随筆 『空跳ぶカエル 3』 
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 春  毎年三月六日前後は何の日か知ってる? 啓蟄と呼んでいるのだけど、冬眠していた地中の虫もそろそろと穴を這い出す頃。この虫たちは馳走だ。それを追いかけるようにあまがえるも地上に出て、寒い夜には草葉の陰に居、日が昇れば日向に出て美味しい虫たちを戴く。

 毎日美味しいご馳走を戴いていると体力も向上して、体重が気になるようになる。それでも美味しい虫達が目の前に居ると、ついつい食べ過ぎてしまう。しかし、いくら太ってもズボンや洋服を買い直す必要が無いのが嬉しい。その代わりと言っては何だが、体中にエネルギーがみなぎってくるのだ。

 そんな頃、暖かい日には雨が降らないのに大声を出したくなり、自分としては歌を唱っているつもりでもケロケロまたはゲゲと言う鳴き声になってしまう。あまがえるの鳴き声は一息で何回くらい鳴くか知ってるかい。十から二十回位ゲゲと鳴かないと気が済まないんだ。 しかし、身体の大きさに比べてあの鳴き声は相当大きいから疲れてしまう。でも、暫く休めば直ぐに鳴けるようになる。残念だがこの時期はいくら努力して鳴いても雨が降ることは少なく、何とも情けない。それでも大声で鳴きたくなるので雄叫びだと思う。

 自分だけが雄叫びを上げているのかと思っていたら、近所でも雄叫びを上げる不敵な奴が出て来た。何となく暦を見ると三月の後半で空には雲雀が囀り、キャベツ畑ではモンシロ蝶が遊んでいる。まわりで鳴く奴が増えてくるので俺の方が大きな声だぞと言いたくなる。 自分の鳴き声を遠くまで響かせるのにはどんな方法があると思う。内緒で教えてあげよう。それはなるべく高い場所で鳴くことなのだ。だからなるべく背の高い草や木の上に昇ることにした。

 四月の中旬ともなると穀雨と呼んで穀物には大切な雨が降るようになる。どうして雨が降るのか判るでしょ。僕たちのことを雨乞い虫と呼ぶくらいその鳴き声が天に届くからなの。 雨の日は身体が自然に元気になる。どうしてかなと思ったら、雨に濡れるたびに身体がヌルヌルしてきて水の中に入って居るみたい。

 だけどこんな話をしていられないことに気がついたの。最近では仲間の鳴き声に引き寄せられ、ピョンピョン跳ねたくなってしまうのだ。跳ねる度にその方向が何故か水田や小川の周辺に向いてしまう。たまげたことに、気がついたら周りはあまがえるだらけ、ゲッゲッと言った自分が雨蛙であることを忘れていたことにも気がついた。

 君は集ったあまがえる達が皆で何をするか知っているかい。暗くなったら楽しいことをするのだ。その内容はヒ・ミ・ツ・・・・・・。  ウフフ・・・・。 昼間は恥ずかしくて、静かにしているんだけど、元気な仲間は思い出し笑いのような鳴き声を出してしまうの・・・・・。 





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