随筆 『空跳ぶカエル 5』 かえるの子
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 かえるの子  君は小さなカエルを見た時、これはかえるの子だと思うでしょう。それはブーです。 かえるの子は蛙でなくてお玉杓子なの。 僕が卵から生まれたばかりの時、お父さんとお母さんが陸の上で心配そうに僕を見ていたけど、あまりの姿の違いに驚いて、ひっくり返ってしまい、暫らく鳴きながら泣いていたがあきらめて家に帰ってしまったの。
 水に映る自分の姿に手足は無く、その代わりに尻尾が着いていて、何かをしようとすると、ついついシッポが動いてしまうんだ。お腹は大きく膨らんでいて、その中にはとてつもなく長い腸が蚊取り線香の様に渦巻いているらしい。君は腸の長さはどうして長いのか知ってる。草食に都合がよいようにしているのだ。余談だけど菜食主義もほどほどにしょう。

 そして残念なことにヘソも無かったの。燃えるような気持で、何時かお父さんお母さんに逢いたい。どうしても逢いたい。逢ったら、お父さん、お母さん、と呼んでみたい。あの時のお父さんお母さんの姿を夢見て、自分も何時かはあのような姿になるように念じことにしたの。毎日その事を念じながら暮していた。ある日、自分の身体が変化していることに気付いたんだ。足らしいものが出て来たではないか。驚いてゲゲと鳴きたかったが、まだ蛙ではなかったので、鳴けなかった。慌てていたので、その声の代わりに水を飲んでしまった。

 そして、次には手も出てくるではないか。更に念じて、念じて、念じ抜いて手足を動かしていると尻尾も短くなり、陸の上を歩く事ができる様になったではないか。とうとう夢が叶ったのだ。 食べ物も虫が美味しく感じるようになり。腸の長さもそこそこになった。しかし、ヘソは現われなかった。これは無理な話だった。何故かと言うと生まれる時に、愛情の糸が繋がっていなかったのだ。 

 しかし、残念ではあるがお玉杓子の中には秋になっても手足が出ない仲間が居るの。あれはどうしてだろう。きっと親を思う念じ方が不足していたんだろうと思うよ。親不孝の因果。どうして親不孝になるのか? 

 彼の棲んでいたドラム缶の中には水藻が殆ど無かった。草食に恵まれなかったのだ。やっぱり生活環境は大切なんだな。 幸いな事に僕の生まれた環境は良かった。それに念じる力も大切なんだな〜〜〜〜〜。と思う。

  早速お父さんお母さんを探しに旅にでることにした。


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