随筆 『空跳ぶカエル 6』 親をたずねて
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親を尋ねて  僕は幸いにもお玉杓子から上手に小さなカエルに変身できてうれしい。 所で、僕のように小さいカエルは蛙の子なの。 君はどう思う? 実は蛙の姿になると、もう子どもではないのだ。

 ヤッパリ蛙の子はお玉杓子なの。その証拠に、お玉杓子の時は仲間が近くに居ると安心だったの。でも、蛙の姿に成ったあとは、仲間がそばにいると居心地が悪いの。 なんでそうなのか判らないの。やたらに自分を主張したくなり、どうしようもない。人間で言えば成人したのと同じだ。

 気が付くと異常にお腹が空いていた。あたりを見まわしたがそれらしい食べ物は見えない。四本の手足で歩いてみた、ソロソロ歩いていると、目の前に美味しそうな虫が。口を大きく開いて長い舌をグーンと伸ばし風呂敷で包む様に丸めて呑み込んだ。アー美味しい!!どうして虫がこんない美味しいのだろう。そうです、カエルだからです。

 沢山の虫を食べてお腹が一杯になると急に元気になり、太いももがムヅムヅするので足に力を入れて踏ん張ってみた。すると身体が空中に舞い上がり、それと同時に周りの景色がハッキリ遠くまで見えることに気がついた。 これには感動した!! そうです、ハッキリ見えるのです。蛙は動いている時の視力が極めて良いのです。

 そんな事をして遊んでいる内になんだか空しくなり。ボクはいったい何をしているのか? 今、何処に居るのか? ボクは何なのか? そうです親を尋ねて行く事を忘れていた事に気が付いたの。 特に、雨の日には身体が異常に元気になり、お父さんお母さんが居る方向を目指して急ぐことにした。 僕がどっちの方向に移動したか知ってる。 それは親が来た方向、即ち北を目指したの。

 親を尋ねて三千里の物語があるが、僕らも必死でお父さんお母さんを探し歩いたの。これは大変に危険な旅だったの。 鳥に見つかって食べられてしまう奴、鼠や猫なども襲い掛かってきた。もっとも危険な動物は蛇なんだけど、それよりも危険なのは人間が運転している自動車だった。ヘビの場合はお腹が空いているときだけだが、自動車は無差別だった。舗装道路を横切る時、多くの仲間が自動車に轢かれてしまうのだった。

 あの悲惨な第二次世界大戦でも戦死するとき 天皇陛下バンザイとかお母さ〜んとか、叫びながら息を引き取ったが、そんな言葉を発する前にお陀仏になってしまうの。

 ボクのお友達が自動車に轢かれたとき、たった一言「ゲ」で臨終を迎えたの。 かわいそう。



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