通のあり方や安全性、そして国家ビジョン等について、地球環境保全対策等にも留意しつつ、全国民レベルで議論を尽くすべきと考えます。

 以下、四つに分けて理由を述べます。

 

1 経営判断の点から

 

 JR東海がリニアを推進しようとする実質的な前提には、高度成長時代と同じ発想で、自動車等の製品の輸出を担う企業の活動を当てにしている面があるのではないでしょうか。

 しかし、工場が国際競争の下で海外にどんどん出て行く事態になっている現状では、リニアによって東京・名古屋・大阪を短時間で往き来するというビジネスサイドからのニーズは減少せざるを得ません。

 まして、今後人口の減少が進むため、高齢者が仕事以外に進んでリニアを使うのでない限り、東海道新幹線だけでなくリニアの乗客数も当然減ってゆくことが予想されます。

 更に、IT技術の進歩により、全世界の人々と瞬時にテレビ会議等の手段でコミュニケーションを取ることが多くなってきているので、相対的に物理的な移動の必要性自体が低下しています。

 また、バス・航空等の運賃が下落傾向にあり、また高速道路の無料化も進むなら、リニアも例外なく価格競争の波に呑み込まれるはずです。

 ところでJR東海は、成長期の数字を頼りに(?)「充分採算が取れる」との経営判断をしていますが、以上のように状況が大きく変わりつつあるのに、本当に採算が取れるのでしたら、そのことを立証するためにも、工事費・今後の需要予測等の数字の根拠を公にすべきです。JR東海は、株主・従業員、更には一般国民(将来税金を投入せざるを得なくなりそうなので)に対して、誠実に説明責任を果たして私たちの不安を払拭すべきだと考えます。

 

2 安全性の点から

 

 先ず、電磁場の安全基準について、JR東海はICNIRP(1994年)の40ミリテスラを担ぎ出していますが、妥当なものか疑問です。

 WHOでは2007年に環境保健基準として短時間で1ガウス(0.1ミリテスラ)、長時間でその千分の一の単位の3〜4ミリガウス(0.3〜0.4マイクロテスラ)程度を示唆しており、予防的な対策を各国に求めています。

 ガン等の発生が直ぐというわけでなく、しかも因果関係の立証も困難なのだから、基準が緩くても構わないと考えているようなら問題です。基準が他国と比べ著しく緩くなっている点につき説明を求めます。

 また、電磁波をシールドする技術体制が整えられているとしても、完全と言うことはありえないので、もし万が一リニアにおいて生ずる強い磁界に晒された場合、人体にはどのような影響が及ぼされるかについて、より深く調査し、利用者になるであろう一般国民に広く情報を公開すべきだと考えます。

 

 次に、地震・火災等に対する安全対策について。

 軌道の80パーセント程が地下になるとのことなので、万が一のための避難用縦坑・横坑のおおよその間隔・設置場所等の計画を具体的に明示していただきたいと思います。

 利用者として安全に避難できるかどうかは、最優先されるべき課題であるからです。

 

3 国家ビジョンの点から

 

 ところで、日本を幾つかのブロック(道・州)に分けて自律性を持たせ、各ブロック内の行財政活動を活性化させる案も詰められていると聞きます。

 各ブロック内の各地域が持つ人材・資源を活用して財政を整え、住民参加により行政を革めてゆくべきだと考えますが、その方向に舵が取られるとするならば、国としてなすべきことは、ブロック圏内並びに各ブロック間の公共交通網の整備・補強を第一にすべきであると考えます。リニアが結ぶメガ地域構想は、その地方分権による行財政改革の流れと矛盾し兼ねないように思われます。

 今後アジア諸国の成長に目を奪われる時期が暫らく続くでしょうが、資源の枯渇と争奪戦、そして気候変動による災害・水不足・食糧難等がはっきりと露呈され出せば、輸出に頼っていた企業群は不安定な状況に立たされることでしょう。

 そのような時こそ、人材を育て地域の資源を活かして力を蓄えてきた地域の連携が、歴史の表舞台に登場してくるようになるのではと考えています。

 国は、大企業群を主導主体とする国家戦略から、以上のように地方分権の流れの中で地域力(住民力)を育む方向で自覚的に国家戦略を編み直すべきであると考えます。国の本当の実力の礎はそこにしかないからです。

http://www.asahi-net.or.jp/~jh4m-mrmt/D.new/d-33.html 参照)

 

4 地球環境保全の点から

 

 最後に、リニアはCO2を削減し地球温暖化対策にも資するとの示唆がなされていましたが、CO2が温暖化に果たす役割・程度にも諸説あり、CO2が過大にクローズアップされているのは、CO2を排出しない「クリーン」な原子力発電を推進させるためになされた、情報操作によるとしか考えられません。

 地球環境の保全のためには、利益追求のため厖大なエネルギーを使って大量に物を生産・消費したり、今回のリニア計画のような過剰なサービスを提供したりしている今の経済システムを革める必要があると考えます。持続可能な分散型エネルギーの供給と生産・消費システムを全世界の各地域に構築してゆき、その結果としてCO2の排出量も同時に減らしてゆくべきなのです。

 昨今の原発推進のための論理からは、CO2削減という至上命題のため、却って海水の温度を上昇させて地球の温暖化を助長し、更には有害な放射性廃棄物を地球上に蓄積させることにもなるのですが、この結果が地球環境にとって良くないことは誰にでも分かるはずです。

 しかしその自明なことが有耶無耶にされ、本末転倒の屁理屈が幅を利かせているのは、NPO等の民間団体をも取り込んだ草の根レベルでの情報操作が巧妙に仕組まれているからなのでしょう。

http://www.asahi-net.or.jp/~jh4m-mrmt/D.new/d-17.html 参照)

 

 有害な毒を排出しテロの標的にもなっているような危険な原子力発電に頼る社会から、太陽光・水素等の害のほとんどないエネルギー源を利用する社会に、一日でも早く移行しなくてはならないはずです。

 その点、人類の技術革新には目覚しいものがあり、必ずや遠くない将来、新しいエネルギー社会の幕が切って落とされることでしょう。国には、そのためのビジョンある政治と施策を期待したいものです。

http://www.asahi-net.or.jp/~jh4m-mrmt/B.practice/b-27.html 参照)

 

以上 


目次

ホームページに戻る